この物語を始める前に、一つ貴方に忠告を。
貴方はこの世界におけるアウトサイダー、
本来存在するはずのない、イレギュラーそのものであることを。
契約をお忘れですかな?
この世界が破滅を逃れたとき、世界は正常に動き始めることに。
貴方は同意したのです。
さぁ、貴方の物語が始まりますぞ…。
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「ねぇ、私言ったよね?私以外を見ないでって、私だけを愛してって。でも君は、約束を破ったんだね」
「ご、ごめん。ゆかり」
「…まぁ、一方的に叱るのはおかしいか。君を野放しにした私も悪かったんだよね。だから私は今こうやってあなたを拘束しているわけだけど」
椅子に縄で縛られて身動きができない。そして俺の様子を伺うゆかり。
「にしても、何もできない君を見てるのは…なんていうか、すっごく興奮するの。なんでなのかな?私が…私が、貴方のすべてを握っているっていう感じかな。私が、なんでも出来ちゃう、そんな気がするの!」
後ろに手を組んで笑顔でこちらに歩み始める。その
彼女の手が俺の頬に触れる。手の温度が伝わる。しなやかな手だ。目を合わせ、こちらに話しかけてくる。瞬きせず、こちらの奥の奥まで見られている気分だ。
「私だけ、私、だけの…」
笑みを浮かべてそう言っているが、きっと無意識の笑みだろう。
「私だけを見ている…私…私…を」
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「…はぁ、全く。何度言えばわかるんだ」
椅子に拘束された俺を、ベッドに腰を沿えて足を組み見下ろすようにこちらを見てくる。その人の名は桐条美鶴。
「お前は既に、私の未来の夫になることが約束されている身だ。これ以上私を怒らすならば、それ相応の処置をしなければならないが」
「…」
「おっと…怖くて声も出なくなってしまったか。従順にさせるためには体に鞭を入れるべきだと思っていたが、それも必要ないか。今の君なら、私の言うことをしっかり聞いてくれそうだ」
美鶴はそっと立つと、俺から拝借した召喚器が置かれた机にコツコツと近づいて手に持った。そしてそれを眺めながら横目に彼女は喋り続ける。
「また私の部屋から召喚器を取ったようだな。前は許したが、今回ばかりは許容できない」
「で、でも俺は…皆と…」
つい口を開くと彼女はこちらに向き直る。
「言っただろう、お前は戦う必要がない。常に安全であるべきなんだ。戦いに参加せず、ただ私と共に居ればいいだけだ」
真剣な顔のままこちらに近づき、目線を合わせるよう彼女は膝を床についた。
「私の要望は何一つ難しくないはずだ。もし、また私の要望を無視するようなら…」
そっと美鶴は俺の手の甲を触れ、こちらを瞬きせずに目線を合わせて言う。
「監禁しなければならないな」
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「私から逃げようとするなんて、面白い考えだね」
椅子に拘束された俺を、後ろで手を組んで微笑んで見るのは山岸風花。一見笑っているように見えるその顔は、内面では怒りで溢れているだろう。
「よりによって私から。私のペルソナの能力、覚えてる…よね?君の位置なんて、すぐわかっちゃうの。隠れたとしても、ね」
そう言いながら向かいの席に座り、姿勢を正し膝の上に手を置いてこちらを見る。
「君が消えちゃったとき、どのくらい焦るかわかっているのかな。たとえ探知に長けたペルソナを持ってたとしても、傍に居てくれないと気が気じゃないの。そして君を見つけたと同時に高まる不思議な感覚、安心」
彼女は椅子から立ち、こっちに歩みより両膝を曲げ、下から覗き込んでくる。
「私はいつでも君を見ているから。このペルソナが、逃がさないから。いつまでも、ずっとね」
今俺に向けているその笑みは、きっと心の底から出てきた真の笑みだろう。
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「私には時々、貴方の行動に理解が追い付かない時があります」
椅子に拘束された俺を右前で姿勢正しく立ってこちらを見下ろすのは、アイギス。機械でできた体を持つ彼女でも、人と大して変わらない。その証拠にこのように俺を感情に身を任せで拘束してくる。
「私には、この感情がよくわかりません。ですが、こうせずにはいられなかったのであります」
彼女は自身の手を見ながらしゃべり続けた。
「私は貴方に幾度となく助けられ、この機械でできた体をその優しい手で包んでくれました。これまでの行動、そしてこれも、すべて貴方への恩返しだと思っていました。…ですが貴方は拒みました」
その手を強く握り、こちらを横目で見る。そして両膝を床につき、上目遣いで喋り続ける。
「なぜ…なぜなのです?すべては貴方を助けるため。私は論理的に導き出し、これが正しいと考えました。あなたを守るために!尽力しました!それを拒む理由が理解できないのです!」
言い終え、そっと立つと俺からくすねた召喚器を手に持って眺めていた。
「…私は対シャドウ用に作られました。ですが、普通の人間なら簡単に無力化できました。貴方からこれさえ取れれば、私は容易に拘束できるのです」
「そ、それを…」
「理解、できますよね?貴方は弱いのです。無理に戦線に出ること自体、私にとって心配で気が狂いそうになります。ですので、守られることこそ、最も最適な行動であります」
