ポケモン フィクション 〜虫とり少年と反逆神〜 作:くまっくす
激闘の興奮が冷めやらぬスタジアムはまだ賑わっていたが、俺は足早にその場を離れた。
もちろん俺も全身が震えるほど感激していたが、どうしても確認したいことがあった。
向かう先はジムの裏口。
茂みの中に隠れてアイツが来るのを待つ。
「おい。バナナ何やってんだよ」
ヒメグマが呆れて俺に尋ねる。
「ちょっと会いたいやつがいてな。
おそらくそいつは一人でここから出てくる」
「はぁ~?」
そのまま隠れて15分くらい過ぎた頃だろうか。
予想通りそいつはジム裏口から一人出てきた。
敗戦後のインタビューなど死んでも受けたくないタイプだろうし、ここには長居せずにすぐに出るだろうという俺の予想は的中した。
俺は後ろからその華奢な背中に声をかける。
「おい。 ちょっと待ってくれ」
「なんだ。麦わら小僧」
俺が小僧ならお前は小娘だろうと言ってやろうと思ったが我慢する。
「良いバトルだった。
ただ古代ポケモンに未来ポケモン。
見事にパラドックスなパーティだったのは驚いたな」
アオイは立ち止まる。
振り向きはしない。
続けて俺は言う。
「おまけにカントーでテラスタル?
あり得ないんじゃないか?」
これはもうハッタリだった。
この世界ではどこでもテラスタルができるという世界線なのかもしれない。
だが、直感でそれは違うと感じていた。
アオイは何かがおかしい──!
「とういう意味だ」
「いや、むしろ教えてほしいんだよ。
バージョン限定ポケモンをそんな風に持っているお前なら、まるでスカーレットとバイオレット両方持っているか、それとも容易く交換できる環境にいたようなお前なら!
この世界以外のことも知っているんじゃないかと思ってね」
しばしイタタマレナイ時間が流れる。
また、やってしまったのか?
意味不明な妄言を吐く残念な子供に見えているか?
だが、俺はどこか確信していた。
こいつは俺に近い。
なぜ、確信できるかだって?
そんなの簡単だ!!
「さっさと答えろよ!!
お前も転生者なんだろ?!
じゃなきゃ、お前みたいな気持ち悪い11歳の少女がいてたまるか!!」
グワッ!とかブアッ!とか効果音がするような勢いでアオイが振り返る。
「オイオイ。 まさかこんな田舎町でお仲間さんに会えるとはなぁ」
まさかのビンゴ。
こいつはやはり俺と同じ。
異世界からの転生者だ。
「しっかし、こんなモブ顔の転生者もいるとはなぁ。
知らなかったよ」
俺よりも頭一つでかい、見た目11歳の少女は見下ろしながら俺に問う。
「で、お前こそどこまで知ってるんだ」
俺は黙ることしかできない。
しばらく俺を値踏みするように見ていたアオイは鼻で笑い、
「その様子じゃあ、なんも知らねーのな」
と吐き捨てる。
「まぁ、せっかくお仲間に会ったんだ。1つだけ教えてやる」
「なんだよ」
「転生者はアタシとお前だけじゃねぇよ」
「なんとなくそんな気がしたよ。
他にはどんなやつがいるんだ?」
「
ただ、色んなトレーナーがいるし、中には極悪人だっている。
殺されねぇように精々気をつけるんだな」
「他にも分からないことはたくさんある!
何故俺達は連れてこられた?
現実世界に帰る方法はあるのか⁉」
「黙れ。 これ以上無料で教えてやる義理はねぇ」
アオイはこれで話は終わりだ、と言わんばかりに手を叩くと背中を向ける。
「またどこかで会えるといいなぁ。モブ顔くん。
あと糞ガキグリーンにも言っておいてくれ。
アタシはもっと強くなる!
次は舐めた口をきかせねーってな」
長い舌をベロリと出し、親指を下に向ける。
そう言うと踵を返し、アオイは旅立っていった。
求めていた情報はあまり得られなかった。
「バナナは異世界人だったのな」
アオイが去って2人っきりになったところでヒメグマが言った。
「んーむ。まあ、そうだな。
すまん、隠していたわけじゃないんだが」
「なーんとなく分かっていたから別にいいさ。見た目に反して中身おっさんだなーって思ってたし」
失礼な熊である。
さてさて、俺はどうする?
