ダンジョン武器   作:たか高菜

9 / 14
私用で遅れました。申し訳ありません。


ハーピー

どうしたもんか。

目の前でライオスのかつての仲間――――シュローという青年が怒気がにじみ出る表情でライオスの首に刀を添えた現場を見て、俺はただそう思うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ドライアドとの激闘は、もう数日前の事になる。あれからライオスはマルシルから少しずつ魔法を学び練習を繰り返していたが、魔法酔いを起こして倒れることを数回繰り返していた。その間、チルチャックたちと迷宮の規則性を確認しようとともに探索に出たのだが運悪くコカトリス――――バジリスクを更に凶暴化させた魔物と遭遇して戦闘に突入。討伐を果たしたものの、マルシルが蛇に噛まれて石化するというアクシデントがあった。

石化すると自然回復までトールマンの場合半年近く待つことになる。流石に待てないのでライオス達と様々な治療法を試した。食材に関してもコカトリスを確保したおかげで随分と余裕が出来たのも良かった。

その甲斐もあってマルシルは回復。石化中に彼女を漬物石にしたり心当たりのある植物の輪切りを塗りたくったりした事は怒られたが、足止めを喰らうよりはいい。

 

その間、俺も一つの成果を得ることが出来た。

コカトリスの骨から造った双剣だ。通常鳥類の骨は飛行の為に軽くなる為に強度が無いのだが、迷宮に住むコカトリスは地上の常識には当てはまらない。軽いうえに強度はあるので、砥石で丹念に研いでやればそこらの魔物なら切り裂ける切れ味を持つ。

本来なら炎竜の骨から造った方がいいのだが、あの狂乱の魔術師との戦闘の後、炎竜に関するものはほとんどなくなってしまっていた。なめし用に剥ぎ取っていた竜の皮も、センシが仕込んでいたボンレスハムもなくなっていたところを見ると狂乱の魔術師が何かしたのだろうと見当は付けられる。

礫青で骨を重ねて補強し、装飾に羽を付ける刃を収める鞘は蛇皮を利用する。抜きやすいように鞘口は大きめにとったので、どんな体制でも抜ける。

 

コカトリスの双剣の出来上がりだ。

 

 

これを扱うのは………

 

「チルチャック、やるよ」

「んー…………ん!?はぁっ!?」

 

さっきまで俺が丹精込めて創り上げた双剣を放り投げられて、チルチャックが目ん玉を剥く。てっきり俺が使うものだと思っていたんだろうが、生憎その双剣はお前用に短くしてある。

その隣で俺が使いたかったのに!と悔し涙を流すライオスは見なかったものとする。お前にはケンスケが要るだろうが。

 

「いや、お前のだろそれは!それに俺は重くなるから武器は要らないんだって!」

 

鍵師という立場上、ダンジョンの床に配置された罠を起動しないように体重管理に気を配る彼にとって鉄を使った剣や武器はご法度だ。

だが、それを対策しないとでも?

 

「俺を舐めるなよ?わざわざコカトリスの骨を使ったのは、そのタイトな重量制限をクリアする為なんだから。そのおかげでハーフフットのお前でも扱いやすい筈だ」

 

骨ならば鉄と比べても軽い。ハーフフットの彼に合わせてサイズもダウンさせているおかげで、取り回しもかなり良い出来という自負がある。

試しにチルチャックが一刀を片手振ってみると、その軽さに戸惑いを覚える程に軽快に振る事が出来た。しかも初めて触るものなのに、長年使っているかのように馴染む。

チルチャックはその出来栄えに感心するとともに、これだけのものを限られた材料と日にちで完成させる狩人の技術に感心した。実はドワーフなんじゃないか?と疑念を抱く程には

 

「これから狂乱の魔術師を相手にしなきゃいけないんだ。戦闘が出来ないアンタにも、自分の身を守ってもらう必要があるかもしれない」

 

チルチャックが言葉に詰まる。いくら彼が戦闘できないと言っても、魔物は待ってくれない。これから強力な魔物を相手にすることになれば、チルチャックにも自分の身を守ってもらう必要がある。

