ブラック企業勤務、アラサー女探索者の迷宮探索   作:Yunoko

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【Tips】ダンジョンについて・2

 ダンジョンの種類は様々。
 ステラモールのように、元の建造物だった面影を残しているものもあれば、ファンタジーさながらの石造りや石畳の迷宮、自然豊かな森や草原が広がっていたりと、統一感がない。
 中には、一定時間ごとにギミックが作動したり、魔物が特定のルーチンに沿って動いたり、常時罠が作動し続けるダンジョンもある。

 事前情報の入手はさることながら、事前準備や迷宮対策は欠かせない。
 情報があるか否かで、難易度が天と地ほど変わるダンジョンも少なくないのだ。



第7話 《白の騎士団②》

 《三尾の翼竜》

 《ステラモール》の第五階層にて活動する階層ボスである。

 その名の通り、尻尾が三本生えており、翼竜の名から分かるように一対の翼を備える。

 

 初心者向けのダンジョンとして知られるステラモールだが、五階層となるとダンジョン内の構造や出現する魔物モンスターが厄介となるのは変わらない。

 第一階層や第二階層あたりの魔物が強くなった程度の認識であれば、間違いなく返り討ちであろう。

 

 全長は大体7メートル前後、体高は大体3メートル前後であり、空を舞うための翼を広げればかなりの巨体だ。

 空中を舞い、頭上高くからの強襲を仕掛けてくるのがよくある戦法であった。

 鋭利な爪を備えた脚で攻撃するか、三本の尻尾を鞭さながらに叩きつけてくるのである。

 大体の探索者はこの初撃で命を落とす。

 

 この一撃を耐えたり、回避すると、次撃といわんばかりに口から高熱の火炎を吐き出す。

 この燃え盛る炎によって周囲一帯を焼き払うと同時に、人間の行動範囲を狭めてくる狡猾さを見せる。

 

 最初の一撃、二撃を終えてからが、本格的な戦闘となる。

 探索者側は、まずこれらの初期行動を如何に防ぐか、あるいは妨害するのかを迫られる。

 事前知識がない状態で挑むのは自殺行為といっても過言ではないだろう。

 

 陸に下りてくる事は少なく、ほとんどを空高く舞うゆえに探索者達は遠距離攻撃がほぼ必須だ。

 空中を飛び回る相手を狙うだけでも面倒なのに、防御力もそこらの魔物とは比較するのもおこがましいほどに頑丈頑強なのである。

 炎を吐くゆえにか、火魔法などはやや効きづらく、鱗も硬く、生半可な攻撃は一切通さない。

 そしてなにより、自動回復の能力があるようで、常に傷口などが再生を続けているゆえにしぶとい。

 

 階層ボスとしての特性か、それとも竜としての矜持か分からないが、明らかに瀕死となっても逃げださないあたりがせめてもの救いといえるかもしれない。

 とはいえ、そこまで追い込むにはそれなりの攻撃力が求められ、かつ、特に厄介な炎のブレスに対する対抗手段も備える必要があった。

 撒き散らされた炎で移動が制限されるにつれ、戦いが長期になればなるほど、この翼竜が有利となるのだから。

 

 それでいて、ダンジョン内の階層ボスとしては下から数えた方が早いのだから、この稼業において上を目指せば際限がないといえよう。

 

「……これが大体の《三尾の翼竜》に対する情報だね」

 

 時は幾何か遡り。

 霜月雪乃しもつきゆきのがステラモールへと探索を開始するより以前。

 

 場所は、星屑市の市役所。

 《迷宮探索調査部》のプレートが掲げられた部屋の中。

 

 そこには六人の男女がいた。

 彼ら彼女らは、いずれも《白の騎士団》の通称を持つ迷宮探索専門の公務員、兼、探索者である。

 

 室内はやや薄暗い。

 が、六人の視線が集まる一部分は煌々と照らされている。

 プロジェクターによってスクリーンへと投影された映像の光によるものだ。

 

 その中の一人である男が、資料を片手にスクリーンに映し出された目的の《三尾の翼竜》を指す。

 彼はこの六人の中のリーダー的な立ち位置であった。

 名を白石という。

 

「白石隊長、一つ確認よろしいですか」

「いいよ。どうしたんだ真白さん」

 

