ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜   作:くまっくす

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イッシュ崩壊

 地震。

 

 最初はそう思った。

 

 だが、遠くの地から流れてくる冷気が地震ではないことを教えてくれる。

 

「バナナさん……これって」

 

 私とバナナ達はヒウンシティに向かって歩いていたのだが、立ち止まり、顔を見合わせる。

 

「まさかキュレムか? 嫌な予感がするな」

 

 私達は情報を仕入れるべく、ヒウンシティに急いだ。

 

 夜だというのに明るいネオンが輝くこの街はいつまでも眠らない。

 

 ただ、今日は様子が違っていた。

 

 街の中央にある大型ビジョンのスクリーンを通行人達が皆、立ち止まって見ている。

 

 人々の表情は困惑、不安、戸惑い──そんな感情が見て取れる。

 

 ジャイアントホールを横切り、セイガイハシティの更に先にある巨大な神殿のような建物。

 

そう。 イッシュポケモンリーグがスクリーンには映っていた。

 

 ただ、それは私が知っている馴染のあるポケモンリーグではなかった。

 

 施設のすべてが氷漬けとなり、所々が崩れ落ちた信じられない光景。

 

 ポケモンリーグとはこの世界における権威の最高峰だ。

 ポケモンと人が共に切磋琢磨し、磨き上げた技をぶつけ合う、ポケモンバトル。

 その頂点に立つ者達だけがたどり着くことができるポケモントレーナー憧れの聖地。

 

 

 そんな場所が見るも無残に荒廃している。

 

 

 テレビ中継されているその様子を誰もが信じられないという様子でただ見つめることしかできない。

 

 キャスターの震える声が聞こえる。

 

『中継を……ご、ご覧の皆様。 今カメラの前には信じられない光景が広がっています。

 かつてこのような自体が想像できたでしょうか? あのポケモンリーグがたった1時間にして崩壊してしまいました。

 しかも、たった一匹のポケモンによって。

 ここにはイッシュが誇る最高峰のポケモントレーナーたちが復活したプラズマ団への対処を巡り、集っていました。

 それほどのポケモントレーナーがいたにも関わらず……このポケモンリーグは壊滅してしまったのです。

 幸いなことに、チャンピオンアイリスや四天王、ジムリーダーたちはみな命に別状はなく、無事だということです』

 

 冗談のような話がスクリーンの中で語れている。

 

「信じられない……」

 

「でもま、事実なんだろうな」

 

 バナナは冷静そうにそう言うが、顔色は悪い。

 

「俺のポケモンたちもかなり強くなったはずだが、正直言ってポケモンリーグの四天王クラスには及ばないと思ってる。

 そんな最強クラスのトレーナーが10人前後いたにも関わらず、勝てなかったのは流石にやばいな」

 

 そして中継はまだ続く。

 

『ここで病院にいるチャンピオンアイリスに中継が繋がっています。

 アイリスさん、体調が優れない中、申し訳ございません。

 一体何があったのでしょうか』

 

 ここで画面が切り替わり、病院のベッドに上半身を起こした状態のアイリスが現れる。

 

 その表情は沈痛そのものだ。

 

『まずイッシュのみなさん……ごめんなさい。

 あたしの力不足で伝統のあるポケモンリーグを守ることができなかった。

 あたしや四天王、そして多くのジムリーダーが今後のプラズマ団との戦いの為の対策会議で集まっていたんだけど、突如キュレム──いや、あれはゼクロムの力を取り組んだブラックキュレムだね。 ブラックキュレムが現れた。

 奇襲とは言え、あたしたちはポケモンを出し、交戦した。

 でも、駄目だったの……。 あいつは強すぎる』

 

 目に涙を浮かべ、語るアイリスをあたしは見ていられなかった。

 

『ポケモンたちは全滅し、そしてブラックキュレムはトレーナーにも攻撃をした。

 その結果がこれ』

 

 アイリスは左腕を掲げる。

 

 その左腕の肘から指先まではなんと氷漬けになっていた。

 

『この氷は何をしても溶けない……。 凍った箇所はズキンズキン痛んで、動かない。

 あたしたちは四肢のどこかにこの傷を負わされた。

 もう戦えないかもしれない……。 これからポケモンリーグ本部に緊急救護要請を行います。

 ……本当にごめんなさい』

 

 ここでアイリスの映像は途絶えたが、中継中のスクリーンに更に驚くべき映像が映される。

 

