ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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やどりぎ×みがわり×どくどく

「あたしは強くて美しいポケモンが好き。 

 キミのジャローダも素敵ね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 いきなり対戦相手に自分のポケモンを褒められ、調子が狂う。

 

 底辺オタクに対して優しい陽キャなんて教室にはいない。

 

 だけど、たまに陽キャが見せる気まぐれな優しさはとてもズルい。

 

 あいつらは深い意味なんてなく、その時の気分で言葉を発している。

 

 そんなことは分かっている。

 

 分かっていても優しくされること、褒められることに慣れていない私達にはそれが時にクリティカルヒットするのである。

 

 なんて思い出したくもない鬱々とした高校時代の一幕が脳裏に浮かぶ。

 

 これだから美人は苦手だ。

 

「ジャローダ! 

 『つるのむち』‼」

 

 目の前の対戦に集中する。

 

 ジャローダは全身から大量のツルを伸ばし、それを網状に張り巡らせる。

 

「防御壁のつもりかな。

 あたしのゼブライカのパワーがまだ理解できてない?」

 

 狭い部屋の中に張り巡らせたツルの網はゼブライカの行く手を阻む。

 

 私に近づくためには必ずこのツルの網を通過しなければならない──が。

 

 ゼブライカはジャローダの頑丈なツルの網を全く意に介せず、まるで蜘蛛の巣を引き千切るように容易く、突き破り突進してくる。

 

 全身にオーラのように纏った雷エネルギーによりツルの網は電熱で焼き焦がされている。

 

「『スパーク』‼」

 

「『みがわり』‼」

 

 突進してきたゼブライカの攻撃を蛇の脱皮の如く『みがわり』を出現させることで、なんとか耐え凌ぐ。

 

 ここで引いてはいけない。

 攻める!

 

「『リーフストーム』‼」

 

 ジャローダの持つ最大火力の大技。

 

 草エネルギーを爆発させ、荒れ狂う暴風をゼブライカにぶつける。

 

「私のジャローダの技の威力は倍増します。

 いつまで持ちこたえられますかね?」

 

 ジャローダの持つ特性は『あまのじゃく』。

 能力のアップダウンが逆になるという反則級の特性である。

 

 本来、破格の威力の代償として技を放つと自身の能力が大きく下がるデメリットを持つ『リーフストーム』。

 

 しかし、ジャローダはこのデメリットをなくすどころか、むしろ逆にその能力を大きく引き上げてしまう。

 

「この『リーフストーム』! 耐えられますかっ!?」

 

「いいね……! 熱くなってきた!

 ゼブライカ!! 全力で突き破れぇ!

 『ワイルドボルト』!!

 

 『ワイルドボルト』と『リーフストーム』がぶつかり合う。

 

 ホテルの中はもうめちゃくちゃ。

 

 この部屋の弁償代はポケモンリーグに是非とも請求して頂きたいものだ。

 

 「しかし……ジムリーダー。 流石ですね」

 

 凄まじい草と雷のエネルギーの衝突。

 その均衡が破れた。

 

 ジャローダの放つ『リーフストーム』を突き破り、ゼブライカがジャローダを突き飛ばす。

 

「……ジャローダ。 よく頑張ったね。

 ダストダスもありがとう」

 

 私はすぐさまモンスターボールにジャローダを戻し、更なる刺客を送り込む。

 

「ツンベアー! お願いします!」

 

 ホッキョクグマのような見た目の高さ2.6メートルという大柄なポケモン。

 

 私の手持ちのポケモンの中で最大の攻撃力を持つポケモンだ。

 

 この子で勝負をつける。

 

「次から次へと無駄なのによく頑張るねぇ! その諦めないガッツだけは認めてあげるっ!」

 

「カミツレさん。 何か勘違いをしていませんか?」

 

「どゆこと?」

 

「私が不利な状況でも気合と根性で何とかしようとする脳筋バカにでも見えたんですか?」

 

「何が言いたいの?」

 

「チェックメイト──そういうことです」

 

 バリリリンっ!!

 

 ツンベアーが右腕の冷気で作った氷の剣でゼブライカの雷オーラを切り裂き、一瞬のうちにゼブライカを氷の中に閉じ込めた。

 

「嘘でしょ……。 どうしてあたしのゼブライカがキミのポケモンに負けるの?」

 

 何も理解できないという表情で氷漬けになったゼブライカを見つめるカミツレ。

 

「安心してください。

 あなたのゼブライカはちゃんと私のツンベアーよりも強いと思いますよ。 ただ、私のポケモンたちよりは弱いというだけです」

 

「ポケモン……たち? はっ! 

