ブラック企業勤務、アラサー女探索者の迷宮探索 作:Yunoko
あまりに唐突だが、精霊の大まかな種類や性質、傾向について以下に羅列していくぞ! ただし、あくまでおおよその説明だから、後々になって矛盾していても勘弁してくれよな!!
《火の精霊》
情熱的な詠唱を好む。
善悪に関係なく、強い熱意が込められていると耳を傾けやすい。
あとは恋バナをする探索者にも協力しやすかったりするぞ。
攻撃的な魔法を得意とするが、やろうと思えば防御に転じる事も可。
《水の精霊》
流動的な性質をしている。
その時の気分で助力するための基準も変動するので面倒くさい。
気持ちが沈みがちな性格の探索者には勝手に共感してくるぞ。
熟練してくると攻撃や防御、補助に生活など、色んな状況に対応できるオールラウンダー。
《雷の精霊》
とにかくせっかちで短気。
細かく指示されても従わない事が多い上、正確に敵を狙うのが苦手。
指向性を持たせるために杖などを用いるのは有効かも。
即決即断の探索者と相性が良い。
《風の精霊》
その日の気分次第のマイペースな性質。
自由な思考や行動を取りがちな探索者と、相性が良い傾向にある。
百合の気配を感じて勝手に協力するケースもある。
迷宮のフィールドが草原や森などの自然が広がってると、効果が高まりやすい。
攻守にも長ける他、色んな補助に応用できる。
《土の精霊》
職人気質で生真面目な性質。
でも魔力の低い探索者に対しては冷たい。所詮、精霊は畜生の類よ……。
探索者が真面目でコツコツとした性格であるほど、協力的になりやすい。
強力な攻撃も出来るが、防御系統に特化させやすい。
《光の精霊》
目立ちたがりなヒーロー気質。
ここぞ、という場面になればなるほど、助力が高まりやすい晩成型。
序盤で協力を求めても、頼りにならないぞ。
探索者の中の、活躍したい、輝きたいという思いに強く反応する。
戦闘の終盤にこそ、輝く精霊。
《闇の精霊》
秘めたる気持ちに強く反応する性質。
絶望や諦観、悲観といった負の感情にも引き寄せられる一方、内心や妄想で考えていても現実では抑えている気持ちにも反応してくる。
厨二病や邪気眼に対し、理解がある。
意外と光の精霊とも相性が良かったりする。
《時の精霊》
大雑把な性格。
探索者が対抗するためのアイテムを持っていないと、巻き添えにしても気にしないほどに仕事が雑。
しかも魔法範囲が広くなりがちなため、精霊の助力があっても魔力消費も激しい。
切り札とするなら、準備は必須。
※他にも色んな精霊がいるよ。いずれ出てくると思うよ。
三尾の翼竜と姫華が戦っている最中。
「すみません、お待たせしまして……皆さんご無事ですかっ」
「霜月さん!」
やってきた桃香と霜月(+αの偽出古井)を白石達が迎える。
霜月が申し訳なさそうに笑みを浮かべ、桃香の方はやや霜月に隠れがちにおずおずとしながらも、ぺこりと頭を下げた。
「僕は白石と申します。あちらで戦っている方もそうですが、貴方達の救援に心より感謝致します」
「いっ、いえっ。私はそんな……全然……です」
深々と頭を下げて礼を述べる白石。
それに続くように白の騎士団の面々達も頭を下げ始めるため、桃香が困惑して両手で制止する。
危険な役目を率先して担っているのは姫華だ。
自分はその隙を見て動いているだけに過ぎない。
そうした思いも強く、感謝されればされるほどに、罪悪感めいたものが芽生えそうになる。
俯く桃香であったが、霜月が心配そうな声を発したため、顔を上げた。
「皆さん、お怪我が……っ」
言うや、霜月が屈みこむ。
その言葉に桃香もあらためて騎士団達を確認すると、確かに負傷しているのが見てとれた。
「一番火傷のひどい白石さんから治していきます……!」
「すみません、よろしくお願いします」
特に白石などは火傷の跡が一目で分かるほどで、騎士団の特徴ともいえる白い衣装も焼け焦げた跡だらけであった。
苦笑しているが、火傷の痛みはじわじわと絶えないはずだから、決して余裕ではないだろう。
それを平気そうに装えるあたり、流石は《白の騎士団》というべきかもしれない。
(火魔法の使い手で、炎の壁で防いだって言ってたっけ……)
