(case20:竈門炭治郎は責任から逃げない)
「本当に申し訳なかった!」
炭治郎は腰を直角に曲げて謝罪する。
「知らぬ事とは言え、俺が君の縁談をぶち壊しにしていたなんて、許されない事だった!」
「いや…、うん。分かってくれるならいいよ」
縁談なんて一体どこにあったんだ。
怪鳥の如き奇声を上げて炭治郎に飛び掛かった善逸。
しかし、思いがけず炭治郎が善逸の気が狂った主張を認めるものだから、勢いを削がれてしまった。
どうでもいいけど、炭治郎は善逸を踏みつけた事を謝ろ?
善逸は踏みつけにされた事を謝ってもらお?
炭治郎だけでなく、我妻善逸もどこかおかしい奴だった。
(なんだよ、もっとヤベェ奴かと思ったけど、結構いい奴じゃないか。俺の話も聞いてくれるし)
善逸は最初に感じた恐怖をすっかり忘れて、炭治郎の人柄に一定の安心感を抱く。
(すごく穏やかな音がする……。炭治郎だっけ? きっと誠実な奴なんだろうな…)
人はそれを油断と呼ぶ。
「ありがとう、許してくれて。でも、やっぱり責任を取るよ。でないと俺が俺を許せない」
「そんな…本当にいいんだって。冷静になってみると、俺も正直あれはないって思ってるし」
炭治郎は、名案を思いついた、と手を打つ。
「よし! 俺が君と結婚しよう!」
「なんて?」
迷案だった。
善逸の表情が、キョトンとし、徐々に青くなり、やがて怪物を見るそれに変わる。
「君は俺のせいで結婚出来なかった。だから責任を取って俺が嫁に貰うよ!」
「何でだよ!? 責任の取り方、捨て身過ぎるだろッ!? もっと自分を大事にしろよ!!」
「ありがとう、優しいんだな」
「おまえ何言ってんのッ!? 優しくないよ! 俺が嫌なんだよ! もっと俺を大事にしろよ!!」
「わかった、一生大事にするよ」
「イヤァァァアア! やっぱり俺の話を聞かない奴だったァー! 第一、どうして俺がおまえの嫁にならなきゃいけないんだよ!?」
炭治郎は眉をひそめ、そんな事もわからないのか、と首を傾げ
「だって君は俺が嫁に貰ってあげなきゃ、一生結婚出来ないじゃないか」
「酷すぎないッ!? 俺、ここまで酷い事言われたの初めてだよ!!」
善逸は炭治郎に背を向けて前傾姿勢に構え、シィィィイイ! と独特の呼吸音を響かせる。
雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃!
疾っ! 雷を思わす凄まじい速さで、善逸は走り去って行った。
善逸にとって過去最高の霹靂一閃だった。
「子供は何人がいいだろうか?」
「イヤァァア!! 何で並走してんのーッ!?」
「カァーッ! 南南東ー! 南南東ヘ向カエー! ソッチジャナイゾ! アホー! コノアホー!」
一応、念の為に確認するが、2人とも男である。
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善逸「やっぱりヤベェ奴だった! 誠実ならいいってもんじゃないだろ!?」
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(case21:ラップ音)
どうにか善逸は竈門家への嫁入りを免れる事に成功した。
山一つ駆け抜ける熱いチェイスの末に、どうにか炭治郎を翻意させたのだ。
何気に全集中常中が出来てたが、炭治郎を説き伏せる事と比べて、火事場の馬鹿力がどっちに発揮されていたのかは言わずもがなである。
そして、鬼が潜む南南東の家を目指して、改めて2人で向かっていた。
炭治郎が持っていた1つしかないおにぎりを、2人で分け合って食べながら善逸は思う。
(頭おかしいくらい頭が悪いけど、でも凄くいい奴なんだよな…。頭悪過ぎて怖いけど)
今食べてるおにぎりなど、善逸が腹が減ったとぼやいたら、迷わず全部丸ごとくれようとしたのだ。
(炭治郎からは今まで出会った誰よりも優しい音が……泣きたくなる様な優しい音がするんだ。頭悪いけど)
だから。善逸は炭治郎が背負っている木造りの箱を見る。
善逸は耳がいい。その箱の中に鬼が入っている事はすぐに気づいた。その上でふれない事にしたのだ。自分を納得させる理由が必ずあると信じて。
しかし、それとは別に
(さっきから、微かに変な音が聞こえるんだよな)
ドンドコドドドン
ガリガリギリギリパキーンポキーン
ミュインミュインジャカジャカジャンジャン
べべべんべべんべんべん ぱおーん
(いや、本当に何の音だよ! さっきからっていうか、炭治郎と会った時から聞こえだした…ん…だ、け…ど…)
耳を澄ませて怪音を辿っていくと、そこには炭治郎。
の、体内。
「ん?」
首を傾げる炭治郎。善逸は手の中のおにぎりを落とした。
「どうしたんだ? 涙なんて流して」
「……ちょっと、泣きたくなる様な怪しい音が聞こえて」
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善逸「その音、体のどこから出してんの!?」
炭治郎「(・ω・)???」