ダンジョン武器   作:たか高菜

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ドライアド

ライオスが地表へ戻る決断をしたにもかかわらず、丸二日間俺達は未だに地下五階にいた。

理由は明白。帰り方が分からないのだ。あれから迷宮の形が変わり、上階へと続く道も閉ざされ、またそこまでの道が分からなくなっていた。

壁越えをしようにも、狂乱の魔術師が放った竜に見つかってしまう。今はオークから頂戴した外套を着て装備を隠しているが、何時気付かれるものか。

 

何より心配なのは、炎竜がいなくなった為にこの階層で活動する魔物が活発化し始めた事だ。元々魔物が多い階層らしく、これ以上留まれば戦闘に発展するやもしれない。そうなれば騒ぎを聞きつけた魔術師に見つかってしまうやも。

 

「不味いな」

 

オークから物資は貰ってはいるが、ライオスやマルシルの傷を癒すには至らなかった。食うものも少ない中、時間を掛ければパーティーは弱体化してしまう。

 

ふと、ガルクが顔をこちらにもたげるのと同時にチルチャックの鼻が動く。

 

「甘い匂いがする………花の香?」

 

「花が咲いている場所ならその近くは水場だ!突き止めてくれ!」

 

出口ではないが、休息できる場所には違いない。疲労が蓄積している今、最もパーティーが必要としている。

チルチャックの案内で向かった先は、緑が生い茂る共同墓地の跡地のような場所だった。鬱蒼とする木々の中に、かつての墓が顔をのぞかせている。

 

「待て、誰かいる」

 

チルチャックの指す方向を見れば、裸の女がまぐわっている姿がそこにあった。

 

「危ない!」

 

慌ててセンシがチルチャックの視界を塞ぐが、俺とライオスは観察してその正体を突き止め――――

 

「下がれセンシ!」

 

襲い掛かる魔物―――――ドライアドにライオスが剣を振り下ろし、胴を着られたドライアドの身体の傷口から大量の粒子が飛散する。

 

「くっ………」

 

俺は顔を隠す鎧があるが、ライオス達はマズイ。花粉をモロに喰らったセンシやライオスの呼吸器にそれは吸い込まれ、粘膜にへばり付くと免疫機能が迅速にその排出へと働くのだ。

 

「ベックション!」

 

所謂、花粉症である。

 

「あぁっつ!目が痛い!」

「ぶえっくション!」

 

チルチャックは目を塞がれて無事だったが、ライオスとセンシは目を真っ赤にはらして閉じた目からドバドバと涙を溢れさせている。鼻からも粘膜が垂れ流しになり、呼吸すらおぼつかない。この状態では戦闘は無理だ。

 

「おいおいマズイぞ!」

「下がれ、チルチャック!」

 

戦闘不能になった二人の前に立ち、ドライアドを迎え撃つ。彼らは手足の先端を鋭い蔦の集合体にして身体に突き刺して来る。それさえ分かっていれば、後は人と同じだ。

 

タイミングを合わせて踏み込む。ドライアドが攻撃態勢に入るよりも先に下段に構えた大剣でドライアドの身体を真っ二つに斬り裂く。

 

だが、ここで一つ誤算があった。俺の大剣は、切った際に対象を発火させるという特性を持つ。それは人一人を燃やせる強力な威力を持つものだ。

切り裂かれたからだから大量の花粉が溢れ、剣が起こす炎が引火して膨れ上がる。

 

し、しまー―――――

 

ドライアドの花粉は、可燃性だった!

粉塵となっていた花粉が爆発的に燃え上がり、発現した膨大な熱エネルギーは俺ごと空気を押しのけて膨れ上がる。それに身体は軽々と吹き飛ばされ、背中にあった墓と木々に身体を打ち付けてしまう。

 

「がっ………」

 

強かに後頭部を打ち付けた俺は、二日連続で寝ずの番を行っていた疲労も相まってそのまま落ちる様に気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――おい、しっかりしろ」

「―――――ん?ってうぉお!?」

 

数秒か数時間か、暗闇に堕ちていた意識が浮き上がると目の前に涙と鼻水を洪水の様に溢れさせた三人がいて悲鳴を上げてしまう。

 

「大丈夫か?」

「お、おぉ………無事って事は、ドライアドは」

「倒した」

 

鼻声で涙をボタボタと落としながらセンシが応える。

酷い絵面だ。今すぐにでも水を見つけて顔を洗わせてやりたいが、花粉のおかげで全員目が効かないらしい。

比較的軽度な俺が、三人の代わりに水場を探すことになる。流石に一人では心もとないので外にいたマルシルを呼び寄せて探すと、そう時間も掛からずに見つけることが出来た。

しかし、ドライアドの花粉がここまで強力なものになるとは正直考えていなかった。

 

………これ、使えるんじゃないか?

