ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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リーフの特性

 本日の俺の仕事依頼はいつもに増して不可解なものだった。

 

 受け取った要件はたった一言。

 

『話をしたい』

 

 である。

 

 しかも、ニビジムに入りたてで特に何の実績もない俺とヒメグマにこの依頼が来たのだ。

 

 警戒しないほうがおかしい。

 

 俺は物騒なトラブルに巻き込まれなければいいなぁと願いながら、約束のニビシティ近郊の川の畔にやってきた。

 

 そこまで大きくない川にかかった古い木の橋。

 そこの欄干に寄りかかっていたのは一人の少女だった。

 

 年は俺よりはいくつか年上そうで、長い茶髪、白色の帽子、水色のノースリーブ、赤色のミニスカート姿の端正な顔立ちをした美少女。

 

 俺は「あっ!」とか口に出しそうになるのを何とか堪えた。

 

 待ち人がイカツイお兄ちゃんじゃなくて、ホッとしたのもあるが、俺はその少女を知っていたから。

 

 少女は俺の姿を確認すると微笑み、近づいてくる。

 

「キミがバナナ君だね。 そして、パートナーの喋るヒメグマ」

 

「ん、何だ。 俺のことを知ってるのか?」

 

「珍しいからねぇ。 喋るヒメグマは。

 会えて嬉しいよ」

 

 そう言うと少女はしゃがんでヒメグマの頭を撫でた。

 

「ありがとう。 突然、呼び出したのに来てくれて」

 

「いえ、大丈夫です。 基本俺は暇ですし。

 それよりも何故俺を?」

 

「ちょっとキミに会いたくて。 話をしたくなったの」

 

 少女は真っ直ぐと俺の目を覗き込むようにして、話すので、こちらはかなり照れくさい気持ちになる。

 

「ふふ。 ごめんごめん。

 まだ、名乗ってもいなかったね。 あたしの名前はリーフ」

 

 やっぱりか……という思いだ。

 

 初代ポケットのリメイク作品『ファイアレッド・リーフグリーン』の女主人公であるリーフ。

 

 この世界では初めて会うが、俺が彼女を知っているのはゲームをやったことがあるからだ。

 

「あたしはマサラタウン出身でね。

 幼馴染の2人はちょっとした有名人だけど」

 

 うん、それも知ってる。

 

 一人はニビジムジムリーダー、グリーン。

 もう一人はレッドのことだろう。

 

「バナナ君はこの街には慣れた?」

 

 本気で世間話を続ける気なのか、リーフはのんびりした口調で話しかけてくる。

 

「ええ、まあ。 そうですね。

 街の人は優しいですし。

 ポケモンにはいつも驚かされてますけど」

 

「そうだよね、驚くよね。 

ポケモンが当たり前にいて、バトルして交換して、一緒に食事して、こうやって一緒に暮らしている。

 ささやかだけど、かけがえのない大切なもの」

 

 やや厨二病に突入しているのだろうか。

 ポエムちっくなことを言いながら、リーフはどこか遠くを見ている。

 

「あたしはこの美しい世界を守りたいの。

 バナナ君、キミもそう思わない?」

 

 そして、不意にくる直視攻撃。

 

 長い睫毛に大きな瞳。

 免疫がないので長時間見ていられない。

 

 イカンテこれ。

 

「えっと! 守るも何もこの世界は平和じゃないんですか?」

 

 ドギマギしながら答える。

 

「平和……かもね。

でも既に綻びは起こり始めている」

 

 急に低く、人が変わったかのような冷たい声色に変化する。

 

 なんだ……? 一体。

 

「アイツが蒔いたタネが今開こうとしている。 

そして、その開いた花は必ずしも美しいものではない」

 

 リーフの目は常軌を逸し始めていた。

 

 もはや何も言おうとしているかわからない。

 

「だからあたしは動いたの。 この世界を守るために」

 

 

 ピシャンッ!!

 

 不意に雷の音が発生し、

まだ昼前のはずなのに突如周囲は暗くなり、雷雲が広がり始める。

 

「来たか。

 随分、早いね」

 

 そう言うとリーフはモンスターボールを投げる。

 

 中から出てきたのはフシギダネの最終進化形──フシギバナ。

 

 背中からは巨大な花を咲かせ、全身から漲るような生命エネルギーを放出している。

 

「フシギバナ! お願い!」

 

 リーフが叫び、フシギバナは背中から大量のツルを生み出し、そのツルで俺とヒメグマ、リーフを包み込む。

 

 その瞬間。

 

 

 バリバリバリバリィ!!!!