これから何をする?
何をしたい。
少し考えてみよう。
***
数日はこれまで通り過ごした。
だが、決めた。
理由は色々あるが、最大の決め手は1つ。
「バナナか。急にどうした?
二人だけで話したいことがあるんだって?」
俺はトキワジムのグリーンの部屋をノックしていた。
そもそもグリーンが何十人といるジムトレーナーの中のモブ少年な俺の名前を覚えていることに驚いた。
「そりゃあ、覚えるわ。
トキワの森でぶっ倒れていて、おまけに記憶喪失で、妙に大人じみている子供のことをそう簡単に忘れられるか」
思っていた以上に俺は目立っていたらしい。
そんなつもりはなかったのだが。
「おまけにパートナーのヒメグマは喋るしなぁ。
面白い組み合わせだよ、お前たちは」
そう言ってヒメグマの頭を撫でてくれる。
「グリーンさん。単刀直入に言います。
俺をオーキド博士に紹介してほしいんです」
「じいさんにか? ま、当然俺がオーキド博士の孫だって知ってるからの依頼だよな」
「俺はグリーンさんとアオイのバトルを見て、本気でポケモンチャンピオンになりたいって思ったんです。
その為にポケモン図鑑が必要なんです」
「チャンピオンねぇ。。
なれるのかお前に?」
「なります! なってみせます!」
「あぁ!! 間違いねぇ!
バナナはとびきりのポケモントレーナーになれる男だ!
俺が保証する!
てか俺が最強のポケモンになって、バナナを最強のポケモンチャンピオンにしてみせる!」
熱すぎるヒメグマの応援コメント。
キョトンとした顔でしばらく俺とヒメグマを見ていたグリーンだったが、しばらくして腹を抱えて笑い出す。
「いやぁ~、本当におもしれえポケモンだなー。
ああ、いいぜいいぜ。
じいさんには俺から話を通しておいてやる」
こうして、俺は2日後にはお世話になったトキワシティを旅立つことになった。
ジムのみんな、町の人々。
そして、何よりもグリーンには感謝しかない。
旅立ちの朝にはジムの先輩2名とグリーンを見送りに来てくれた。
「じゃあな、バナナ。気を付けて行けよ」
「はい! グリーンさん、みなさん本当にありがとうございました」
「あ、そうそう。お前に渡したいものがあるんだ」
グリーンは肩に提げていたカバンから1つの大きな卵を取り出す。
緑、黒の模様のやや禍々しいポケモンのタマゴだ。
「な、なんすか? これ」
「シロガネ山の奥地でまるで鎮座するように置いてあったポケモンのタマゴだ。
もう、しばらく連れ歩いたりしたみたんだが、全然孵らなくてな」
「で、何で俺に?」
「なんとなーくお前に渡したほうが面白い気がしてな」
そう言うとグリーンはニヤリと意地悪そうに笑う。
本当にこの人はこういう笑顔が似合う。
「なぁ……バナナ。このタマゴ結構ヤベーぞ」
ヒメグマが苦々しい表情を浮かべて、タマゴを突く。
「おっ! 分かるか、ヒメグマ。流石だな。
そうだな。このタマゴからは強いエネルギーを感じる。
うまく孵化できたら頼もしい仲間になってくれると思うぜ」
グリーンはボールにタマゴを入れて渡してくれた。
***
しばらく歩き、振り返る。
後ろに見えるトキワシティが小さくなってくる。
この世界のポケモンやポケモンバトルはゲームとはひと味もふた味も違う。
ジムリーダーやチャンピオンクラスのトレーナーの強さは別格だ。
グリーンのような強いポケモントレーナーに俺はなる。
隣を歩くヒメグマはそんな俺の気持ちを汲むようにニヤリと笑うと、右手を俺に向ける。
俺はその小さな拳と自分の左の拳をコツンとぶつけた。