 

対魔物ではアレかもしれないが、例えば対人戦で袋からコイツをまき散らせば、広範囲の人間を無力化できると思う。

 

「ヨシ」

 

そう考えれば、行動は早かった。ドライアドの死体の近くに溜まっていた花粉をゆっくりかき集め、動物の腸で作った子袋に詰めていく。

何処かでいい実験材料がいればいいが。

 

水場に戻ると、三人は粗方体中の花粉を水で洗い流したようだった。

 

「しかし花の魔物とは……すっかり人間の男女だと」

「ドライアドは単性花だから男女には違いないよ………あ」

 

ライオスは思い立つとそのまま茂みの中で何かを探し出した。恐らく………いや、間違いない。ドライアドの実か何かを探しているのだ。おそらくドライアドに関する何かを食べる為に。

 

「……殴って止めた方がいいんじゃないか?」

 

チルチャックが常識的な提案をするが、マルシルが意外にも反論を寄越す。

 

「でも私達、贅沢言ってられないよ。花が人の形をしてるからって何?今更………」

 

もうかなりの魔物食を口にしてしまっているのだ。昔ならまだしも、今更何を怖れよというのか。マルシルの声には、そんな響きがあった。

 

「あった―――!」

 

目当てのものが見つかったのか、嬉々としたライオスが茂みから出てくる。

――――顔が浮き出た果実を、両手に抱えて。

 

うわぁ

 

ドライアドの見た目から色々と覚悟していたが、果実はあんな感じなのか。傍目から見ればカボチャに人面が彫られているようなものだが、今からアレを食べなければいけないと思うとゲンナリする。

それはマルシルも同じだったのか、持っていた本をめくり出す。

 

「時、遡る……」

「止めろ止めろ!」

「さらっとヤバそうな魔術を探すな!」

 

マルシルのブラックマジックジョークはマジで笑えない。

その後近くでマンドレイクや薬草、キノコなどを採取し、一食分の食材を手に入れる事が出来た。

ドライアドの実のポタージュとチーズかけ蕾ソテー………肉が無いのは少し寂しいが、この際贅沢は言っていられない。

 

「絵面が最悪だな………」

 

何故、ポタージュに人面顔の実を器代わりにしたのだ。おかげでマルシルが人の脳みそを啜っている黒魔術師のような絵面が完成してしまう。

え?魔力補給の足しに少しでもなるかと最善を尽くしたと?善意を後ろ盾にすれば許されると思うなよ!?実際マルシルは食べてるけども!

とはいいつつ、俺もポタージュとソテーを食べる。花のまろやかな甘みが広がって濃厚な味が口に広がる。

皆もようやく腹が満たされたおかげで色々と余裕が出て来た。

 

「にしても、どうやって脱出したもんかね」

「地上までの通路を完全に封鎖するには魔力の流れを絶つと同義だから……どこかに抜け道はあるはず」

「流石に狂乱の魔術師もいちいち迷宮の変化に手を加えないだろ?規則性があるか観察してみよう」

 

腹を満たすだけで、随分と先の事を考えられるようになった。やはり食と心身は一体なのだ。どちらかを疎かにすれば全体が崩れる。

 

「ライオス。私が魔術を教えてあげる」

 

マルシルがライオスにそう提案したのは、食事が終わってからすぐの事であった。

狂乱の魔術師との戦いから、ずっと考えていた事だという。マルシルだけが魔術を使えるこの状況は、パーティーにとって致命的だ。マルシルに何かあれば、魔法で支援してくれる人間はいなくなってしまう。

 

「彼も魔術を使えるみたいだけど、貴方も治療や防御魔法を憶えてくれたら随分と楽になる」

 

水上歩行魔法といった迷宮攻略で必要となるものだけだ。あまり期待されても応えられない。

俺としても、ライオスが魔法を使えるだけで色々と助かる面がある。さわりはファリンから教わっているらしいから、後はマルシルの指導次第といったところか。

 

「私達、強くならなきゃ」

 

再び迷宮に挑戦し、ファリンを救うために。

 

「……うん!」

 

そのまま魔術指導を始めてしまう二人を他所に、食事の片づけを始める俺達含め三人は邪魔にならないよう離れて作業を続ける。

 

「アイツらは前向きすぎる」

「卑屈になられるよりはいいさ」

「若い者はそれくらいでいい」

 

センシは満足のいく飯が食えたおかげか、どこか穏やかだ。いや……これは俺達にしっかり飯を食わせることが出来たからか?分からん。

 

「だから俺を子供扱いするのやめてくれる!?大体なんで俺の目を覆ったよ!」

 

あぁ、そんあ事もあったな。

ドライアドのまぐわいを教育に悪いと感じたのか、センシはチルチャックの目を覆っていた。まるで大人がこどもの目に悪いものが入らないようにするかのように。

どうやらセンシはチルチャックを子供――――というより、ハーフフットという種族を知らない節がある。俺もそうだったが、自分の知らない種族と出会うと既知のものに当てはめようとするのだ。

センシの場合、ハーフフット=子供といったところか。

 

「そうか………チルチャック、以前に父親を亡くしていると言っていたな」

「それがなんだ」

「そうか………」

 

神妙な顔になったセンシは、近くの枝を取ってチルチャックに座るよう促す。

 

「お前も興味を持つ年頃だろうが、正しい知識は身につけねばならぬからな………」

 

何が始まるのだと俺も興味本位で手作業を止めてチルチャックの隣に座り込む。

そして始まったセンシのそれは、恐ろしいものであった。

 

「そう、人間にもおしべとめしべがあって――――――」

 

―――――せ、性教育………!

 

マルシルがライオスに魔術を教授する傍らで行われたセンシによる性教育。

その受講者となった俺は笑いを堪えることに必死になり、ガルクは惰眠をむさぼり、チルチャックはどうにもし難いこの状況に頭を抱えるしかなかったのである。

 

 

こうして、俺達の夜はふけていくのであった。




ハンターは花粉症爆弾を手に入れた!

この季節は杉が暴れまわって色々と辛いですが、切り抜けていけたらなと思います。
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