ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜 作:くまっくす
トウコ。
年齢は多分14歳くらい。
つばがピンクと白のキャップ、黒いベストと白のトップス、ダメージデニム風のホットパンツに、黒い靴下、編み上げブーツに、大きなウェーブがかかったふわふわの茶髪のポニーテールが特徴的な女の子。
私も2度ほど会ったことはあるが、裏表がなく、サッパリした性格で姉御肌の明るくてパワフルな子だった。
トウコとの会話が思い出される。
***
同じく異世界転生してきた間柄ということで、人見知りの私ではあるがトウコとはいつも本音で会話をすることができた。
「何で旅をしてるかって?」
「はい。 私たちは異世界から来た人間です。
確かに私の容姿は『メイ』ですし、あなたは『トウコ』です。
でも、わざわざ『トウコ』として生きる必要なんてないじゃないですか?
それなのにどうしてあなたはこうしてイッシュ地方を旅して、チャンピオンにまでなって、それでもまだ旅をするんです?
私には理解できません」
「あっはっはっはー! アンタやっぱり面白いよ。
アタシは逆にアンタみたいにそんなに難しいこと考えてないよ。
そんなに頭は良くないしねぇ。
ただ、アタシのポケモンたちは誰よりも強くあろうとしている。
だから、アタシもこの子たちに負けないくらい強くなろうって考えているし、そう考えて行動している──それだけ」
分かるような……分からないような。
「アタシは昔からそんな人間でさ。
前世ではバリバリ働いてたんだけど、沢山の部下がいたわけ。
部下たちの為にもアタシはできる女じゃなきゃ駄目だって思ってたし、そんなアタシをみんなが支えてくれたよ」
「そんなものですかねぇ。
教室の隅で窓際族をやっていた私にとって、あなたは眩しすぎです」
「そんなに卑下すんなって!」
そう言って背中をバンバン叩いてくる。
強引なコミュニケーションではあるが、どうも憎めない。
「アタシはアタシで、アンタはアンタでしょ?
メイ。
アンタは頭が良いし、ここぞという時には覚悟をもってやれる子だ。
アンタはアンタで自分の進みたい道を行けばいい。
アタシはアタシで、自分のやりたいようにやるだけさ」
そう言っていたトウコはそれから暫くして、イッシュチャンピオンを返上し、姿を消した。
そして……。
トウコ。
あなたとやれたかったことってこんなことだったの?
プラズマ団と手を組み、何の罪もない人々を傷つけ、街を氷漬けの死の街に変えてしまった。
教えてほしい。
あなたに何があったのかを。
***
「メイ? 聞いてるの?」
アイリスに話しかけられ、ようやく現実に引き戻される。
「ご、ごめんなさい。
ちょっとボーッとしてしまいました。
何でしたっけ?」
「おじーちゃんは今は気を失っているだけだけど、凍傷と戦闘による怪我でかなり危ない。
他にも怪我で苦しんでいる人もきっといるよ。
救護班を呼びに行こう」
「その必要はないよ」
ジムの入口の方から聞こえてきたのはNの声。
「どういうことです?」
「先ほど僕がプラズマ団……、あぁ、わかりにくいから旧プラズマ団と言っておこうか。
仲間の旧プラズマ団に指示を出して、最大規模の救護団をこちらに向かわせている」
「それは嬉しい申し出だけど……信じて良いのかな」
アイリスが緊張を解かずにNに問いかける。
「信じるも信じないも好きにすればいい。
ただ、僕の真に戦うべき相手が分かった。
それは君たちじゃない。
僕が言いたいのはそれだけだ」
私達はとりあえずジムの外に出たが、外では思いもよらぬ光景が飛び込んできた。
レシラムが全身をオレンジ色に染め上げ、まるで太陽のように凍った街を明るく照らしている。
「まさかさっきジムの氷を溶かしてくれたように、街全体の氷を溶かそうとしてくれてるの?」
「ああ。
ジムの内部の様子を見る限り、中まで氷漬けになっていたわけじゃなさそうだ。
急げばもっとたくさんの人を助けられるかもしれない」
「……N。 本当にありがとう。
ポケモンリーグチャンピオンとしても本当に感謝します」
「ただ、いくらレシラムと言えども内部の人間やポケモンたちに影響がないように溶かしてもらっているから、時間はかかるよ」
街の人々の救出や救護はNと旧プラズマ団が行ってくれるだろう。
さて、私はこれからどうしようか。
「アイリスはこれからどうするんです?」
「とりあえずポケモンリーグに戻るよ。
それで四天王、ジムリーダーたちに招集命令をかける」
「え?」
「街1つを壊滅させたプラズマ団を許すわけには行かない。 イッシュの全勢力を集約させて……やつらを叩き潰す」
アイリスの瞳には怒りの炎がギラギラと燃え上がっていた。
「アイリス……全面戦争をするつもりですか?
