ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜 作:くまっくす
「はぁー、なんかようやく落ち着いたなぁーって感じする」
エンジュシティのメインシンボル、スズの塔の展望スペースであたしとバナナは欄干にもたれ掛かり、夕焼けに染まる美しいエンジュの古き街並みを眺めていた。
ロケット団によるラジオ塔占拠事件のあと、あたし達は一躍時の人となった。
今回の戦いで多くの怪我を負い、ポケモンセンターに入院していたんだけど、そんなことお構いなしにひっきりなしにマスコミは取材にやってくる為、正直疲れた。
2週間くらいすると、世間もやや落ち着きを取り戻した。
あたしもバナナも怪我はある程度治ったし、特に大怪我をしていたバナナのポケモンたちも全快したみたい。
ポケモンの生命力って本当にすごいよね。
ロケット団のボスであるアポロ、アテナは捕まった。
ランスは行方不明らしい。
他の捕まったロケット団の団員たちはポケモンリーグ運営が管理する更生施設で今後は罪を償いながら、社会復帰を目指すらしい。
今度こそ悪さをせずに、自分たちの居場所を見つけてくれるといいけど。
「なぁ、バナナ、コトネ!
ロケット団がやったことは許されることじゃないけど、今回の一件でバナナのポケモンもコトネのポケモンも大分レベルアップしたのは良かったよな」
バナナの肩にしがみついているヒメグマが言う。
確かに普通のジムバトルや野生のポケモンとのバトルでは得られない経験値を得られたと思う。
やはり実践に勝る経験はないってことだよね。
死と隣り合わせのあのギリギリの戦いを経て、あたしもポケモンたちもぐぐっとレベルが上がったのは間違いない。
「てか、なんでヒメグマに戻ってんの? この前リングマになってたでしょ?」
ラジオ塔ではリングマの姿で改造ドクロッグから守ってくれたヒメグマ。
一度進化したポケモンがもとに戻るなんて話聞いたことがない。
「へへーん。 俺達レベルになりゃあ、一度進化すれば姿を変えるなんて朝飯前よー!」
そう言ってヒメグマはリングマに進化した──と思いきやすぐにヒメグマの姿に戻る。
「いやいやいや……常識ハズレ過ぎでしょ」
「俺もこのヒメグマのことは分からん。
カメールはカメールのままだしな。 こいつだけおかしいんだよ」
「おかしいんじゃねえ! 特別なのさ!」
へへーんと得意げなヒメグマ。
1ミリも納得できないけど可愛いから許してやろう。
あたしはヒメグマを見る振りして、バナナの横顔を見る。
こいつも大概変な奴だよねぇ。
手持ちはみんな人の言葉を喋るし、なんならあの伝説のシロガネ山の魔王?すら捕まえた。
確かにヒメグマは特別なのかもしれないけど、バナナだって十分変だし、特別だ。
あたしは直接見たわけじゃないけど、ロケット団幹部のアテナとのバトル。
ヒメグマは改造アーボックの猛毒の牙に噛まれ、ゼニカルは身体を貫通させるほどの毒針を何本も刺され、2匹とも死にかけていたらしい。
でも、バナナは例の不思議な影の能力を使って、2匹の傷を治し、更には2匹を進化させたというから驚きだ。
それってもはや人間技じゃない。
神業だ。
「うーん」
「なんだよ。 ジロジロ人の顔見て」
「いや、こうやって見ると普通の虫とり少年なんだよなぁって思って。
地味顔」
「藪から棒に失礼なやつだな」
「感謝しているんだよ、バナナには」
あたしは再びエンジュの街並みを見下ろす。
怪電波騒動の時は、このエンジュにも野生のポケモンが暴れまわっていたらしい。
幸いどこの街でも死者が出るような大事にならずにすんだとあとから聞いて、本当に嬉しかった。
「あたしは生まれ育ったこのジョウトの街が好き、優しい住民たちが好き、大切なポケモンたちが好き。
このジョウトを守れて、本当に良かった」
アポロの計画が実現されていたら……そう思うとゾッとする。
この大好きなジョウト地方はめちゃくちゃにされていただろう。
「バナナのおかげだよ。 本当にありがとう」
「俺は大したことしてないよ。 最後だってヨーギラスがいなかったら俺達は殺されていた。
自分の思慮の浅さが情けないよ」
「全くバナナは見た目だけじゃなくて、脳みそまでお子ちゃまになったのかぁ?
