ペルソナ3 アウトサイダー   作:Lear

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ベルベットルーム

「ちょっと待つんだ」

 

俺が寮の玄関を出た数秒後、後ろから男性の声をかけられたが、聞いたことある声じゃないし俺のことじゃないだろうと歩みを止めないでいた。

 

「待つんだ」

 

肩に相手の手が乗っかり俺は動きを制止させられる。俺だったのか、と思い振り返る。

 

「全く…。お前が長山晴翔、だったな」

 

「あ、はい…」

 

その男性は俺と同じ月光館学園の制服を身にまとい、白いショートヘアで左眉にテープをしていた。腰に手を添えて彼は会話を続ける。

 

「俺は真田明彦。お前と同じこの寮に住む三年生だ」

 

唐突な自己紹介の内容に少し戸惑った。三年生、ということは俺よりももちろん先輩ということになる。そう理解した途端さっきまでの態度に対し自分で焦りを感じ始める。

 

「あ、先輩だったんですね!すみません、さっきは無視してしまって…」

 

「いや、いい。それよりも今から何処に行こうとしてたんだ?」

 

「いえ、その…食事に行こうかなと」

 

「外食か。それ自体は構わないが…今日は疲れたろ。部屋で休んだ方がいい。明日からまた忙しくなるしな」

 

「あ、はい、先輩がそういうなら…じ、じゃあおとなしく部屋に戻りますね」

 

「そうしてくれ。飯なら冷蔵庫にあるものを使ってもいい。それじゃあな」

 

真田先輩は軽いフットワークでその場を後にした。制服の上からでもわかるくらいガタイの良い先輩、相当運動しているんだろう。そういえば先輩がどこに行こうとしているのか聞くのを忘れてしまったが、聞いたとて意味がないか。

俺はウキウキの外出を控え、寮の玄関をまたくぐる。ラウンジには美鶴先輩がいた。

 

「おや。今日は休めと言ったが、君は元気そうだな」

 

「桐条先輩…あ、そういえば今出て行った真田先輩は何処に向かったんですか?」

 

「あぁ、明彦なら軽い()()にでも行ったんだろう。大丈夫、すぐに戻ってくるさ」

 

「そうなんですね。…じゃあ自分は部屋で休みます」

 

「あぁ、そうしてくれ」

 

(つたな)い会話で俺はその空気から逃げるようにラウンジを後にし部屋へと戻った。

初日の学校というのはいつも疲れることが多いが、転々とした身としては慣れてきたものだ。でも少し疲労感もある感じがするし、早めに休んだ方がいいだろう。そう思いつつ俺は明日の準備を早速始めていた。普通に授業も開始するだろうし教科書とかも一応ある。万が一遅刻なんてしてしまったら笑いものになるだろう、そのため用意は周到に。そう思いつつ俺は今日を休んだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

4月8日。朝、ついに今日から授業開始だ。流石に今日は俺も寝坊せず起きることができ、制服とバッグを持ち意気揚々とドアを出る。

 

「おはよー」

 

ラウンジにはすでに岳羽と理が待っていた。二人に挨拶をし、俺たちは寮を出た。その後は電車に乗り、無事月光館学園へとたどり着いた。そして最初の授業が始まり、いつもの高校生活がスタートしたのだった。授業はいつも通りで、別に高校が違うからと言って大きな差は特に見られなかった。ただ少し先生に癖があるのが面白い点ではあるが。

 

-放課後-

 

「いやー授業終わったナ!さて、今日はどうする?晴翔、理」

 

「あのねー順平。少しは相手のこと考えて…」

 

「わかってるってゆかりッチ。でも俺も中2で転校してきた身としちゃ、親切にしなきゃって感じ?」

 

「まー…それならいいけど」

 

相変わらず岳羽と順平は仲良さそうに話していた。理も俺もその仲に入り、いろいろと喋りながら放課後を過ごした。岳羽は部活がないということで先に寮に帰り、残ったのは順平と理と俺だった。

 

・・・・・・・・・・

 

教室に入ってくる日差しもオレンジ色になり、そろそろ帰るときだ。駅まで喋りながら帰り、そこで別れることになる。

 

「そんじゃ俺こっちだから、ここで。また明日な!」

 

「うん、それじゃ」

 

順平は家の方向へ向かい、俺たちは電車に乗る。揺れる車体の中、俺は携帯を見ながら言った。

 

「そういえば入りたい部活とかある?」

 

「いや、今は別に」

 

「そっか。俺もまだないけど…でも理は足速かったよな。陸上部、いいんじゃない?」

 

「陸上部…まぁ短距離ならいいかも」

 

