ダンジョン武器   作:たか高菜

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敗退

炎竜からはぎ取った皮をなめす方法と言っても、特別な機械を使う訳でもない。基本的な作業は山に住む獣のやり方と同じだ。

革の余分な脂肪を出来る限り取り除き、なめし液に数日付け込んでおく。その後数日乾かしながら揉み込んで革全体を柔らかくする。あとは必要に合わせて加工するだけだ。

今はなめしに必要なものは手元にないので、チマチマと炎竜の皮に残る脂を取り除いている。同じ部屋ではセンシが炎竜の肉から造ったボンレスハムを紐で成形している。

 

「………いくら加工しても食い切れんな」

「干し肉なら日持ちするんじゃないか?」

「アレも塩と香辛料を大量に使う。帰りの分が無くなってしまうぞ」

 

それはマズイ。ただでさえボンレスハムに調味料を塗り込んでいたし、残りも気を付けて使わなければ切れてしまうだろう。

前は干し肉とパンさえあればと思っていたが、センシの料理を食べた時と比べて力の入り様が全く違う。おかげで随分と食に関しても注意を向けるようになってしまった。

 

「おぬしはこれからどうするのだ?」

 

ふと、センシが世間話を投げかけてくる。

 

「炎竜がいなくなったおかげで下層の調査をし易くなったから、暫く此処に留まるよ」

 

炎竜を討伐したおかげで、この階層で活動するオークとの契約も果たされたのだ。調査の協力を取り付ける事が出来れば、雇い主の満足する報告が出来るだろう。

 

「そうか………ライオス達とは分かれるが、お前とは迷宮で会う事になるやもしれぬな」

 

センシは十数年間迷宮で暮らしていて、他のメンバーと異なり住まいは地上にない。ライオス達はファリンの事もあってしばらく地上だろうし、会う可能性は高い。

 

「その時は新鮮な魔物を手土産にした方がいいか?」

「それはいい。その時は腕を振るおう」

 

その前に、なめした竜皮と作り方を教えなきゃいけないから当分は共に行動するかもしれないけど。

仮に不出来な武器や装備が出来て魔物との戦闘中に壊れてしまったら、伝道者として目も当てられない。そこら辺は責任を持って伝授するつもりだ。

 

そんなたわいもない話をしていると、ゴトンという音の後に寝室から人影がぬっと出て来た。

 

「――――ライオス?」

 

少し緊迫感を含んだ顔で、誰かを探すように部屋を見渡した彼はファリンはどこに行ったと問いかけてくる。

 

「誰も通っちゃおらんよ?」

 

センシと顔を見合わせる。俺達はずっとここで各々の作業をしていたが、ファリンが寝室から出た様子は全くない。

そう答えると彼は目を見開いて再び寝室に戻り、今度は剣だけを持って外へ続く扉へ駆け出していく。

 

「た、大変!ファリンが………ファリンがいない!」

 

マルシルが涙目で寝室を飛び出して来るのを見て、俺の中にあった一つの懸念が確信へと変わっていく。

ファリンが、人知れず消えてしまったのだ。

 

 

「ガルク!ファリンの匂いを追え!」

 

飛び起きたガルクに命じ、マルシル達と共にライオスの跡を追う。ファリンの身に何かあったのかは明らかだ。だがそれが自発的なものか魔物によるものかは分からない。

流石に鎧一式を纏う訳にもいかず、籠手とレギンスだけを付けて大剣を背負う。遅れながらマルシル達に追いつくとそこは炎竜の倒れているはずの場所だった。

 

「な………」

 

異変はそこで起こっていた。炎竜の身体が溶けて骨だけを残して血だまりを形成し、ファリンがその中でうずくまっている。

彼女の跡を追っていたライオスは意識を失い倒れていて、彼を守る様に三人が相対するのはファリンの傍にいる一人の褐色の肌を持つエルフだ。

 

此方を射抜く殺気に溢れた視線を見ただけで分かる。コイツが放つ異質な空気は、かつて他の大陸で迷宮の主に遭遇した時と同じものだ。

 

コイツが、狂乱の魔術師!?

