ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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惨劇と真実

「アイリス。 私達も行きましょう!」

 

 数秒も経たぬ間に遥か空の彼方に飛んでいってしまったNとレシラム。

 

 レシラムはテレパシーのようなもので、キュレムの動きを察知したのだろう。

 キュレムの暴走を止めるべく、ソウリュウシティに向かっていく。

 

 プラズマ団×キュレム×ソウリュウシティの組み合わせでどうしても想像してしまうのが、やはりプラズマフリゲートによるソウリュウシティ凍結事件だろう。

 

 街全体を氷漬けにしたプラズマ団がソウリュウシティの秘宝である『いでんしのくさび』を盗み出すというイベントだ。

 

 だがゲーチスが死んでまだ間もないこの時期にプラズマ団が動くとは想定もしていなかった。

 

「アイリス?」

 

 呆然自失の状態で私の声が届いていないアイリス。

 

「アイリス!」

 

「え? あぁ……そうだよね、ごめん。

 行かなきゃ……私がなんとかしなくちゃ」

 

 アイリスは幼い頃からソウリュウシティで育ってきたはずだ。

 当然思い入れはあるだろう。

 

 今、そのソウリュウシティが大変なことになっている。

 

 イッシュ最強のポケモントレーナーと言えども、彼女はまだ子供である。

 

 内心の動揺は計り知れないだろう。

 

 それでも直ぐに気持ちを立て直し、前を向く姿勢。

 流石はチャンピオンと言ったところだ。

 

「メイ。 最高速度で飛ぶよ。 なんとか付いてきてね。

 アーケオス!」

 

 アイリスは繰り出したアーケオスに飛び乗る。

 

 始祖鳥のような見た目の大型の鳥ポケモン。

 

 図鑑を起動する。

 

『アーケオス。 アーケンの進化形態。 地上で 助走を つけてから 飛び立つ。仲間と 協力して 獲物を しとめる 知能を 持つ』

 

 図鑑説明の通り、アーケオスは地面を蹴り、瞬く間にトップスピードにまで加速すると、その助走の勢いのままに空をロケットのように突き抜けていった。

 

 私も急がなくては。

 

「ウォーグル!」

 

 ワシボンの進化形である大型の鳥ポケモン。

 背側の羽の色は赤色、腹側の羽の色は灰色。後頭部に白い羽の房がある。

 尾羽赤色で、先端に黄色と青の横縞が入る。顔の上には白色の羽飾りがあり、付け根は赤色。くちばし、足は黄色と華やかでカラフルな色合いが美しい。

 

 勇猛果敢な性格で、死さえ恐れないという。

 その勇敢さはアローラでは「空の勇者」と呼ばれるほどだ。

 

 ウォーグルの背中に乗り、ソウリュウシティを目指して出発する。

 

 ウォーグルもかなりのスピードで空を飛べるが、あのアーケオスのロケットのような弾丸飛行には付いて行けないな。

 

 ここからソウリュウシティまで、全速力で飛べば1時間くらいかかってしまうだろうか。

 

 考えている時間も勿体ない。

 最短距離でソウリュウシティを目指す。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「遅いよ、メイ」

 

 1時間15分くらいでソウリュウシティに辿り着いた。

 

 疲労困憊のウォーグルをボールに戻した私にNが喧嘩をふっかけるようなことを言ってくるが、ソウリュウシティの様子を見てしまった今、何も言葉は出てこない。

 

「僕が来たときにはもうこの有り様だった」

 

 あたり一面火の海、人々の阿鼻叫喚と夥しい亡骸に埋め尽くされている──なんてことはない。

 

 ある意味その真逆だ。

 

 音のない世界。

 

 家もビルも木も全てが凍ってしまっている。

 見渡す限り、どこまでも白く輝く白銀が広がっている。

 

 その無音の美しくも絶望的なその風景は感情すらも凍らせる。

 

 聞こえないだけ、耳に届かないだけだ。

 

 ここには人々の苦しみと絶望の叫びが氷の中に閉じ込められた確かな『死』が存在する。

 

「この氷の中にどれだけの人々とポケモンの死体が眠っているんだろうね」

 

「Nっ!! アイリスの前でなんてこと言うんですか!」

 

「いいよ、メイ。 今はもうプラズマ団はいないみたいだね。

 何とか無事な人を探そうか」

 

 淡々と感情を押し殺し、気丈に振る舞うアイリスを見ているだけでこちらの胸が張り裂けそうになる。

 

 しばらくの間、私達3人は物音一つしない凍った街をただただ歩き回った。

 

 20分くらい歩いただろうか。

 

 アイリスが立ち止まる。

 

