ブラック企業勤務、アラサー女探索者の迷宮探索   作:Yunoko

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第23話 《姫華の準備期間④》

 

「あっ……姫先輩!」

 

 《迷宮探索第七課》へ姫華が戻ってきた時、扉の前には桃香が待っていた。

 ソワソワと落ち着かない挙動をしていたが、姫華の姿を捉えると小走りに駆け寄ってくる。

 その顔には不安や心配だのといった色が濃く、声音にもそれは表れていた。

 

「あのっ、部長に呼び出されたって聞いて、ひょっとしてこないだのアレの事とかで怒られたりしたんじゃないかって気になって、あの、大丈夫だったんですか? 何かキツイ事とか言われなかったですか?」

「ん、大丈夫。思ったより大した事なかった。まぁ、代わりに課長が怒られてるけど」

「課長が……まぁ、はい。とにかく姫先輩が怒られなかったならいいです」

 

 姫華の事を気遣っていた時のそれに比べると、著しく平坦な声であった。

 桃香は姫華以外に対しての興味関心は、多少の程度があれど低いのだ。

 

「とりあえず、一度中に入ろうか。モモはもう出勤押してある?」

「一応ギリギリでしたけど、間に合いました! でも、そのせいで姫先輩が呼ばれてるタイミングでしたけど……」

「別にモモが気にしなくていいんだよ。私が勝手にやった事なんだから。まぁ、とりあえず中に入ろっか」

「えっと、はい……」

 

 申し訳なさげに俯く桃香を促し、オフィスの扉を開ける姫華。

 

「ただいま」

 

 姫華がオフィス内に入ると、第七課のメンバーの大半が揃っていた。

 桃香もそうだが、事の成り行きがどうなったのか心配だったのだろう。

 姫華の姿を確認すると次々に近づいて「大丈夫でしたか?」「何かトラブルっスか?」「また面倒事を押し付けられたとかですか?」等と声をかけてきた。

 

「大丈夫。思ってたより大した話じゃなかった。その代わり、黒須課長がまだ捕まってるけど……」

「あぁ、課長は……まぁ……」

「いつも働いてないし、たまにはいいんじゃないスかね」

「確かに。課長らしい仕事が出来て本望でしょうよ」

 

 姫華のそれに対し、黒須を心配したり気遣う声はまったくといっていいほどなかった。

 どのメンバーも、安堵の表情を浮かべるのみである。

 桃香ばかりが淡泊なわけではないのだ。

 

 あんまりな言われよう、扱われようであるが、実際に第七課の課長である黒須こと、黒須義仁くろすよしひとはほとんどオフィスに顔を見せていない。

 時々やってきて「う~ん、頑張ってるねぇ」等と労ってみたり、自分のデスクに座ってボーっと黄昏れてみたり、スケジュールボードを確認してうんうんと頷いてみたり、「うーん、今日はなんだか嫌な風が吹いてるなぁ」などとテキトーな事を言っては帰っていくだけなのだ。

 《黒井商会》の探索課ではお馴染みのノルマについても、分担だとか、探索ペースについても口出しはしない。

 

 いってしまえば、放任主義なのである。

 その代わりというか、もっと働けだの、働き方が悪いだのと言った理不尽な事も言ったりはしないので、一長一短といえるだろうか。

 全面的に姫華に第七課を任せている状態であり、姫華が何か提案しても「うん、いいんじゃないかな」とか「面白い、やってみたらいいと思うよ」等と答えるばかりだ。

 具体的なアドバイスはしないし、特に指針を示したりもしない。

 

 姫華にすべてを押し付けていると見なすか、邪魔になるくらいなら何もせずに見守っていると受け取るかは個々人によるだろう。

 もっとも、姫華が全幅に業務を担っているので、考え方の違いなどで揉める事もないのは利点かもしれない。

 

 遊佐が課長をしている第三課なども、基本的には主任の海江田夏美うみえだなつみと副主任の鹿野心絵しかのここえの二人が業務全般を分担して行っている。

 遊佐はもっぱら夏美達の提案に対して「オッケー」と頷くのと、何かトラブルが起きた時には「ごめんごめん」と仲裁をするくらいで、基本的には二人に任せているといっていい。

 第七課と似た性質といえるのかもしれない。

 

 他の課はどうかというと、第七課のように放任主義なところもあれば、とにかくノルマを果たせと積極的に介入してくる課もあるし、課長の言葉に一切従わない課もある。

 かと思えば、課長自らがダンジョンへ乗り込むような活発な課もあるし、適度に指導や助言を行うまともな課だってある。

 良く言えばバラエティに富んだ個性的な面々揃いであり、悪く言うならマイペースを通り越して自由奔放な者達が集っているのが現状の探索課なのだ。

 