 真白と呼ばれた女性が手を上げ、それに対し白石は小さく頷く。

 真白の表情には隠しようもなく不安が見えた。

 

「こ、今回の仕事ですけど、あくまでも翼竜の行動パターンの確認と、探索者への注意喚起がメインですよね? 翼竜を倒せとか、そういう内容ではないですよね?」

 

 不安の原因であろう翼竜。

 彼女の不安は、白石にもよく分かる。それはもう手に取るように理解できる。共感するのも容易かった。

 熟練探索者の中には、「油断しなけりゃ大した相手じゃない」と豪語する者もいるが、ここにいる六名はいずれもそうは思えなかった。

 

 その「大した相手じゃない」翼竜相手に、企業所属の探索者達が幾人も倒され、ダンジョンにその骸を晒した事例など数える暇もない。

 1年の基礎訓練を積み、潤沢な武器や防具、探索道具も揃え、各々の役割分担も徹底した《白の騎士団》であっても、油断の出来る相手ではないのだ。

 実際に騎士団の中でもベテランチームだった面々が、慢心した結果、勝つには勝てたがメンバーも半減した過去の事例は、未だに記憶から色褪せなかった。

 

 白石が率いる第七部隊も、全員が探索歴5年以上であり、今まで誰一人欠けることなくやってきた熟練の面々である。

 それでも、この中の誰一人として、翼竜を倒そうという軽口を叩く者さえいなかった。

 

 誰もが不安を口にした真白と、似たような表情や顔色を浮かべているのだから。

 それは仕事もとい作戦内容を説明していた白石ですら同様だった。

 

「もちろんだよ。というか、僕も戦いたいと思わないね」

「で、ですよね」

 

 ホッとしたように息をつく真白に、幾人かがつられるように苦笑を浮かべた。

 誰もかれもが似たような気持ち、不安を抱いていたのだろう。

 とはいえ、完全に不安や恐怖だのが払拭されてはいない。

 

 戦うのが目的ではないとはいえ、その翼竜を実際に確認しなくてはいけないからだ。

 従来通りに第五階層で待ち構えているのなら、それでよし。

 

 だが、本当に第四階層で出没していたら?

 もし、不意に遭遇してしまった時に倒すどころか、生き残る事さえ可能であるのか。

 咄嗟に身を守るための行動が取れるのか、不安は尽きない。一度の失敗は即ち死に直結するのだから。

 

「皆も分かってると思うけど、翼竜の行動状況を確認する以上、ある程度接近するリスクがある」

 

 否が応でも意識せざるをえない。

 それぞれが小さく頷くなどし、白石の続く言葉を待つ。

 

「万が一……万が一にも、あの翼竜が第四階層などに出てきていた場合。最悪の事態から想定して動こう。不意を突かれるのが一番危険なのは説明するまでもないだろう」

「で、でも、不意打ちだったら霜月さんの危機察知がありますよ……?」

「えっ? あっ、危機察知。そうですね、危機察知、持ってますっ」

 

 真白がおずおずとしながらも、霜月と白石へと視線を交互させる。

 突然名前が上がった霜月などは、開いているのか分からないといわれるほどの細い目を微かに開き、要領を得ない応答を返す。

 

 霜月の持つスキル、危機察知は罠が作動したり、ダンジョンの規則的あるいは不規則なギミックの作動、または急な魔物の攻撃や襲来など、様々な危険を知らせる特性がある。

 別に意識的に発動するものでなく、霜月が生存している限りは常時機能する便利スキルだ。

 

 魔力を消耗する類のものでもないらしく、ダンジョン探索を行う上で必要不可欠ともいえるスキルであった。

 それはダンジョン内における彼女の生存価値を否が応でも高め、意識せざるをえない。

 

 第七部隊のダンジョン探索において、今までも危なげな場面は幾度もあった。

 安全第一、生存重視を掲げる白石の方針をもってさえ、前触れない危機というのは起きうるものだった。

 

 それがダンジョン。

 警戒しようとも身構えていようとも、ダンジョンは牙を剥く。

 