まさか『どくどく』っ!?」

 

 ようやく何が起こっているのかカミツレにも見えてきたらしい。

 

「そうです。 あなたのゼブライカはダストダスの毒に侵され、更にジャローダの『やどりぎのタネ』で体力を削られ続けていたのです。 だから、私は時間をかけて戦った」

 

「やどりぎのタネ……。 あのツルの鞭に仕込んでいたの?」

 

「そうです。 ちなみにダストダスはゼブライカに接触する為に、わざと隙の多い『のしかかり』をしました。

 誰だって攻撃を行うその瞬間には隙が生まれる。 

 だからこっちはお返しに『どくどく』でゼブライカを猛毒状態にしたんです」

 

「あの『みがわり』や『リーフストーム』の攻防も時間稼ぎの為だったのね」

 

 私は頷く。

 

 カミツレは微笑みながら、ため息をつく。

 

 その姿にはまだ余裕が感じ取れる。

 

「お見事ね。 でも、3匹も動員してようやくあたしのゼブライカ一匹を倒したわけでしょ。

 そんな余裕ぶっている場合じゃないでしょ」

 

「何言ってるんですか?

 今のあなたの手持ちは一匹だけですよね」

 

 整ったカミツレの顔に初めて動揺が走る。

 

「私ごとき雑魚一匹捕まえるのに、あなたがポケモンを複数体用意するわけないじゃないですか」

 

 カミツレは目を閉じ、静かに天を仰ぐ。

 

「敗因はあたしの慢心ね」

 

 さっぱりとした爽やかな笑顔でカミツレが言った。

 

 ゼブライカをボールに戻す。

 

「で、どうするの。 これからまた逃げるの?」

 

「そうですね。 いえ、逃げるのではないです。

 こちらから真犯人を捕まえに行きます」

 

「そっか。 キミじゃないってことは真犯人がいるってことだもんね。 ゲーチス殺しの」

 

「私が犯人じゃないって信じるんですか?」

 

「そりゃあね。 ポケモンバトルが始まってすぐに分かったよ。 キミは人殺しをするような人間じゃない。

 そんな人間にあんな素敵はポケモンたちは育てられないよ」

 

「カミツレさん……」

 

「早く行きなよ。 ないとは思うけど、応援が来るかもしれない。

 あたしはこのホテルにごめんなさいしなきゃだし」

 

「請求先は?」

 

「ん?」

 

 私の問いに目を細め、猫のような笑顔で微笑んだカミツレは踵を返しながら言った。

 

「そりゃあ、ポケモンリーグでしょ」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 昨日の夜のバナナとの会話を思い出す。

 

「これからの動きについて考えておきたいです」

 

「まぁ、ずっとこうやって逃げ続けるような生活はしたくもないしな」

 

「そうですね。 選択肢は2つ。

 大人しくポケモンリーグに捕まり、濡れ衣が晴れるのを待つか、こちらから真犯人を探し出し、自ら潔白を証明するために動くか」

 

「そんなのよぉー。 考えるまでもねぇ。

 こっちから真犯人をとっ捕まえるしかねぇだろ」

 

 ヒメグマが力強くそう宣言し、私とバナナは頷く。

 

「決まりですね。 となれば今後の展開を予想し、動くべきでしょう。 ゲーチスを殺した犯人が誰であれ、それには理由があり、必ずアクションを起こすはずです」

 

「アクション? どんな?」

 

「それは分かりません。 ただ、ゲーチスが殺害されたことで歴史は大きく変わるはずです。 その時に何か大きな動きを起こす者──そいつが犯人の可能性は高いです」

 

「それじゃあよー、今は特にやれることはないってことか?」

 

 唇を尖らせ、不満を垂らすヒメグマに私は言い放つ。

 

「いえ。 怪しいと睨んでいる人物が2名います。

 二手に分かれて、その2名になんとか接触してみましょう」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 これが昨夜に話した内容の一部だ。

 

 私達は逃げるのではなく、戦う道を選んだ。

 

 私が会いに行こうとしている相手はもしかしたら今1番会いたくない人かもしれない。

 

 でも、会って話をしなくてはこの先の私の未来はない。

 

 私は覚悟を決め、歩き出した。

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