(case47:今度こそヒノカミ)
炭治郎はちょっと困ったぞ、とでも言いたげに累へと手を差し出した。
「すまない、間違えて投げてしまったんだ! その刀を返してくれ!」
「ふっざけるなァ!!」
いくら鬼とは言え、自分がブン投げた刀が突き刺さった相手に、何でそんな事が言えるんだ…。
冨岡としのぶは、もうどうでもいいや、と大の字になって寝転んでしまった。お労しや。
「それは借り物なんだ! 返して貰えないと困る!」
「頭がおかしいのか、おまえ!? こんな刀…っ、こんな……! ぬ、抜けないっ? なんだ、これは!?」
累は激しい熱と痛みを与えてくる刀に慄く。刀身が燃える様な灼熱色に変わっていた。
この流れで赫刀出すのやめて貰えませんかね?
お気に入りの黒刀じゃない冨岡の刀だからって、適当に力入れて投げたせいで、うっかり赫ってしまったらしい。
「くっ…そぉ!!」
累は自らの右腕を糸で斬り落として、胸に刺さった冨岡の日輪刀を無理矢理に抉り出す。
「はぁっ、はぁ…! き、傷が再生しない!?」
「豆が効いてきた! これが節分の力だ!」
「ば…ばかな…っ?」
いや、赫刀に鬼の再生を阻害する力があるんだよ!
なんでもかんでも豆で片付けようとするんじゃないっ! 累くんが信じそうになってるじゃないか!
「ところで、早く刀を返してくれないか?」
まだ言うかっ。
累は疲労とダメージを滲ませながら、元の水色に戻った日輪刀を拾い上げる。
「……それで? この刀を返して、おまえはどうする気なのかな?」
「もちろん、君を斬る!」
瞬時に巻きついた累の糸が切っ先から柄まで、冨岡の刀をバラッバラに斬り裂いた。
「ああーっ、冨岡さんの刀が!?」
そりゃそうなるよ。
「……冨岡さん」
「……なにも聞きたくない」
柱……。
「刀もない、豆もない。これでおまえはもう、僕を殺せない!」
豆を認めちゃった、上弦の参。
「もういい。おまえの妹も、もういらない。おまえも妹も殺してやる。こんなに腹が立ったのは久しぶりだよ」
「く…っ」
くっ、じゃなくて。拳を構えファイティングポーズする炭治郎の頼もしさよ。今更劣勢に見えないのですが。
「イライラさせてくれて本当にありがとうっ。お陰でとても清々しい気分で、おまえ達を刻み殺せそ……ぅだぎゃあッ!?」
おぞましい凶相を浮かべ、残った左腕で糸を紡ごうとした累の顔面に、いきなり飛んできた禰豆子の膝蹴りがめり込んだ。もう可哀想になってきた。
「禰豆子!」
「むーっ」
禰豆子は刀身の細い独特な日輪刀を、じゃじゃーんと天高く掲げる。
「ああっ、私の日輪刀!? いつの間にっ!?」
「胡蝶……」
気の毒そうにしのぶを見る冨岡。
柱が己の刀を持ち去られた事に気付けないという異常事態。
だが、それも仕方がない。
禰豆子も炭治郎と同じく『透き通る世界』に入っていた為、闘気を発する事がなく、他の誰にも行動の起こりを見破れなかったのだ。
禰豆子が軽く力を入れて握ると、しのぶの刀は鮮やかな灼熱の色に変わる。更に禰豆子は口枷を外して、深く深く、赤い呼気を伴う呼吸をする。
鬼になり身体能力が上がってから、意識的に控えていたヒノカミ神楽の呼吸だ。
しのぶの刀は刺突に特化しており、斬る事には向いていない。だが、日の呼吸には突きの技もある。
禰豆子が足を踏み込むと、十間はあった距離が瞬時に詰められ、もはや累の回避を不可能にしていた。
「はやっ!?」
やや上空から、全ての力を一点集中して放たれる突き。
「ヒノカミ神楽 陽華突!!」
「ぐっぎああぁっ!?」
累の左肩に命中した突きは、刺さるだけにとどまらず左腕を巻き込んで、抉り消し飛ばした。
ていうか。禰豆子が先に日の呼吸を実戦投入しちゃったんだけど?
今どんな気持ちなの、長男?
「お兄ちゃんっ!」
「そうかっ! その手があった!!(o(*゚▽゚*)o)」
そうかじゃないよ。素直かっ。
妹にお手本を見せてもらって漸く気付く、お馬鹿さんの鑑がそこにいた。
『呼吸だ、炭治郎』
「え? 父さん?」
え。
『呼吸を整えてヒノカミ様になりきるんだ』
炭十郎さん…。
息子が素直に走馬灯を見てくれないから、とうとう自らカットインしてきちゃった。
ご苦労をおかけします。
「わかったよ、父さん。呼吸を整えて…ヒノカミ様に……」
自分の折れた刀を握り、神妙な顔で目を閉じる炭治郎。
いや君、普段から日の呼吸常中してるでしょ。後は日の型を出すだけなんだってば。
「呼吸を整えて…ヒノカミ様になりきる……」
深く、深く、深く、深く、深く。先程の禰豆子よりもなお深く、赤い日の呼吸を更に深め、体内に爆発的な力を生み出す。
もう根元しか刃を残していない日輪刀が、まばゆい程の灼熱に輝いた。
「ヒノカミ様に、なりきる…っ!」
両腕を失った累は怖気付いたように後ずさる。
力を十分に練り上げた炭治郎は、静かに目を開き、
「我はヒノカミなり……」
違うッ! そうじゃないッッッ!!!
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炭十郎「呼吸を整えろと言ってるんだ、炭治郎! 思い込みでヒノカミ様になろうとするんじゃない!!」
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(case48:えんぶ)
「ヒノカミ神楽…」
馬鹿だけど、強い。
馬鹿なのに、強い。
それが竈門炭治郎である。
しかし、その真価がこれまでに発揮された事は一度もない。
日の呼吸によって日の型を舞う炭治郎は、それ程までに強かった。
きっと上弦の参、累は自分の首がいつ斬り落とされたのか、認識出来なかっただろう。
きっと冨岡としのぶは炭治郎の舞が見えなかっただろう。
継国縁壱の再来。
それ程までに、炭治郎は強すぎた。
「えんぶっ!!」
馬鹿だけど。
円舞か炎舞か、わかんなかったのね…。
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炭十郎「 」(白目)
鱗滝「心中お察しする」
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