 

その男が本を開き、呪文を唱え始める。その異様さに何かを感じ取ったマルシルが杖を構え、俺も並ぶ。その間にも炎竜の血だまりからは何かが生まれ出、竜の形となったそれが大量に出現した。

 

「喰い尽くせ!」

「――――センシ!包丁を!」

 

合図とともに、目でギリギリとらえきれる速度で小型の竜が襲い掛かって来る。センシが投げたミスリルの包丁をつかみ取り、迎え撃つ形で竜を切り裂くと血に戻っていく。

流石にこの素早さでは大剣を叩きつけることは出来ない。

 

「解除!」

 

マルシルも初撃は掠めたものの直ぐに術の書き換えで無力化する手段を取って、次々と襲い掛かる竜を血に変えていく。だがこれも長くは続かないだろう。

 

創り出した竜が打ち止めになった時には、もう俺もマルシルも肩で息をしてしまっていた。

 

「待て!迷宮の主よ!俺達はこの国の簒奪に来たのではない!」

 

聞こえるとは期待しない。迷宮の主の殆どは精神を病み、まともに会話する事すらできなくなってしまうからだ。だが、ここは一縷の望みをかけさせ貰うしかない。

 

「嘘をつくな、ならば何故炎竜を殺した?」

 

――――やはり、炎竜の異常な行動は狂乱の魔術師によるものだったか。

彼がこうして姿を現したのも、炎竜に対してある役割を担わせていたところを俺達がそれを討伐して彼を妨害してしまったからか。

弁明にしろ、逃げるにしろ、時間をかせぐ必要があったが狂乱の魔術師がそれを許してくれるはずもなかった。

 

「くそっ………!」

 

一瞬の浮遊感とともに足が地に触れる感覚がなくなる。下を見れば地面が大口を開けて暗闇が俺達を待ち構えていた。

重力によって落下する身体は、成すすべなく落下していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん」

 

忌々しい簒奪者の処理を終えた狂乱の魔術師は、視界に自分の護るべき民の亡霊が現出したのを視界に捉える。

 

「そう不安がるな。逆賊は去った」

 

彼らを安心させるように、狂乱の魔術師は屈託のない笑みを向ける。千年近くの時の中で肉体を無くし、言葉も分からぬ彼らに対して。

 

「陛下もじきにお戻りになられる。その時は盛大にお祝いをしよう」

 

次に向けるファリンの目は、冷たいものへと変わっていた。

 

「おい、竜……それでは不便だろう。今一度新しい姿をやる」

 

彼が手をかざすと、ファリンの身体に炎竜の血がまとわりつき、彼女の身体と同化していく。ファリンは薄れゆく意識の中で、彼の魔術に抵抗する事も出来ずにそれを受け入れるしかなかった。

何故自分が心配してくれていた兄を力の限り吹き飛ばしたのかも、頭の中に響く命令を拒否できないのかも、彼女には分からなかった。

 

「為すべきことを成せ」

「はい………」

 

わずかに残った彼女の自我が認識したものは、目の前にいるエルフの狂気に満ちた瞳と、相貌だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠にも感じた浮遊感と共に背中を打ち付ける痛みに呻いてしまうが、奈落に落とされたわけではないらしい。

 

「痛………」

「待って、明かりをつける………」

 

マルシルの魔法で光が灯される。小さな小部屋分の石作りのスペースに落とされたようで、四方には窓も扉もない。

 

「どこから落ちてきたんだ?出口は……」

 

チルチャックが壁を叩いて出口を探そうとするが、それよりも先に倒れそうになる位の振動が襲いかかる。地震ではない。これは

 

「壁が迫ってきてる⁉︎」

 

ドンドン空間が狭まってきている。このまま生き埋めにするつもりか⁉︎

落ち着け!これだけの仕掛けの部屋なら必ず魔力の流れがある。その脆い部分を崩せば………

 

「くっ!」

 

ヤマ勘ではあるがもう大剣を振るスペースもない。石畳の隙間に剣を差し込み、柄を斜めにして壁に立てると刀身がやな音を立てながら鋒が隙間に押し込まれていく。

 

バキッ

 

刀身が折れた音ではない。壁の一部が大剣に押し込まれ、新たに出現した虚に呑まれたのだ。

 

「皆!この穴に」

 

飛び込め!そう続けようとした言葉は、突如背後から口に伸ばされた青白く光る手に阻まれてしまう。

 

ご、ゴースト!?

