ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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神という存在

「さあ! もうすぐだ。 

もうまもなくこの世の全ては私のものとなる」

 

 大きな椅子に腰掛け、酒を浴びるように飲むトウコゲーチス。

 

 その見た目は10代半ばのまだ幼さも残る少女ですが、ギラつく眼光は狂気を宿しています。

 

 ゲーチスがトウコの身体を奪った数日後。

 

 ソウリュウシティを襲い、いでんしの楔を奪ったトウコゲーチスは御満悦でした。

 

「キュレム! プラズマフリゲート! そして、ゼクロム! 

 私の行く手を阻むものなどこの世のどこにもいない!」

 

 阿呆のように高笑いをするトウコゲーチスは既に神にでもなった気分でしょうが、私には一抹の不安がありました。

 

 勿論ここまでほぼ完璧と言える準備を進めてきました。

 

 トウコの姿とはいえ、トウコゲーチスの言うことを全く聞かなかったゼクロムを制御するために、アクロマボールを開発し、不完全ながら制御可能状態にしました。

 とはいえ流石は伝説のポケモン。

 制御可能なのは3分程度のため、基本ゼクロムを戦闘には使えませんが。

 

 次にジョウトのロケット団の野望を阻んだバナナという少年に接触し、念の為古代の城に閉じ込めました。

 

 そして、ゼクロムに命じさせ、四神に遺跡に近づくものは始末させるように手は打ちました。

 

 あの少年を放っておけば必ず痛い目に遭う、そんな予感がしたのです。

 

 私の計画を阻む可能性は少しでも残すわけにはいきません。

 

 ただ、トウコのポケモンたちにみな逃げられてしまったという事実は気にはなります。

 

 とはいえ確かに全てのピースはトウコゲーチスの言うように我々の手中にあります。

 

「さあ、アクロマ! 始めようではないか。

 最強神を誕生させるぞ!」

 

 プラズマフリゲートの最深部、キュレムを拘束している船底のフロアに移動した私たち。

 

 トウコゲーチスはアクロマボールからゼクロムを出現させます。

 

 激しい青色の稲妻を発生させながら現れるゼクロム。

 怒りの視線を私とトウコゲーチスに向けます。

 

「ゲーチス!

すぐに命じるのです!!」

 

「止まれ! ゼクロム!」

 

 トウコゲーチスはアクロマボールを掲げ、何とか強制的にゼクロムの動きを止めました。

 

「ふんっ! この暴れ竜め……」

 

「ゲーチス。 ゼクロムを制御できるのは3分間だけです。 急ぎましょう」

 

 トウコゲーチスはポケットからいでんしの楔を取り出し、空高く掲げます。

 

「さあ、キュレム! ゼクロムを吸収し、最強のドラゴンポケモンとなるのだ!」

 

 トウコゲーチスが叫ぶのと同時にいでんしの楔が白く輝き出し、その光はキュレムを包み込みます。

 

 その光はキュレムを強化し、拘束具を破壊しました。

 

 そして、氷の羽根を広げ、そこからピンク色の光線を動けないゼクロムに放ちます。

 

 これでゼクロムを吸収できるはず……。

 

 しかし──思いがけないことが起こりました。

 

「どういうことだ!? アクロマ! なぜ、ゼクロムを吸収できんのだ」

 

 そんなこと私が聞きたいくらいです。

 

 何故!?

 

 その疑問はすぐに判明することになりました。

 

 ゼクロムから声が聞こえたから。

 

 そしてその声はトウコゲーチスと同じ声でした。

 

『ははは……、一か八かの作戦が上手くいったみたいだねぇ』

 

「貴様……トウコか!?

 まさか……死んでいなかったのか!!」

 

 激昂するトウコゲーチスから発せられる声は当然トウコの声。

 そして、ゼクロムから聞こえる声もまさにトウコの声でした。

 

 一体どういうことなのか。

 トウコの魂がゼクロムの中にあるということなのでしょうか。

 

『ゲーチスと身体が入れ替わってさぁ……。

 もう最悪っ! って思って。 

 ゼクロム助けて! って心の中で叫んだらゼクロムの中に入れたんだよね。

 あと数秒遅かったら銃に撃たれて、あの世行きだったよ』

 

「おい! アクロマ! この馬鹿は何を言っているのだ? そんなことあり得るのか」

 

「……おそらくの仮説ですが。

 オーベムのサイコパワーであなた達の魂は入れ替わりました。

 ですが、入れ替わったばかりの魂はまだ不安定で肉体に定着していなかった。

 その時にトウコさんと深い絆で繋がっていたゼクロムの心が共鳴し、トウコさんの魂はゼクロムの中に移った……そういうことかもしれません」

 

「ふざけるな! そんな絆なんという曖昧な言葉で納得できるか!」

 

 憤るトウコゲーチスの気持ちも分かります。

 私も科学者ですから科学で証明できないものが理解できるはずもありません。

 

 ただ、そんなことがあり得るのがこのポケモン世界。

 

『このまま耐えてやれば、アンタらが作ったボールの呪縛も解ける! そしたら覚悟しろよ?