「…………」

 

 姫華が《黒井商会》に入社した頃はあり得ない事である。

 彼女が新人の時代では、課長というのはとにかく課の社員達にノルマを果たさせるのが仕事であり、叱責や怒声を浴びせるのが毎日の日課だった。

 

「どうしてノルマがこなせないのォ!? ノルマはねぇっ、ご褒美なんだよォ!? ご褒美を貰ったら、次にご褒美を貰うために働くのッ!! そこんとこ分かってるゥ!?」

「今日稼いだら、明日も稼ぐ! ノルマを達成しなくちゃお賃金が出ないよぉぉぉ!! そんなんでいいの!? よくないでしょ!? 稼がなくちゃ探索者なんてやってらんねーでしょ!? だったらどうするの!? 探索するっきゃねーでしょ!?」

「ノルマを果たせないくらいなら、ダンジョンで死ね! そうすれば、少なくとも保険金は入るからな!! 遺族がいたら、香典くらいは出してやる!」

 

 といった倫理無用、人道無視の言葉などはジャブでさえなかった。

 脛に傷のあるような経歴の者も少なくないのが探索者業の常で、過酷な労働環境の中で辞める事が出来なかった者も少なくない。

 ダンジョンへの探索中に命を落としたり、逃げるように消息を絶った者も幾人いたか。

 退職できる内は幸せといえる環境であったのは間違いない。

 

「…………」

 

 そう思えば。

 今の《黒井商会》の労働環境や、待遇というのは大分マシになったといえる。

 ほとんどの課はノルマ達成を問題なくこなせるし、死傷率も大幅に減った。

 生き残る代わりに退職者は増えているが、安全に働いて生活していけるなら、何も問題はないではないか。

 

 太く短く、短期間で稼げるだけ稼いで辞めるのが一番なのだから。

 探索者が合わないと思ったなら、別の道を探してみて、そこを選んだというだけの話だ。

 

 だから、環境も整いつつあり、メンバーも揃っているこのタイミングこそが、姫華にとって退職を検討すべき時期なのだ。

 そう思ってはいるのだが……。

 

「……まずは今年の大仕事が片付いてから……か

「姫先輩? どうしたんですか」

「ううん、何でもないよ。今日は開発部寄って、鑑定部行くけど、モモはどうする? 一緒に来る?」

「そんなの聞くまでもないですよぉ~! 姫先輩の行くところに付いていきま~す! まぁ、こないだの探索結果も聞かなくちゃですし」

「それもそうだ。じゃあ、早速だけど行く?」

「はぁ~い! お供しまぁ~す!!」

 

 桃香は諸手を挙げて同意し、姫華はスケジュールボードの方へ寄り、二人分の項目に『午前、午後と社内業務』と書き加え、オフィスを出ていくのであった。

 まずは《技術開発部》に寄り、それから《財宝鑑定部》へ向かおう。

 時間があれば、年末に向けてのスケジュールや、資料作りなど、幾つか済ませねばとか、昼食は何を食べようかな等と考えつつ、廊下を歩いていく。

 

 

 


第23話

《姫華の準備期間④》


 

 

 

 《技術開発部》は、商会の一階エントランスより右側の東館に移動した先に広がる部署である。

 東館の一階、二階の大半を開発部のエリアで占めており、日々、探索者向けの武装や道具を開発している他、迷宮関連の企業や組織などからの依頼に応じて製品を作るのが主な業務だ。

 やや値は張るが、武装や道具のメンテナンスやクリーニングなども受注しており、その技術は確かなので他企業からも依頼が舞い込む事もしばしば。

 姫華と桃香が開発室へ訪れた時、室内で何やら話していた人々が一斉に顔を上げ、視線を集中させる。

 

「お疲れ様です」

「やぁ、姫華君に桃香君じゃないか。いらっしゃい」

「お疲れ様です、御巫みかなぎさん」

「お、お疲れ様です~」

 

 代表してやってきたのは小柄な少女……ではなく、技術開発部の主任である御巫神楽である。

 身長が150cmにも満たない桃香よりも背が低く、初見の者は彼女の年齢が30歳と知った時、大体が驚く。

 

 彼女に幼い印象を抱いてしまうのは、身長の低さや顔立ちの幼さに加え、格好にもある。

 白衣の上に袖が余るくらい長い黒色のコートを着込んでおり、手が袖からまったく出ていない。

 身長が低いゆえか、それともコートが大きすぎるからか、プリーツ部分が床に届きそうなほどだ。

 