目に見えて一番ダメージが大きいのが白石だ。
おそらく、何度も翼竜の吐くブレスを防いだりしたのだろうと桃香なりに推察する。
調査部隊の隊長ともいっていたし、やはり責任感も強いのだろうか。
なんとなしに桃香が考えていると、霜月の両腕から淡い光の球体が次々と現れていく。
それらはふわり、ふわりと白石の身体を探るようにまとわりついていき、火傷の箇所に浸透するように溶けていく。
霜月が何やら口ずさむ都度、次々と光の球体が浮いて出てきては、騎士団の面々へと向かっていった。
回復魔法、と霜月は呼ぶ。
探索者によっては、治癒魔法、治療魔法、再生魔法、復元魔法などと呼んでおり、やはり呼称は統一されていない。
さしあたっては、傷を癒すイメージに繋がればそれでいいのだ。
「ふぅ……」
淡い光の球体が怪我や火傷に触れると、じわじわと元の皮膚が再生されていく。
最初、皮膚が剥けて赤くなっていたり、皮がべろんとめくれた光景に、目を背けていた桃香だったが、その回復過程に思わず視線を向ける。
皮膚が治った頃には、怪我や火傷の跡でさえも薄っすらとしたものになっている。
丁寧で、それでいて綺麗な治療だと桃香は思った。
回復魔法を見るのは初めてではないが、以前見た時のそれは、とにかく出血を止めたり、痛みを抑える事を重視するあまり、怪我の跡がしっかり残っていたからだ。
こんな稼業をしているのだから、怪我をする覚悟くらい出来てはいるつもりだ。
しかし、やはりというか、身体に何かしらの跡が残れば、それが気にならないといえば嘘だろう。
桃香とて年頃の女性なのだ。
「ありがとね、雪ちゃん」
「ううん。無事で……怪我はしてたけど、皆生きてて良かった」
霜月が最後の一人を治療し、小さく息をついた。
これで騎士団の五人全員の治療を終えたところである。
回復魔法における魔力消費が如何ほどか想像もつかない。 しかし、専門外の桃香から見ても、五人分の怪我を綺麗さっぱり治すとなれば、それなりに消耗するくらいの想像はつく。
だが霜月にも目立った疲労感は見えない。やはり彼女もまた、探索歴の長いベテランなのだと、桃香の中での評価が少しずつ上昇していた。
そんな生意気な事、絶対に口に出さないが。
「さて……」
治療が終わったのを確認し、白石が声を発した。
騎士団の面々も、桃香も彼へ視線を向ける。
「あの方に加勢……はむしろ邪魔になりそうだね。僕らは邪魔にならないよう、階段に向かった方がいいかな、霜月さん」
「は、はい。おそらくその方が良いと思いますが……その階段って……」
「階段だけど、今出古井さんの魔法人形が探しに行ってくれてるよ」
尚も姫華が繰り出しているのであろう爆発を目にし、それに伴う轟音を耳にしていると、騎士団の面々もおいそれと「助けなくちゃ」とは口にできなかった。
白石が言うように、のこのこと戦闘に加われば逆に邪魔になるだけだとすぐに理解できたのである。
伊達に何年も迷宮調査をしてきてはいないのだ。
そのあたりの判断はいずれもが早かった。
「おっす、お待たせ」
「階段はあったのか?」
「あったぼうよぉ! 階段見つけたぜ、俺の分霊箱! お前がいりゃ、怖いもんなしだぜぇ~!」
「本体を分霊箱呼ばわりするんじゃないよ」
出古井が二人並ぶと、どちらが偽物だか実に分かりにくい。
長らく共に組んできた騎士団メンバーでさえも、外見だけに限れば見分けるのは至難を極めるのだ。
そのくらい細分違わず再現できているのだが、如何せん、魔法人形の方は言葉が気さくというか、ざっくばらんとしている。
言葉さえ話させれば、見分けるのは容易といえる。
「向こうに崩れてる遊具あんだろ? あれが戻ったら分かりやすいかもなぁ。ほれほれ」
偽出古井の指差す方向を、一同が見やる。
翼竜によって破壊された遊具達が、ダンジョンの持つ自動再生力によって元の形へと復元されつつある。
その奥に、第四階層へと続く階段が確かに存在した。
だが、そこへ向かうまでの間に遮蔽物となる遊具などがほとんど見当たらない。
いくら姫華が翼竜を追い込んでいるとはいえ、この人数で動いたところを見逃すだろうか?
