ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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シロガネ山の魔王

 ジョウト地方に伝わる昔話に『シロガネ山の魔王』というものがある。

 

 シロガネ山の奥地には立ち入ってはいけない。

 

 そこにはかつてジョウトを統べた魔王がいるから。

 

 

 

 

 死んだものを蘇られるほどの強大な力をもつ伝説のポケモン──ホウオウ。

 

 全ての生命の始まりである海。その化身と言われる伝説のポケモン──ルギア。

 

 その2体と肩を並べたという魔王は破壊と死を司るポケモンだった。

 

 だがそのあまりにも傍若無人で、破壊衝動を持つ魔王にジョウトに住む人々は反旗を翻した。

 人と魔王の争いはついにはホウオウ、ルギアとの全面戦争にまで発展する事態となってしまった。

 

 多勢に無勢の状況についに魔王は敗走することとなり、誰もが簡単には近づけないシロガネ山の山頂にその姿を隠したという──そんな昔話。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 改造ライコウと改造ドクロッグによってあたしもバナナの手持ちのポケモンも、全てが倒されてしまった。

 

 そんな絶望な状況のなかで何故かあたしは昔おばあちゃんに聞いた『シロガネ山の魔王』の昔話を思い出していた。

 

「お前何言っているんだ? 

 ゼニガメ……いや、あいつはカメールに進化したんだが、カメールのこと言っているのならカメールももう限界以上に頑張ってくれた。

 もう、これ以上は戦えない」

 

「違うよ。 バナナにはもう一匹いるはずでしょ」

 

「え? 何言ってるんだ」

 

「早く!! ライコウの攻撃が来る!!」

 

 黒い雷雲を頭上に発現させ、今にも強力な雷撃を繰り出そうとするライコウ。

 

「くっそ! もうどうにでもなれよな!」

 

 バナナは半分ヤケクソといった感じで最後の手持ちのモンスターボールを投げた。

 

 モンスターボールから飛び出たのはポケモンではない。

 

 そう、バナナの最後の一匹はポケモンのタマゴだ。

 

 ライコウの繰り出した一撃はなんとタマゴに直撃して、しまう。

 

「あぁぁあああ……」

 

 バナナが後悔と苦悩の表情を浮かべる。

 

 それはそうだろう。

 

 普通に考えて、戦えもしないタマゴを戦闘に出し、案の定、相手のポケモンの技を直撃させてしまった。

 

 トレーナーとして愚策以外の何物でもない。

 

 そう、普通に考えたら。

 

 あたしの考えは違った。

 

 『あのタマゴは普通ではない』

 

 そして、あたしの予想は当たった。

 

 真っ黒に焦げたタマゴはやがて紫色のオーラを放ち始め、ガタガタと動き始める。

 

 その光景にこの場にいる人もポケモンも何故か動けず、じっと見つめることしかできない。

 

 パキパキパキ──パカン

 

 タマゴが割れ、同時に中からは激しい悪エネルギーが放出される。

 

 青白いオーラを纏い、そこから燃えるような邪悪な悪エネルギーを放っている怪物が姿を現す。

 

 その怪物は思いの外小さかった。

 

 だけどその氷のように冷たい眼差し、禍々しいオーラがそのポケモンを普通のポケモンとの一線を画している。

 

「よ、ヨーギラス? なんだ? この威圧感は」

 

 バナナが自分のポケモンにも関わらず怯えている。

 

「ふふふ……はははははっ!! 

 何が出てくると思えばヨーギラスか! 

 取るに足らん! 

 やれ、ドクロッグ! 串刺しにしてしまえ!」

 

 アポロはヨーギラスを見て、露骨に小馬鹿にするように笑うとグレッグルを仕掛けてくる。

 

「グゲッグゲゲー!!」

 

 ドクロッグが一瞬で距離を詰め、攻撃を繰り出す。

 

 一歩も動かないヨーギラス。

 

 ドクロッグとの距離が1メートルほどになったとき、ヨーギラスを中心にノーモーションで『あくのはどう』を発現させる。 

 

 床が崩壊し、壁が崩れるほどの圧倒的火力。

 

 直撃したドクロッグは白目をむいて倒れている。

 

「私のドクロッグが一撃だと!?」

 

 アポロも驚愕し、理解が追いついていない様子だ。

 

「コトネ……なんだよ、あのヨーギラス。

 なんだよ、あの強さは」

 

 さすがのバナナもこの事態は想定外だったのだろう。

 いつもの冷静さは消えている。

 

「シロガネ山で見つけたってグリーンが言ってたんでしょ? 