ライオスだけではない。俺もセンシも、チルチャックも、ファリン奪還という目的の為に強くならねばいけないのだ。

 

「使い方は俺が教える。これもアンタを守る為だと思って、受け取ってくれ」

「………わかった」

 

重々といった様子で、チルチャックはポーチの邪魔にならないよう器用に双剣を腰のベルトに巻き付ける。

 

「あ、支払いは迷宮を出てからでいいよ」

「って、金取るのかよ!?」

 

あたりめーだろ。慈善事業じゃねぇんだぞこっちは。

こうして始まった双剣のレクチャーの合間に迷宮の変化に規則性を見つけたチルチャックによって上層へと続く階段を発見。一安心したところで食事をしている最中、シュローが率いるパーティーと出会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだコイツ!?」

 

突然襲い掛かり、ライオスを糸でグルグル巻きにしてしまった牛の顔をした巨大クモを大剣で切り裂くと手ごたえを全く感じなかった。紙のようにひらひらと燃えて散っていくそれを見て、俺は失望する。

なんか始めて見る魔物だからどんな装備造れるんだろうって楽しみにしていたのに!クソが!ぬか喜びさせやがって!

 

「なんだ………魔物ではないのか?」

 

その生物を使役していたであろう女が俺の姿を見てそうつぶやく。どうやら俺達の格好を見て魔物だと勘違いして奇襲をかけたようだった。傍目から見ればそう見えるのか?マルシルの場合はカエルのスーツ着ているからシルエットで大ガエルと間違われてもおかしくはないが、俺はそんなにか?

 

「相手の正体を確認せずに闇討ちはどうかと思う」

 

気付けば俺とガルク以外の全員が囚われの身であった。流石に抵抗するわけにもいかず、武器を置いて降参と示すとぞろぞろと東国からの出身であろう出で立ちの者が姿を現す――――女だけ。え?なんで女しかいないの?リーダーの趣味か?

そして件のリーダーであるシュローが姿を現すとライオス達と知り合いという事もあってすぐに打ち解けていた。

シュローは俺の前任………つまりはライオスのパーティーでは前衛を担っていたという。腰に携えた刀は頼りなさそうだが、見れば洗練された技術と彼の技法によって想像以上の威力を発揮すると見て取れる。

どうやらシュローは迷宮の外に出た時点で別行動でのファリンの救出を画策していたようだ。故郷から共にいた従者に頼み込んで再び迷宮に潜ったのは、手負いかつ荷物を喪ったライオス達には荷が重いと判断した為だろう。

確かに、ライオス達を拘束した手際を見れば彼女達を連れて行った方が確実と思うだろうな……ライオスには失礼だが。

 

ライオスを含めたメンバーで炎竜を倒したことを聞いたシュローは驚愕した為かその場で倒れこんでしまう。今まで張り詰めた緊張の糸が切れたのか、休憩なしでここまできて無理が祟ったのか、力の入らない彼にこれまでの経緯を話す為に場所を移すことになる。

流石にパーティ三個分となる大所帯では魔物に襲われる可能性があるので、炊事や結界の組み立てにそれぞれ分かれて行動する事になる。

 

「わぁ……本当に竜の鎧なんですね」

 

そこで、シュローのパーティーと共にであった男………カブルーだったか。彼が俺の装備を興味深そうに観察していた。

 

「地上では貴方のことは噂になっていましたよ」

 

ロクでもない噂であることは確かだな。

カブルーもまた自分の目で見る迄俺の存在は信じられなかったそうだが、こうして目の前にするといろいと聞いてくる。

 

「何故魔物を装備に?………成程、物資が少なく自分で繕う事が始まりと」

「利点以上に不利益ありませんか?………え?村人総出で処刑されそうになった?」

「この迷宮でも狙われて何度か切ったとなんでそんな目にあっても使い続けてるんですか?」

 

