少しだけ頭の悪い炭治郎のお話   作:MN2

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60と61と62と63

 

(case60:蝶!屋敷!!)

 

蟲柱・胡蝶しのぶの屋敷に住み込みで働く鬼殺隊士、神崎アオイは、洗濯物を運びながら深いため息をついた。

 

先日収容された2人の若い隊士のせいである。

猪と金髪。

アオイがどう苦労させられたのかは、お察し。

とりあえず今朝の時点で、アオイは薬湯を湯呑みごと善逸の口にぶち込んでいた。「呑めェ! オラぁ!」

 

「ごめんくださいっ!」

 

もう一度ため息を吐こうとしたアオイの陰鬱な気持ちを吹き飛ばすような、はっきりとした声。

振り向くとそこには、背に大きな箱を背負った鬼殺隊士。

奴が来てしまった……。

そうとも知らず、仕事を中断して出迎えに行くアオイ。

 

 

「ここが超屋敷…。名前の割に普通ですね!」

 

「超じゃなくて蝶です! 何ですか、貴方!?」

 

 

先日までの苦労など、序の口にも満たなかったとアオイが知るのは間もなくである。

 

 

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炭治郎「いま刀がないので豆を貰えませんか?」

アオイ「??? 何を言ってるんですか?」

炭治郎「刀の代わりに豆を持っておきたくて」

アオイ「??? 何を言ってるんですかっ!?」

 

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(case61:人違い)

 

「うぅ…。これホントに治るのぉ?」

 

アオイに薬湯を(無理矢理)飲まされた善逸は、ベッドの上でメソメソと泣き濡れていた。

 

那田蜘蛛山での戦いの折、鬼の毒を受けてしまった善逸。

その時は駆けつけた胡蝶しのぶの解毒薬(と拳)のおかげで無事に助かったが、体が蜘蛛になりかけた事で、手足が短く小さくなってしまっている。

なかなかにファンタジーな症状だった。

 

「炭治郎はともかく、禰豆子ちゃんは大丈夫かな…炭治郎はともかく。会いたいよぉ、禰豆子ちゃ〜ん……炭治郎はともかく」

 

ぼやいた、その時。

病室の外、廊下の方から近づいてくる気配を善逸の耳はとらえた。

 

 

ドンドコドドドン

  ガリガリギリギリパキーンポキーン

ミュインミュインジャカジャカジャンジャン

  べべべんべべんべんべん ぱおーん

              にゃおーん

 

 

ハッとする善逸。

もはや聞き慣れた感のある、共感覚による怪音。

それが示すのは、あの2人の接近だった。

 

「炭治郎! 禰豆子ちゃん!」

 

短い手足を使って身を起こす善逸。

入り口の戸が開き、炭治郎が現れて善逸と目が合う。

炭治郎は安心した様に笑って、善逸の元まで駆け寄って来た。

心配してくれてたんだな、と善逸は嬉しくなる。

 

 

「良かった! 無事だったんだな、伊之助!」

「善逸だよッッッ!!!」

 

 

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善逸「おまえ、ふざけんなよッ!? ホントにふざけんなよッッ!?」

炭治郎「( °ω° )???」

 

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(case62:ヒノカミ煽り)

 

「伊之助がなんだか大人しいけど、どうしたんだ?」

 

伊之助(本物)はベッドで横になったまま何の反応も示さない。

普段の騒がしさからかけ離れた様子に、炭治郎は首を傾げた。

猪の被り物が無ければ、伊之助だとは分からない程の様変わりだった。

 

「再会した時からこの調子なんだよ。落ち込んじゃってさ」

「大丈夫か、伊之助? 傷が痛むのか?」

 

伊之助は天井を見つめたまま微動だにせず、

 

「弱クテ、ゴメンネ」

 

「この有り様だよ」と首を振る善逸。

 

「なんで謝るんだ?」

 

心底不思議そうに首を傾げる炭治郎。伊之助は布団をギュッと握りしめてフルフル震えだす。

 

「俺、ナニモ出来ナカッタ…。俺ハ……弱イ…ッ」

 

か細くも絞り出す様な、深い慟哭だった。さすがの善逸も思う所があったのか、茶化そうとはしない。

しかし炭治郎は「なんだそんなことか」と笑って、優しくも力強く伊之助の肩を叩いて言った。

 

「大丈夫だ、伊之助! 俺は強いから!」

 

「……ハ?」

「……は?」

 

んん? 何言ってんの? 話聞いてた?

 

「例え伊之助がどんなに弱くても、俺は強い! 伊之助が鬼に全然勝てなくても、俺が全部やっつける! だから安心してくれ!」

 

ちゃんと聞いてた! その上でこの様だった!

 

「俺は長男だから、伊之助の分まで勝ってやる! だから伊之助は負け続けてもいいんだ! 弱くても安心していいからなっ!」

「おまえ、それで慰めてるつもりなの…?」

 

善逸は理解不能の化け物を見る様な目を向ける。いつも通りの目だった。

 

「俺ハ、弱クテモ……イイ…?」

「そうだ! 伊之助が弱くても大丈夫だ!」

 

善逸は慄きながら後退る。ヤベェ。巻き込まれちゃなんねえ。

 

「俺ハ、弱イ……?」

「そうだ! 伊之助は弱い!」

 

ゴゴゴゴゴゴ…っ 

 

後退り過ぎて善逸はベッドから落ちる。頭打って気絶した。

 

「ハァァァアアアアアア!? 俺は弱くねェえええ!!!!」

「ぎゃあッ!?」

 

伊之助はベッドを蹴飛ばして跳び起きる!

