ダンジョン武器   作:たか高菜

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つづきました


合流

地下五階

 

黄金城を抜けるとそこは城下町。魔術によって歪に膨れ上がった街並みはかつての繁栄ぶりをうかがわせる。

そんな場所で、俺は絶賛オークの群れに取り囲まれていた。

 

「いい加減しつこいぞ!」

 

ガルクはワーグを前に気が立っていてこれ以上戦いが長引くと色々と面倒であることは明らかだ。それに戦いが長引けば、他の魔物が寄ってくることは目に見えている。

 

「タイム!」

 

このままではオークに捕まるか、消耗してダンジョン最深部の調査がままならなくなってしまう。

 

「俺はアンタ達と争う気はない!ただこのダンジョンの調査がしたいだけだ。俺とコイツの実力は分かったはずだろう?ここで戦っても犠牲が出るだけだ」

 

実際、この大剣で向こうの攻撃は捌き切っているし、逆に相手の武器を破壊してもいる。これ以上戦っても互いに損だという主張は通るはずだ。

 

「ここはお互い誰も見なかった事にしないか?」

「断る」

 

ですよね!

オークと人間の歴史は色々と味わい深い。略奪を繰り返すオークに対して人間は幾度か大規模な討伐を使い、地上を追われた彼らは地下―――ダンジョンへとその生息圏を変えた。

当然、ようやくたどり着いたダンジョンに人が入る事を良しとせず、オークは侵入する人間たちを手あたり次第殺している場合が多い。残念ながら此処も一緒か。

 

そう結論付けるとオークの一人が突き出した槍を防ぎ、火花が飛び散ると大剣全体が瞬時に燃え始める。

 

「あっつ!?」

 

塗っていた刀油に発火しちまったのか!?元々切り口を燃やす武器とはいえ、刀自体がこうも燃えちまうとは!

だが、ここは好都合!

 

「オラオラオラ!近づくと燃やしちまうぞ!」

「「うわぁーっ!?」」

 

燃える刀油を飛ばす勢いで大剣を振り回すと、周囲を囲っていたオークが慌てて距離を取る。

ははは!獣畜生どもめ!やはり火が弱点か!このままテメェら全員焼き尽くして焼き豚の盛り合わせじゃあ!

 

「待て!」

 

及び腰になり始めたオークたちを静止する声が響き、群れの中から白い雌のオークが姿を現す。

 

「その深紅の鎧………まさか、レッドドラゴンで作ったのではあるまいな?」

「そうだと言ったら?」

 

ぶっちゃけ違うけどね!げど違うっていってじゃあ殺すわとなっても怖いじゃん?

どうやら俺の大剣が松明代わりとなり、オークの目に俺の装備を鮮明にしたようだ。女オークを取り囲んで話し合いが起こり、ひと段落が住むと彼女が前に出る。

 

「いいだろう。話に付き合ってやる」

 

女オークはリドと名乗り、この部隊の隊長を務めているらしかった。元々いた集落は下層から突如這い上がって来たレッドドラゴンによって追われる事となり、族長は新たな野営地を求めて上層に上がったという。

俺との話し合いで俺を見逃す条件として向こうが提示してきた条件は一つ。レッドドラゴンを討伐し野営地を取り戻すという事であった。それだけでオークと戦わないで済むのなら安いものだが、これでレッドドラゴンとの戦いが避けられないものとなってしまった。

それにしても、レッドドラゴンの討伐ならオークでも少々の犠牲は出るが可能だろうに。それを人任せにするのは、やはりこの迷宮を支配する狂乱の魔術師の目がオークに向けられることを防ぐ為か。

 

「このようなレッドドラゴンの戦利品を纏っている貴様だ。レッドドラゴンの狩猟など造作もないだろう?」

 

いや、流石にソロではきついですよ?もしよろしければレッドドラゴン討伐の名誉が欲しいという勇ましい方々がいらっしゃれば一緒にいかがですか?え?駄目ですかそうですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから地下五階の城下町に入り、道中ワーグに襲われながらもレッドドラゴンの痕跡を掴み、移動パターンを割り出している最中に彼らと出会った。

いや、出会ってしまったというべきか。

 

「ちょ、ちょっと何コイツ!?魔物!」

 

角を曲がった出会い頭にエルフから爆発魔法を喰らって吹き飛ばされたために頭が真っ白になる。痛いなこの野郎!爆発魔法がエルフ式の挨拶だったらすみませんね!

