ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜 作:くまっくす
◆バナナ視点
コガネシティ、ロケット団アジト倉庫。
バナナVSロケット団幹部アテナ。
さて、改めて立ち塞がる相手を観察する。
他の団員とは異なる白いコスチューム着た女の鋭い眼差しはこれまでいくつもの修羅場を乗り越えたであろうことが伺い知れる。
アテナのラフレシアもヒメグマの攻撃を直撃したはずだが、ダメージを受けた様子は見られない。
ジムリーダークラスの実力はあるかもしれない。
レベル差はかなりあると見てよいだろう。
図鑑を起動する。
『世界一 大きな 花びらで 獲物を おびき寄せ 毒の 花粉を 浴びせかける。 動けなくなった 獲物を 捕まえて 食べる』
恐ろしい説明だ。
可愛らしい見た目に騙されてはいけないな。
「ゼニガメ!」
モンスターボールを投げ、ゼニガメも出す。
ヒメグマとゼニガメのコンビネーションで実力差を埋めるしかない。
まずは挨拶代わりに渾身の『みずでっぽう』をお見舞いする──が。
「その程度の水技、ラフレシアにとってはむしろ心地良いシャワーのようなものだ」
全くに意に介した様子はない。
ノーダメージということか。
「これならどうだ?」
次に上空からヒメグマの踵落とし。
しかし、この攻撃は軽く身体を捻じることで躱され、返しの『エナジーボール』でヒメグマは吹き飛ばされる。
「うおぉおお!!」
次にラフレシアがヒメグマに意識を向けている隙をついてゼニガメが『ロケット頭突き』を繰り出す。
直撃したかと思ったが、ラフレシアは後方に自らバックステップをすることでゼニガメからの技の威力を軽減させていた。
パワー、スピード、技の威力、耐久力。
どれをとってもハイレベル。
戦闘スキルもかなり高い。
そして、空中で体制を整えると大技『はなびらのまい』を放つ。
ピンク色の花びら状になったエネルギーが暴風のように吹き荒れ、飲み込まれたゼニガメは倉庫の壁に叩きつけられる。
「よくもゼニガメを!!」
ヒメグマはラフレシアが空中で動けないタイミングを狙って攻撃を仕掛ける。
「『どくのこな』!!」
「ぐへぇ!!」
しかしラフレシアの『どくのこな』により、逆に毒の状態異常になってしまう。
「これで放っておいてもそのポケモンは毒死するが、ひと思いに殺してやろう。 感謝するが良い」
「ちくしょうっ! 動けねぇ」
毒のダメージで動けなくなっているヒメグマに容赦なく追撃の攻撃が襲いかかる。
「『エナジーボール』!!」
「ぐあああああああああああ」
ヒメグマは倉庫隅に積んである段ボールに頭から突っ込んでしまう。
「ヒメグマ……。 ゼニガメ……」
「くっくっくっ! 無様だな、小僧」
アテナは邪悪な笑みを浮かべ、俺を嘲笑う。
「身の程を知れ。我々は今日という日のために準備を重ねてきた。 貴様らごときガキが何をしようが無駄だ」
「ガキ……か。 たしかにそうだな」
「ふん。 今頃後悔しても遅い。
これから貴様は私が殺す」
明確な殺人宣言。
本当に恐ろしいところだよ、ここは。
のほほんと安全に暮らしていた前世の時代が懐かしくなってくる。
「だが、安心しろ。連れのガキも今頃始末されている頃だろう」
「連れのガキ? コトネのことか。
あいつは確かにガキだ。 先のことを考えない猪突猛進の馬鹿ガキ。
だけどな、あいつみたいな馬鹿ガキがいつだって人の心に火をつけるんだ。
そんなガキを守るために。 大人がこんなところでやられるわけにはいかないんだよ」
「何を言っている?」
「ゼニガメ!!」
「おっしゃああああああ!!」
「何!? まだ動けたのか」
「『ハイドロポンプ』!!!」
「ラフレシア!! 受けとめろ!」
ラフレシアは頭の大きな花を盾に攻撃を受け止めようとするが、どうだ?
受けきれるか?
