(case24:豆と種)
「鬼はぁ! 外ぉー!!」
響凱は喉の奥を引き攣らせる。隣を走っていた巨漢の鬼がいきなり蜂の巣にされ、全力疾走しているはずの自分の前方まで吹っ飛んだのだ。
剣の間合いからはまだ遠いはずなのに!
何をされた! 銃っ!? 熊撃ち用の散弾か!
「い、いいぃ痛ぇよぉおーっ」
「鬼は! もっと外ぉーっ!!」
今度こそ響凱は見た。巨漢の鬼を更に引き裂きミンチの様にする物の正体を。
「豆っ!?」
炒り大豆! 節分豆!
炭治郎が無駄に入手にこだわっていた、豆撒きのお豆だった。
威力のおかしさよ……。
「せめて剣を使え! それでも鬼狩りか!?」
「鬼に言われる筋合いはないッ、外ぉー!!」
「あ゛あ゛あ゛ーッ! やめ、もうやめでぇえ!」
「やめない!! 外ぉーッ!」
もはや原形もない鬼を見て響凱は憤激する。
ああ、腹立たしい! 小生など剣を抜くまでもないというのか! どいつもこいつも小生を馬鹿にするのか!
どこが何なのかもわからないが、たぶん首だろう位置を炭治郎は刀で薙ぐ。巨漢の鬼は声も無く塵になった。
「犠牲者の痛みを少しは理解出来たか!」
(勝手なことを! 小生はまだやらねばならぬことがあるのだ! 十二鬼月に返り咲かねばならぬ。大作を執筆せねばならぬ。死んでいい理由など1つもない! それを…っ 鬼狩りめ! 腹立たしい!!)
豆を投げ尽くし空になった袋を懐にしまい、炭治郎は刀を構える。
「さすが日本の伝統行事。節分豆は鬼に効果抜群だった」
そんな訳あるかい、馬鹿たれ。
独自にお豆の呼吸でも開発して、ゆくゆくは豆柱にでもなるつもりなのだろうか。
種あかしすると、炭治郎はずっとヒノカミ神楽の呼吸を使っていた。癖で。
豆を投げる時、特徴的な赤い呼気を循環させて放っていたのだ。癖で。
ヒノカミ神楽は日の呼吸。つまり巨漢の鬼は、日の呼吸の豆撒きでズッタズタにされたのだ。何となく癖で。
これは今に限った話ではなく、炭治郎はこれまでもずっとそうしてきた。力がいっぱい出て、しかも疲れないから便利で、癖になるまで利用し倒してついには極めたのだ。
常にヒノカミ神楽。全集中常中。ヒノカミ神楽常中。
まさに馬鹿の一念、岩をも穿つ。
しかし本来、ヒノカミ神楽は高い適正がなければ、体に凄まじい負担をかける。便利どころか普段使い出来る様なものではない。
疲れない、とまで言い切るには少なくとも父・炭十郎と同等の日の呼吸適正が必要となる。
そう。この竈門炭治郎は、父と同じく生来の痣者だった。しかも炭十郎よりもずっと色濃い、継国縁壱にも等しい炎の様な痣がある。
尻に。
だが、天に選ばれたが如き縁壱と違い、炭治郎は決して選ばれた者ではなかった。選ばれなかった炭治郎が縁壱に近しい力を得るにはどうすればいいか?
何かを得る為に、何かを失うのだ。
絶大な日の呼吸適正の代わりに、炭治郎が何を失ったのか。
それはきっと、誰にもわからない。
「……あれ? あと何体いたっけ?」
「あとは小生だけだッ! 馬鹿にしているのか!?」
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ちなみに右尻である。
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(case25:実力伯仲)
ポン! ポン! ポンッ!
鼓の音が鳴るたび、次々に部屋が変わる。
しかし、伊之助がいる場所には全く影響を与えなかった。
「よっしゃあ! 思った通りだぜ! 部屋が変わっちまうなら、部屋の中に居なけりゃいい!」
伊之助は天井裏を這いずっていた。
奇怪な猪怪人に見えるが、これで戦いに関してはかなり頭が回る。
鼓の力に捕われることなく、着実に清へと近づいていた。
「ぬははははっ! 猪突猛進! 猪突猛進!」
「聞こえてるんだよなぁ…」
清は天井から近づいてくる、猪突猛進を何とも言えない気持ちで見上げた。
とはいえ、このまま近づかれたらなす術がない。
清は意を決して身構えた。
「とったぜ! 猪突…っ」
ポンッ!
「猛進!」
天井から飛びかかる伊之助。だが、清は姿を消していた。
「なんだ!? 消えやがった! どうなってんだ!? 部屋は変わってねぇぞ!?」
困惑する伊之助。しかし、ハッと気づいた。
「敵の部屋を変えたんじゃねえ、自分の部屋を変えやがった」
ゴクリ、と唾を飲む伊之助。
「あいつ……やる奴だぜ」
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響凱「小生の血鬼術が小生より上手く使われてる気がする」