 

「人間じゃボケェ!」

「えっ!?嘘、人ォ!?」

 

兜を取って素顔を晒すと、エルフは青い顔になってごめんなさいと繰り返して来る。よほど自分が爆発魔法を人に当てた事がショックだったようだ。騒ぎを聞きつけて次々にドワーフ、ハーフフットが此方を認めてはこの姿にうわっと驚愕の表情を作り出す。

 

「どうした?マルシ―――――」

 

そして、最後。

迷宮のウサギ対策の頸まで覆った鎧を着こんだトールマンと視線が合うと、そいつは俺の姿をみて硬直する。

次第にその顔は赤面し、口元を抑えて震え出す。此方を見つめる瞳には羨望たた一色しかなくて、それはまるで恋する乙女の様に気持ち悪かった。

そして、震える声で漏らす。

 

「か、カッコ良すぎだろ…………!」

 

おい、お前ライオスだろ。

 

 

 

 

やはり推察した通り、地下五階で遭遇したのは、噂をかねがね聞くライオスの一行であった。どうやら彼らの目的もレッドドラゴンとのことだ。

経緯をかいつまむと、彼らは更に下層までの調査を行っていた時にレッドドラゴンに遭遇。戦闘を開始したが仲間の疲労や空腹もあって本来の力を出し切れず、メンバーであった妹が喰われてしまったという。今回、その妹を助ける為に新たな仲間も加えてダンジョン攻略に再挑戦。地下五階までたどり着いたところで、俺達と遭遇したとのことだ。

俺も理由があってレッドドラゴンを討伐したい旨を伝えると、彼らの顔は随分と明るくなった。メンバーを見るにレッドドラゴンと戦うには戦力が心もとなかったのは明らかだ。

しかし、喰われた妹を救うためにか………

 

「確認するが、それが最終目的でいいんだな?」

 

始めて会う彼らにそう問うのには理由があった。竜に対して一番効果的な攻撃があるとすれば、それは奇襲だ。彼らはその巨体ゆえに生活の大半を睡眠で占め、通常ならば寝込みを襲い致命傷を与えるのが普通だが、今回はそうはいかない。

 

「俺が確認したところ、レッドドラゴンはこれまでかなり活動しているようだった。消化も通常より早いだろうし、道中で他の魔物を喰っている可能性だってある………胃の中で他の魔物と一緒になって、判別がつかないかも」

 

酷な話だが、共に戦う手前そんなネガティブな考えが戦闘中に頭をよぎって身体が止まってしまうような事は避けたかった。

見れば、エルフのマルシルと呼ばれた少女は随分と青い顔をしている。此処に来るまでそんな考えがずっと過ぎっていたのだろう。他のメンバーの顔も暗い。

だが、リーダーのライオスは少し異なっていた。

 

「………過去にはバラバラになった死体から蘇生が成功したという例もある。確かに可能性が少ないことは分かってる。けどそれが俺達が歩みを止める理由には決してならない」

 

ふむ………

伝聞ではいささか魔物マニアの変態という印象しか得られなかったが、パーティーのリーダーとしての素質は持ち合わせているようだ。妹が喰われているというのに、しっかりと論理を立てて判断している。

 

「――――なら、俺が協力しないわけにはいかないな」

 

レッドドラゴンを討伐するという点においては共通しているし、数がいればリスクが分散される。

 

「よろしく頼む」

「あぁ、此方こそ!」

 

同盟が締結されると、ライオスは明るい顔になって手を指し伸ばしてきて互いに握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

共にレッドドラゴンを討伐するという目標が決まると、今度はその手段について話し合う事となった。

今までの彼らのやり方ではファリンが炎やけがを防ぐ魔法をかけた前衛で足止めを懸ける内にマルシルが爆発呪文で弱らせた所を前衛の一人がとどめを刺すという流れだったらしい。

だが、今回はそれをやれる人間はいない。俺はこの通り大剣で動きが鈍いし、ライオスは件の男の様に動けないとのこと。

唯一考えられるのは、致命傷である逆鱗を一撃で仕留める事だろう。問題は、その急所に届く武器を持ち合わせているかだが。

 

「流石に無理だな………」

 

建物の間に掛かる廊下の下が抉れている。恐らくレッドドラゴンが通ったのだろうが、そのサイズではこちらの武器は届きそうにない。

一度現場まで登ってみたものの、防御魔法があっても飛び降りればタダでは済まないと分かっただけだ。竜の首に飛び移るのも現実的ではない。

 

「そもそも、火の息はどうするんだよ」

 

ハーフフットが現実的な問題を提示する。

レッドドラゴンを相手にして厄介なのは、高熱の日を吐くブレスだ。直撃すれば消し炭になるそれを避けるにしても、この通路続きの街で一体どうやって避けるかが問題だ。

 

「それに関しては、俺に考えがある」

 

そう答えると、誇示するように自身の鎧をコツンと叩く。

 

「この装備は見ての通り火を吐くワイバーンの鱗で出来た鎧で、火にかなり耐性がある。大剣も楯替わりにすれば、かなり持ち堪えられると思う」

 

この装備を作ってからレッドドラゴンと直接対決する機会はなかったけどな。

 

「確かに俺達の装備では、君が一番通用すると思うが………その大剣でも逆鱗には」

 

 

届かないだろう。流石の俺もあの高さを跳躍して斬り付けろと言われても首を縦に触れない。

 