白石や騎士団の面々が顔を見合わせる。
「どうしよ」「どうする」と無言の内にやりとりをしているのが、余所者の桃香でさえも察せられた。
「……よしっ」
桃香は少しだけ強めに、両の掌で自分の頬を叩く。
どうやら、自分の出番が来たようだと意気込む。
白の騎士団達がその行動に微かな驚きの顔を浮かべる。
突然どうしたのだこの子は、といった様子であるのは桃香にも分かる。
ちょっと気恥ずかしい気もしたが、ここが正念場だ。姫華の足を引っ張らないよう、頼まれた事を果たすよう、勇気を出して声を出す。
「あ、あのっ」
「モモさん?」
騎士団を代表して霜月が、心配そうに声をかける。
「私が……あっ、そういえば紹介もまだでした。私、白百合っていいます。あそこで戦ってる如月さんと同じ企業の探索者です。よろしく、お願いします……」
「これはご丁寧に。あらためて、僕は白石と申します。星屑市役所の迷宮調査部隊に所属してまして……」
「わっ、私、真白です! よよよ、よろしくお願いしますぅ~!」
「水橋です。よろしくお願いしますね」
「出古井です。さっきも、この偽の僕がごめんね」
「長月です」
唐突に自己紹介を始めた桃香に、白石達も思わず名乗り始めていく。
この状況下でシュールな光景である。
次々と名乗られ、桃香はほとんど覚えられないままに返事し、頷くのみであった。
「あ、霜月です……よろしくお願いしますねぇ」
「いや、知ってますよぉ」
「で、ですよねぇ……ふふふ」
流れに乗らねばと思ったのか、霜月も挨拶の流れに乗じる。
彼女なりに冗談だったのかもしれないと思ったのは、この探索が終わったあとの事である。
気を取り直し、自分よりも年齢も探索歴も上であろう面々へと、視線を向ける桃香。
「あっと、えーっと……今から私が姿隠しの魔法使うんで、そうしたらあっちまで行きたいと思うんですが……」
「姿隠し?」
「はっ、はいっ。ちょっと見てもらった方が早いですかね……少し待ってください」
言うや、桃香は目を閉じて集中する。
桃香には得意とする魔法が二つある。
一つは風の魔法である。
攻撃でも防御でも、補助にも活用できる程度に熟練し、精霊とも相性が良いゆえに伸び代もまだまだある。
桃香にとっては戦いの中で欠かす事のできない魔法だろう。
もう一つは、秘匿魔法である。
個々人によっては、隠匿だとか隠密とも呼ぶし、ステルススペルだのと呼称されていたりもする。
桃香の場合、姿隠しの魔法などと呼んでいる。
探索者というのは、とかく統一された呼称を用いぬものである。
「陰の精霊さん、いつもの……よろしくー」
「い、いん?」
戸惑う霜月などをよそに、桃香は静かに、静かにと語りかける。
姿隠しの魔法には、術者の姿を他者から見えなくする効果があり、桃香はこの魔法を好んでいた。
それには陰の精霊の力を借りるのが確実だった。
この精霊達は目立つのを嫌い、基本的に術者にも姿が見えないし、声もほとんど聞こえない。
ゆえに、相性が良いんだか悪いのかもよく分からなかったりする。代わりに悪口や皮肉を言われていても、聞こえないので精神的には楽……かもしれない。
余談だが。
不思議な統計があるのだが、隠蔽や秘匿魔法を得意とする探索者には、孤独を好む、もしくは目立ちたくないという共通点がある。
こうした魔法を使える者はそう多くないため、発動条件などを調べる際に聞き取り調査等を行った企業も多い。
その時に得られた情報の中に、「体育などの授業で2人以上で組んでー、と先生に言われるのが辛かった」、「修学旅行でグループを作るように言われるのは地獄だった。5人グループでと言われた時に、4人しか集まらなかったところの穴埋めに入る時なんて……」といった内容である。
この共通点にどういう関連性があるのか……それは余人には分からない。*1ひとつ言えるのは、この陰の精霊と相性が良い桃香が楽しい学生時代を過ごしていたかというと……これ以上は差し控えよう。
「モモさん、足が消えてますけど大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。これがこの魔法の力で、透明になってるように周りからは見えるんですよ」
「な、なるほど……透明化とは珍しい」
霜月や白石が感心の声を上げる。
確かに、この状態であれば翼竜からも気付かれずに階段へ向かえるだろう。
しかし、提案した言い出しっぺの桃香の方は内心不安でいっぱいだった。
自分で言っておいてなんだが、姿隠しの魔法というのは階層ボスが相手でも果たして通じるのだろうか?
