ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜 作:くまっくす
あの巨大な改造ベトベトンが可愛く思えるほどの威圧感にあたしの全身には鳥肌が立っていた。
これが伝説のポケモン、ライコウ!
一般ポケモンとは次元の異なるそのオーラに、神々しさすら感じてしまう。
だが怯むな!
ここであたしが負けるわけにはいかないんだ。
手持ちのポケモンを全て場に出す。
大丈夫! まだみんな体力は残っている。
しっかりと連携して戦えば勝ち目もあるはずだ。
あたしはよしっ! と気持ちを入れ直して、
ライコウに向き合った。
ピカッ!
先に雷光が走った。
次にバチバチンッ!
という短くも激しい雷撃音が遅れて聞こえた。
「え?」
数秒の出来事だったはず。
瞬きを1、2回したくらいの。
あたしのポケモンたちはそんな数秒の間に黒く焼き焦げて、床に倒れ込んでいた。
「うそ……でしょ」
バクフーン、エーフィ、トゲキッス、デンリュウ、ヌオー、マリルリ……みんな動けない。
全滅だ。
1番近くに倒れていたデンリュウに駆け寄ろうと駆け出そうとした──だけど。
「ぐぅっ!!」
腹部の激しい痛みとともに体が浮かび上がり、飛ばされていく。
あたしは思い切り部屋の隅の本棚に背中から突っ込んだ。
ぶつかったところの痛みよりも、腹部の痛みのほうが尋常ではない。
触ってみると温かい感触……。
大量の出血。
これはマズイ……!
「ほう。 まだ動けるか。
さてはその服の下に防刃チョッキでも着込んでいたか?」
どうやらあたしはグレッグルに攻撃され、斬られたということらしい。
一瞬すぎて理解が追いついていないけど。
リフレクター効果のあるインナーを着込んでおいて良かった。
着てなかったら即死していた。
ただここは逃げることに考えをシフトしなくちゃ駄目だ。
このままじゃ殺される。
「はぁ…はぁ……ぐぅっ!」
駄目だ。
大量の出血で意識が朦朧としてきたのと、おまけに全身が痙攣してまともに動けない。
膝まづいた状態から上体を起こすことすらできない。
「無駄だ。
グレッグルのツメには猛毒が仕込まれている」
左手をポケットに突っ込み、余裕綽々の様子で近づいてくるアポロ。
「痛いか? 苦しいか?
そうだ! お前に良いことを3つ教えてやろう。」
「……⁉」
「1つ、お前はもう直に確実に死ぬ。
その出血に猛毒。 助からない」
「2つ。
コトネ、お前の父親のことだ」
「なに?」
「あのコガネの一件のあと。 目障りだったお前と麦わらの小僧のことは部下に調べさせたよ。
小僧のことは何も分からなかったがな。
だが、コトネ! お前の父親は国際警察だったんだってなぁ。 そして4年前の失踪。フェアリータイプの使い手……それを聞いて思い出したんだよ。
あぁ、そいつを知っているぞってな」
何だこいつ。
何が言いたい。
「強い男だったよ。
当時私と別の幹部2人がかりで戦ったのを覚えている。
最終的には私達が勝利し、そいつはお前と同じようにドクロッグで斬りつけた」
腹の中から溢れ出る愉悦を抑えきれないのかニヤニヤ笑いと時折笑い声が混じる。
「そして、崖の上から落ちていき、海に沈んでいった。
直接死ぬ瞬間を見ることはできなかったのは残念だったが、まさかお前がその娘とはな。
教えてやろう。 お前のパパはもう死んでいる」
「この野郎……! 許さない!」
「いいねぇ~!!!!
その表情!」
「あぁあ!!」
おさげ髪を鷲掴みにされて無理やり上体を起こされる。
「ん~~、実に良い気分だ。 歯向かう親子をこの手で殺害できるというのは最高だなぁ!