 この船も! キュレムもアンタたちも全員潰してやるからな』

 

 それはマズイ……。

 キュレムではトウコのゼクロムには敵いません。

 

 何か策を考えねば。

 

「アクロマ! もう一度だ! もう一度私とあの小娘の魂を入れ替えろ!」

 

 私は一瞬でアクロマが言わんとすることを理解しました。

 

 そして、思わず身震いしてしまいました。

 ゲーチスのイカレ具合に……。

 ですが、それがいい!

 

「オーベム! 『サイコシフト』!」

 

 私はすぐさまアクロマシーンのスイッチを入れ、オーベムに『サイコシフト』の発動を命じました。

 

 いくらトウコとゼクロムと言えども、キュレムに吸収されまいと抵抗している最中にオーベムの攻撃をかわす術はありません。

 

 2回目となる魂の入替え。

 

 トウコは再びトウコ自身の身体に戻ります。

 

「くっそぉっ! 自分の身体に戻れたのはめっちゃ嬉しいけど……これはマズイよね!?」

 

 そして、ゲーチスの魂はゼクロムの中に。

 

『ワタシノタマシイハ! 神す、スラ、りょっ……凌駕スルルルっ!!』

 

 恐ろしい男です。

 

 このゲーチスという人間の底しれぬ悪意が神すら超越しようとしていました。

 

 ゼクロムはゲーチスにほんの一瞬……主導権を奪われました。

 ですがその一瞬が命取り。

 

 ゼクロムはキュレムに吸収されていきます。

 

 ゼクロムを黒い球体に変化させ、それを喰らいました。

 

 その瞬間、冷気と雷が混じった凄まじいオーラを放つキュレム!

 

 その姿を徐々に変貌させていきます。

 

 灰色だった身体は漆黒に変わり、下半身や肩周りにはプロテクターのような氷に覆われています。

 巨大で太い尻尾はゼクロムのそれに近しく、尻尾からチューブのようなものでキュレムの上半身に繋がっています。

 

 抜け殻だったその虚空の神はゼクロムを取り込み、真の力を取り戻したのです。

 

 ゼクロムを吸収合体したキュレムの真の姿、ブラックキュレム。

 

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 耳を劈く怪物の叫びは数多くの修羅場を潜り抜けた私の心すら凍りつかせる恐ろしさを抱かせました。

 

 ブラックキュレムの目には瞳孔が見られず、黄金に輝いています。

 

「ゲーチス!! 私の声が聞こえますか!?」

 

 ブラックキュレムは私を一瞥しました。

 

 路傍の石を見るかのように。

 

 そして息を吹いた──そんな気がしました。

 

 その瞬間、私の右腕は氷付き、そして一瞬で粉々に砕け散りました。

 

 切断部分は氷で凍結していた為、幸いと言うべきか痛みはありません。

 

「な、なるほど……。 話の通じる相手ではないということですか」

 

 キュレムとゼクロムとそして、ゲーチスが合わさり生まれたソレは理性を失った荒ぶる破壊神そのものでした。

 

「マズイ……。 

 終わる。 この船だけじゃない。

 イッシュそのものが」

 

 トウコが言いました。

 イッシュ最強のポケモントレーナーだからこそ分かるのでしょう。

 眼前の怪物の強さが、その恐ろしさが。

 

 私も自身の死期を感じ取っていました。

 

 どれだけ科学が進化しても。

 人間が数千年かけて磨き上げた叡智の結晶すらも。

 

 すべてを無にする存在がいるのだと理解しました。

 

「す、素晴らしい……。

 この世にこんな存在がいたのですか。

 どこまでも残酷で、どこまでも無慈悲で……。

 そして美しい」

 

 ブラックキュレムは氷と雷のエネルギーを全身に纏い始めます。

 

 直感ですが、察しました。

 この船は崩壊し、沈むだろうと。

 

 レシラム・ゼクロム・キュレムの攻撃にも耐えられるように私の技術のすべてを費やし、作り上げた究極の船、プラズマフリゲート。

 

 ブラックキュレムは溜めたエネルギーを爆発させました。

 

 私が作り出した究極の科学の産物は、次元を超越する存在──神により消し飛ばされていきます。

 

 これが私の覚えている最後の記憶です。

 

 

 

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