(case15:はひふへ日の呼吸)
「……粗血ですが」
ぎこちない動きで卓に湯呑みを置く珠世。
粗血て。湯呑みには並々と真っ赤な液体、人の血が注がれている。
人喰いをしない珠世と愈史郎が、普段摂取する為の人血だった。
卓を挟んだ反対側で湯呑みを前に座る、上弦の壱 黒死牟を珠世はにごった瞳で見る。
どうしてこうなった。
その答えは、大体が黒死牟の対面に座る炭治郎のせいである。
始め、黒死牟は剣を抜いており、斬り合う前の軽い問答を交わそうとした。
したのだが、これがまた話が通じぬ。日本語知ってる?
縁壱のことはまだ良い。耳飾りや日の呼吸の話を振っても(・ω・)な顔をするばかり。あまつさえ鬼殺隊を知らなかった。
ここに来て衝撃の事実。この炭治郎、鬼狩りの自覚どころか鬼殺隊の存在を知らなかったのだ。おまえ、最終選別で何してきたの?
黒死牟が問い詰めたところ、炭治郎の認識としては、富田に鱗滝を紹介されたら、水野の技を教えてくれて、剣と服を貰って、鴉に懐かれたのだそうだ。
鱗滝が聞いたら、きっと卒倒する。
もう鬼殺隊の隊服脱げ、と言い放った黒死牟は至極正しかった。
そして、話が長くなってきたからか炭治郎は
「立ち話もなんですから中に入りませんか?」
とか言い出しやがったのだ。
ここはおまえの家じゃないんだけど? 珠世さんのお宅なんだけど?
おかげで珠世は、上弦の壱をおもてなしするという、前代未聞の罰ゲームをやらされる羽目になったのだ。
愈史郎の予見した通り、珠世が可哀想だった。
話し疲れか炭治郎に疲れたか、黒死牟は湯呑みを一気に煽り、ダンッと叩きつける。
「……稀血はないのか?」
「……」
あってたまるか、そんなもん。
珠世は感情のうかがえない表情で、にっこり笑った。
「えっと…あなたの言う通りなら、鬼殺隊というのは子羊無惨を倒す為に、鬼を殺し回ってる人達なんですね?」
惜しい。あと二文字頑張ろう。
うんうん唸りながら、話をまとめようとする炭治郎。
「きぶ……っ ンン゛……ゴホンっ ……きぶ……気分次第だ」
いま鬼舞辻無惨て言いかけなかった? 呪いで自滅しかけた?
炭治郎の振るった自滅の刃が、あわや大金星を上げそうになる。
「そんな…。いくら鬼だからって、その場の気分次第で適当に殺すなんて酷すぎる! 鬼殺隊、なんて悪い奴らなんだ!」
「……え?」
「え?」
「え?」
「むー!」
待って? 鬼殺隊にとんでもない流れ弾を浴びせないで?
あと禰豆子は同意しないで?
黒死牟は理解した。こいつ、話にならんほど頭が悪い。
今すぐに殺してしまいたいが、こんなのでも縁壱の系譜……っぽい何かだ。ただ殺しては気がおさまらない。それにこのままでは、こいつの頭の悪さに負けた様な気さえするのだ。
自分の立場をわからせ、置かれた状況を理解させる。
その上で斬る。中途半端には殺さない。完璧に殺す。
黒死牟はそう決意した。
「俺のご先祖様が、そのヨリーチさんに会ったんですか?」
「……ヨリーチではない、縁壱だ」
誰だ、ヨリーチ。
「それで俺の家が代々伝えてきた『ヘノカミ神楽』が、本当は『屁の呼吸』なんですね」
「日の呼吸だ…っ、屁ではない! 貴様の家では屁の神でも崇めてきたのか…っ」
そんな一族、代々気が狂っているに違いない。
黒死牟の我慢は早くも限界を迎えそうだった。
話が終わった瞬間、脳天から真っ二つにしてやる。
心の底から誓う。今なら生涯最高の剣が振れる確信があった。
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炭十郎「ヒノカミだ、炭治郎! ヒノカミ神楽だ! この神楽と耳飾りだけはちゃんと伝えてくれ! 約束なんだっ!」