「馬鹿な! 先ほどとは威力が桁違いに違う!」
「そりゃあ、そうだ。 お前のポケモンがゼニガメを痛めつけてくれたからな。 体力が削られると水技の威力が上がる特性『げきりゅう』が発動している」
「小賢しい真似をしおって! だが! その程度でラフレシアは破れんぞ」
「だろうな。 想定済みだ」
「!?」
「ヒメグマ!! 特訓した新技をぶち込んでやれ!!」
「うおおおおおー!」
段ボールの山を高く突き飛ばしたヒメグマが一瞬でラフレシアとの距離を詰める。
「状態異常の時に攻撃力が跳ね上がる特性『根性』のパワーを全身に纏うことで瞬発力を爆発的に高める!」
「そして! そのパワー×スピードをこの一撃に込める!」
「ラフレシア!! 『エナジーボール』だ!」
「遅ぇ!!」
ラフレシアの攻撃を躱したヒメグマは状態異常の時に威力が2倍になる技、『からげんき』を改良した新技を叩き込む。
「くまげんき!!」
ラフレシアは段ボールやデスクなど突き抜けて、倉庫の壁に激突する。
「このガキ!!」
「どうだ? ガキにやられた気分は」
一瞬憤怒の表情を見せたアテナ。
だが、すぐに元の涼しい余裕たっぷりの顔に戻っている。
「いや。 見事だ。
私がラフレシアを出した瞬間に貴様はレベル差を認識し、ゼニガメの体力を削らせての『げきりゅう』の発動とヒメグマに状態異常の粉技を誘導させた後の『根性』の発動によるパワーアップ案を考えついたということか。
そして、それを見事に実現させた。
素晴らしい。 賛辞に値する」
「……そいつはどうも。 それでさっさと次のポケモンを出してくれないか」
ロケット団幹部ともあろうものの手持ちが1体と
は考えづらい。
あと5体?
考えたくもない話だ。
「安心しろ。 私の手持ちは残り1体だ。 嘘ではない」
「それが本当なら希望が持てそうだな」
「だが、勘違いするな。 貴様の未来が変わるわけではない。 私が基本2体しか所持しないのはこの2体だけで十分だからだ」
そう言ってアテナはモンスターボールを放り投げる。
「あぁ~、マジかぁ。 おいら蛇には嫌な思い出しかないんだよねぇ」
「さて、この毒状態でどこまでやれるかな」
ゼニガメは苦笑いを浮かべ、ヒメグマは覚悟を決めた表情を見せる。
俺はポケモン図鑑を起動する。
『お腹の 模様で 敵を 威嚇。 模様に おびえて 動けなくなった すきに 体で 絞めつける』
アーボック。
図鑑には体長3.5メートル。
冗談じゃない。
目の前にいるアーボックは10メートルは越えるであろう巨大な個体で、蛇というよりもドラゴンと言ったほうが相応しい。
「こいつはロケット団で改造、強化した特別なポケモンだ。 とても獰猛な奴でな。 私以外では手懐けられん」
先端が2又に分かれた長い舌をペロペロと動かし、獲物を探すかのような鋭い目で俺達を見ている。
正直、恐ろしい。
たが、対峙するポケモンたちの方が怖いに決まっている。
俺が怯むわけにはいかない。
「ヒメグマ、ゼニガメ!! ここが正念場だ! 踏ん張れよ!!」
「任せろっ!」
「ラジャー!!」
ゼニガメは頭と両手足、しっぽを甲羅に入れての高速スピンでアーボックの懐に入り込み、ゼニガメの持つ最高火力技──『ハイドロタイフーン』を放つ。
ヒメグマは『こんじょう』で強化した膂力を活かし、アーボックの頭上に飛び上がり、
ゼニガメの攻撃で隙が生まれたアーボックの頭に全力攻撃をぶつける。
「『くまげんき』ぃぃいいいい!!」
ラフレシアを撃退した今の俺達ができる最大のコンビネーション技だ。
……どうだ?
しばらく動かないアーボック。
「やったのか?」
「無駄だ」
「シャアアアアアアアアアアアアアア!!」
アテナの言葉と同時にアーボックの鳴き声が倉庫に響き渡った。