なぁ!? そう思うよなぁ!?」
狂っている。
あたしはこいつ程のドス黒い悪を知らない。
そのニヤケ面を思い切り殴りつけてやりたい。
でも悔しい……。
あたしの腕はもう少しも上がらない。
「つまらんなぁ。 もっと面白い反応をしろよ。
そうか、致命傷を与える前にこういう話はすべきだったか。
うむ、次に活かそう」
そう言うとアポロは腕をあたしの髪を掴んだまま振り降ろし、地面に叩きつける。
そして、あたしの顔を靴で踏みつける。
「ああ、言い忘れた。
最後の3つ目な。
あのお前の連れのガキ。
あいつは死んだよ。
正直カメラでは何が起きていたのか分からなかったが、最終的にはアテナと相打ちという形だったな」
嘘……。
バナナが死んだ?
ある意味パパが死んでいたという事実以上にあたしの心を揺さぶった。
既にパパは死んでいるかもしれないと心のなかでは覚悟していたのかもしれない。
ただ、バナナは絶対に生きていると信じていた。
「う、そだよ」
瞳から留まることのない涙が流れる。
心が深く沈んでいくのが自覚できる。
「おっ! いいぞいいぞ! その反応はいいな。 なかなかにソソるものがあるっ!!」
ああ、あたしはこうやって死ぬんだ。
2回目の死かとしれないけど、今回の方がずっと辛くて、悲しくって悔しい。
マリルリ、バクフーン、エーフィ、トゲキッス、デンリュウ、ヌオー……みんなごめんね。
ママ……。
誰よりも優しかった。
一人残すことになって本当にごめん。
大好きだったよ。
涙は止まらず、男の嘲謔を聞きながら死んでいくのかと思うと悔しく悔しくて堪らない。
「あぁ~、そこそこ楽しめたぞ。 だが、もう飽きた。 そろそろ殺そう」
アポロは離れ、代わりにドクロッグが足元に立つ。
そして巨大なツメを振り上げた。
「……死にたくないよ。
助けてよ……バカバナナ」
パリン
空間が割れ、中から現れたのはリングマ。
そしてリングマが左腕に抱えていたのは──バナナ。
「うぉおおおおお!」
リングマの不意打ちの一撃がドクロッグを切り裂き、壁の端まで吹っ飛ばす。
「大丈夫か? コトネ。
大丈夫だ。 死なせはしない」
薄れゆく意識の中でバナナの顔が見える。
良かった!
生きている!
あたしを抱き起こしたバナナは傷口に手のひらを向ける。
そこから黒いモヤが出たかと思うと傷口がなんと塞がっていく。
「え? どうして!
それにバナナ!! 生きてた! 良かった!!」
異常事態が起こりすぎてパニックになっていたんだろう。
何故かあたしはバナナに抱きついてしまった。
「あぁあ~、まぁ落ち着け!」
デリカシーゼロ男に引き剥がされ、距離を取らされる。
ただ、よく見るとバナナの顔は真っ青で目も虚ろだ。
「詳しい話はあとだが、俺もリングマも正直立っているのがやっとだ。
まずはここは逃げ出し、体制を整えよう」
「感動の対面中悪いが、逃がすと思うのか?」
アポロの冷たい声と、それと同時に黒焦げになったリングマが倒れる音が同時に響く。
「リングマ……すまない。
戦える状態じゃないのは分かっていた」
「バナナ。 戦えるポケモンは他に残ってるの?」
「いや……いない」
「クハハ!
死に損ないが何をしに来た?
ここまでやってきた根性は買ってやるが、頭は悪いな。
生きていたなら1人で逃げればよかったものを」
「お前には一生分からないだろうな。 そうやってずっと1人で生きてきたのか? 誰にも信用されず、信用せずに」
バナナの言葉にアポロが青筋を立て、苛ついているのが分かる。
おそらく図星なのだろう。
「もう黙れ。 貴様ら愚民と話すことはない。
やれ、ライコウ。 こいつらを殺せ」
黒いライコウがゆっくりと近づいてくる。
「悪いな、コトネ。 格好良く助けてやりたかったけど、このまま2人で死にそうだ」
「何言ってるの? まだ、戦えるポケモンが残っているでしょ?」
このまま死ぬよりマシだ。
一か八かの賭けに出よう。