「ソウリュウジムだよ」

 

 凍ってしまっていて、分かりにくいが黒と白の巨大な2対の竜頭型のモニュメントがそびえ立つ巨鯛な建築物。

 

 アイリスも以前このジムのジムリーダーだったはずだ。

 

「……生きている人間とポケモンがいる」

 

 Nが何かを探知したのか、そう呟く。

 

「おじーちゃん!!」

 

 アイリスが大きな声で叫ぶ。

  

 その姿はチャンピオンではなく、幼い少女そのもの。

 

 アイリスの祖父(血は繋がっていなかった気がする)は現ソウリュウシティ、ジムリーダーのシャガ。

 

 どこかにあるというドラゴンポケモン達の使い手が集まる小さな集落、竜の里。

 

 シャガとアイリスはその村の出身で、アイリスはシャガに後継者として見込まれて、このイッシュに来たのだと言う。

 

 誰もいない街に虚しくアイリスの声が響く。

 

「嘘だ……おじーちゃんが死ぬはずなんかない!」

 

「少しだけ、無茶をしようか」

 

「え?」

 

「レシラムッ!!」

 

 Nの声に応じて、上空で周囲の様子を警戒していたレシラムが近くまで降りてくると、両腕を広げて、全身から特殊な炎エネルギーを放出する。

 

 その炎は周囲の氷をどんどんと溶かしていく。

 

「何で? あんまり熱く……ない?」

 

 私の驚きにレシラムが答える。

 

『キュレムの氷だけが溶ける特殊な炎だ。生き物へのダメージは限りなく少ない』

 

 キュレムの炎のおかげでソウリュウジムの氷はほとんど溶け、私達はジムの中に入ることに成功する。

 

「おじーちゃんッ!!!!!」

 

 アイリスが悲鳴を上げる。

 

 入って入口の側にはたくさんの倒れている人とポケモン……。

 

 そして、小さな子どもたちを庇うように覆い被さっている初老の筋肉質で竜の顎のような特徴的なヒゲの老人。

 

 シャガだ。

 

「おじーちゃん! しっかりしてっ!!」

 

 アイリスがキズぐすりを取り出し、シャガに使用する。

 

 Nはスマホロトムを取り出すとどこかに電話をし始める。

 

「うっ……うう……」

 

「おじーちゃん! 大丈夫?」

 

 しばらくアイリスに介抱されていたシャガが意識を取り戻す。

 

「あ、アイリスか……。 

 すまん……私が付いていながら……この街を……このジムを守ることができなかった」

 

「大丈夫だよ、おじーちゃん! とりあえず今は無理をしないで安静にしてて」

 

「プラズマ団ッ!!」

 

 アイリスの言葉に耳も貸さず、シャガは力を振り絞り、叫ぶ。

 

「突如、何の前触れもなく、巨大な船に乗ったプラズマ団たちがこの街に攻め込んできた。

 私とソウリュウジムの精鋭たちはこの街を守る為に決死の覚悟で戦った!

 しかし……キュレムの力を利用したあの兵器は……私の想像を遥かに超えていたっ!」

 

「いいよ、おじーちゃんっ! これ以上喋らないで!」

 

「いいや、アイリス……! こ、これだけは話させてくれっ……! あの船の脅威は……圧倒的な軍事力だけではない! アクロマと……その隣にいた少女……」

 

「少女? 誰です?」

 

 少女と言われ、私の頭にパッと思いつく登場人物は出てこなかった。

 

「私も自分の目を疑った……。 そんなはずがないと!

 何かの間違いだと信じたかった……!

 だが、間違いない! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 黒き竜……伝説のポケモンゼクロムのことだろう。

 

 まさか……まさか、まさか!

 

 あり得ない。

 

 そんなはずはない。

 

「おじーちゃん……トウコおねーちゃんがやったっていうの?」

 

 トウコと親交のあるアイリスが信じられないという表情で言った。

 

 ポケットモンスターブラック・ホワイトの主人公であるトウコ。

 私もよく知っている人物だ。

 

「悪魔のような邪悪な笑顔で微笑むトウコとアクロマたちに私達のポケモンは敗れ……この街の秘宝である『いでんしのくさび』は略奪された。

 我々はそれぞれの家やジムに籠城せざるを得なくなったのだが……」

 

 街ごと凍らされてしまったということか。

 

 残虐非道。

 断じて許されざる行為ではない。

 

 だが、同時に私の中にとある疑惑が浮かび上がってきている。

 

 何故トウコがアクロマと一緒にいる?

 

 そこから導き出される回答はシンプルなものだった。

 

 アクロマと手を組んだトウコがゲーチスを殺したのである。

 

 

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