そう、理は大人しそうに見えて結構動きが機敏な上にスポーツも出来る。所謂運動神経が良いという奴で、彼ならどの運動部に入っても通じそうなイメージがある。だが足に関してはかなり速く徒競走においては俺は彼より速く走れたことがない。高一では俺と理は部活に入っていなかったけどこの際新たに始めるのもいいだろう。

と、巌戸台駅へ着いた。そのまま寮へ着き、玄関口から入ってみるとラウンジには先に帰っていた岳羽と見慣れない大人の男性が一人がソファに座っていた。ブラウンのロングヘア―に眼鏡をかけ、顎髭の生えた人である。どう見ても俺らより年上な人が、この寮にいるということはこの人はここの管理人か誰かだろうか。

 

「やぁどうも。…なるほど、君たち二人、ね」

 

品定めするように俺らをみる目つきに少々引いてしまったが、それは態度に出さないようにした。そして膝を組み、彼は自己紹介してくれた。

 

「私は幾月修司(いくつきしゅうじ)。君らの学園の理事長をしている者だ。以後、よろしくね」

 

「ど、どうも。長山晴翔です」

 

「結城理です」

 

改めて俺らは自己紹介し、頭を下げる。

 

「うんうん、よろしく。さ、かけて」

 

言葉に従い俺らは開いているソファに腰かけた。荷物を床に置き、幾月さんに向き直る。

 

「急な部屋割りで申し訳ないね。特に長山君、君は受付裏という変な場所になってしまって」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうか、それなら良かった。何か聞いておきたいことでもあるかい?」

 

俺らは目配せし、理が口を開いた。

 

「どうして寮へ?」

 

「どうしてって、君たちを迎えるためさ。どうも、君らは転々として苦労しているだろうしね。この寮が気に入ってくれたら嬉しい」

 

一応質問への回答になっていたということで理は満足したようで、俺も一つ質問を投げかける。

 

「この寮に住んでいる人は他にいますか」

 

「あぁ。住んでいる人は、ここにいる岳羽君、桐条君、そして三年生の真田明彦君がいる。これで全員だ」

 

「な、なるほど…」

 

と、なるとやはり最初に出てきたあの少年はここに住む人でもなんでもなかったのか。ということは本当に俺らは幽霊に会ってしまったのだろうか?だが今それを考えても仕方ない。

 

「質問には答えられたかな?では、今日はもう休みたまえ。若者はぐーぐー寝てナンボだからね。ほら、昔あったろ?「ぐーぐーナンボ」…なんちゃって」

 

理事長はそう言ってあんまり後味のすっきりしない感じでその場を後にした。変な空気が流れるこの場を困ったように裂いたのは彼女だった。

 

「…ごめんね。その…あーいう人なの。ま、明日もあるし今日は部屋に戻ろっかな。二人も戻って休んだ方がいいよ」

 

岳羽も部屋に戻ったようで、俺らもそれぞれの部屋に戻る。

部屋に入り荷物を置き、椅子に腰かけた。静かな時間が流れる自室で、机に肘をつきため息をした。

 

「はぁ。今日も『部屋に入って休め』…か。なーんかそればっかだなぁ」

 

一見自由に見える寮生活であるが、見えない鳥籠の中にいるようだ。しかし別に不便と感じることもなく、俺はこのままの生活でも構わなかった。ただすっきりしない謎が残るのはいい気分ではない。

そう考えていたが、急に眠気が体全体を襲う。俺はそっと立ち上がりベッドにうつ伏せでダイブをかました。

 

「なんか急に眠くなって…きたなぁ」

 

瞼がダンベル並みに重くなり、そっと目を閉じた。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「どうだい、()()の様子は?」

 

寮の4階、そこは普通の寮の管理室とは異なり、様々な機器や大型モニターが設置されていた。

理事長と名乗っていた幾月が指したのは、そのモニターに映る二人の眠る青年である。一人は結城理、もう一人は長山晴翔だ。一方は仰向けで、一方はうつ伏せで寝ている。

管理室に同席していた桐条美鶴と岳羽ゆかりはモニターを見つつ、美鶴が答えた。

 

「はい。眠っております」

 

「そうか。昨日と変わらないかな…」

 

ゆかりは二人の会話とモニターを見て、髪をいじりながら申し訳ない気持ちを吐露した。

 

「なんか、気が引けますね。こうやって、裏で監視なんて…」

 

岳羽の言うことはもっともだ。

監視対象の二人には言っていない隠し事がかなりある。これもまたそのうちの一つで、調査である。しかしこれらの行為は後のことに重要なのである。

 

「まぁ、確かにね。でもこれは必要なことだ。とりあえず見てようじゃないか」

 

