ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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騙し合いと探り合い

「さっきも言いましたが、私はゲーチスさんを殺してなんかいませんよ」

 

「僕も言ったよね。 証拠があると。

 君が父の部屋から出てきたのを見たんだ。

 そのあと僕がその部屋に入り、目に飛び込んできたのが父の死体だった。

 どういうことか分かるよね」

 

「だから、私があの部屋に行った時には既にあの人は死んでいたんです」

 

「そんな言い訳が通用すると思うかい?」  

 

 Nは冷めた表情で淡々と語る。

 

 何を言っても無駄かもしれない。

 

 たけど、私は嘘はついていない。

 

 あのままゲーチスを放っておけば、近い未来にキュレムの力を使った船──戦闘兵器と呼んでも良いだろう、あのプラズマフリゲートでこのイッシュ地方は大きな打撃を受ける。

 だから、ゲーチスが動き始める前に暗殺する必要があった。

 その為に私はプラズマフリゲートに忍込み、そして船内にあるゲーチスの部屋を訪れたのだ。

 

 だが、既にゲーチスは何者かに暗殺された後だったのだ。

 

 おそらくNはその直後にプラズマフリゲートに訪れたのだろう。

 

 ただ、この真実を告げたところでNに見逃してもらえる可能性は薄い。

 

「レシラム。

 せめて彼女が苦しまないように一瞬で焼却してやってくれ」

 

「いらないですよ……。その謎の配慮」

 

 さて。

 

 Nは私を森の奥地まで追いやったつもりだろう。

 

 だが、私は激しく川が流れるこの渓谷を目指して逃げていた。

 

 私がこの場を無事にやり過ごすにはこのタイミングしかない。

 

 気合を入れろ。

 

「うおおおおおおお!」

 

 私は挫いた足首を引きずり走る。

 

「見苦しいな。

 そんな必死に逃げられると流石に僕も良心が痛むよ」

 

 良く言うよ。

 本当に優しいなら11歳のいたいけな少女をどんな理由があろうと殺そうとしない。

 

 私は崖を目指す。

 

「この先は深い谷だ。 しかも、勢いの強い川が流れている。 飛び込んだところで自殺行為だよ」

 

 それでいい。

 私は勢いよくジャンプし、崖に飛び込み──そして落ちていく。

 

 

「何か企んでいるのかい?」

 

 

 崖下に真っ逆さまに落ちていく私の頭上にレシラムに乗ったNが一瞬で現れる。

 

「……!!」

 

「悪いけど、僕は心配性でね。

 悪く思わないでくれ」

 

 レシラムの口が青く光る。

 

「『あおいほのお』」

 

 青く美しい炎の一閃が私を包み込む。

 

 もう一度言おう、それでいい。

 

 

 特性──クイーンズガード。

 

 

 私だけが持つ特別な特性。

 

 どんな攻撃も一度は防ぐことができる鉄壁の壁を作り出す。

 

 私の狙いは最初からこれだった。

 

 伝説のポケモンのレシラムに勝つことはおろか逃げることも難しいと判断した為、途中から私はこの策を考えていた。

 

 古典的な騙しのトリック。

 死んだふりである。

 

 だが話をしてみた印象、Nは慎重で疑り深い。

 

 そこで私はあえて崖から飛び降りることで自殺すると見せかけ、何か逃げ出す策を持っている──そう思い込ませ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 レシラムの攻撃なら『クイーンズガード』ごと私を崖下の川に突き落とすことが可能だろう。

 

 N()()()()()()()()()N()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、『クイーンズガード』があるにも関わらず、猛烈な衝撃が私を襲う。

 

 初めての経験である。

 

 これが伝説のポケモンの力か。

 

 私はなんとか『クイーンズガード』を纏ったまま崖下の川に落下することに成功した。

 

 だが、ここからが本当の賭けかもしれない。

 

 挫いた足で、この激しい川の流れから抜け出すことができるだろうか。

 

 『クイーンズガード』が解ける。

 私はまるで洗濯機の中のタオルのように川の中でもみくみゃになりながら流されていく。

 

 あ、無理ですね、

 

 とても泳げるような水流の勢いではない。

 

 息継ぎする間もなく、流されていく。

 

 意識がどんどん遠のいていくのが分かる。

 

 さよなら、さよなら。

 

 こんなことになるならもうちょっと仲間とか友達とか恋人を作って一緒に危機に立ち向かうべきだったなぁとか思いながら私は完全に気を失った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「お、目を覚ましたか。

