ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜 作:くまっくす
翌日。
朝起きるともうバナナは起きていて、コーヒーを飲んでいた。
「おはよ。それブラック?」
「ああ、まあな」
「うげー、親父っぽいな」
あたしが苦々しく言うと、バナナはやや表情を曇らせる。
あれ? なんかショックだったかな。
「ちょっと着替えてくる」
パジャマで出かけるわけにもいかないから、着替えをカバンからとって、お風呂の脱衣所で着替える。
汚れちゃった服はポケセンの受付で昨日、洗濯をお願いしてたから帰りに受け取ろう。
今着る服も当然ある。
赤いトップスに青のサロペット、赤いリボンのついた白いキャスケット帽、履き口が黒のニーソックス!
つまりは昨日と同じだ。
やっぱり旅人として、荷物は最小限に抑えたいから、服は少なめ。
でも、オシャレはしたい!
ということで同じ服を2セットあたしは用意している。
髪をおさげにして、外に撥ねさせ、白いキャスケット帽を被る。
「………………!!」
準備を整えたあたしを見て、バナナが目を点にして何やら驚いている。
「どしたの? さては可愛いあたしに照れてるな」
ふふふ。少しは可愛いところあるじゃないの。
「そうか。コトネって……ああ、なるほど」
勝手に納得して満足している。
やっぱり少し変な子だ。
「そう言えば昨日なんか変なこと言っていたよな、きみ」
「変なこと?
ああ! デートね」
「あー」
バナナは苦虫を噛み潰したように、露骨に嫌な不愉快だという顔をする。
まだ10歳の子供だから、あたしみたいな可愛い子とデートした経験もないに違いない。
照れ隠しが下手なやつだ。
「俺はもう帰りたいんだけど」
「は? 警察に突き出してもいいんだけど」
「どういうことだ?」
「女の子のお風呂に不法侵入した、変態だよね。
言っておくけど、あたしの方が立場は上だからね」
しばらく睨み合った後、バナナは大きく溜息をついて、
「わかったよ。 で、俺は何をすればいい?」
よし。
自分の立場が分かったみたいだね。
***
「で? どこに向かっているんだ。そろそろ教えてほしいんだが」
「行先はいかりのみずうみ。そこで昨日の話の続きを聞かなくちゃ」
「誰に?」
「名前は知らない。たたイケメンのお兄さんだったよ」
「なんだそりゃ」
ブツブツ文句をいうバナナを引き連れて、あたしは再びいかりのみずうみにたどり着いた。
湖には昨日のお兄さんが木にもたれ掛かり、どこかに電話をしていた。
あたしの姿を見つけると、電話を切るやいなや爽やかな笑顔で話しかけてくる。
「ああ、待っていましたよ。
おや? そちらのお連れのは?」
「ああ! この子はあたしの知り合いです。気にしないでください。
そんなことよりも!
ロケット団についての情報を持っているんですよね?! 教えてください!!」
「ちょ、ちょっと! そんなに大声で言わないでください!」
「ロケット団?! どういうことだ?」
あたしの大声に青髪のお兄さんとバナナの両方
が反応する。
そんな変なこと言ったかな。
「どこで、奴らが聞き耳を立てているのか分からないんです!」
お兄さんがヒソヒソだが、強い口調で言った。
「あ! そうですよね、ごめんなさい」
両手で口を覆う。
反省。
また、やってしまった。
猪突猛進に考える前に動いて失敗をするのが悪い癖だって、よくママにも怒られてたんだよね。
「すみません……気をつけます。
それで情報は?」
ヒソヒソと尋ねる。
「ロケット団のアジトについてです。
この前、僕聞いてしまったんですよ。チョウジタウンの最近できたお土産屋の連中が話しているのを!」
チョウジタウンのお土産屋……。
確かにあたしが聞き込みしていた時もあそこの店員に「知らねー」ってろくに話も聞かせてくれずに追されて怪しいって思ったんだよね。
「地下のアジトで集合だ──奴らそんなこと言っていました。 正直、ロケット団なのかは分かりません。ですが、あのお土産屋の地下には何かがあるはずです」
***
有力な情報を聞けた。
間違いない!
ロケット団だ。
こうしちゃいられない。
早くアジトを叩き潰さなきゃ!
青い髪のお兄さんに感謝を述べて、あたしはバナナの手を取ってチョウジタウンへと再び戻っていく。
「おい、コトネ!
待てって! 一回止まれ」
歩きながらこれからの作戦を頭の中で練っていた時に、後ろから乱暴に呼び止められる。
「なんなの? 偉そうに」
あたしはイラッとして言い返す。
こんな変態に呼び捨てで名前を言われる筋合いはない。
「ここはチョウジタウン、そして、いかりのみずうみ、暴れるポケモン、ロケット団……。
話の流れは大体分かってきたよ。
それで? お前は何をするつもりなんだ?」
「なにって、決まってるじゃん! アジトに侵入して悪いことしているロケット団をやっつけるんだよ」
「えっと……ちなみにワタルは来るのか?」
「ワタル? まさかカントーポケモンリーグチャンピオンのワタルさんのこと言ってる?」
バナナが頷く。
「何寝ぼけたこと言ってんの? ワタルさんとあたしは知り合いじゃないよ」
「それじゃあ、アジトにはお前だけが侵入するつもりなのか?」
「一人じゃないよ。あたしとバナナの2人」
「俺も?」
「そ。そういう約束でしょ」
どんな約束だよ!とバナナが頭を掻きむしる。
「流石に無謀だろ。 もう少し作戦を考えるべきだ」
「全くバナナはお子ちゃまだから、あたしの強さを分かってないんでしょー」
あたしはバナナに図鑑に表示させたポケバトのバトルランクを示す。
「ランクC……」
「そ! あたしのランクはランクC!
ジムリーダー戦に勝ったことはないけど、惜しいところまでには何回もいった!
そのへんのジムのNo.2トレーナーよりも実力は上だからね」
ワカバタウンを旅立って約1年!
あたしはジョウトでは知る人ぞ知る強ポケモントレーナーになったのだ。
「ちなみにバナナのランクはなに?」
「──ランクはDだな」
「ふんっ! じゃあ、あたしの方がランクは上だからあたしに従うべきだよね」
このあたしの言葉にヒメグマが突っかかる。
「さっきから聞いてりゃいい気になるなよなぁー! ランクが上だろうが知らねーけど、俺はお前のポケモンよりずっと強いぞ!!」
「やめろ! ヒメグマ」
小さな体であたしに今にも飛びかかろうとするヒメグマをバナナが止める。
「別に今からあんたとポケモンバトルしてもいいけどねー。実力の違いを見せつけてやるだけだから」
「お前と今喧嘩するつもりはない。
大事なポイントは準備する時間があるなら徹底的にすべきだってこと。
例えばジムリーダーに相談すれば手を貸してくれるかもしれないし、警察に通報することも一つの手だ」
「そうやって愚図愚図している間にもロケット団に苦しめられるポケモンや人がいるかもしれないでしょ!!
あたしはそんなの我慢できない!」
激昂したあたしの言葉をバナナは黙って聞いていたが、麦わら帽子の鍔を深く被り直し、表情を隠した。
「……そうか、お前の考えはよく分かった。
ただ、悪いが俺は一緒には行かない」
「え」
「精々気をつけてくれ」
「おい、バナナ」
ヒメグマはやや非難めいた口調で言うが、バナナはさっさとこの場から離れていく。
「コトネ。 無茶はすんなよ」
ヒメグマはそう言うとバナナを追いかけていき、あたしは1人取り残された。