2体の伝説のポケモン、そして高度な科学力を持つプラズマ団とポケモンリーグの最高戦力の衝突は甚大な被害をもたらしますよ」
「じゃあ! このまま黙って第2、第3のソウリュウシティが生まれるのを黙って見てろって言うの!?
この惨劇を見てよくそんなことが言えるね!」
「そういうつもりで言ったわけじゃ……」
気まずい雰囲気が流れる。
「ご、こめん。 言い過ぎた。
とにかくあたしはもう行くね。 メイももしその時が来たら手伝ってくれたら嬉しい」
アイリスはアーケオスを出すと、私に背中を向けて遠くの空に飛んでいってしまった。
私は取り残されてしまった。
「メイ」
Nが近づいてくる。
「一度謝らせてくれ。 キミがゲーチスを殺した犯人ではないということは心の中では分かっていた。
ただ、どうしても自分の中の怒りの感情を制御できなかった。 それを誰かにぶつけないと気が済まない気持ちになっていた。
謝って済む話じゃないかもしれないが、許してくれ」
私は何度もこの男には殺されかけているので、おいそれと許す気にはならない気持ちもあるが、深くまで被った帽子のつばから隠れ見える伏し目がちの視線にズギュンと胸を抉られる。
弱ったイケメンはズルい、これは仕方ない。
しかも、数時間前までは殺意に満ちた視線でしか見られなかったのに、今の罪悪感溢れる視線とのギャップの高低差がとんでもない。
「いえいえ! 別に謝らなくても大丈夫です!
誤解が解けたのならそれで良いんですから」
「そうか。 優しいんだな、君は」
長いまつ毛で少し垂れ目がちの目を細め──柔らかい表情で微笑んだ。
「うぐぅううううううっ!!」
クリティカルヒット。
思わず変な声を出して蹲ってしまう。
「どうしたんだい? どこか痛いのか」
「いえいえ、本当に大丈夫です!
発作みたいなものですから」
いかんいかん。
私にはホテルで一夜を過ごしたバナナという男性がいるというのに!
バナナ?
「……しまった!
すっかり忘れていました」
色々ありすぎてバナナの存在をすっかり忘れてしまっていた。
そもそもバナナはアクロマとの接触を試みていたはずだ。
しかしそのアクロマがプラズマフリゲートに乗り、ソウリュウシティを襲撃した。
このことから考えられるのはバナナはアクロマとは接触できずにまだ探し回っている可能性。
そして、アクロマと接触はしたが、逃げられた、あるいは戦ったが敗れたという可能性。
後者は考えたくもないが、充分あり得ることではある。
探さなくては……バナナを。
その時。
スボッ。
突如、地面から鋼のドリルを頭につけたモグラのようなポケモン──ドリュウズが頭だけ地上からぴょこんと飛び出している。
「ドリュウズ? 野生ですかね」
ドリュウズは爪と鼻をクイクイと後方に向け、合図をする。
「ついてこい。
そう言っているようだね」
Nがそう言うが、私にもそう言っているように感じられる。
このドリュウズはもしかして……。
ドリュウズは踵を返すとそのまま頭だけ出した状態で地中をものすごい速さで進んでいく。
私もウォーグルに乗り、慌てて追いかける。
「メイ。
気を付けて」
この微笑みの貴公子との別れは断腸の思いだが、私は涙を飲んで大空に飛び立った。