 大丈夫か?」

 

 ぼぉーっとした思考の中で少しずつ考えを巡らせていく。

 

 周囲は暗い。

 夜だ。

 

 足元では焚き火が焼べられている。

 

 眼前にいるのは麦わら帽子を被った少年とヒメグマが一匹。

 

 体を動かそうとするが、両手両足が動かない。

 

「あー、ちょっと待ってくれ。 今お前は寝袋に入ってるんだよ」

 

 少年が慌てて言った。

 

 なるほど。

 寝袋に入れて寝かされていたということか。

 

 私は寝袋からの脱出を試みるが、

 

「それも待ってくれ! お前は今! その……下着……だからさ」

 

「へ?」

 

 間抜けな声が出る。

 

 もしかしてこれは所謂「事後」なのか?

 何かされてしまったのか。

 

 まだ、11歳なのに? 

 

 常に冷静沈着であろうと意識しているが、頭の中でいろいろな考えが巡り、集中できない。

 

「へい! お嬢ちゃん。 バナナの名誉の為に俺が保証してやるが、お嬢ちゃんが想像しているようなことは何もしてないし、されてないぜー」

 

 ヒメグマが喋っている。

 ヒメグマが喋っている。

 ヒメグマが喋っている。

 

 ??????。

 

 限界だった。

 

「あーーーーーーー!!」

 

「やべ。 壊れた」

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

「失礼しました。

 私としたことが取り乱しました」

 

 

「そうだな。 下着姿で半狂乱で暴れ回るから困ったぜ」

 

「やめろ、ヒメグマ。 せっかく落ち着いたのに振り出しに戻す気か」

 

 15分後。

 

 ようやく落ち着いた私は寝袋から顔だけ出した芋虫姿で麦わらの少年とヒメグマと対面していた。

 

 私が着ていた服は焚き火の側で乾かしてもらっている。

 

「要するに川を流されていた私をあなたが見つけて下さり、助け出してくれたという訳ですね。 痛めた足首も手当されているようですし、更に濡れていた服を乾かすために服を脱がし、乾かしてくれた……いや、これはやり過ぎな気もしますが、ありがとうございました」

 

 麦わらの少年とヒメグマを観察する。

 

 少年はおそらく10代前半で、私とそう変わらないだろう年頃だ。

 旅人なのか、この周辺に住む人なのか。

 主にジョウト地方に生息するヒメグマを連れていることからおそらく前者だと考えられる。

 

 そして、問題はこのヒメグマだ。

 

 人の言葉を話している。

 

 伝説のポケモンクラスになるとテレパシーで人と直接コミュニケーションすることも可能だが、一般のポケモンがここまで流暢に話をするなんて聞いたこともない。

 

「まあ、無事に目を覚ましてくれて良かったよ。

 まあ、その為にここに来させられた気もするけど」

 

 どういうことだ?

 私がここで死にかけることを知っていたと言いたいのか。

 

 妙な少年だ。

 助けてもらった身ではあるが、警戒は解かないほうが良いな。

 

 もう少し探りを入れてみよう。

 

「あなたは私のことを知っているんですか?」

 

「えっとー。

 いや、初対面だよ。 間違いなく」

 

 どうも歯にものが挟まったような言い方をするな。

 

「申し遅れました。私の名前はメイです。 

 あなたは?」

 

「俺はバナナだ」

 

 バナナ……聞いたこともない名だ。

 だが、どこかで見た顔な気もする。

 

「バナナさんは旅人ですか?

 どちらからいらっしゃったんです?」

 

「うーん。

 まぁ、嘘をついても仕方ないか。

 ジョウト地方から来たんだ」

 

 ジョウト。

 その瞬間に記憶が蘇る。

 

「ロケット団によるラジオ塔占拠事件を解決した少年ですねっ!」

 

 テレビでマイクを向けられていた少年がこのバナナという少年ということか。

 

 しかし、先週くらいまでジョウトにいたはずなのに今はイッシュ地方に?

 不可能では当然ないが、違和感を覚える。

 

 私の怪訝そうな表情を読み取ったのかバナナはややバツが悪そうに頭をかくと、信じられないようなことを告げた。

 

「メイ。 俺はウソを付くのは苦手だ。

 信じられないかもしれないが聞いてくれ。

 俺には時間や空間を飛び越えて移動できるチカラがある。   

 自由自在なんかじゃないけどな」

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