ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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Nの目的

「……驚いたよ。 メイ。 何故ここに?」

 

 整った能面のような顔に1ミリほどの狼狽の色が浮かんでいる。

 

 私は今、ホドモエシティの港にやってきている。

 

 何もない静かな港を眺めていたNに後ろから忍び寄っていたが、不意に振り向かれ、接近に気づかれてしまった。

 

「驚いたと言ったのは君が生きていることに対してではないよ。 

 君が死んでいないことは分かっていた。 

 ただ僕は君の愚かさに驚いたと言っているんだ」

 

「どういうことです?」

 

「わざわざ殺されにきたんだろ?

 

 ハッサム」

 

 ──しまったッ!

 

 目にも止まらぬ速さで繰り出されたハッサムが私を地面に叩きつけ、首元に紅色のハサミを当てる。

 

 身動き1つ取ることができない。

 

「殺す前に一応聞いておこうか。 

何をしにここに来たんだい?」

 

「ホ、ホドモエの港にプラズマ団のプラズマフリゲートが現在停泊しているという情報を得ました」

 

「それで?」

 

「だから、ここに来ればあなたに会えると思ったんです。 

 あなたはきっとプラズマ団の動きを追っているから」

 

「意味が分からない。 

 僕が聞きたいのは何故僕に会いに来たのかの理由だ。 

 分かっているだろう?

 僕は君がゲーチス殺しの犯人だと思っている。 

 だから君を僕は殺そうとしているんだ。 

 そんな人間の前にわざわざのこのこやって来る……そんな馬鹿ではないだろうと思っていたんだけどね」

 

 ゆっくりと私に近づいてきたNは私を見下ろしながら、そう言った。

 

「あなたこそいつまで子供のようなことを言っているんです? そろそろ分かっているはずです、私は犯人ではないと。 

 あなたポケモンの言っていることが分かるんですよね? 

 ポケモンたちなら私が人殺しをするような人間ではないと証言しているはずです」

 

「……確かな証拠がある」

 

「防犯カメラの映像ですよね? 

 その映像はどこで、誰に見せてもらったんですか? 

 まさかプリズマフリゲート内で、プラズマ団の関係者に見せられたなんてことないですよね?」

 

 私の言葉に明らかにNの表情が曇る。

 

 図星か。

 となれば、もう一押し。

 

「Nさん。 あなたにゲーチス殺しの映像を見せたのはアクロマだった──違いますか?」

 

「ここまで来ると恐ろしく思えてくるな。

 本当にその現場にいたかのように喋る。

 その通りだよ」

 

「で、あればですよ! 

 アクロマが捏造した動画をあなたに見せ、私をゲーチス殺しの犯人だと誤認させようとしたという仮説が成り立つはずです! だから──」

 

「そうだね。 

 アクロマならそういうことをやりかねない。 

 でも、あくまでも仮説だ。 君が絶対に犯人ではないという証拠にもならない。 

 僕が君を殺すことに変わりはない」

 

 このわからず屋め。

 どうやらこの頑固者を説得することは私には無理なようだ。

 

 では、次の策に移ろう。

 

「そこまでだよ。 N」

 

 幼さも残しつつ、凛とした声がNを制する。

 

「おやおや、イッシュポケモンリーグの新チャンピオンのお出ましかい」

 

 Nの視線の先には一人の少女。

 

 褐色の肌にボリュームのある紫色の髪を一つに結び、ティアラで装飾している。

 袖とスカートの裾が大きく広がった白とピンク色のドレス、美しい羽衣を身に着けている姿はまるで天女のようである。

 

 チャンピオン、アイリス。

 

 この世界において最強クラスの幼女である。

 

 可愛い。

 

 私はここに来る前に最大の保険を打ったのである。

 

 ポケモンリーグに自ら出向き、交渉したのだ。

 

 私は犯人ではない。 その証拠をこれから見せるから付いてきてほしい──と。

 

 まさかアイリスが来るとは思わなかったが、味方としてこれ以上頼もしい存在はいない。

 

「メイに付けさせてもらった小型マイクで2人の会話は聞かせてもらったよ。

 確かに現時点でメイが犯人ではないという証拠はないけど、絶対に犯人だって言い切るほどの確証もないでしょ。 

 逆にここまでこ話を聞かせてもらって今はアクロマから話を聞くほうが重要だと思うけど」

 

「だから?」

 

 Nはアイリスの出現に少しも怯むことなく、冷たい表情でアイリスと視線をぶつけ合わせる。

 