ここはもっと気の利いたことを言えよな」
「うるさい」
バナナが軽くヒメグマを小突く。
さて。
あたしが今日バナナに伝えたかったこと。
1つは感謝の言葉。
一緒にジョウトを、ママやポケモンたちを救ってくれてありがとう。
そしてもう一つ。
大丈夫かな。
顔が赤くなっていないかな。
夕焼けで赤くなってるから分からないと思うけど。
あたしは前を見据えて話す。
「あたしはこの後、また旅を続けようと思う。
どのくらいポケモンたちが強くなったか確かめたいしね。
それでジムバトルに挑戦して、バトルポイントを稼いで、ポケモンリーグに出場する。
旅の途中では困った人やポケモンがいたら助けてあげる。 その為にもっともっと力をつける」
よしっ。
意を決して言おう。
「だからさ、バナナも一緒に来ない?
一緒に旅をしようよ」
ここでバナナの方を見る。
バナナは右手で欄干を掴んで、下を見ている。
様子がおかしい?
「……コトネ。 悪いけどちょっと無理だ。
一緒に行けそうにない」
「え……」
「バナナ……、もう限界なのか」
ヒメグマが悲しそうに言う。
「そう……だな。 ちょっともう抑えられそうにない」
バナナはなにもない空中に右手をかざした。
そして──
手のひらを中心に半径1.5メートルくらいの大きな穴がぽっかりと出現する。
穴の中は暗く、何も見えない。
引力のようなものがあるのか、身体がその中に吸い寄せられる。
「朝からなんか予兆はあったんだよな。
今回の一件で少しは能力のコントロールができるようになった気がしていたが、甘かったな」
「何なのそれ? 異次元空間の入口?」
「多分、そんな感じだ。 一度これが発現したら俺が中に入らない限り、これは消えない。
中に入った人間が無事でいられるかは保証ができない」
「行くつもり?」
「うん。 もう少し長くここにいたかったけどな」
あたしは何も言うことができない。
俯き、涙をこらえることしかできない。
「コトネは俺のおかげでジョウトを救えたって言ってくれたけどな。
それは違う。 お前がいたから俺達は動いたんだ。
お前の真っ直ぐさ、優しさに強く惹かれたから俺のポケモンもコトネのポケモンも実力以上の力を出せたんだ」
「……っ!」
そしてバナナとヒメグマが同時に言った。
「「またな。 必ずどこかでまた会おう」」
「バナナっ!!」
穴の中に吸い込まれ、そして一瞬で穴は塞がり、何事もなかったかのような静けさが訪れる。
一人と一匹は来たときと同じように一瞬でいなくなった。
あまりにも突然過ぎて涙も出ない。
しばらくその場に立ち尽くしてしまう。
どのくらいそうしていたのか分からない。
肩に何かが触れた感触を感じて、あたしは意識が戻り、それを摘んでみる。
「これはにじいろの羽根?」
7色に光り輝くとてもきれいな羽根。
こんな虹色の羽根をもつポケモンをあたしは一匹しか知らない。
急いで空を見上げる。
夕焼け空の遥か彼方に虹色に輝く大きな鳥ポケモンがいた──気がした。
ホウオウの羽根を見つけると幸せになれるというジョウトの古い言い伝えがある。
……そうだね。
暗くなっていても仕方ないよね。
「よっしゃあああ! これから先もどんどんポケモンたちと一緒に強くなってやる!
世界中の悪いやつ! 覚悟しとけぇー!!」
突然叫んだあたしはくすくす笑われたり、スマホのカメラを向けられたりしたけど、構うものか。
笑いたいやつは笑えばいい。
あたしはやりたいようにやる。
その冒険の先にきっとバナナも待っているはずだ。
うん、そう。
きっとそう。
あたしの冒険はまだまだ続く。