ダンジョン武器   作:たか高菜

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炎竜

幸い城下町であったので、休息する場所を見つけるのにはそこまで苦労しなかった。

血まみれのファリンの身体を洗えるドワーフ式の浴場は、千年以上放置されたとは思えないほどにその機能を遺していた。

 

「こんな浴場が千年前の街にあるなんて変な感じだ」

 

ライオスが呟くのも無理はない。こんな浴場はエルフの国ですら滅多にお目に掛かれないからな。ドワーフとエルフの技術が混合する街とは聞いていたが、今以上の暮らしを昔の人は享受していたのかもしれない。

 

「それよりこれからどうする?」

 

どこからか取ったワインを呷りながら、チルチャックが問う。

既にファリンを救出するという目的は達成された。ライオス達がこれ以上迷宮に潜る必要性はなくなったのだ。

 

「地上に戻るよ。帰還魔法やオークの抜け穴は使えないから、地道にな」

 

ライオスが応えると、チルチャックがそうじゃなくて、と訂正する。

 

「妹を救ったからって無一文である事に変わらないぞ」

 

そう、ライオス達は前回偶発的に炎竜と遭遇して荷物の殆どを迷宮内に紛失してしまったのだ。

銀行から金を引き出すにしても、手形の再発行には一月かかってしまう。それまでの生活費を稼がなければいけない。

 

「幸い竜の素材があるから、一月程度なら生活するには十分だろ」

 

竜に捨てるところなし、どんな部位でも地上では高値で取り扱われ、無傷で面積が大きい程に価値が上がる。

問題は、あれだけの巨体を包丁一つで剥ぎ取るにはかなりの時間が掛かるという事、そして換金できる量を運ぶには限界があるということだ。少なくとも人の足で地上まで運ぶには無理がある。俺はまた新たに武器を造る程度の素材があればいいが、

 

「龍涎香があれば一番うれしいのだが」

 

うへぇ、チルチャックと俺の顔が嫌悪に歪む。唾液腺に溜まった不純物が蓄積してできるそれはかなり強烈な匂いを発し、触れた物から数か月匂いが取れない。

 

「にしてもマルシルめ、知っていたのか?アイツが黒魔術を使うなんて」

「詳しく聞いたことがないが、勉強の為に迷宮を見てみたいという事だった」

 

マルシルが使った黒魔術は禁忌とされていて、並の冒険者が調べても使えるものではない。かつては魔法学校に在籍していたというが、それだけで黒魔術に関する検閲を突破して使えるようになるのだろうか。

 

黒魔術に関しては、色々と謂れがある。

悪魔との契約だとか、魂を対価にするものだとか。一番論理的なもので言えば、黒魔術はその強力さと比べて対価となる使用者の魔力消費量のつり合いが取れず、まったく別の場所から魔力を補填するという未知の部分が多い事から危険と判断されたとか。

 

「アイツ、ダークエルフって奴じゃないんだろうな」

「いや、ダークエルフというのは人種的なモノであって黒魔術を使う者に対する――――」

 

「誰がダークエルフだ」

「「うわーっつ!」」

 

いつの間にかマルシルが風呂から上がっていた。その後ろにはタオルを巻きつけたファリンの姿がある。

 

「回復魔法すら拷問に使われるんだよ?刃物と同じで使い方次第だ。私は禁術を人の役に立てる手目に研究しているの。やましい事は何もないよ」

「だけど、禁忌なんだろ?」

「……………」

 

いや、黙らないでくれよそこはよ。確かにマルシルが魔法を使って人を騙したり貶めたりするような奴には見えないが。

 

「うん………ただ今回の蘇生方法に関しては忘れた方が互いの為かも」

「それをやましいっつーんだ!………まいいや、もう全部終わった事だ」

 

切り替えというか諦めが速い。妥協すべきところは妥協するのは、チルチャックとしての処世術なのかもしれない。

 

「そういえばセンシはどこだ」

 

ライオスに言われ、そういえばと記憶を探る。此処に入った時の事は覚えてるんだが……

 

「今……鍋と薪を持ったセンシさんとすれ違ったけど」

 

ならば食事の用意か。いや、ちょっと待て

 

「………どこでだ?」

 

問うと、その場にいた全員の顔が真っ蒼になる。

 

「まずいマズイマズイ!竜を捌いた時、燃料袋も開いたんだ!あの付近で着火したら!」

 

気化した燃料に引火して木っ端みじんだ!家を出て竜の元にたどり着くと、丁度センシが火打石を構えた瞬間であった。

 

「止めろセンシ―――――ッ!」

 

だが、警告よりも先にセンシの手が動き彼の手元で火花が散り、近づこうとしたこちらも巻き込むほどの爆発が起こる。

俺は装備のおかげで耐えられるが、他の皆は………!