「メイにこれ以上危害を加えようとするなら、あたしが相手になるよ」

 

「いいよ。 やろうか。

出ておいで、レシラム」

 

 Nが空中に投げたボールから伝説のポケモン、レシラムが降臨する。

 

 その瞬間に焼け焦がれるような熱気が周囲を覆うが、レシラムの圧倒的な威圧感に身体は何故か震え出してしまう。

 

 青い瞳に全身は輝く純白。

 両腕は翼となり、尻尾には灼熱の松明のようなエネルギーが満ちている。

 

 私はポケモン図鑑を起動する。

 

『 レシラム。 はくようポケモン。炎で 世界を 燃やしつくせる 伝説の ポケモン。真実の 世界を 築く 人を 助ける。』

 

 まさに伝説と言うべき化け物じみた図鑑説明に笑うしかない。

 

 生きる災害である。 

 

 Nがチャンピオンアイリスを前にしても動じないのはこのレシラムという存在がいるからだろう。

 

「何故そこまでメイを恨むの? そんなにゲーチス……お父さんが大切だったの?」

 

「大切……?

 面白いことを言うね」

 

 Nは邪悪な笑みを浮かべ、顔を歪ませ嗤う。

 

「その逆さ。 僕があいつを殺したかった。

 あいつを殺すのは僕の役割だったのに、邪魔をされたんだ。 許しちゃおけないだろう?」

 

 そう言って私を見て、微笑む。

 

 全身に鳥肌が立ち、身体が震える。

 

 こいつの整った顔立ち、柔和な表情に騙されていた。

 

 Nの中には真っ黒でドロドロした恨みの感情が満ち満ちている。

 

「僕は物心ついた頃には外界とは隔離された世界に閉じ込められていてね。 そこには人間に虐げられたポケモンたちが多くいた。

 そんなところで幼少期を過ごしたものだからね、僕はポケモンを人間から解放するのが正義であり、自分の使命だと信じてやまなかった。

 僕はプラズマ団の王として活動したが、全ては父の策略に利用されていただけだった。

 あいつの世界征服というくだらない野望の為に僕は生かされていたわけだ。

 全てがわかった時のあいつは酷かった。

 

 心底軽蔑した目で僕を見て、こう言ったんだ。

 

 「心のない化け物」。

 

僕はあいつの単なる操り人形でしかなかった。

だけど、その野望はあの少女に阻まれた。

父は敗れ、プラズマ団は解散された。

僕も自由の身となった。

だけど、あいつは諦めなかったわけだ。

そこだけは本当に感心するよ。

あの野心の高さは常軌を逸している。

アクロマとかいう何を考えているから分からない科学者と手を組み、新プラズマ団なるただの武力組織を作り、今度は武力を持って世界を征服しようとしている。

 

僕が止めなくちゃいけなかった。

 

いや、僕だけがあいつを止める権利がある」

 

 そこまでほとんど息継ぎすることなく、喋り続けていたNはそこで一呼吸を置いた。

 

 その目には赤い涙が流れている。

 

「僕が父さんを殺すんだ」

 

 ……N。

 

 想像を絶する過酷な子供時代を過ごしてきた青年。

 

 ゲームで聞いた話とほとんど同じではあったが、本人の口から聞くとその悲惨さがより痛烈に感じられる。

 

 彼の実年齢は20歳を越えていたはずだ。

 だが、その内面はまだ成熟しきっていない少年のままなのかもしれない。

 

「N。 あなたには同情できることもあるし、気持ちも分からなくもないです。 ただ、他にやるべきことがあるはずです! 大切なポケモンに本当に人殺しなんてさせたいんですか?」

 

「……くっ」

 

 Nが頭を押さえ、苦悩する。

 彼も葛藤しているのだ。

 

『N。 キュレムが動き出した』

 

 黙って様子を伺っていたレシラムが不意に言葉を発する。

 

 威厳ある中性的な声。

 

 当時にアイリスのスマホロトムも喧しく、通知を伝える。

 

「なに? おじいちゃん。

 えっ……ソウリュウシティにプラズマ団のプラズマフリゲートが?」

 

 私の脳裏に嫌な記憶が思い出される。

 

 氷漬けになったソウリュウシティ。

 

「行こう、レシラム」

 

 Nはハッサムをボールに戻したあと、レシラムの背中に乗り、激しい炎を吹き出しながらあっという間に遠い空の向こうに飛んでいった。

 

「急ぎましょう、アイリス! 急がなきゃ手遅れになります!」

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