(case36:禰豆子無双)
「た、助けてくれ! 俺にも糸がつけられてた! 助け…っ」
那田蜘蛛山の麓に着いた炭治郎らの前に、傷ついた鬼殺隊士が倒れていた。
しかし駆け寄るまも無く、背中につけられていた糸に引かれて、宙を飛んで行ってしまう。
ボンっ 「「「あ」」」
その糸が途中でいきなり燃えた。
糸は切れた。でも隊士は宙を吹っ飛んでる最中。
「ああぁぁあぁあーッ」
宙をくるくると舞って、地面に叩きつけられた。ピクリとも動かない。
しん、と。
虫の声さえ絶えた、地獄の様な沈黙。
「……むぅ」
炭治郎が背負った箱から顔を出す禰豆子。超気まずそう。
「えらいぞ、禰豆子! あの人を助けてあげたんだな!」
「むぅー♪」
「いやいやいやいや! より酷い事になってない!?」
「受け身も取ってなかったぞ。あいつホントに鬼殺隊か? よわ味噌だぜ」
可哀想な隊士は、頑丈な隊服のおかげか、なんとか生きていた。
森の奥。母鬼の放つ糸に操られ、鬼殺隊士同士で斬り合う修羅場。
生きている者も死んでいる者も、等しく剣を振るっている。
「癸っ!? どうして柱じゃないんだ! 癸なんて何人来たって意味がないんだよっ!」
先輩隊士の村田が泣きそうな顔で叫ぶが
「むぅーッ!」
禰豆子が全方位に放った血鬼術 爆血が、隊士達につながる操り糸を全て焼き払う。
さらには、禰豆子が周囲に向けて指をパチンと打ち鳴らすと、相当に広範囲の草むらで小さな火花が燃え弾ける。
それはさながら夜空の星々に似た光景だった。
糸を運び隊士達に取り付けていた小さな蜘蛛が、1匹残らず焼け死んでいた。
禰豆子さんや、血鬼術めちゃくちゃ使いこなしてない?
「えらいぞ、禰豆子! みんなを助けてあげたんたな!」
「むぅー♪」
「え? ちょ、今の炎って血鬼術!? その娘、鬼!?」
「可愛い禰豆子ちゃんに文句でもあるのかっ!? あぁん!?」
鬼殺隊として当然の疑問を抱いただけの村田に、善逸は血走った目つきで刀を突きつけるのだった。
更に森の奥。より強く速く操られるようになった隊士達が斬り結んだ地獄の跡。
ボロボロの姿で生き残った者達が、炭治郎達の前に現れ泣きながら訴える。
「お願い、逃げて! そして階級が上の人を呼んで! でないとみんな殺してしまう!!」
「頼む、殺してくれ…。折れた骨が内臓に刺さって、動かされると、激痛が…っ。トドメを刺してくれ…!」
「むぅーッ!!」
問答無用。禰豆子の炎が辺り一面を覆い尽くす。
しかし何も燃やさず、糸と蜘蛛だけを焼き払った。
ついでに爆血は操り糸を辿って行き、大元の母鬼に引火。母鬼は火達磨になって転げ回った。
「えらいぞ、禰豆子! この人達を助けてあげたんたな!」
「むぅー♪」
「えぇ……」
無事助かった女性隊士は、ドン引き&困惑する。
そんな彼女の手を善逸がギュッと握り、
「大丈夫ですよ、お姉さん! 禰豆子ちゃんは可愛くて優しい良い鬼です! 俺と一緒に貴女を助けに来たんです」
「え? あ、そ、そうなの?」
「禰豆子ちゃんは良い鬼なので人間なんか食べません! 好物は天麩羅です!」
別に天麩羅だけが好きってわけじゃないが。たまたま善逸の前で食べたのがそれだっただけである。
「あの…ねずこ、ちゃん? 助けてくれて、ありがとう」
「むぅ!」
にっこりと微笑む禰豆子。
後方保護者面して頷いてる善逸は、いったい何目線なんだ…。
「もう、コイツだけでいいんじゃねえか?」
未だ剣を振れていない伊之助は、ちょっとだけ拗ねていた。
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禰豆子が山にログインしてからの犠牲者数 0人
手柄を掠め取ろうとしていた姉鬼が、爆血に巻き込まれて焼け死にました。
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(case37:慈悲の剣?)
「ああぁぁーッ! 累! 助けて、累!」
泣き叫ぶ母鬼。
鬼狩りの人形で遊んでいたら、累が早く殺せと脅しに来た。
それに言い訳をしていたら、突如、体が炎に包まれたのだ。
一瞬、累の仕業かと思ったが、累も少しだけ驚き、興味を失ったのか背を向けて去ってしまった。
「なんでっ! なんでよっ!!」
捨てられたっ。見捨てられたっ!
そもそも逃げようと言ったのだ。いくら鬼舞辻無惨の命令といっても、上弦の壱を倒した鬼狩りにかなう訳がない。それを
『あの方から直接命令された僕の敵じゃないよ。それに、僕達家族の絆は何より硬いんだ。鬼狩りなんかに壊せはしないよ』
何が絆だ! 気に入らなければすぐに捨てる癖に!
「見ぃつぅけぇたぁぁあー!!」
「え…?」
母鬼が頭上を見上げると、空をかっ飛んでくる炭治郎。と、その背にしがみついた禰豆子。
(なんで人間が空飛んでくるのっ!?)
A:伊之助にぶん投げられたから。
「水の呼吸 壱ノ型!」
(ああ、でも。死ねば楽になれる?)