 

次々に伸びる手に体を掴まれて、身体が空洞へと引き摺り込まれる。暗闇と幽霊の冷気だけ感じ取れる世界が続き、また新たな部屋へと投げ出される。斧や酒瓶が転がっていて布が吊るされているのを見ると、先ほどの部屋と違って随分と生活感がある。

 

「グエっ!」

 

俺を皮切りに出てきた穴からマルシル達が次々と飛び出してくる。4人と一匹分のの下敷きになってしまいその重さに身動きが取れない。

 

「無理………もお指一本動かせらい」

 

俺の身体の上でマルシルとライオスは文字通り死に体だ。マルシルはあの戦闘で無理した所為か受け答えすらろれつが回っていない。

 

「げっ」

 

そこに追い打ちをかける様に、周囲を青白い光が人の形を成して俺達を取り囲む。

ゴーストの群れに完全に包囲されたのだ。

 

お…………終わった………!

 

流石に死を覚悟してしまう。まさか自分の最後が竜や強い魔物との死闘で終わるのではなく、幽霊によって幕引きとはなんと人生はうまくいかないことか。

走馬灯のようにこれまでの出来事を振り返っていると、幽霊の一つがチルチャックに手を伸ばす。そうか………最初の一人はお前かチルチャック、今まで楽しかったよ。

だが、チルチャックがゴーストに触れられて魂を抜き取られるような事は無かった。何かを細々と口にすると幽霊たちは煙の様に消えてしまった。誰一人魂を害することなくだ。

 

何だ………?助かったのか?アイツら、狂乱の魔術師に差し向けられた刺客じゃなかったのか?

 

その場にいた誰も彼もが状況を把握する事が出来なかった。

 

「クソ、頭がおかしくなりそうだ」

 

そう零すチルチャックが周囲の索敵の為に扉に手を掛けようとして、

 

 

ガチャ

丁度部屋に入ろうとしたオーク達と出くわす形となった。

 

「キャーッ!!」

「うおおおおおおっ!?」

 

響く双方の悲鳴とこちらを捉えようと慌ただしく捕えようとするオーク達の喧噪がもう他人事のように響く。

もう勝手にしてくれ。疲れて頭が働かない。

 

「やかましい!何事だ!?」

 

そこに聞き覚えのある声が響く。首だけを動かしてその人物を見れば、あの白オークのリドであった。

どうやらこの階層に到達した時に遭遇したオーク達の集団だったようだ。各々が誰が誰を殺すか議論しているところを見ると、俺だと分からないのかもしれない。

 

「待ってくれ。リド殿」

 

一度彼らの注目を集め、マルシルに潰されていた右手を抜き取る。

 

「この籠手に見覚えはあるか?」

 

右手を―――正確には赤色の鱗を纏う籠手を掲げると、彼女の顔が驚きに染まる。

 

「それは――――貴様、狩人か!」

 

やはりそうだ。初対面の時も兜で隠れていたからな。

 

「待て、そなたゾン族長の妹君ではないか?」

 

どうやらセンシの知り合いでもあったようだ。ここまでの道中、彼女の兄でもある族長と炎竜を討伐するという約束を取り付けていたという。

元々親交があったようで、風呂で薄まっていた匂いを確認されるとオーク達は一気にセンシに親しそうにする。

 

「竜の姿が消えたというからもしやと思っていたが……そうか、礼をを言う」

 

センシと俺の事情を全て聞き終えると、彼女は得物を下ろす。それからは炎竜を討伐した貢献から殺されるような事は無く、むしろ手厚く介抱を受けることとなる。少なくともオークと争う事はなさそうだ。

 

さて、狂乱の魔術師の手から逃れたのはいいが、これからどうしようか。

 

未だ気絶したライオスやマルシルを横にして、その隣で彼らは何かの調合を始める。何かしらの実とトカゲの足のようなもの……ぬめった液体――――え、それ食べられるものなの?トドメ用の毒とかじゃなくて?

 

リドはそれらをすりつぶすと口に含め――――ライオスに口移しを始めだす。意識を失っているはずのライオスの身体が撥ね、うめき声が上がっているがオークの力を拒むことは出来ずにその口の中にあるもの全てを胃に注がれて………青い顔をして口から調合薬を漏らした彼が出来上がる。

惨い………更に悲劇なのは、動けないマルシルがその一部始終を見てしまった事だ。迫るリドに顔を青くしたマルシルは、必死に言葉を紡ぐ。

 

「わ、わらひはたらのまりょくぎれ―――――――」

 

哀れマルシル

君の事は忘れない。

 

 

 

 

 




リドは14歳なのでライオスはJCからキスされたと同義です。オラ喜べ

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