 なんと氷漬けとなったポケモンリーグの屋根の上にキュレムが、いや、ブラックキュレムがリラックスした様子で君臨しているのである。

 

 まるでこのイッシュを自分が支配したと言わんばかりに。

 

「メイ」

 

 不意に後ろから話しかけられる。

 

 そこにいたのは奇抜な格好と髪型、そして抜群のプロポーションをもつライモンシティのジムリーダー。

 

「カミツレさん! 無事だったんですね」

 

「まぁ、あたしは今回のリーグ招集命令に応じてないからね。 あそこには行っていないよ。

 代わりにもしもの時のための増援をお願いしてきたの」

 

 そう言うカミツレの背後から2名の男女が姿を現す。

 

 その姿に私も、そしてバナナも目を見開き驚く。

 

「レッドさん……リーフさん!」

 

「久しぶりだね、バナナ君。

 なんか少し背が伸びた?」

 

「カントーで失踪したと思っていたキミがジョウトに現れ、今度はイッシュかい。

 相変わらず面白いね」

 

 伝説のポケモントレーナー、レッド。

 そして、バナナも言っていた同じ転生者のリーフ!

 

 何故ここに?

 

「ほとんどのジムリーダーがポケモンリーグに行っちゃったからさ。

 リスクケア? 万が一を考えてカントーリーグに連絡したわけ。

 まー、昨日まではいくらジムリーダーとはいっても当然ポケモンリーグの許可なしに行ったから、あんまり話聞いてもらえなかったけど、思いもよらぬ人を紹介してもらえたってわけ」

 

 そう言ってカミツレはレッドを一瞥する。

 

「ま、僕は暇だからね。

 んで、出発の準備してたらそこの暇人も付いて行くってウルサイから連れてきた」

 

「暇人は余計だよ。

 イッシュでとんでもない事が起きているのは分かっていた。 

 ただ、カミツレさんがカントーに来て、そしてレッドがイッシュに向かうことになった。

 そして、そこにはバナナ君がいる……そんなの偶然とは思えないでしょ?」

 

 随分、特徴的な2人だ。

 レッドはこんなにダウナー系お兄さんだとは思っていなかったし、リーフもミステリアス、悪く言えば中二病を拗らせているお姉さんとは思わなかった。

 

「僕が来たからもう安心──と言ってあげたいけどそんなに簡単なことではなさそうだね。

 ブラックキュレム。

 あの発しているパワーやオーラを見る限り、恐らく『神』と呼ばれるポケモンの中でも、より上位の存在と言えそうだ」

 

「もう少し詳しく教えて頂けますか?」

 

「イッシュの伝説のポケモン、レシラムとゼクロムや僕がいるカントーの伝説のポケモン、ミュウツー。 

 僕の見立てでは基本的に各地方の伝説のポケモンのパワーバランスはほぼ互角だ。

 だけど、ブラックキュレムはその伝説のポケモンたちより更に上位の存在と言えるんじゃないかな。

 流石に僕も勝てる自信はないな」

 

 最強クラスのポケモントレーナーであるレッドすら敵わないと言うならどうすれば良い?

 

 沈黙が流れる。

 

「バナナ君。

 何かアイデアはない?」

 

 リーフがバナナに問いかける。

 

 バナナは数秒考え、

 

「ちょっとズルい言い方ですが、考えがあります。

 メイ」

 

 急にバナナが私の顔を直視する。

 

「ななな何ですかっ!?」

 

 やめろ! 真剣な顔でこっちを見るな。

 めちゃくちゃ動揺するだろうがー。

 

「正直言う。 俺にあの怪物を倒す手立てなんて思いつかない。

 だけどな。 お前は違う。

 メイ。 お前ならきっと良い作戦を思いつくはずだ。 俺はそれを信じる」

 

「何ですか……それ。 

 本当にズルいですよ」

 

 カミツレは何か言いたそうな顔でニヤニヤ笑い、レッドは無表情、リーフはお手並み拝見と言いたそうな笑顔で私を見ている。

 

 やれやれ、酷い無茶振りだ。

 でも──

 

「考え……あります」

 

「何だ何だ? 誰がどうするんだ?」

 

 ヒメグマがこんな状況なのに無邪気に聞いてくる。

 

「ここにいる全員の力が必要です。

 私にみなさんの命を預けて頂けませんか?」

 

 

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