母鬼は抵抗せずに、首を差し出す。
「っ! 伍ノ型」
気付いた炭治郎は直前で型を切り替える。
それは苦痛を与えない慈悲の刃。
「干天の慈雨」
ギュインギュインギュイン! ズババババーッ
「ぎゃああああっ! 痛い痛い痛いーッ!!」
全身の捻りから勢いをもって繰り出した斬撃が、渦となって母鬼の全身をズッタズタに斬り裂いた。
「あれぇ…?」
「むー?」
体をバラバラにされた鬼が叫ぶ。
「十二鬼月がいるわっ! どっちもやられちゃえ!!」
炭治郎は慈悲の剣の使い方が本当に下っ手くそだった。
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鱗滝「それは『陸ノ型 ねじれ渦』だ、炭治郎!!」
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(case38:禰豆子の方が)
兄鬼倒した善逸は、毒を受けて瀕死となっていた。
毒が厄介な鬼だったが、善逸が本来の実力を発揮していたら、霹靂一閃で瞬殺してもおかしくはなかった。
しかし、1人きりになってしまった事に、怯えビビり泣き喚き散らしてる隙に、致命打を受けてしまったのだ。
炭治郎と禰豆子をどこかにブン投げて、自分も「でかい鬼の気配がするぜ!」とか言って走り去った猪マンが全部悪い。
今はなんとか呼吸で毒の巡りを遅らせて耐えていた。
師匠である桑島老人の「諦めるな」という教えを、途絶えそうな意識の中で思いだ、
「……ちゃ、ん…… 禰豆子…ちゃん…」
そこは、じーちゃんだろ。走馬灯ぐらいちゃんと見ろ。
善逸の視界に、ひらりひらり、と蝶が舞って見えた。
否、それは蝶の羽ばたきに見紛う羽織りをひるがえし、善逸の傍らに静かに降り立つ鬼殺隊士だった。
「もしもーし、大丈夫ですかー?」
鬼殺隊、蟲柱 胡蝶しのぶ。
「…… 禰豆子……ちゃん…」
「誰がねずこちゃんですか。私はねずこちゃんではありませんよー」
しのぶが呼びかけると、朦朧としていた善逸の目にいきなり光が戻った。
「知ってるよ! 禰豆子ちゃんの方が可愛いだろ!」
おまえ…。助けに来てくれた柱様に何言ってんだ。
しのぶは笑顔のままに青筋をピキらせる。
ニッコニコの無表情で解毒薬を調合し、雑に注射器をブッ刺し、薬が効いてきたのを確認すると、馬乗りになってボコボコ殴り始めた。
善逸が意識を失うまで、しのぶの拳は止まらなかった。
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しのぶ「ふんっ」
善逸「 」(白目)
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(case39:炭治郎の方が)
(す、すげえ…あの硬い腕を簡単に斬っちまった)
父鬼を相手に善戦していた伊之助だったが、父鬼が変身して、より強く硬く大きく速くなると、まるで歯が立たなかった。
速さについていけず、刀は硬さに負けて折れてしまい、捕まって首を握り潰されそうだったところを、駆けつけた1人の鬼殺隊士によって、いとも簡単に助け出されたのだ。
鬼殺隊、水柱 冨岡義勇。
2年前、炭治郎と禰豆子にボッコボコにされた男である。
「俺の家族に、近づくなァアアアア!!」
「危ね…っ」
伊之助には冨岡の動きが見えなかった。
「水の呼吸 肆ノ型 打ち潮」
鬼の拳をすり抜ける様な跳躍で背後に立つと、その際に放った流麗な連撃で父鬼はバラバラに斬り裂かれていた。
「他者の家族を奪い、殺し、貪り喰っておきながら、笑わせるな」
納刀し吐き捨てる冨岡。
戦いとも呼べない一方的な鬼殺に、伊之助は体のダメージもあって膝をつく。
原作でならワクワクして、己の強さを証明する為、冨岡に挑もうとしたところだが、
「すげえ…格が違う…一撃の威力が違う…。こんなすげえ剣士、見た事がねえ…」
憧れさえ抱かされる伊之助。しかし、
「でもこれ……紋治郎の方が強くね?」
炭治郎が自分より強いのはわかっていた。でも、それほどの差があるとは思っていなかったのだ。
すぐに追いつき、追い越すつもりだった。
だが、炭治郎以外の強力な剣士、柱が間に挟まった事で、そこにある差を明確に感じ取ってしまった。
「俺……もしかして、あんまり強くねえのか…?」
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伊之助「……」(しょぼーん)
冨岡「お、俺が何かしてしまっただろうか?」
大丈夫。無力感は少年誌の世界じゃパワーアップフラグだから。
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(case40:家族)
「ねえ、僕の家族が死んじゃったんだ。父さんも、母さんも、兄さんも、姉さんも。誰も僕を守ってくれなかった。もしかして、君が殺したのかな?」
「ごめん! 何を言ってるのかわからない! 俺はこの山の鬼を斬ってきた。でも君の家族なんて知らない!」
「むー!」
「ふぅん? まあ、いいけど。自分の役目を果たさない奴に生きている価値はないからね。あいつらはきっと偽物だったんだ」
「そうか、良かった! 君には最初から家族なんていなかったんだな! それなら安心だ!」
「むぅむぅー!」
「……は? おまえ、いま、なんて言ったの?」
「家族がいなくてよかった! 誰も君の為に泣いたり悲しんだりしなくてすむから!」
「むぅーッ!」
まるでサイコパス同士の会話だった。怖い。
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無惨「勝ったな。ようやく気が晴れる」
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