幾月は腕時計をちらりと見る。

 

「それに、もうすぐ()()()だ」

 

時計の短針長針は12の文字を刺す。

途端に場の雰囲気は一変し、静かな空気がより一層静かに、音一つなくなる。外の喧騒(けんそう)などつゆ知らず、辺りは暗くなる。

美鶴は監視対象の二人を見る。

 

「これは…やはり…」

 

幾月は美鶴の考えを汲んで言葉を続ける。

 

「うむ。眠っていても、影時間は体験しているはずだ。しかし、二人には象徴化が起きていない。あとは()()があるかどうか、だ」

 

ここに佇む三人は、その二人の様子をただただ見守るだけだった。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

ピアノの音が鳴り響く。

視界に移るのは深い青色で塗られた半円の大きなステージ。その端には開けられたであろう青色のカーテンが開けられた状態だ。上にはステージを照らす十数個のライト。

俺は今そのステージを見る観客席にいた。俺以外いない静かな観客席。大きな観客席は後ろ、前、そして高い壁にも上から見下ろせるように観客席が置かれている。

そう、ここは劇場だ。青く染められた劇場。俺は観客席の前側中央に座っていた。

ステージの上には二人。一人は円形のテーブルを前に椅子に座る鼻の長い老人。もう一人は青いドレスを身にまとった白いロングヘア―で黄色い瞳の大人な女性。

こちらの意識がはっきりして、老人は大きな口を開いた。

 

「ようこそ、我が『ベルベットルーム』へ…」

 

声高く、その老人は喋った。俺は状況を呑み込めず、放心した状態だった。

 

「私の名はイゴール。お初にお目にかかります」

 

イゴール、と名乗るその老人は隣に本を手に持つドレスの女性の方を向いた。

 

「こちらはミニー。同じくこのベルベットルームの住人だ」

 

ミニーと言う女性はこちらを見て美しい声で言葉を発した。

 

「私はミニー。よろしく」

 

見た目以上にドライで、きっぱり言うタイプなのだろうか。簡素な自己紹介だった。

 

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所…。何らかの形で()()を果たされた方のみが訪れる部屋」

 

するとイゴールと呼ばれる老人の前に置かれたテーブルの上が光り、そこには俺が寮で契約したメモパッド。

そして、()()()()の『契約書』もあったのだ。

 

「あの紙は俺がサインした…でももう一つのは見覚えがない…」

 

「今からあなたは、このベルベットルームのお客人だ」

 

感じる疑問をそのままに、イゴールは続ける。

 

「お、お客人…?」

 

「混乱しているのも無理はない。ただ、貴方は少々特別なお客人だ。ただそんな貴方は、この先私の力が必要になる」

 

力…?いったい何の話をしているのか、終始つかめていない状態。話の流れは完全にステージにいる二人のものだ。

 

「貴方が払う対価は一つ。それはご自身の選択に対し、それ相応の責任を取ること」

 

「選択…?責任?一体、何の話か…」

 

「長山晴翔」

 

先ほどまで口を閉じていた、イゴールの横に佇むドレスの女性、ミニーが声を上げた。

 

「混乱する気持ちはわかる。しかし今は主の話を静かに聞くんだ」

 

完全な上から目線でそう叱られ、俺は口をキュッと閉じた。何か、怒らしたらまずそうな雰囲気がしたのだ。

 

「こちらをお持ちなさい」

 

イゴールがそう言うとドレス姿の女性がステージから降り、こちらの観客席の方まで足を運ぶ。歩むその姿は非常に凛々しく、背筋が伸び、慣れた歩みだ。まさに『舞台女優』である。ヒールの足音が響きながらこちらに寄ってきた。

 

「これだ」

 

ミニーが渡してきたのは、()()の青い鍵。そしてすぐミニーはステージの上へと戻っていった。先ほどまでと同じ体勢でイゴールの横に佇む。

 

「契約者の鍵。二本あるのは少々異例でございますが、貴方はどうやら契約を()()したようでございますな」

 

「二つの…契約?」

 

俺は手にある二つの鍵を見つめる。

一つの契約が、寮でのあの少年が促した契約だとするのなら、もう一つの契約は一体いつしただろうか。

記憶に(もや)がかかったようだ。契約、この言葉にはどこか記憶が引っかかっているが、霧のようでわからなかった。

頭を抱え、思い出そうとするが全く思い出せない一つ前の契約。

 

「少々混乱しているでしょうが、今は大丈夫です」

 

イゴールがそう言うと、俺は段々眠くなってきた。ここは夢の中…とか言ってなかったか?

 

「また、お会いしましょう」

 

そして意識は完全に眠りへと落ちた。

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