どんどん可笑しな奴を見るような目になって来た。止めろ。そんな目で見るのは

それからシュローを落ち着かせ、ライオスがかいつまんでこれまでの経緯を説明したのだがその説明が悪かった。

 

ファリンを炎竜から救い出せたのはいいが、帰還の道中狂乱の魔術師に遭遇して彼女と離れ離れになってしまったので、協力してほしい。

 

ファリンを救出に来ただけのシュローに、突然狂乱の魔術師という未知の存在が現れてシュローの脳内が混乱してしまう中、同席したカブルーが的確に質問を投げかけてくれなければ収拾はつかなかっただろう。

 

「何故誰も見ていない狂乱の魔術師をその人だと?」

「言動がそれっぽかったから………?」

「明らかに常軌を逸した魔術を使ってきたからな」

「どうやってその場を免れたんですか?」

「マルシル……仲間の魔術師が頑張ってくれたんだ」

「具体的には?」

「えっと………」

「相手の魔術を解除して無効化したんだ。素人目からみても、すごい技術だった」

 

ライオスは腹の探り合いといった類には不向きなようで、俺が捕捉させてもらった。どうやらカブルーは腹の探り合いに長けた人間のようで、ライオスの動揺を感じ取っている様子だった。

流石にマルシルの黒魔術を明かすわけにはいかないので、そこら辺の会話は濁させてもらった。

 

「俺からも一ついいか……何故レンガをかじっていたんだ?」

 

そこで、シュローが話の流れを変える質問をしてくれたおかげで、マルシルから話題を逸らすことが出来た。

シュローと再会する際に食べていたあのダンジョンクリーナー………嬉々としてレンガ……迷宮の不要物を消化吸収する役割を持つそれを食べていた事実を語るライオスに、シュローは呆然としカブルーは笑い応えていた。そこから彼はライオスからの信頼を得ようと思ったのか、今まで食べた中で一番うまい魔物を質問したりと、ライオスと魔物談義に花を咲かせていたが、魔物食をいつでも振る舞おうと言ったライオスに対して笑顔が固まった所を見るとあまり魔物が好きなわけではないらしい。

 

それから炎竜を討伐した事でこの階層のオークと協力関係である事、ファリンが狂乱の魔術師に連れされた懸念を語ると、シュローの動揺が増す。

 

「連れ去られた!?何故!?」

 

たかが一介の冒険者であるファリンを、なぜ狂乱の魔術師が連れ去るのか。経緯を詳しく知らない彼には当然の疑問だろう。

 

「おい、ライオス」

 

一度ライオスを呼び止め、顔を近づける。

 

「彼に蘇生の経緯を詳しく説明するつもりか?」

「え………駄目か?」

 

やっぱり、コイツ黒魔術でマルシルがファリンを蘇生した事を話すつもりだ。

これまでの付き合いで分かったことだが、ライオスは若干常人との倫理的な認識のずれがある様な気がする。彼からすれば仲間であったシュローなら、自分たちがその選択しかなかったと理解してくれると期待しているのかもしれない。

だが、基本的に黒魔術は禁忌だ。それを使って仲間を蘇生したとなれば、普通の人間ならばしかるべき場所に通報する。

 

「これ以上彼に余計な心労をかけさせる事は無いだろ。重要なのは彼女がさらわれた事実と、これからの方針だけでいい」

「…………分かった」

 

流石にライオスも疲労困憊のシュローにこれ以上負担はかけさせられないと思ったのか、自分達にも分からない。ただ炎竜を殺した事が原因かもしれないとだけ伝えた。

 

「シュロー…ファリンを助けたいという気持ちは俺も一緒だけど、まずは戻るべきだ。俺も君も疲弊している。ファリンを確実に助ける為と思って、この場は堪えてくれ」

「………分かった」

 

準備を万全にして、複数のパーティーによる捜索ならばファリンの救出しやすくなる。ライオスの説得を聞き入れたシュローは、彼の従者であるマイヅルという女性が飯を持ってきた他為に、まずは腹ごしらえをすることになる。握り飯に味噌汁といった東方の献立は新鮮に感じられた。

