(case26:ポンっ)
当たらない。
ポン! 鼓打ちによって爪で裂く様な3本の斬撃を飛ばすのが響凱の血鬼術だ。
ポン! ポポン! だが当たらない。炭治郎は悉く見切る。刀で彈くことすらなく、今など、打つ前に避けられた。
(ああっ、腹立たしい! 腹立たしい! 小生の鼓はそんなにつまらぬかッ? 防ぐまでもないか!?)
実際、炭治郎には先に見えていた。響凱の体の動きから先の動きが把握出来ていた。
視界、透き通ってない?
当然、炭治郎は意識せず、適当にやっている。
敵の動きは把握出来ても、自分の事が把握出来ていなかった。
しかし、そもそも響凱の血鬼術は両肩・両脚の4つの鼓で部屋を回転させ、腹の鼓で斬撃を飛ばしてこそのもの。
腹だけ打ってもタヌキのモノマネに興じるおっさんである。見切り易し。
つまり、部屋に引き篭もるのをやめた事で、逆に人生が詰んだのだ。こんな悲しい事ってない。
やはり、鬼なんてなるもんじゃないのだ。
とは言え、炭治郎にも不安な点がない訳ではない。
「水で呼吸 拾ノ型 !」
エラ呼吸かな?
「生生流転ッ!!」
いや、馬鹿な事が不安だと言っているのではなく。
回転を重ねていく事で威力を上げていく、水の呼吸の型の中でも最強の技。
まして炭治郎のそれなら、と思ったら大間違い。
無論、そこらの水の型を使う剣士に比べれば、速さも威力も桁が違う。
強いことは強い。
だが、下手くそなのだ。それも尋常でなく。
なにせこの炭治郎、水の型の技をヒノカミ神楽の呼吸で無理矢理に繰り出している。
水の型は水の呼吸で出してこそ。
炭治郎のやってる事は、遊歩道をバイクで爆走している様なもの。
合わない呼吸に合わない技。それはもう、いろいろと無駄になっている。
適正はなくとも、素直に水の呼吸をしている方がマシなほどに。
最初はこうじゃなかった。鱗滝に教わっていた時は、ちゃんと水の呼吸をしていたのだ。
でも、鱗滝の元を離れた30秒後にはヒノカミ神楽の呼吸に戻った。鱗滝は泣いていい。
普通、こんな無茶をすれば、型と呼吸の不一致が体に大きな負荷を掛けそうなものだが、このフィジカルお馬鹿はヒノカミ神楽でゴリッゴリにゴリ押した。
では、炭治郎が無視した負荷を誰が背負うのかと言うと、それは何の罪も無い日輪刀だった。
炭治郎は気付いてくれない。本来は日の呼吸の型を振るのに適した黒い日輪刀が、炭治郎の水の型の一振りごとに、ギシギシと悲鳴を上げている事に。
例えるなら、そう。今付き合っている彼女に、気付かずに前の彼女の服を着せている様なもの。
健気で尽くすタイプの彼女はその事を言い出せず、心がギシギシと悲鳴を上げながら耐えているのだ。
竈門炭治郎、なんて悪い男なんだ。
あ。いつの間にか響凱の首が、ポンっと飛んでた。
なんか、ごめん。
知らないうちに斬られていた響凱の首は、ひどく悲しげな表情でコロコロと転がった。
———————————————————————
響凱「……」
だからごめんて
———————————————————————
(case27:自分を認めるのは自分)
響凱は虚しい気持ちで夜空を仰ぎ見た。
何だったのだ、自分は。
結局、誰からも認められなかった。知人からも、無惨からも、敵からも。
人であった時も、鬼となってからも、何ひとつ変わらない。
視線を横にやると、息ひとつ乱していない炭治郎が、刀を鞘に納めようとしているところだった。
あの刀が鞘に納まったら、自分は敵としての価値も亡くす。己と世界との繋がりが完全に断たれる。
そう思うと堪らない気持ちになり、響凱は己を見苦しく思いながらも声を絞り出していた。
「……小僧、答えろ」
「なんだ?」
「小生の血鬼術は……鼓はどうだった。貴様ほどの鬼狩りには下らなく見えたか。取るに足らなかったか」
炭治郎は消えつつある響凱の首を見て、少し考えて言った。
「剣を振るいやすい、良い拍子だった。剣がはかどった」
剣がはかどるって……。
「おまえの首を斬ったのはおまえの鼓だ。地獄で罪を償って反省するんだぞ」
聞いた響凱は僅かに目を見開いて
「……そう、か。小生を……斬ったのは、小生か……それじゃあ、仕方、ないなぁ」
消えた。
見届けた炭治郎は、チン、と納刀して手を合わせ
「……仇は取ったぞ、稀血くん」
いや、そっちかい。
———————————————————————
炭治郎「何か忘れてる気がする」
鎹鴉「1人デ行クナ、炭治郎! 善逸ト合流シロ!」
———————————————————————
(case28:清この夜)
パァン! 「へぷぅ!?」
清は自分の頬を思いっきり引っ叩いた。
わざとではない。響凱の死により鼓が塵になってしまったからだった。
「なんだ? 鼓はおしまいかぁ?」
怪人猪男が被り物の隙間から、ふしゅぅうう、と呼気を吐く。
どう見ても狩る気MAX。
だが、この絶体絶命の状況下でも清の心は折れていなかった。
そうでなくては、とっくに鬼共に喰われている。
そうでなくては、鬼から鼓を奪って利用したり出来ない。
伊之助は腰を落とし突進の構え。
清は腰を微かに浮かせて、着座姿勢からダッシュへ移る構え。
清は思う。自分は長男でよかった。長男だから耐えられた。次男だったら耐えられなかったかもしれない。
真っ直ぐに前を向けッ。己を鼓舞しろ!
がんばれ清、がんばれ!
自分は今までよくやってきた、自分は出来る奴だ! そして今日も! これからも! 鼓を失っても!
自分が挫ける事は、絶対にない!
原作炭治郎が降臨なさったかな?
「猪突猛進ーッ!!」
「うおおぉぉぉぉぉーッ!!」
猛ダッシュで逃げた。
猛ダッシュで追いかけた。
2人の戦いは、あとちょっとだけ続いた。
清にとって散々なこの夜の思い出は、一生忘れられないものになるのだった。
———————————————————————
清「だああああッ!!」バーン!
伊之助「はははは! 猪突猛進!!」ドーン!
善逸「ぎゃあああ! またなんか出て来たー!?」
正一・てる子「「清兄ちゃん!」」