少しだけ頭の悪い炭治郎のお話   作:MN2

14 / 32
26と27と28

 

(case26:ポンっ)

 

当たらない。

 

ポン! 鼓打ちによって爪で裂く様な3本の斬撃を飛ばすのが響凱の血鬼術だ。

 

ポン! ポポン! だが当たらない。炭治郎は悉く見切る。刀で彈くことすらなく、今など、打つ前に避けられた。

 

(ああっ、腹立たしい! 腹立たしい! 小生の鼓はそんなにつまらぬかッ? 防ぐまでもないか!?)

 

実際、炭治郎には先に見えていた。響凱の体の動きから先の動きが把握出来ていた。

視界、透き通ってない?

当然、炭治郎は意識せず、適当にやっている。

敵の動きは把握出来ても、自分の事が把握出来ていなかった。

 

しかし、そもそも響凱の血鬼術は両肩・両脚の4つの鼓で部屋を回転させ、腹の鼓で斬撃を飛ばしてこそのもの。

腹だけ打ってもタヌキのモノマネに興じるおっさんである。見切り易し。

つまり、部屋に引き篭もるのをやめた事で、逆に人生が詰んだのだ。こんな悲しい事ってない。

やはり、鬼なんてなるもんじゃないのだ。

 

とは言え、炭治郎にも不安な点がない訳ではない。

 

「水で呼吸 拾ノ型 !」

 

エラ呼吸かな?

 

「生生流転ッ!!」

 

いや、馬鹿な事が不安だと言っているのではなく。

回転を重ねていく事で威力を上げていく、水の呼吸の型の中でも最強の技。

まして炭治郎のそれなら、と思ったら大間違い。

無論、そこらの水の型を使う剣士に比べれば、速さも威力も桁が違う。

強いことは強い。

だが、下手くそなのだ。それも尋常でなく。

なにせこの炭治郎、水の型の技をヒノカミ神楽の呼吸で無理矢理に繰り出している。

水の型は水の呼吸で出してこそ。

炭治郎のやってる事は、遊歩道をバイクで爆走している様なもの。

合わない呼吸に合わない技。それはもう、いろいろと無駄になっている。

適正はなくとも、素直に水の呼吸をしている方がマシなほどに。

最初はこうじゃなかった。鱗滝に教わっていた時は、ちゃんと水の呼吸をしていたのだ。

でも、鱗滝の元を離れた30秒後にはヒノカミ神楽の呼吸に戻った。鱗滝は泣いていい。

普通、こんな無茶をすれば、型と呼吸の不一致が体に大きな負荷を掛けそうなものだが、このフィジカルお馬鹿はヒノカミ神楽でゴリッゴリにゴリ押した。

では、炭治郎が無視した負荷を誰が背負うのかと言うと、それは何の罪も無い日輪刀だった。

炭治郎は気付いてくれない。本来は日の呼吸の型を振るのに適した黒い日輪刀が、炭治郎の水の型の一振りごとに、ギシギシと悲鳴を上げている事に。

例えるなら、そう。今付き合っている彼女に、気付かずに前の彼女の服を着せている様なもの。

健気で尽くすタイプの彼女はその事を言い出せず、心がギシギシと悲鳴を上げながら耐えているのだ。

竈門炭治郎、なんて悪い男なんだ。

 

あ。いつの間にか響凱の首が、ポンっと飛んでた。

 

なんか、ごめん。

知らないうちに斬られていた響凱の首は、ひどく悲しげな表情でコロコロと転がった。

 

 

———————————————————————

 

響凱「……」

 

だからごめんて

 

———————————————————————

 

 

(case27:自分を認めるのは自分)

 

響凱は虚しい気持ちで夜空を仰ぎ見た。

何だったのだ、自分は。

結局、誰からも認められなかった。知人からも、無惨からも、敵からも。

人であった時も、鬼となってからも、何ひとつ変わらない。

 

視線を横にやると、息ひとつ乱していない炭治郎が、刀を鞘に納めようとしているところだった。

 

あの刀が鞘に納まったら、自分は敵としての価値も亡くす。己と世界との繋がりが完全に断たれる。

そう思うと堪らない気持ちになり、響凱は己を見苦しく思いながらも声を絞り出していた。

 

「……小僧、答えろ」

「なんだ?」

「小生の血鬼術は……鼓はどうだった。貴様ほどの鬼狩りには下らなく見えたか。取るに足らなかったか」

 

炭治郎は消えつつある響凱の首を見て、少し考えて言った。

 

「剣を振るいやすい、良い拍子だった。剣がはかどった」

 

剣がはかどるって……。

 

「おまえの首を斬ったのはおまえの鼓だ。地獄で罪を償って反省するんだぞ」

 

聞いた響凱は僅かに目を見開いて

 

「……そう、か。小生を……斬ったのは、小生か……それじゃあ、仕方、ないなぁ」

 

消えた。

 

見届けた炭治郎は、チン、と納刀して手を合わせ

 

「……仇は取ったぞ、稀血くん」

 

いや、そっちかい。

 

 

———————————————————————

 

炭治郎「何か忘れてる気がする」

鎹鴉「1人デ行クナ、炭治郎! 善逸ト合流シロ!」

 

———————————————————————

 

 

(case28:清この夜)

 

パァン! 「へぷぅ!?」

 

清は自分の頬を思いっきり引っ叩いた。

わざとではない。響凱の死により鼓が塵になってしまったからだった。

 

「なんだ? 鼓はおしまいかぁ?」

 

怪人猪男が被り物の隙間から、ふしゅぅうう、と呼気を吐く。

どう見ても狩る気MAX。

だが、この絶体絶命の状況下でも清の心は折れていなかった。

そうでなくては、とっくに鬼共に喰われている。

そうでなくては、鬼から鼓を奪って利用したり出来ない。

 

伊之助は腰を落とし突進の構え。

清は腰を微かに浮かせて、着座姿勢からダッシュへ移る構え。

 

清は思う。自分は長男でよかった。長男だから耐えられた。次男だったら耐えられなかったかもしれない。

真っ直ぐに前を向けッ。己を鼓舞しろ!

がんばれ清、がんばれ!

自分は今までよくやってきた、自分は出来る奴だ! そして今日も! これからも! 鼓を失っても!

自分が挫ける事は、絶対にない!

 

原作炭治郎が降臨なさったかな?

 

「猪突猛進ーッ!!」

「うおおぉぉぉぉぉーッ!!」

 

猛ダッシュで逃げた。

猛ダッシュで追いかけた。

2人の戦いは、あとちょっとだけ続いた。

清にとって散々なこの夜の思い出は、一生忘れられないものになるのだった。

 

 

———————————————————————

 

清「だああああッ!!」バーン!

伊之助「はははは! 猪突猛進!!」ドーン!

善逸「ぎゃあああ! またなんか出て来たー!?」

正一・てる子「「清兄ちゃん!」」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。