(case9:みんなの想いを拳に込めて)
鬼舞辻無惨は混乱の渦中にあった。
妻子(仮初)と歩いていただけなのに、いきなり何者かから飛び蹴り喰らわされたのだ。無理もない。
体をくの字にして吹っ飛ぶなんて経験、かの継国縁壱と遭遇した時にさえなかった。
「きゃあああっ 月彦さん!?」
隣りを歩いていた夫(誤)が10メートルはブッ飛んでいく様に、妻(偽)が悲鳴を上げる。無理もない。
「うわーん!」
愛する父(悪い)が見知らぬ少年少女にタコ殴りされる様に、娘(嘘)が泣き出す。無理もない。
もんどり打って倒れた無惨の上に、ドスンとマウント取って両拳を振り上げていたのは竈門炭治郎。
無惨の頭を挟んで炭治郎の対面に座り、両拳を振り上げていたのは竈門禰豆子。
2人は頷き合うと、無惨に向かって猛然と拳を振り下ろし始めたのだ。
「この! この! 悪い奴め! 悪い奴め!!」
「むー! むー! むぅー!!」
ぴったり息の合ったコンビネーションは、さながら太鼓の達人。見る間にボッコボコになっていく鬼舞辻無惨。
「き、きさまゲポっ きさブフっ 鬼狩りがはっ
し、しつッ しつゴっ いいぃかげんグフっ」
「ごめん、よく聞こえない! もっとはっきりしゃべってくれ!」ボゴォ!
「むー! むむむー!」ボコボコボコ!
「いいかげはひんッ しゃべらせろ、この異常者め! またねかかぬえ!?」
「なんだ! 言いたい事があるならちゃんと言え!」
いや、無理でしょ。
禰豆子と共に前後から挟んだWデンプシーロール決める炭治郎。そのコンビネーション、もはや神域。
しかし鬼舞辻無惨もさる者、炭治郎の下からヌルリと気持ち悪い動きで抜け出した。
控え目に言ってミミズ人間。どう見ても気持ち悪い。
妻と娘も愛する月彦さんの痴態にドン引きしていた。
人間に擬態してる自覚ないのかな?
「鬼狩りめ…!」
さらにはベコベコに腫れ上がった顔がヌルッと元通り。
人間に擬態してる自覚ないのかな?
「ついに見つけたぞ、ぶぶ漬け茶番!!」
「鬼舞辻無惨だ! ちゃんと覚えろキサマァア!!」
気持ちはわかるけど、名乗っちゃっていいの?
炭治郎に勝るとも劣らぬ頭の悪さだった。
怒りが頂点に達し、目の前の鬼狩りを殺す事しか考えられなくなった無惨。しかし炭治郎が付けている耳飾りに気付いて硬直する。
(あの花札の様な耳飾りは……っ!)
甦るかつての忌まわしい記憶。それがいけなかった。
そろりそろりと無惨の背後に回った禰豆子は、腕まくりして両の掌を無惨の背中にそっと当て
「むーッ!!」ボウッッッ!
「ヌワァァァアアアアアアッ!!?」
炎に包まれる鬼舞辻無惨! つま先から頭のてっぺんまで満遍なく火達磨だ! 爆血覚えるの早くない?
「いやあああっ 月彦さんがァアアアア!?」
公衆の面前で火刑に処された無惨な夫(笑)に悲鳴を上げる奥さん。この母娘がいま最大の被害者である。
「いまだ禰豆子!」
「むーっ!」
火達磨をヘイ、パス! と蹴り飛ばす禰豆子。
鬼かな? (禰豆子は)鬼だった。
飛んで来た燃える無惨に拳を繰り出す炭治郎!
「これは竹雄の分!」ドゴォ!
無惨の顔面に深々と突き刺さる。
「これは花子の分!」「むぅぅうー!」バキィ!
追いついた禰豆子も共に殴る。
「これは茂の分!」
「これは六太の分!」
「母さんの分!!」
一発たりとも手抜きのない渾身の一撃。
炭治郎の目には涙が溢れ出していた。
「これは……っ!」
振りかぶった拳に更なる力が入る。
「父さんの分ッッ!!」
……あれ? その人もう故人ですが? 何だか流れ変わってない?
「これは禰豆子の分!」「むーっ!」
禰豆子も自分の分は自分で殴ってるけど? 被ってない?
「これは俺の分ッ!」
あ、自分の分もあるんだ。自分に正直で大変よろしい。
「そしてこれは……っ!!」
炭治郎は一歩距離を取り、腰を落として力を溜める。
禰豆子は無惨を羽交い締めし逃げられない様にする。
これでフィニッシュだと誰の目にもあきらかだった。
炭治郎はカッと目を見開いて猛然と駆ける! そして
「これは! 蕎麦の人の分だァァァァァ!!」
なんでッッッッ!!?
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ぎゆー「鬼舞辻無惨が可哀想な気がする」
しのぶ「いきなり何言ってるんですか?」ピキピキピキ