 

「って………」

 

同じく炎に吞まれたライオス達も無事だった。しかも爆発が直撃したはずのセンシも五体満足の状態でこちらに吹き飛ばされていた。

これは………防御魔法?

見れば、ファリンの身体が魔法を使った痕跡で光を纏っている。あの一瞬で詠唱もなしに、全員を守れるほどの防御魔法を使えるだなんて………竜の血肉を使った副作用か?

当のファリンはマルシルに病み上がりなのだからこれ以上魔法を使うなと釘を刺されている。炎竜を見れば、爆発の炎が体内の油に引火して内部が燃えてしまっている。これでは内臓類は持ち運べないだろう。

 

「今の内に、使えるものをはぎ取っておくか」

 

炎の届かない場所から鱗の一部を皮ごと剥ぎ取ってしまう。流石に大きな鱗では防具を造れないが、楯としてなら使える。

牙や爪もなるべく損傷させずに気を付けて剥ぎ取る。これらは武器にもできるが、装飾品として金持ちに高く売れるのだ。

幾つかを取り外して布にまとめ終えると、センシの方も作業……調理を終了したようだ。燃えたドラゴンの内部をピザ窯代わりにしてピザを、ドラゴンのしなやかな尻尾の先端を切り落としてテールスープに。熱した鱗で焼き上げた分厚いドラゴンの肉をローストする。

どれもこれもセンシがここまでの旅で温めて来たメニューだろう。かぶりつき甲斐のありそうなメニューに涎が止まらないわ、ガルクも早く食わせろと言わんばかりにグルグルと回っている。

 

だが、これを食べる前にどうしても気にかかる存在がある。

ファリンだ。いくら美味しい料理があったとしても、それが元々自分を喰って殺した炎竜であるならば、心理的に拒否する可能性が高い。そうなれば俺達も食べる訳にもいかないが………

ライオスの着替えを着たファリンはしばらくそれらを眺めていたが、ピザに手を伸ばして口を大きく開ける。

 

お………

 

「――――おいしい!」

 

皆が見守る中、ファリンはそれを一口にして咀嚼、十分味わって飲み込むと、高々に感想を述べた。

………ライオスと同じく、肝っ玉が強い子だ。

彼女にとって久々の食事であるからなのか、センシに勧められるがままに彼女はピザを頬張っていく。

 

ともあれ、ファリンが進んで食べてくれたおかげでこちらもあり付ける。炎竜のテールスープは肉の味に玉ねぎの甘さが溶け合わさって腹が随分満たされる味だ。炎竜のローストはかなり噛み応えがあるものの、噛みちぎったものを時間を掛けて噛むと口の中で牛でも豚でもない肉の味が広がる。

 

「バジリスクあたりか?」

「どっちも筋肉がいる生物だからな」

 

バジリスクは瞬発力となるしなやかな筋肉だが、炎竜はあの巨体を支える為の強靭な肉で構成されている。そう考えるとこの味も食感も妥当かもしれない。

 

「大体何故他の生物でこの味を表現する必要がある!?これが、竜の味なんだ!」

 

チルチャックに意見を求められたライオスが高々に力説する。コイツはこいつで魔物の事になると理性のリミットが外れるのは色々とアレだな。武器の事になると人と外れる自分が言うのもなんだけど。

普通に魔物と比較して感想を述べている皆に困惑していたのか、呆然としていたファリンにこれまでの出来事を――――主に魔物を食べながら来たことを告げると、彼女は驚愕を露にして興奮気味に問い詰めてくる。

 

「すごいすごい!どんな魔物を食べたの?ど、どうやって食べたの!?」

 

彼女にすごい勢いで問い詰められているライオスの表情はどこか得意げだ。

 

「杞憂だったな?」

「こうなるのが嫌だったの!」

 

兄も兄だが、妹も妹だな。少なからず兄の影響も入っているのだろうが、ライオスが展開する魔物食までの顛末にファリンは目を輝かせている。

中でも驚いたのは、動く鎧だ。確か兄のライオスが死んだ原因が鎧との戦闘だったらしいから印象に強いのだろう。

動く鎧………あっ!