 だが、そうした場面のいずれにも、霜月が訪れる危機を察知してみせた。

 それゆえに、命を失うような最悪の事態だけは免れてきたのだ。

 だからこそ、第七部隊のメンバー達からみて、霜月に対する信頼は厚い。

 

 危機察知以外でも、霜月はダンジョン内で活動する人間の気配を捉える魔法や、受けたダメージを癒し、治療する回復魔法などのサポートも行えた。

 戦闘などの荒事は苦手であったが、それでも十分すぎるほどの支援要員だ。

 控えめで自己主張も少ない性格だが、周囲への気配りも忘れず、自分が負傷していても第七部隊のメンバーの治療を優先するほどの献身ぶりには、誰もが救われている。

 

「まあ、霜月さんの危機察知で気付ければ助かるけど、相手はあの翼竜。それだけに頼るのは危険だ。だから、万が一に不意を突かれた時の動きだけど……」

 

 白石がいくつかの作戦案を説明していく。

 この第七部隊の隊長を担う白石は、常に慎重であった。

 作戦がスムーズに進行する場合、なんらかのトラブルが発生した場合を常に想定し、いくつもの代替案を準備している。

 それだけなら、特段特筆すべき事ではないかもしれない。

 

 しかし、この白石は最悪の事態が起きる可能性に対し、特にいくつもの想定を行い、代替となる作戦を考案していた。

 石橋を何度も叩いて叩いて、壊してから「やっぱり壊れたんだ!」と安心して、そこを船で川を渡るような本末転倒な面もあった。

 悲観的思考、脅迫的な不安性質の持ち主といわれてしまえばそれまでだが、この中々不安を払拭しきれぬ性格ゆえに、やはり窮地を脱した場面は存在する。

 

「防御に関しては僕が炎の防壁を展開する。これで炎のブレスでいきなり焼死って事は避けられるはず……多分」

「炎のブレスでなく、爪とか牙とか、尻尾での物理的な攻撃だった場合は真白さんの白煙魔法で目くらましをしつつ、出古井さんの魔法人形で攪乱をして……」

「可能なら隙を見て離脱しよう。ダメージを与える事で隙を見出せそうなら、長月さんと水橋さんは随時攻撃でお願いしたい」

 

 白石の説明を耳にしつつ、それぞれが各々の表情で反応を返し、同時に自分の役割を明確に思い描く。

 ダンジョン内において、想像イメージは重要だ。

 思い描くそれが魔法をはじめとした非現実的な現象を可能としたり、ダンジョンなどによっては人間の想像を具現化したり、不安や焦燥、恐怖といった感情を読み取る事だってありうるのだ。

 そうなってくると、ネガティブ思考はほぼ完全にデメリットでしかない。

 

 不安だの恐怖を払拭するためには、自信と自負を持つのが大切だ。

 過信して油断だの慢心、驕心に至れば足元をすくわれる恐れもあるからほどほどに。

 驕兵必敗の事例など、いちいち探すまでもなく、原因を解明するまでもないのだから。

 

 自分の持つ能力を再確認し、どのような場面でも十全に使えるように鍛錬する事、問題なく発動するようにイメージを崩さない。

 一緒にダンジョンへ潜り、魔物と戦ってきた同僚であり、仲間を信じ、作戦の成功を信じる。

 

 『完璧だとか、絶対とは程遠い。でも、最後にはみんなで生きて帰ってこれた』

 

 それこそが、ここにいる六人の危なげな儚さを持ちながらも、最後の一線までは崩れる事のなかった、自信と信頼の芯といえよう。

 

 今回、この第七部隊が《三尾の翼竜》と件のダンジョンにおいて、奇襲を受ける形で会敵したのはまさしく不幸だった。

 

 だが、不幸中の幸いな面があった。

 まず、ギリギリではあったものの霜月の危機察知が発動した事。

 白石の想定していたケースの一つとして、翼竜の奇襲を受けた場合の作戦案も立てていた事。

 その状況下で各メンバーが混乱する事なく対応が出来た事。

 何より、偶発的ではあるが、同時期にダンジョン内で如月姫華きさらぎひめかが活動していた事と、救援に駆け付けてきた事。

 

 これらの点が合わさった結果、彼ら彼女らは今回も誰一人として欠けることなく生還を果たす。

 だが、それはもう少しだけ先の話である。

 

 

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