ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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最強の虫取り少年

「どういうことだ? 生きている……こいつが?」

 

 アクロマの言うことが理解できない。

 

 壁画の中のこのウルガモスが生きているとでも言うのか。

 

「これを見てください。 僕が発明した装置なのですが、生体エネルギー検知装置です。 生き物にレーザーを当てると、この先端部分が赤く光ります」

 

 ペンライト型の小さな機械だ。

 

「見えますか? このライトを壁画に近づけると……」

 

「光ったぞ!」

 

 ヒメグマが叫ぶ。

 

「──と、言うことはこいつは生きている。

 そういうことか」

 

「ええ。 ただ、僕も分かっているのはここまで。

 あくまでこの壁画からは生体エネルギーが発せられている。 断言できる事実はここまでです」

 

「なるほど」

 

 俺は壁画にゆっくりと近づき、描かれているウルガモスにそぉーっと手を伸ばす。

 

 熱?

 仄かな温もりを感じる。

 

 壁に描かれているウルガモスのその顔を見る。

 その美しさに俺は吸い込まれるように目を奪われ、目を離すことができない。

 

 そして、その瞬間。

 

 壁が発火した。

 

 否、描かれているウルガモスが炎を発したのである。

 

「バナナ! 危ねぇ!!!!」

 

 ヒメグマにギリギリのところで救出されたことで、大ヤケドせずに済んだ。

 

「うぅぅぅぅーんっ!! 素晴らしい!! 素晴らしいですよ! バナナ君! やはり君は特別だ! 僕の目に狂いはなかったっ!!」

 

 勝手にアクロマが絶頂を迎えているが、俺にそんな余裕はない。

 

 眼前に灼熱の炎を纏った巨大な塊が俺に向かって進んでくる。

 

 どうする?

 

 相手は炎タイプ。

 水タイプのカメールを出して戦うか。

 

 しかし、俺の意に反して勝手に腰のモンスターボールから飛び出てきたのはカメールではなかった。

 

 出現と同時に視界を奪うほどの砂嵐と莫大な悪エネルギーを放出する小さな怪物。

 

 かつて、シロガネ山の魔王と恐れられた化物の成れの果て。

 

「おいっ! ヨーギラス! お前何勝手に出てきてんだ」

 

「黙れ。 たかがぬいぐるみ風情が生意気にも俺に楯突く気か?」

 

「なんだと?」

 

 いつの間に一触即発の雰囲気となるヒメグマとヨーギラス。

 

 全くこいつらはこんな時に。

 

 俺がヒメグマたちを止めようとしたその瞬間──。

 

「相変わらずだねぇ。 バンギラス……いや、今はヨーギラスか」

 

 2匹の動きを止めたのは高貴で威厳のある妙齢の女性のような声。

 

 その声を聞き、ヨーギラスが鼻で笑う。

 

「貴様もこんなところで何百年も眠らされていたとは随分憐れなものだな。 そして、今はあの時の見る影もない。 

 随分、弱体化したな」

 

 ヨーギラスの砂嵐が炎の嵐に呑まれ、吹き飛ばされる。

 

「童子のような風貌に変わり果てたのはお前もだろう。

 私はただ待っていただけだ。 私が戦うべきその時を」

 

 俺達の前に声の主が遂に姿を見せる。

 

 そこにいたのは太陽の化身、ウルガモスではなく、その進化前形態の──メラルバだった。

 

 身体の前半分は白い毛で覆われており、そこから5本のやや曲がった赤い角が放射状に伸びている。

 

 ポケモン図鑑を起動する。

 

『メラルバ。 たいまつポケモン。 太陽から 生まれた ポケモンと 信じられてきた。進化するとき 全身が 炎に 包まれる』

 

「バナナ、私は長い間ずっとお前を待っていたのかもしれない」

 

 メラルバの青い瞳が俺に真っ直ぐと向けられている。

 

 試されている? そんな感じ。

 

「メラルバ。 俺に力を貸してくれ。 

 この世界は今大きく変わろうしている気がする。

 何か嫌な予感がするんだ。 この世界を俺は守りたい」

 

 俺の言葉にヨーギラスが大口を開いて嘲笑する。

 

「かっかっかっーっ! 人間の小僧如きが、救世主気取りとは笑えるな!!

 時にお前! このポケモンがどんなオンナか知っているのか? 愚かにも人間を守るために神々に牙を剥き、その結果敗れ、ここに封印されたという大間抜けだ!