不安が巡る桃香であったが、効果がないなら、第五階層へ下りる際に姫華が言及するはずもない。
確かに、「あの魔法を使って援護してくれると助かるかな」と姫華が言っていたはずだ。
つまり、あの翼竜が相手であっても効果が見込めるという事。
今から桃香がする事は、霜月と一緒に騎士団に合流、そこからさらに、階段まで避難する事。
それだけだ。あとは、姫華が何とかしてくれるだろう。
根拠というにはあまりに弱いが、姫華を心の支えにして、桃香は再び声をかける。
「それじゃあ、私が透明になる前に手を出してもらえますか。で、さらに手を繋いでいってもらえれば、全員に効果が及びますんで」
「はっ、はいっ」
「お、手を繋いで……」
最初に霜月が桃香の手を握り、その霜月の手を別の騎士団が繋ぎ、と続いていく。
そうしてお互いの身体全体が薄っすらとなっていき、存在感が希薄になったのを確認して、一同は動く。
手を万が一に離してしまえば、桃香はともかく、他の面々は姿を現す事になってしまう。
姫華と戦っている翼竜にそこを狙う隙があるとも思えないが、霜月達を危険に晒すような真似や、姫華が引き付けて戦っているのを邪魔したくなどない。
遠慮がちに握っていた手を、気持ち強めに握りながら、桃香は手を引くようにして進む。
階段との距離は、たかだか数十メートル。
だが、視界の端で弾ける轟音や、翼竜の咆える声を耳にしていると、こちらに気付いていないのかと不安にならざるをえない。
「はぁっ、よし、解除して大丈夫……!」
上に続く階段へと辿り着いた時、桃香は自分の呼吸が荒くなっているのを感じた。
探索者なんてしている以上、そこまでやわな肺でもないし、息切れするような距離でもないはずなのだが、緊張や不安などが伴うといつも以上に体力を消費するのだろうか。
短く荒い息を吐きつつ、桃香は姿隠しの魔法を解く。
一同の姿がくっきりと見えるようになったところで、あらためて姫華の方へと視線を向けた。
「おらぁっ!」
ちょうど、翼竜が姫華に殴られているところであった。
殴っている姫華を避けるようにして爆炎が発生し、翼竜が呻く。
勇ましい姫華の声に、思わず胸ときめく桃香であったが、そんな場合ではない。
翼竜が七回ほど爆発を帯びた殴打を食らったあたりで、声にならぬ声を上げながら宙を飛び、距離を取った。
流石にやられっぱなしとはいかないらしい。
姫華があのように接近戦をしているのも、白の騎士団に被害が及ぶような大技や広範囲の攻撃をしないためだろう。
騎士団達と合流した事を、姫華に伝えねば。
「姫先輩っ、姫先輩――っ!!」
声を張り上げ、姫華を呼ぶ桃香。
その声が届いたようで、姫華が振り向く。
目が合った、なんて喜んでいる場合ではない。
手を思い切り振る。
時間にして数秒ほど、こちらを見ていた姫華が手を振り返し、小さく頷くのが桃香にも見えた。
こちらの状況を理解したのだろう。これで、心置きなく戦えるはずだ。
「頑張ってくださいよぉ、姫先輩……!」
離れつつも、戦闘を観戦する桃香。
それは騎士団達も同様で、陰からこっそりと覗く七人。
姫華が何かをコートから取り出し、そのあと彼女が高らかに叫んだ時。
頭上へと掲げていた棒か筒のような物から、深紅色の眩い輝きが放たれ、天を衝く勢いで伸びていくのであった。
「うっわぁ、凄い……」
自然と驚きの声が出る。
きっと、今自分は呆けたような、他者から見て間抜けそうな顔をしているのだろうと、桃香は思った。