(case45:犯人は鱗滝)
「えぇ…なんですか、あれぇ……」
絞り出す様に言うしのぶ。
彼女の目の前では、ドロップキックで木に叩きつけられた上弦の参が、起きあがろうとして、更なるドロップキックで地面を削りながら縦10回転させられていた。
上弦の鬼が素手喧嘩でボコボコにされている。
傷だらけの顔が治ろうとして、往復ビンタでもっと腫れ上がった。再生が追いついてない。
「わたしのしってる全集中の呼吸とちがう」
まずい。しのぶさんが馬鹿になりかけてる。
お馬鹿は伝染する。怖い。
「あれは…っ、あの頭の悪そうな暴力は…」
冨岡は炭治郎のヒノカミファイトを見て、忌まわしいナニかを思い出しそうになる。
「むーっ!」
樹上からの声。
柱2人が見上げると、糸に吊るされた禰豆子がブラブラ揺れながら、炭治郎を身振り手振りで応援していた。
「え。鬼、ですか? 今まで気付かなかった…」
しのぶは驚くが仕方がない。禰豆子の気配は通常の鬼とは、全く違うのだから。
あと、さっきまで寝てたから。たっぷり眠って、傷がすっかり再生していた。
禰豆子はよく寝る元気な女の子なのだ。
「あの鬼の少女は…っ。思い出した、あの兄妹は…っ」
2年前の冬の夜(の金的)を思い出し、冨岡の冨岡がヒュンっ、となる。
「彼らを知っているんですか、冨岡さん?」
「あれは2年前の…」
「私、いま長話に付き合う気分じゃないので十文字以内でお願いします」
せめて3行くらい喋らせてあげて。
「……」
「……」
「あの兄妹にボコられた」
「水柱も落ちたものですね」
律儀か。そして蟲柱が辛辣すぎる。
「あいつの名は竈門炭治郎。鬼にされた妹を人に戻す方法を探している。俺が育手の鱗滝さんを紹介した」
「つまり貴方達があの怪物小僧を育て上げた訳ですか。なんてことをしてくれたんです、水の呼吸一門」
「育てたのは鱗滝さんだ。俺は悪くない」
糸を出そうとする累の両手首を、ポッキーの様にへし折り、至近距離から顔面に豆をぶつける炭治郎を見ながら、冨岡は言い切った。
この柱、ヒノカミモンスター誕生の一因になりたくなくて、全てを鱗滝に押し付けやがった。
炭治郎は最初からこうだったのに、酷い冤罪である。
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鱗滝「義勇っ!?」
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(case46:外道豆撒き)
炭治郎に尻を蹴り飛ばされて地面を滑る累。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
激痛と屈辱に塗れながら炭治郎を睨む。
上弦の参となり絶大な力を得た。柱ですら簡単に倒してみせた。なのに、こんな頭の悪いガキに手も足も出ない。
いや、それ以前に
「なんで刀を持ってる時より強いんだ!?」
「(・ω・)???」
「なんだその顔は!? 馬鹿にしてるのかッ!」
炭治郎に難しいこと聞くから…。
水の型に固執して、刀が折れるくらい下手くそに振り回していた炭治郎。
日の呼吸で生み出した力を爆発させ、その力についてくる自分の肉体(と豆)で大暴れする炭治郎。
どっちが強いかなんて言うまでもない。
「糸が当たりさえすればっ、囲んで刻みさえすれば、人間なんか!」
「当たらないぞ! その糸はもう何度も見たし、それに君はなんか透けて見えてわかりやすい!」
「馬鹿にするなと言ってるんだ!」
いや、馬鹿にしてるわけではなく、本当に炭治郎が『透き通る世界』に入っているだけなのだが。
この領域に踏み込むと、相手の骨格や筋肉が透けて見えて動きが先読み出来る。
その上、自分は殺気や闘気を発しなくなる為、行動の起こりを敵は感知出来なくなり、相手にワンテンポの遅れを強制する。
こと武芸においては、至高の領域と呼ぶに相応しい、割とチートな技術である。
しかも。
累が放つ、避ける隙間など無さそうな濃密な糸の波濤を、放たれる前から回避する炭治郎。その際
ばよよよよん 何十とまろび出る炭治郎の残像。
「「気持ちわるっ!」」
うん。大変、気持ち悪い。
ヒノカミ神楽 幻日虹。日の呼吸の中でも刀なしで出来る、超高速回転による回避特化の技。武芸と動体視力に優れた者ほど、はっきりとした残像を見てしまう技だ。
日の呼吸の型は、原作炭治郎の様に単発で使うのではなく、途切れる事なく繋ぎ続ける事こそが真骨頂。
とは言え、幻日虹だけを一瞬で20も30も繋いだら、ご覧ください、この悪夢のイリュージョンを。
柱2人がドン引きするのも当然だった。
「もらった! 鬼はぁー…っ!」
「くっ…!」
累は両手をかざして身を守るが、炭治郎は苦い顔をして飛び退がった。
「しまった…っ! 豆がなくなった!」
どうでもいいッ!!
「豆はともかく、日輪刀がなくては鬼を仕留められず、どちらにせよジリ貧です…」
しのぶは悔しそうに言うけど、炭治郎の場合、ヒノカミ神楽理論で日没から日の出まで舞い続け、逃す事なく殴り続けて陽光で照り殺す、という狂気の選択肢があったりする。
むしろ、それこそが日の呼吸の奥義、拾参ノ型。
継国縁壱が鬼舞辻無惨を殺す為に編み出した必勝法である。
当然、炭治郎は気づいてない。頭、悪いから。
縁壱と同じく、一瞬で技を数十と繰り出せても、宝の持ち腐れである。
「……俺の日輪刀を炭治郎にわたす」
刀を持ち替え、止血の呼吸を整えて炭治郎を見る冨岡。
一瞬だけ止血の呼吸をやめ、全集中の呼吸で炭治郎に刀を投げ渡す。それが今の冨岡に出来る、最後の一手だった。
「わかりました。呼びかけは私が。合わせて下さい、冨岡さん」
頷いて言うしのぶ。冨岡の失血はかなり危険な為、少しでも負担を軽くする為だ。
「竈門くんッ!!」
はっ、と振り向く炭治郎。
そのタイミングに刹那の狂いもなく、日輪刀を投げる冨岡。
「ありがとうございます!」
刀は吸い込まれる様に、炭治郎の手に納まる。
「チッ」と舌打ちする累。上弦の参をして阻止出来ない、完璧な連携だった。
炭治郎は受け取った刀を逆手に持ち、切っ先を累に向けて振りかぶり…。
え。ちょっと? おまえ、まさか!?
「鬼はぁーっ!」
待て待て待て! それはいけないっ!
豆撒き的にも許されない!
「外ぉーっ!!」
ブン投げたぁーっ!?
「ぐあっ!」
名投手、炭治郎が投げた刀は、累の右胸を貫いた。
首? 当然、無事ですが何かっ!?
冨岡の決死の献身は、あっさりと水泡に帰した。水柱だけに。
「すいません! 流れで、つい!」
「「ついッ!?」」
おまえ、やって良い事と悪い事もわからんのかっ!?
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豆撒きでは絶対に刃物を投げてはいけません。
冨岡「 」(白目)
しのぶ「 」(白目)
炭治郎「(・ω・)???」
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