 それとタマゴを触った時に感じた不気味なオーラとかあたしに話しかけてきた不遜な態度!

 それでもしかしたらって思ったの」

 

「何を?」

 

「このポケモンは『シロガネ山の魔王』の生まれ変わりかなにかじゃないかって」

 

「何だよ、『シロガネ山の魔王』って」

 

「そういうジョウトに伝わる昔話。 

 ホウオウやルギアに肩を並べた伝説の魔王」

 

 ヨーギラスは何の感情も読み取れない冷めた表情のまま、ゆっくりと、散歩をするかのようにライコウに向かう。

 

「グガァ!」

 

 ライコウが威嚇の咆哮をするが、

 

「言葉もなくしたか。 ホウオウの眷属よ。

 人間に囚われ……物言えぬ畜生に成り下がったか」

 

 やや憐れんだ眼差しを向けると魔王は悪エネルギーをライコウの腹に打ち込む。

 

 ライコウが悲痛な鳴き声をあげるが、しばらくすると黒かった体毛は元の黄色に戻り、赤く血走った瞳も正常な様子に戻っていく。

 

 ライコウはヨーギラスに頭を垂れると、雷鳴を轟かせ、戦闘の影響で穴の空いた壁から走り去っていった。

 

「ば、馬鹿な! ライコウが何故? ふ、ふざけるな……こんなはずでは……ありえんっ!」

 

 アポロは錯乱状態に陥っていた。

 

 自身が考え、長い時間をかけ、準備してきた完璧だったはずの計画──それが今失敗に終わろうとしている。

 

「認めん認めん認めん認めん認め……くばっあああっ!」

 

 アポロはヨーギラスの発した『あくのはどう』に吹き飛ばされる。

 

 服が破れ、髪が乱れ、傷だらけになっている男。

 

 さっきまであたし達を嘲笑し、この世を支配しようとしていた悪のカリスマは、より上位の悪の化身に蹂躙されようとしていた。

 

「ふ、ふざけるなぁ! 支配するのだ! この世の全ては私に支配されるためにあるのだぁ! ──ぐがぁあっ!」

 

 再び吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 今のはかなりの威力だったらしく、アポロはピクピク痙攣し、動けなくなってしまった。

 

「図に乗るな、下等生物が。

 人間如きが誰を支配すると言っているのだ?」

  

 マズイ……。

 

 ヨーギラスの纏っている悪エネルギーの密度が上がっている。

 

 このままだとアポロは殺される。

 

「やめろ、ヨーギラス」

 

 いつの間にかバナナがヨーギラスの背後にいて呼びかけた。

 

「なんだ、小僧。 一丁前に俺のトレーナーのつもりか」

 

「そんなつもりはないよ。 

 ただそいつを殺すのはやめてほしいんだ。 

 確かにアポロは最低最悪の男だ。 

 だからこそだ。 

 人間が侵した罪は人間によって償わせてほしい」

 

 ヨーギラスはバナナの顔を真正面から見据える。

 

「お前のことはタマゴの中から見ていた。

 面白い小僧だよ。 

 良かろう。 ボールを投げろ」

 

「え?」

 

「2度は言わん。 殺されたいか?」

 

 ポケモンに命令されてボールを投げるトレーナーを初めて見たかもしれない。

 

 バナナはおずおずとモンスターボールを放おった。

 

 ヨーギラスは捕まる瞬間にやりと笑って、言った。

 

「影の王を宿すとは愉快な小僧だ。 

 お前といれば退屈もするまい」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 この後の顛末をちょっと話すよ。

 

 あたしたちはラジオ塔局長を助け出し、彼から更に奥の部屋にあった怪電波装置の大元となるメイン機器の場所を教えてもらった。

 

 この装置のスイッチをオフにして、ラジオ塔からの電波も正常に戻すことでジョウト全土で暴れまわっていたポケモンたちを下に戻すことができた。

 

 そして、ラジオ塔にはジムトレーナーや警察が乗り込み、ロケット団の残党たちは捕まり、アポロも逮捕された。

 

 こうして、ロケット団によるラジオ塔占拠事件は幕を降ろした。

 

 

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