 

「ところで………ファリンさんはどうやって蘇生させたのですか」

 

そこで、カブルーが最も嫌なタイミングで疑問を投じた。

 

「蘇生には新鮮な血肉が必要な筈だ。炎竜が消化した分の彼女は、どうやって補填を?」

 

鋭いな。カブルーの質問がまとまりかけていたこの場に波紋を起こす。やはり勘が鋭いだけにいやらしいタイミングで投げかけてくる。

 

「それは………」

 

ライオスが答弁しようとした矢先、チルチャックが飛び込んでくる。

 

「マズイ事になった。調理班の所に魔物が集まってきている」

 

どうやら米を焚く為に火を起こしたおかげでその煙を目印に魔物が集まってしまっているとのことだ。

 

「薪を起こしたのか!?」

「当然だ。坊ちゃまに出来立ての米を食べさせなければ」

 

マイヅルは至極当然のように答えるが、この迷宮では自分の居場所を示してしまう悪手に他ならない。通常ならランプの火か魔法で火を起こすものだが、水分を含んだ薪だったおかげで煙がかなり立ってしまったようだ。

シュローが先立って迎撃に向かい、ライオスと俺も装備を整えて後に続こうとする。

ただ、ライオスはシュローに隠し事をするのが後ろめたいのか表情は暗い。

 

「昔の仲間を憚るのは心苦しいだろうが、ここは耐えろよ?」

「分かってるが………俺は、彼を尊敬しているんだ」

 

冒険を共にしてからは幾度も救ってもらったし、故郷の国とこの国しか知らない自分に異国の事を教えてくれた冷静で頭の良い人間である彼を憚る様な真似をして、心苦しいという心情を吐露する彼を責めることは出来ない。

外に出ると、奇怪な笑い声が町中に響き渡っていた。

 

「ハーピーか!」

 

上を見れば、屋根上伝いに人間の頭を持った鳥が周囲を取り囲んでいる。シュローの仲間の一人であるオーガが何とか襲い掛かる奴らを叩き墜とそうとしているが、素早さに対応しきれていない。

急降下してくる一羽につぶてをぶち当て、体勢が崩れた所に大剣を叩きつける。地面に叩きつけられてピクピクと動くそれにシュローがすかさずとどめを刺す。

 

「お見事」

 

やはり彼の武器は洗練された剣術と速さのようだ。対するシュローも、ハーピーに対する的確な攻撃を目撃して改めて狩人の実力を認識する事となった。

隠密風のシュローの従者が屋根に上り、直接ハーピーを仕留めに掛かる。

 

ひとまずここでひと固まりになるのはマズイな。

 

「ライオス。ひとまず班で分かれて合流しよう」

「………そうだな。シュロー達の中に帰還魔法を持つものがいれば―――――」

 

 

ライオスの言葉は続かなかった。またハーピーの死体が落ちたのかと思ったが、地面に叩きつけられたのは黒い忍装束を身に纏ったシュローの仲間であったからだ。

 

「わーっ!あれあれ!」

 

コボルドを連れたハーフフットの指す方向に、視線が向く。新たなハービーがと思われたそれは

 

「あ…………?」

 

想定したものと、全く異なっていた。

赤い鱗を纏った四肢の首元は白い羽で覆われ、その背中からは巨大な翼が雄大に広がっている。炎竜を想起させる身体の首から伸びるはずであろう頭部は人の形をしていて―――――

 

「うそ――――うそうそうそ、どうして………」

 

マルシルがその姿を認めて、呆然と見たものを否定したいと願うように呟く。他の皆も――――ファリンの事を少しでも知っている人間は、彼女と同じく困惑の表情を打兼ねている。

ついこの間、共に食卓を囲み、同じ飯を食べて語り合っていた人間が、異質な姿……キメラとなって目の前にいる。

 

「――――ファリン」

 

 

 




ようやく武器を造れたような気がします。
感想は随時時間が取れ次第返信いたしますので、お待ちいただければ幸いです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。