 

「本物を見せた方が速いんじゃないか?」

 

上手く説明できずに手をこまねいていたライオスの隣からチルチャックが提案を投げかける。俺が視線を寄越すと意味深な表情で頷くのを見ると、懸念は当たっているようだ。

 

あぁ………そっかぁ

あの剣、動く鎧だったのか。

 

「なんで!なんで黙ってたの!?」

 

テーブルの上に置かれた剣の装飾から触手のようなものが伸びたのを見て、顔を真っ赤にしたマルシルがライオスに詰め寄っている。他の武器が見つかるまでの凌ぎのつもりで使っていたそうだが、他の魔物の存在を察知する特性から危険を回避できる点が便利でつい黙っていたという。

お陰で宝虫やテンタクルスの存在も察知できていたらしいが、ナマリが調べれば一発で看破されていただろうな。だが独断で使い続けるのは駄目だ。仮にもパーティーの部隊が武器に不安要素を残してしまうなど、周りの信頼を失ってしまうかもしれないのだ。

ライオス自身も軽率だったと反省しているが、他の武器が見つかるまでは使わせてほしいと言ってくる。無論魔物だから殺すこともできるが、解体しなければ内部で腐ってしまうのでそれも出来ない。

 

「魔物は危険なものだと言ったのはお前だろう」

「生きた魔物を武器に使おうと考えるなんて、正気とは思えない」

「いや、お前が言うな!お前が!」

「全身竜の鱗纏っていてそれ言っちゃう!?」

 

何故か此方に非難が集中する。

失礼な!俺だって流石に生きた魔物を使うなんてトチ狂ったことできねぇよ!

殺した魔物を供養の為に装備品に加工する事はあっても、生かしたまま利用する手段は考えようとは思わない。下手をすればライオスの様に武器が勝手に離れることもあるのだから。

 

「俺の装備は生きた魔物使ってないからセーフだろうが!」

「どっちにしろ魔物使ってるでしょ!」

 

その通りですすみませんね!

先程からファリンが俺の装備に興味津々だった事もあって、今度は俺の装備の品評会のようなものが始まってしまった。

 

「部位によって鱗の大きさが違うな」

「動きやすい様に色々な部位からはぎ取ったんだ。合わないと動きを阻害する」

「………なぁ、あの炎竜からも作れるのか?」

 

ライオスが目を輝かせて防具の表面の鱗を撫でる。彼からすれば自分で討ち取った炎竜の装備を纏えるというのはいい気分だろうな。俺もそうだったし

 

「言うと思った!ファリンも一緒にとかいうつもり!?絶対ダメだから」

「えっ………な、なんで?」

 

ファリンがショックを受けた様子になり、マルシルはぐっと駄目だからと念を押す。

しかし、炎竜か…………

 

「可能……だと思うが、あれだけの巨体だと鱗が大きすぎてな」

 

鱗一枚で本一冊分の大きさとなれば、加工にも困難を極める。俺が作った装備の元となったワイバーンの鱗は、本当に丁度良いサイズだったのだ。

 

「一番実用的なのは盾位だ」

「盾か!なら資金が溜まったら是非作ってくれ!」

「いや、俺が作った訳じゃなくてだな………」

 

次第に俺もつけてみたい!とライオスが言い出し、籠手をつけてその軽さに感動した兄を見てファリンもまたそれを付け始める。

 

「すごい!すごい!全然重くない!」

 

そう感動するファリンを見て、ふと頭に過ぎるものがあった。

 

そういえば、あの時ケンスケがライオスの手から離れたのは炎竜が間近にいて少しでも離れたかったからか?

 

……………なら、何故ファリンに対しても同じアクションを?

 

竜の血肉を使った所為か?だが魔法で肉体構成は人間そのままに変容したはずだが……

折角の再会に水を差したくないが、念のために明日マルシルにファリンの身体に魔術的なものが掛かっていないか調べてもらおう。

にぎわかな会話の中、思考の端でそう結論付けた俺は、久々の大人数での団らんを享受したのだった。




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