(case7:蕎麦は美味い)
ガシャンっ
口を付けようとしていた蕎麦の器が手から滑り落ちて地面で砕ける。
炭治郎は鬼気迫る表情で、喉が裂けんばかりに叫んだ。
「臭いッッッ!!!」
「なんだとてめえっ!」
まるで蕎麦に非があるかの様な言い方。蕎麦屋の人が怒るのも当然だった。
真相は蕎麦を啜ろうとした炭治郎の鼻に、浅草の町からぷ〜んと漂ってきた鬼の悪臭が刺さっただけだが、蕎麦の人にはわからない。
あと、炭治郎もそれが鬼舞辻無惨の匂いだと気付かない。
何で気付かないの?
「おうおうおう! 俺の蕎麦が不味いってのか!?」
「違います! まだ食べてないので味はわかりません!
ただ凄く臭かっただけなんです!」
言い方ァ! 蕎麦の人ショック受けてる!
「だから地面に叩きつけたのか! ええッ!?」
「わざとじゃないんです! ごめんなさい!!
あまりの臭さにびっくりしてしまったんです!」
だから言い方ァ!
「ふざけんな! 俺ぁ蕎麦一筋に修行してきたんだ! 俺の蕎麦が食えねえほど不味いなんてあるはずがねえ!」
悔しさのあまり、ポロポロと涙をこぼす蕎麦の人。
さすがの炭治郎もこれは不味いと思ったのか、地面にぶちまけた蕎麦を両手ですくう。
いや、不味くない。蕎麦はきっと不味くない。
「大丈夫、蕎麦はきっと美味しいです! ほら、まだ食べられます! ずぞぞっ…ブふっ! 臭ぁあい!!」
「て、てめええええーッ!!」
蕎麦を吐き出す炭治郎だが、蕎麦は悪くない。
蕎麦と一緒に吸い込まれた無惨の悪い匂いが悪い。
つまり鬼舞辻無惨が全部悪い。
おのれ鬼舞辻無惨、なんて悪い奴なんだ。
「ごほっ ごほっ く、臭、臭い……!
あれ、でもこの臭さ、どこかで……」
あ、気付いた。
「ふざけんじゃねぇ…俺の蕎麦が不味いわけが……
そ、そうだ! 蕎麦じゃなくておまえがおかしいんだ!」
あ、気付いた。
「おい、そこの嬢ちゃん! 突っ立ってねえでおまえも食え! 俺の蕎麦は美味ぇってわかるはずだ!」
「むー?」
立ったまま半分くらい居眠りしてた禰豆子にどんぶりを突きつける蕎麦の人。
しかし炭治郎が手で押し返してシャットアウト。
「あ、大丈夫です。禰豆子は蕎麦なんか食べないので」
「なんかっ!?」
禰豆子は鬼だから。蕎麦は。食べない。
まあ、あってる。間違いじゃない。でも言い方ァ!!
蕎麦の人は膝をつきうなだれる。
(何かが腐った様な酷い匂い…町の方から流れてきてる。この匂いを辿っていけばもしかしたら…!)
スンスンと鼻をならし、浅草の町へ真剣な目を向ける炭治郎。ここだけなら原作の竈門炭治郎に見えるという不思議。
そんな炭治郎に救いを求める様に力無く手を伸ばす蕎麦の人。
「ま、まて…まってくれ…
せめて一杯だけでも俺の蕎麦を食ってくれ…」
「すいません、凄く臭いので俺達もう行きます! ごちそうさまでした!」
「むー!」
言い方ァァああああーッ!!
走り去って行く竈門兄妹の背を見ながら蕎麦の人は崩れ落ち、男泣きに泣いた。
声を張り上げ大泣きした。
人と話す時は言葉を選ばなくてはいけない。だって言い方1つで言葉はこうも容易く人の心を傷つけるのだから。
_______________________________________________
蕎麦の人「うォおおおん! うァアアアアア!!」
ある意味残酷な描写タグ、回収完了
_______________________________________________
(case8:臭ぁあい!!)
夜の浅草を妻と娘と共に散策していた、青年実業家の月彦氏に
「臭ぁあい!!」「むーッ!!」
炭治郎と禰豆子のダブルドロップキックがいきなり炸裂した。
_______________________________________________
無惨「!?!!??!!!?ーッ」