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10年前
火の粉が舞う道路の上。俺こと
俺は友人の親に引き取られた。事故で親を亡くし独り身の俺に優しく声をかけてくれたのは、傍で道路にうつ伏せで倒れた彼だった。そして今日、俺は彼の家に移動するつもりだった。
しかしそれは車に乗っている時に前触れもなく起こった。そとの景色が車の窓からよく見えなかった俺は、突如起こったことに身を任せるしかできなかった。
意識が徐々に覚醒した俺が最初に理解できたのは、車が爆破したということだ。その原因は視界にいる二人…もとい人間に見えない
そこから視線を外し、痛む右腕を左手で掴み足を引きずりながら傍の彼に歩み寄る。
「…おい、起きろ。起きろ…理」
おぼつかない足を前に彼の下へ両膝を一気に下した。その衝動で俺は両手を地面につき、彼を揺さぶる。
「まさか…し、死んでないよな…?おい…おい!」
奥の二つのモノには目もくれず、俺はただ彼の無事を祈っていた。周りを見渡すが、彼の両親は見当たらない。
「お父さん、お母さん!」
俺がそう叫んでも、何も返ってこない。俺は燃え盛る車を見て、受け入れたくない事実を飲むしかなかった。一体どうしてこんなことが起こってしまったんだろうか。
「う…うう…」
絶望していた俺に、彼はかすかに答えた。まだ意識ははっきりしてないにしろ、彼が生きていることにどれだけ希望を持っただろうか。
「理!大丈夫か!うっ…」
その嬉しさのあまりに反射的に動いた体が痛む。歯を食いしばって俺は痛みに耐え抜くしかない。四つん這いのこの姿勢も苦しく、俺は遂に仰向けに道路に横たわった。
「はぁ…」
アスファルトが冷たく皮膚に触れる。見上げる夜空は車から出てくる黒い煙に覆われてよく見えなかった。だが確かに星は輝いている。横からくる熱気に身を焦がし、俺は首を動かし事故の原因であろう二つのモノを見やる。
「…」
「…」
暗くてよく見えないが片方からのシルエットから感じるのは強い恐怖だった。
その刹那、その向かいにいる何かのモノが急激な光を帯び始めた。視界がぼやけた俺にはただの光にしか見えないが、どうも人工的には見えなかった。そこにライトや街頭など無いもので、またそれらから発せられる光とは比べ物にならない輝きだった。
「な…な…」
何だ、と口すら動かない俺は見守っていた。その数秒後、俺と彼はその光に強く覆われたように感じた。その光は、この辰巳ポートアイランドを覆うほどの光だった。
そこからは俺は、強く握っていた最後の糸がぷつりと切れるように意識が無くなったのだ。
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10年後
「今までお世話になりました」
「…お世話になりました」
そう俺と理は言って高校を後にした。校門を抜け手荷物をしっかり握り歩道を歩く。
「…また転校…だな」
「…そうだね」
決して明るくない顔で俺らは並んで歩いていく。そんなくらい心情をどうにかできないかと考えるよりも先に言葉が出た。
「…どこか寄っていかない?」
「いいよ、晴翔」
放課後、カラスが鳴く夕暮れ。街の小さな公園のベンチで理は呆れた顔で言葉を発した。
「いいよとは言ってたけど公園?」
「特に行き先思い浮かばなかったんだよ」
近くに置いていた自販機から俺はコーラ缶を二つ手に取り、一つを理に向けて投げる。掴んだのを確認すると俺はその隣に勢いよく座った。木製のベンチだったため尻が意外と痛い。
「…次はどこだったっけ」
俺はコーラ缶を開けながら隣の相棒に問いかけた。次というのはもちろん、転校先である。コーラの炭酸が喉を気持ちよく刺激してくれる。
「確か、月光館学園っていう所」
理もコーラ缶を開け豪快に飲み始める。普段無表情とは言えストレスがあったのだろう。やけに飲むのも頷ける。
「月光館学園…あまり聞きなれない校名だな」
「辰巳ポートアイランドっていう所にある」
「んっ?ごほッ!ごほ…ごほ…」
急に出た聞きなれた場所の名前だったことに俺は飲むという行為を一瞬忘れむせてしまった。
「大丈夫?」
「あ、うん。辰巳ポートアイランド…か。あんまいい思い出ないな」
「確かに」
そして辺りは静かになる。冷たいコーラ缶の中にある残りの量を意味もなく見る。
「次の寮は…」
「巌戸台分寮」
「答えるのはやっ」
「ていうか、調べてなさすぎでしょ」
「いやだって…転々としてるし…」
少し嫌味っぽくそう言って、頭を掻く。
「次はどのくらい居れるかね?」
「さぁね」
コーラを飲み終わり俺たちは立って空き缶を自販機の横にあるごみ箱に捨てた。俺は自販機の前で立ち止まり、不意に彼に問いかける。
「…なぁ、理。俺たち、いつまでこんな感じに生活するんだろう…」
夕日が沈み、辺りは暗くなる。俺は答えられるはずもない問を思わずしてしまった。高校を出た後、ずっと思っていたことだったが耐えきれず言葉に出してしまったのだ。答えが欲しいと思った。
「さぁ…わからない」
答えはわかっていたが改めて聞くと、未来に希望が持てなかった。だがそうであっても今の俺たちにはどうすることもできず、流れに身を任せるしかない。
「そうだよな…うん。ごめん、急に変に質問して…」
俺は荷物の取っ手を強く握り彼の隣へ歩いた。
「帰って準備するか!次の転校先に備えて」
彼は静かに頷いて俺たちは暗い夜道を歩いて自分たちの家へと帰った。次の転校先も、どうせ今回と変わらないところだろうなと期待もせず、準備に勤しむのだった。