(case44:ヒノカミ)
しのぶは全身の力を失ってしまったように、膝つき項垂れる。
無理もなかった。しのぶが失ったのは、単純に戦意だけでは無い。
閉ざされた悲願。無意味になった切り札。そして、絶望的状況。
心が折れてしまったのだ。
「胡蝶、立てっ。おまえだけでも逃げろ…!」
「……無理ですよ、冨岡さん。あの上弦の身のこなしを見たでしょう? 片足引きずって逃げ切れる訳ないじゃないですか」
「(・ω・)???」
「せめてお館様に情報を…っ」
「かつて上弦に殺された柱達もこんな気持ちだったのですかね? その癸の子だけでも逃がしたかったのですが…」
「(・ω・)???」
「…俺が何とか時間を稼ぐ」
「冨岡さんじゃ無理です。止血の呼吸をやめた途端に死にますよ。ごめんなさい…。柱が2人もいて、君1人守れそうにありません」
「(・ω・)???」
おい、そこの馬鹿。
ちょくちょく頭の悪そうな顔を差し挟むんじゃない。もっと頑張って話についてこい。
いまピンチだってわかってる? なんなら、自分だってさっきそこそこのピンチだったって覚えてる?
炭治郎としては、自分が鬼と戦ってたら偉い人(?)が急に出て来て、後は見てろと言われた。さらには鬼にまで黙ってじっとしてろと言われた。だからステイしていたのだ。犬に匹敵する状況認識力だった。
まるで汽車に乗ろうとして、足場を踏み外した挙げ句、振り落とされたかの様。炭治郎の頭にはこのお話の乗車券が無いのだ。
無限列車編、大丈夫? 乗り遅れて終わらない?
「さあ、長々としたお喋りは終わりにしよう。良い顔も見られたし、そろそろ殺すけど、いいよね?」
「(*゚∀゚*)!!」
あ。
話は終わり。いま累は首輪に繋がるリードを手放した。
自由を得たワンワンがどうするかなんて、わかり切っている。
累の両手から赤染の糸が垂れる。
冨岡としのぶは死を覚悟した。
「じゃあね。血鬼術、殺目かごォおッ!!?」
ちゅどどん! と真横から飛来した散弾じみたナニかが累を吹っ飛ばした。おい、待て。それ前に見たことあるぞ。
「鬼はぁ…っ」
待て待て待って。まさか。
「外ぉーっ!!」
ちゅどどどどん! またヒノカミ豆撒きかっ!
累は雑魚鬼の様にミンチにはならないが、豆をくらった所が穴だらけになっていた。超痛そう。
「ぐっ…が、な、何が…っ?」
「は…? え…? いま? え?」
「…………(絶句)」
鬼と柱の心がひとつになった。
さっきまでとは違う意味で1番可哀想なのはしのぶ。
彼女の聡明な頭脳と動体視力は、炭治郎が投げた物の正体と、そんな物を投げた意図を理解し、
豆 鬼 節分 豆 豆 上弦 節分 豆
鬼はー外ー。福はー内ー。
理解したくなくて理解を放棄した。
「念の為に持って来てよかった! やっぱり節分豆は鬼に効果抜群だ!」
ぱたん、と倒れるしのぶ。とどめ刺すのやめたげて。
「……ふざけるなよ。そんなものが鬼に効くものか!」
「でも君、凄く痛そうだぞ? 無理しない方がいいと思う」
おまえが豆ぶつけたんだけどね!?
「威勢がいいじゃないか。さっきは刀を無くして途方に暮れてたくせに」
「不甲斐なかった! でも、もう大丈夫! 代わりに豆ぶつけるから!」
「なら、やってみろよ! 無駄だって教えてやる!」
炭治郎は素早く豆袋に手を入れ、赤い呼気を伴うヒノカミ神楽の呼吸を更に深め、力を一気に蓄えた。
「あの呼吸は……っ?」
見慣れぬ全集中の呼吸に、冨岡としのぶは固唾を飲む。
「鬼はぁっ!」
「血鬼術!」
赤い糸が敵ではなく、累を包む蜘蛛の巣編みの籠となる。
あらゆる攻撃から累を守る、絶対防御の血鬼術。
「外ぉおおおーッ!!」
「殺目蜘蛛っ!!」
ビス ビス ビス 「うわああぁーっ!?」
豆は普通に蜘蛛の巣を貫通して、中の累をメタクソに打ち据えた。
「「豆つっよ!?」」
籠を引き裂かれ、よろめいた累が顔を上げると、視界一杯を炭治郎の足裏が覆い尽くしていた。
「福はぁー!」
知っているだろうか、しのぶさん、累くん。
「討ちぃーッ!!」
痛烈なドロップキックが累をブッ飛ばす。
竈門炭治郎は刀がなくても、めちゃんこ強い。
馬鹿だけど。
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炭治郎「鬼はー、外ー!」
シリアス君「いたい、いたい! やめてー!」
無惨「どうした、累! 何をやってる! 勝利は目前だっただろう!」
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