「堅実にいくなら、かく乱中に俺がヤツの四肢の腱を闇討ち気味に断ち切るというのがあるが」

 

これは囮役に負担がかかるし、俺一人が負傷してしまえば作戦が瓦解する可能性もある。それに四肢を一つずつ破壊するにしても長期戦になるだろう。

そこにライオスがもう一つ提案を出してきた。

此処には建物の間を跨る橋が多い。竜がその真下を通る瞬間に爆破し、動きを封じれば相手の反撃もなく逆鱗を狙えるのではないかと。

 

「逃げながらそこにおびき寄せることは出来るし、レッドドラゴンにはこの城下町は狭い。入り組んだ経路を逃げ回って体力を消耗させ、長時間の活動でたまった疲労に更に追い打ちをかければいけると思うが」

 

最後に言葉を濁し、ライオスが不安そうな目でこちらを見てくる。竜の討伐経験を見込んで、俺の意見も聞きたいといったところだろうか。

 

「ライオスがリーダーなんだから、俺の了解を得る必要なんてないぞ?」

「いや、君の方が竜の討伐経験はありそうだし………」

 

まぁ、この見てくれを考えればそういった思考になるのは普通か。

 

「そういやセンシの鍋がすごい金属だって、ナマリが行ってたな」

 

ハーフフットのチルチャックの話によれば、ドワーフのセンシが持つ鍋は竜の息を防ぎ、竜の鱗をも砕くという金属でできているという。実際に見せてもらってすぐに分かった。これはアダマンタイト製だ。俺のこの大剣を作る時はこの金属を求めて各地を駆け回ったものだ。そんな希少な金属を何故鍋に?え?他に使い道がなかったから仕方なく?気でも狂ってんのか

 

それから逃げ回りレッドドラゴンを誘導するルートを確立する為に城下町の一区画を歩き回って経路を確認し、仮の拠点に戻るとセンシが料理を作っていた。

 

「これから大仕事になるのだろう?腹ごしらえは何よりも重要だ」

 

 

そう答えると、不満そうだったマルシルやチルチャックが言葉に詰まる。

………確かにそうだ。

冒険者は身体が資本だ。それを怠ってはロクな依頼も受けれはしないし、怪我だってしてしまう。

 

「俺達は一度空腹でレッドドラゴンに負けたんだ。同じ轍は踏まない………だろ?」

 

ライオスの言葉には、一度負けてしまったものとしての反省が伴っていた。

そこからセンシは更に工夫を加え、作り立てのパンから持ち合わせの大ガエルの太ももでカツを作り上げてしまい、俺は感嘆の声を上げてしまう。

魔物を料理するという考えもそうだが、付け合わせと共にしっかりと力が入るよう栄養バランスが考えられている。

久々のしっかりした料理の匂いを嗅いで、自然とよだれが口の中に溜まって来る。

 

「君も食べてくれ」

「いいのか?」

 

流石に気が引けたのは、この食材を手に入れる手助けを俺は何もしていなかったからだ。

 

「これからレッドドラゴンを共に倒す仲間なんだ。むしろ君が食べないとおかしいだろ?」

 

そういわれてしまえば、俺も断る理由がなくなった。ガルクには冷ましたものを食べさせるために待機させ、自分は一足早くカツレツを一口食べる。

 

「――――美味い」

 

空腹だったというものあるが、しっかりとした肉の味が広がって来る。魔物でも適切に調理すればこんなに美味いのだな。マルシルの目にもジンワリと涙が浮かぶ。

 

「魔物食もじき終わるのだと思うと感慨深くて」

「まだレッドドラゴンがあるぞ」

 

………やはり、魔物を喰う事を忌避する人間もいるようだ。というかお前、レッドドラゴンも食べるつもりだったのかよ。

ふと、ライオスが食べ終わった皿を置く。

 

「何というか………俺一人ではここまで来られなかったと思う」

 

ポツリと呟き、彼はこれまでの旅の仲間に一人一人に声を掛けていく。

 

センシはダンジョンに再挑戦した際に仲間として色々と親切にしてくれた。美味い食事は腹だけでなく精神的にも救われた事への感謝を。

 

チルチャックには、その持ち前のスキルで短時間でのダンジョン攻略を可能としてくれた事への頼もしさへの感謝を。

 

マルシルには、慣れない旅で苦労を重ねてしまった事への労いと、共に来てくれた時の喜びを。

 

「最後に………君と此処で出会えて、本当に良かった。一緒に戦えると思うと心強い」

 

いや、別にいいが全員が口にカツレツを含んだ状態で言うのはどうかと思う。はっきり言って間が悪い。全員が口に含んだカツレツが喉を通ると次々に間が悪いと文句を告げる。

 

その時、ガルクの首が上をもたげ、微かに唸り声をあげる。

 

「どうした」

 

ライオスが異変に気付き、俺が応える前に地鳴りが響き渡る。

 

「――――来たか」

 

レッドドラゴンのお出ましだ。




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