宙を舞ったベッドが善逸の上にタッチダウンした!

 

「いい気になるなよ、権太郎! 俺は強ぇえ!」

「それは気のせいだ! 伊之助は弱い! そして俺は強い炭治郎だ!」

 

伊之助は手近なベッドを蹴り飛ばす!

スライディングしていくベッドが善逸を轢いた!

 

「すぐに強くなってやるわ! おまえなんか、すぐに追い付いてやるわッ!!」

「凄いぞ伊之助! でも俺はもっと強くなってるぞ!」

 

え? まだ強くなる気なの??

 

「ハァァァアアア!? だったら俺はその100倍強くなってやるわッッ!!」

「その意気だ! 頑張れ伊之助! 頑張れ!! でも俺の方がもっと強くなってるぞ!」

 

伊之助は炭治郎に飛び掛からんと猪突猛進ダッシュ!

途中で善逸が踏み潰された!

もうやめて! 善逸が死んじゃう!!

 

「上等だ! 俺はその1000倍強くなってやるッ!」

「そうか! だったら俺はーーー」

 

キリが無い。

 

とりあえず嘴平伊之助、超速で大復活。

代わりに善逸がいらん大ダメージを負った。

 

途絶えそうな意識の中で善逸は思った。

おまえらには人の心が無いのか。

 

 

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善逸「おまえ、そういうところだぞ。もっと炎柱の人を見習えよ。土下座するだけなら俺でも出来るよ」

炭治郎「( °ω° )???」

 

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(case63:心の萌芽)

 

栗花落カナヲはピンチに陥っていた。

 

綺麗な姿勢で正座し、表情は師範の胡蝶しのぶを模した様な、感情の一切乗らない作り物めいた笑顔。

だが、全身にびっしりと汗をかき、目はキョドキョドと泳ぎ回ってる。

 

そんな既に限界っぽい彼女の前には、目だけは真っ直ぐなお馬鹿が正座ましましていた。

はい。もう既に可哀想。

 

訓練場にポツンと1人。

特にやるべき事もなく、誰からも指示を受けていないので、何となく座って次の指示待ちしていたら、いきなり見知らぬ竈門炭治郎が現れて対面に居座ったのだ。

 

「初めまして! 俺は竈門炭治郎! 今日からこの屋敷でお世話になります!」

「さようなら」

 

「…………」

「……( ^ω^ )?」

 

「初めまして! 俺は炭治郎! 今日からお世話になります!」

「さようなら」

 

「…………」

「……( ^ω^ )?」

 

「俺の名は炭治郎! 君はっ?」

「さようなら」

 

「…………」

「……( ^ω^ )?」

 

このやり取りもなんと20回目。地獄か。

でも仕方ないのだ。コインの表が出ないのだ。

 

カナヲは全てがどうでもいい。どうでもいいから、自分で何も決められない。少なくとも彼女はそう信じている。

だから何かを決める時はコイントスに委ねる。表が出たら炭治郎の相手をする。裏が出たら無視。

 

カナヲは祈る様な気持ちでコインを投げる。また裏だった。泣きそう。

だってこの炭治郎、全然引いてくれないんだもの。

 

普通の他人なら、怒るか呆れるか諦めるか。

しかし、そこは竈門炭治郎。普通な訳がない。

原作炭治郎だって根気よくカナヲに寄り添ったのだ。

ましてコイツは原作より少しだけ頭の悪い炭治郎。この程度のコミュ障に動じるはずも無い。

 

「さ、さようなら」

「……( ^ω^ )?」

 

  ゴゴゴゴゴゴッッッッ(圧ッ)

 

まるでチョモランマの様に巨大な馬鹿圧にカナヲは押し潰されそうだった。可哀想。

 

表っ、今度こそ表!

投げるコインの出目を強く望むなど、カナヲは初めてだった。裏。

このコイン、炭治郎から逃げようとしてない?

 

「さ、さよっ、さようならっ」

「……( ^ω^ )?」

 

  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ(馬鹿圧ッ)

 

泣きそうっ。いたたまれなくて泣きそうっ。こんな気持ちになるのも、カナヲは初めてだった。

 

震える手でコインを見る。そして、そっと床に置いた。

 

このコインをくれた亡き胡蝶カナエに心の中で謝り、カナヲはコイントスに別れを告げた。

だってこれ、たぶん一生終わらないやつだ。コイン投げてる場合じゃない。

 

(これからは自分で考えて、自分で決めよう。もっと心のままに生きよう)

 

勝手に1人で最終選別を受けに行った時のように。

 

頑張れカナヲ、頑張れ! 心は人の原動力だから!

……でないと、お馬鹿に呑まれちゃうぞ。

 

こうして、原作よりもだいぶ早く、栗花落カナヲの心は急速に成長を始める。

 

しかし原作炭治郎が、暖かな陽の光で心の蕾を花開かせていったのに比べて、このカナヲが得たのは、お馬鹿に対するドでけぇ苦手意識だった。

 

北風と太陽って、こういうことよ。

 

 

_______________________________________________

 

カナエ(生前)「カナヲも好きな男の子が出来たら変わるわよ」

          ↓

カナエ(故)「違うっ! そうじゃないのっ!」

 

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