ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜 作:くまっくす
「なるほどなぁ! ただの生意気なガキってわけではなさそうだ」
緑髪のロケット団はあたしのポケモンたちが9匹ものポケモンを戦闘不能にしたにもかかわらず、軽薄な笑みを隠そうとしない。
「我らが組織は強いポケモントレーナーを常に募集している。どうだ? 俺達と一緒に世界を変えてみないか?」
「残念だけどお断りだね。
そんなブラック企業のうっすいキャッチコピーみたいなものに惹かれるほどアホじゃないつもり。
それにあたしはポケモンを使って悪さをする人が絶対に許せないの」
「そうか。残念だな。
なら、お前はもう死ぬしかない」
男がそう言い、指をパッチンとならすとロケット団員たちが一斉にダサいRが書かれた黒いジャケットをガバっと外側に開いた。
「あぁ~……マジか」
ジャケットの裏地にはびっしりとモンスターボールがくっついている。
片側につき6個。
おそらく1人12個のモンスターボール。
つまり、こいつらロケット団下っ端の手持ちのポケモンは残り99体……。
「行け!」
ロケット団員たちが再びモンスターボールを投げ、あたしは再び9匹のポケモンに囲まれた。
ゴルバット、ポニータ、ヒトデマン、オニドリル、スリーパー、ゴローン、サワムラー、ケンタロスにストライク。
相手のポケモンのレベルもさっきより高い。
これマズイな。
死ぬかも。
そう思った。
冷静に考えてあと99匹+緑髪のロケット団員のポケモンを倒すのは難しい。
逃げたくはない。
でも、心はもう屈伏しそう。
右足が後ずさりしている。
「やれ。
お前ら」
男の冷たい一言があたしへの死刑宣告となった。
一斉に凶暴なポケモンたちが襲いかかってくる。
──みんなごめん。
あたしの判断ミスであたしのポケモンたちも傷つくことになる。
それがどうしようもなく悲しかった。
パリン
突如目の前の空間がガラスのようにパリンと割れたかと思うと、そこにいたのは麦わら帽子を被った少年の後ろ姿。
「勝手に突撃して、勝手に絶望するなよな」
「え?」
「『ハイドロタイフーン』!!!」
突然現れたバナナとゼニガメ!
ゼニガメは回転しながら、みずてっぽうを発射。
竜巻のような水の渦が相手のポケモンたちを弾き飛ばす。
「何この技っ⁉」
「ポケモンユナイトから逆輸入させてもらった」
「は?」
「おいおい、どっから入ってきたこのガキ」
緑髪の男がバナナを睨みつける。
「ロケット団幹部のランス──だったか? 悪いな、影が薄くてあまり覚えていない」
「ちっ。何者だ……てめぇ」
ロケット団たちは明らかに狼狽している。
突然現れたバナナの強襲は見事に成功した。
「バナナ……。何でここに? それにヒメグマは?」
「ヒメグマは今はいない。 詳しい話はあとだ。今はそれどころじゃないだろう」
バナナが言うようにまだまだ楽観視できる状況ではない。
ゼニガメの大技は奇襲として成功し、ダメージを相手のポケモンに与えられることはできたが、戦闘不能にしたわけでもない。
ロケット団たちは体制を整えつつある。
「コトネ」
バナナが耳元であたしにだけ聞こえる小さな声で呟く。
「時間を稼ぎたい。あと5分。
なんとか持ち堪えるぞ」
「5分? 5分でいいの?」
バナナに聞き返す。
どういうことだろう。
5分待つことで何か状況が変わるって言うの?
ただあたしに何か手があるわけでもない。
やるっきゃないか。
「みんな! いくよ!」
マグマラシたちもやる気満々で雄叫びをあげる。
「ゼニガメ! 頼むぞ。 なんとか持ちこたえよう」
「まっかせとけー!」
そんなあたしたちの様子を見ていた緑髪の男、ランスが忌々しそうに顔を歪め、呟く。
「おいおい……。 オトモダチが1人増えたからって調子に乗るなよ」
あたしのポケモンたち6匹とゼニガメ対ロケット団のポケモン9匹との乱戦が始まった。
手持ちの数は7対99だけど、この地下室に一度に10匹も20匹も出せるはずもない。
実質、7対9の状況ならやれなくもない。
でも数の差からいって戦いは撤退戦になる。
あたしとバナナはじりりじりりと後退しながら、相手からの猛攻をなんとか耐え凌ぐ感じ。
「ゴルヴァアッ!!」
あたしより大きいんじゃないかってくらい大きな口を開けたゴルバットが迫る。
「マグマグッ!」
マグマラシが『かえんぐるま』で体当たりをして、守ってくれる。
そのマグマラシ目掛けて、相手のストライクのカマが振り下ろされる──
「マリリー!」
マリルの『じゃれつく』でストライクを弾き飛ばす。
「はっはー! 必死じゃねーかぁ!
いいぞー、諦めずにがんばれ~」
ランスがあたしたちを嘲笑う。
そのニヤケ面をいつか絶対にぶっ潰してやると心に決めながらあたし達は歯を食いしばって、戦う。
ヒトデマンの『バブルこうせん』を避けたトゲチックだけど、避けたところをケンタロスが『とっしん』で追撃をかける。
トゲチックは壁に叩きつけられ、そのまま倒れ込む。
「トゲチック!!」
あたしは悲鳴を近い声を出し、トゲチックをボールに戻す。
あたしのポケモンたちのダメージも蓄積してきている。
「バナナ!! まだなの?」
「もう……少し。
いや! ──来る」
バナナがそう言うのと同時に、地上から爆音のような激しい音が地下にまで届いてくる。
そしてたくさんの足音。
近づいてくる!
「待たせたなーっ!! バナナ! みんな連れてきたぜ!」
先頭にいたヒメグマが叫ぶ。
そして──
「ユキノオー。 『ふぶき』」
一瞬のうちにあたしの前に現れた巨大な雪男のようなポケモン、ユキノオーがこおりタイプの大技『ふぶき』を放つ。
視界があっという前に白に包まれた。
「す、すごぉ……」
言葉を失った。
これがチョウジタウンジムリーダー、ヤナギのユキノオーの力。
地下室の室温が一気にぐっと下がり、口からは白い吐息がもれる。
あたしやバナナのポケモンを除いたロケット団のポケモン、そしてロケット団員が一瞬で氷漬けになっていた。
「遅くなってすまなかったな。怖かっただろう」
白いマフラー、青いロングコートを着た、杖をついたイケメンのおじいちゃん、ヤナギさんがあたしの横に立つ。
「いえ、あたしが勝手なことをしたのが悪いんです」
そんなあたしにヤナギさんが何も言わずに微笑み、そして厳しい表情を前方に向ける。
「私の街で随分勝手なことをしてくれたな。ロケット団」
「おいおい……ジムリーダー様がやってくるなんて聞いてねぇぞ」
ネイティオのひかりのかべに守られていたランスが低い声で、唸るように言う。
「ヤナギにチョウジジムの精鋭トレーナーたちが10数名か。流石に撤退するしかねぇかなぁ」
「逃げられると思っているのかね」
チョウジジムのジムトレーナーたちが一斉にボールを構える。
「おー、怖いなぁ。 確かに勝ち目はねーよ。
ただ、俺だけなら逃げることはできる」
「『ふぶき』!!」
「『テレポート』」
ユキノオーの『ふぶき』がランスを襲うが、わずかに遅かった。
ランスは氷漬けになった仲間の団員9名を見捨て、1人で『テレポート』でどこかに逃げてしまった。