 こいつと共に戦うということは神々と戦うということだ。 お前にその覚悟があるのか?」

 

「ヨーギラス。

 俺は既に一度死んでいる。 

 そして、この大好きなポケモンの世界に幸運にも来れたんだ。 おかしくなり始めているこの世界を俺は守るためなら、別に命なんか惜しくないよ」

 

 俺の言葉にヨーギラスは口角を少し上げて笑い、ヒメグマはやれやれと肩をすくめた。

 

 そしてメラルバは……。

 

「投げろ。 モンスターボールを。

 この身、尽きるまでお前と共に戦おう」

 

 俺は小さく頷き、モンスターボールを放る。

 

 メラルバに当たったボールはメラルバをボールの中に吸い込むと、ゆっくりと地面に音もなく落ちた。

 

 微動だにせず、一度だけ捕獲成功の青色ランプが点灯する。

 

「かかかかかかかか感動しましたぁ!!」

 

 アクロマが涎を垂らし、目を潤ませながら絶叫する。

 

 本当にヤバい奴だな。

 

「まさか、こんなに素晴らしいものをお見せ頂けるとは夢にも思いませんでした!

 是非ともお礼をさせてください!」

 

「いやいや、お礼って。 お礼を言うのは俺の方だろう。 お前のおかげで俺はこうしてメラルバをゲットできたんだから」

 

「いえいえっ! そんなこと仰らずこれを受け取ってください」

 

 そう言ってアクロマがポケットから取り出したのは小さな黄金に輝く棒状の何か。

 

 なんだ? 綿棒?

 

「最強の虫ポケモンを捕まえようと準備をしていましたからね。 これが対ウルガモス用に僕が発明した秘密兵器です」

 

 アクロマはその小さな棒状のものを持った状態で腕を突き上げる。

 

 同時に小さな棒は長く伸縮し、伸びた先には巨大な鯉のぼりのような網が現れる。

 

 黄金に輝くそれは何とも巨大な虫取り網になった。

 

「伸縮自在の虫取り網ってことか? まるで如意棒だな」

 

「はい。 この虫取り網は持ち主の意思に応じてどこまでも長く伸縮し、網も広がっていく優れモノです。

 自信作でしたが、これはあなたにこそ相応しい」

 

 アクロマは黄金の虫取り網を通常サイズに戻すと俺に手渡した。

 

 俺はリュックと背中の間に虫取り網を差し込む。

 

 麦わら帽子に白いタンクトップと短パンに黄金の虫取り網。

  

 ますます立派な虫取り少年になってしまった。

 虫取りかごを持っていれば完璧だな。

 

「さて。 では、そろそら外に出ましょうか」

 

 俺はヨーギラスもボールに戻し、先に階段を登り始めたアクロマを追う。

 

 来たときと同じように足早にカツカツと階段を登っていくアクロマ。

 

「バナナ君。 本当にあなたに会えて良かったです」

 

 振り返ることなく話しかけてくる。

 

「ロケット団との戦いのニュースからあなたのことは気になっていました。 人語を話すポケモンたち、そして神に近いと言われるポケモン達を次々と仲間につけていくその資質」

 

「………」

 

「僕も科学者ですからね。 興味がわいて仕方なかった。 そして、実際にこうして目の当たりにした少年は僕の想像を遥かに上回っていた」

 

 こいつ……何を言うつもりだ。

 

 長い階段を登りながら俺は警戒を強める。

 

「このまま成長を続ければ、神とも渡り合えるほどの強大な力を得るのかもしれない。 

 あぁ~! それも見たい! 非常に見たい!

 実に興味深いっ!」

 

 アクロマは階段を登りきったところで立ち止まる。

 

 そして、少しだけ顔をこちらに向けた。

 

「でも──あなたはやはり危険だ」

 

 その視線は凍てつく氷のように冷たかった。

 

「ヒメグマ!」

 

「遅い」

 

 ヒメグマも俺もアクロマの背後にいたオーベムの『サイコキネシス』に動きを封じられる。

 

 そしてゆっくりとオーベムのサイコパワーで持ち上げられていた地下への入口が閉ざされていく。

 

「一度閉ざされれば、中から地上に脱出するのは不可能でしょう」

 

「待て! アクロマ!」

 

「あなたはゆっくりとこの何もない地下で待っていてください。

 あなたの大切なこの世界が滅びていくのに何もできない無力感を抱きながら」

 

 そしてかつて神々に敗れ、この地下に捕らえられたウルガモスと同じように。

 

 俺はこの牢獄に捕らえられた。

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