 

 雷鳴轟き、激しい衝撃に襲われる。

 

 防空壕のようになっているツルの壁のおかげで何とか無事で済んでいる。

 

 やがて轟音は止んだが、黒焦げになったツルのシェルターは無惨にも崩れ落ちる。

 

 視界が開ける。

 

 橋の中央部分にいた俺達。

 

 そして、そこから10メートルくらいの距離にいたポケモン。

 

 まるで雷が具現化したかのような刺々しく、暴力的な電気エネルギーを放出するそのポケモン。

 

 伝説の鳥ポケモン──サンダー。

 

 フシギバナが俺達を守るようにサンダーに立ち塞がる。

 

『ガキが。 随分勝手な真似をしてくれたな』

 

 サンダーが嗄れた声で言った。

 

「うおっ! 喋った」

 

 ヒメグマが驚くが、お前が驚くのはおかしいだろ。

 

「サンダーみたいな伝説のポケモンたちはより上位の存在だからね。 人語を理解し、テレパシーで私達に話しかけることができる」

 

 リーフは続けて、

 

「来るかもとは思っていたけど、こんなに早いとは予想外だった。 そんなにあたしがこの子と会うのがお気に召さなかった?」

 

『主はお怒りだ。 これ以上勝手な真似をすれば殺す。 これは警告だ』

 

 

 リーフとサンダーの会話は正直全く理解ができず、

 俺はことの成り行きを見守ることしかできない。

 

「じゃあ、その主さんに伝えて。 

心配しなくてもまだその時じゃない。

 慌てて小物ムーブかましてないで、大物らしくどんって構えておいてってね」

 

『生意気なガキめ。 精々今のうちに粋がっていろ』

 

 サンダーはそう言うと、激しい閃光を放ち、電気エネルギーを溜める。

 

「戦う気?」

 

『少し遊ぶだけだ……この程度で死ぬなよ?』

 

 天候を変えるほどの桁違いのエネルギー。

 目の前にいるのは天災そのもの。

 

「こっち来て」

 

 リーフに手を引かれ、橋を渡り、広い草原に出る。

 

 そこでリーフは堂々と真っ直ぐにサンダーと向き合う。

 

「バナナ君、あたしの側を離れないでね」

 

 ヒメグマを抱える俺ごと、リーフは自分の側に引き寄せる。

 

「ポケモンに特性があるように、あたしにも特性がある」

 

「へ?」

 

「《ブルームフィールド》」

 

 リーフが静かにそう唱えた──その瞬間。

 

 リーフを中心に緑の草エネルギーが円を描くように広がる。

 小さな赤い花が一斉に咲き、周囲は一瞬の間に輝く花畑に一変する。

 

「なんじゃこりゃー!!」

 

 ヒメグマが大げさに驚くが、俺は驚きすぎて言葉も出ない。

 

 ポケモンの技じゃなくて、これを人間であるリーフがやったのか?

 

『……なるほどな。 見事だ。

 初めて見るが、確かに人間離れしている』

 

 サンダーはそう称賛の言葉を口にはするが、

サンダー周辺はリーフが生み出したフィールドはかき消されている。

 

『では受けてみろ』

 

 サンダーは全身にまとっていたエネルギーを一斉に放出する。

 

 視界は眩しいほどの光と熱に覆われる。

 

「フシギバナ! 『ソーラービーム』!!」

 

 リーフが叫び、フシギバナは周囲の草エネルギーを吸収し背中の花から、光の光線を放つ。

 

 ぶつかり合う2つのチカラ。

 

 拮抗していたエネルギーは臨界点を迎え、弾ける。

 

 衝撃波で吹き飛びそうになる俺をリーフが支えてくれるが、暴風域の中にいるような恐怖に襲われる。

 

「大丈夫? バナナ君」

 

 何とは言わないが柔らかいものに包まれ、『このままに死ぬのもありかなぁ』なんて思い始めていた俺は我に返り、周囲を見回す。

 

 焼け焦げた草木、折れた大木。

 凄まじい戦闘の跡が広がっていた。

 

『よく俺の一撃を持ち堪えたな。 いいだろう。今日はこのお遊びで終わらせておいてやる。 次はない。覚えておけ』

 

 サンダーはそう言うとその場から飛び去っていった。

 

 周囲は嘘のような静寂が戻って来る。

 

 俺はこの悪夢のような数分のやり取りの情報処理ができず、フリーズ状態である。

 

「ごめんね、バナナ君。

 本当はもっと色々ゆっくりと話をしたかったけどちょっと早かったみたい」

 

 リーフはフシギバナをボールに戻す。

 

「リーフさん……。 今の特性って」

 

「うん。 今度またキミに会うときに詳しく教えてあげる。 今はまだ早いかな」

 

 リーフは砂埃で汚れた服を払ったり、帽子を被り直したり、出発の準備を始める。

 

「強くなってね、ヒメグマとそして仲間のポケモンたちと。 これからもっともっと。

 その時が来たらキミの力がきっと必要になる」

 

 リーフは一方的に言うとバイバイと手を振って、その場を去っていった。

 

 

 

 

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