(case5:辞職願い)
炭治郎が無事に帰って来た。めっちゃ元気に。
「鱗滝さん、最終選別突破しました!」
「あ、はい」
「なんか手がいっぱいある鬼が鱗滝さんによろしくって言ってました!」(※言ってない)
「あ、はい」
「だから叩っ斬りました!」
「あ、はい」
ムンっ、と胸を張る炭治郎。
「……」
「………」
「……( ^ω^ )?」
(義勇が最終選別を終えた時は、酷く憔悴していたものだがなぁ…)
錆兎的に当然だが。
「……怪我は、ないのか?」
「膝を擦りむいて血がでました!」
唾でもつけとけ。鱗滝は喉まで出かかった。
「……疲れただろう。今日はゆっくり休め」
「はい! すごく疲れました!」
嘘をつけ。鱗滝は口の中まで出かかった。
「炭治郎、お前は凄い子だ。もう教える事はない。
……だからさっさと出て行ってくれ、頼むから」
「はい!」
とてもとても疲れた声の鱗滝。
(炭治郎を送り出したら、育手を辞めよう…)
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炭治郎「お世話になりました、鱗滝さん!」
鱗滝「待て炭治郎! まだ日輪刀が届いてない!
刀、刀! 手ぶらで鬼狩りにいくなぁー!」
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(case6:東へ!)
「行ってきます、鱗滝さん!」
「うむ、達者でな」
旅立ちの日、朝日さす中で準備万端に立つ竈門兄妹を、万感の思いを込めて見送る鱗滝。
「禰豆子、鱗滝さんが用意してくれたこの箱に入るんだ。鬼は日の光を浴びると死んでしまうらしいから」
「むぅー」
朝日を浴びながら素直に頷き、朝日を浴びながら箱の中に入り、朝日を浴びながら自分で箱を閉める禰豆子。
「その箱、本当に必要か?」
鱗滝はつい口に出してしまう。
なんなら禰豆子は炭治郎の修行中、いっつも日向ぼっこして居眠りしてた。
禰豆子曰く、日光を克服する為の命懸けの修行らしい。
鬼殺隊的にも鬼舞辻無惨的にも看過出来ない大事件なのだが、炭治郎の頭の悪さで手一杯な鱗滝は、いつの間にか麻痺して気にしなくなってしまっていた。
お馬鹿は伝染する。怖い。
「カァー! 東ー! 東へ向カエ!
東ノ町デ夜毎、若イ女ガ消息ヲ絶ッテイル!」
最終選別後に炭治郎に与えられた鎹鴉、天王寺 松衛門が甲高く鳴いて炭治郎を急かす。
炭治郎と鱗滝は互いに深く頷き合う。
「若い男は?」
「いいからさっさと行け」
「はい!」
この師弟は最後の最後まで分かり合えなかった。
鎹鴉を上空に従え、意気揚々と歩く炭治郎は、ふと思い当たって立ち止まる。
「ところで東ってどっちだろう?」
「カァッ!?」
鴉は愕然とした。おまえには今朝日が昇って来ている方角がわからないのか、と。
太陽は東から昇るもの。
決して西から昇って東へ沈んだりはしないのだ。
「むぅー!」
バン、と箱を開けて身を乗り出す禰豆子。
そして身振り手振り。それはお茶碗を使ってご飯を食べる仕草。禰豆子は真剣な表情でエアお箸を持つ右手を炭治郎に示した。
鎹鴉は猛烈に嫌な予感に襲われる。
「そうか! お箸を持つ方の手が東か!」
違う! 鬼舞辻無惨ですらここまで自分を世界の中心だとは思っていまい。
炭治郎は右手を見て、それが示す方角へとズンズン歩く。
来た道を戻っていた。
「カ、カァー! 東! 東へ向カエー!
ソッチハ西ダ、バカメー! カァー!」
鴉は必死に引き止めるがお構いなし。竈門炭治郎は迷わず進む。迷ってるけど迷わず進むのだ。
「アホーアホー! コノアホー!」
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鱗滝「はぁ…1人で飲む茶が美味い…」
炭治郎「あれ、鱗滝さん何でこんな所にいるんです?」
鱗滝「ぶふぅううーッ!?」