 本人がどこか芝居じみた口調で話したりするのも、余計に背伸びした子供感が拭えないのかもしれない。

 とはいえ、技術職としての能力は確かだ。

 技術開発部で作り上げた武装や道具の内、その半数以上は彼女が考案し、実際に実用段階まで作り上げているのだ。

 

「メッセージの方見ました。《ブレード》の修理が終わったとか。それに《シールド》のテスターを求めているそうですが……」

「そうなんだよ!」

「っ!?」

 

 姫華から用を伝えると、御巫は目を見開き、バァッと両手を上げる。

 とはいえ、袖が余りまくっているのでその挙動はただただ幼い印象が強い。

 いきなり声を弾ませ、笑顔も弾けさせる御巫に、慣れている姫華は瞬き一つしなかったが、まだ彼女に慣れていない桃香の方は微かに肩を震わせる。

 

「《ライフシールド》のバージョン0・9が出来てねぇっ! 是非とも見てもらいたいんだけどもねぇっ! でもねぇ、まずは先に姫華君のブレードの方から見てもらおうか! 頑張って、修理したんだよ!」

 

 そう言い、御巫が手招きをすると、開発部のメンバーが落としたり傷つけぬよう、丁寧に銀の縁取りが施された黒色のケースを運んでくる。

 ケースを近くのテーブルまで運ぶと、御巫が目配せをし、開けるようにと促す。

 

「開けてみても?」

「もちろんだともぉ! 最初は姫華君が開けて見てほしい! そして触ってみて、振ってみてもらいたい! 欲を言うなら戦うところも見てみたい! でもまずは開封の儀だよ!!」

「では早速……あ、その前に修理、ありがとうございました」

「君は律儀だなぁ! こっちは修理代を貰っているし、君にはいつもテスターを頼んでる立場だから、礼には及ばないし、気にする必要なんてないのさっ。って、そんな事はいいからさぁ! 早く開けてごらんよ! さぁっ、さぁっ!!」

 

 長い袖をぶんぶんと振り回し、まるで子供のように急かす御巫に頷き、姫華はケースを開く。

 近くにいた開発部のメンバー達もいつの間にかワラワラとやってきており、桃香も横から覗きこみ、見覚えのある武器に懐かしさを覚える。

 

「おぉ、久しぶりに見ました~。姫先輩が何カ月前だったか、使ってましたねぇ~」

「そうそう。いつも私が下手に扱うもんだから……あの時、思い切りフルバーストしたばっかりに…………」

 

 ケースの中に納まっていたのは、《リボルバー式エンジンブレード》と呼ばれる武器だ。

 外観は、ざっくばらんに言ってしまえばリボルバー式の拳銃の柄に、長い白銀の刀身を取っ付けたような見た目である。

 西洋風の大型剣と銃の機構メカニズムを組み込んでおり、そのフォルムを好む者もいるのだが実用性としては疑問を呈せざるをえないだろう。

 なにせ…………。

 

「いや、私はね。そのリボルバー式エンジンブレードを使う姫華君を大いに評価するよ! なんといっても、シリンダーに薬莢を入れるところからして、ガンマンさながらの気分でワクワクするというのにだ、いざ戦いとなったら対象を斬りつけるタイミングに合わせて引き金を引けば、中のマイクロエンジンが燃焼炸裂して刀身を振動させて、斬撃の威力を高めるという使い手次第の武器なんだから! 反動はあるけれど、連続で引き金を引く事で飛躍的に攻撃速度を加速させる事も可能だし、刀身に取りつけたジェット機構を噴射させて一気に距離を詰めたり開けたりも可能だし、リボルバーであるゆえに六発という限られた弾薬数を踏まえた立ち回りなどにもロマンを感じざるを得ないと思うね。激闘の中で全弾使い切ってだ、シリンダーから一気に空の薬莢を排出した時の落下音なんて最高だと思わないかいっ!? それが激闘後の静寂に包まれている時なんて、スタンディングオベーションものだと思わないだろうか!?」

「はい、思います」

「だろうっ!?」

 

 御巫の問いかけに即答する姫華。

 

「接近戦で扱う上、ピーキーな性能だし、シリンダーやチャンバーの手入れを怠れば回転不良を起こしたりもするし、そもそも斬撃に合わせて引き金を引く意味が分からないとか言われたり、修理費用がやたら嵩むもんだから、探索者の皆には実に不遇で不人気だ。でも、そこもいいっ! 銃器部分や刀身部分で別々にメンテナンスだの行うもんだから、作業工程も多いし、その割には耐久性も決して高くないし、扱いを誤ればすぐに壊れてしまう。無骨な使い方の割には繊細な運用が求められる点も良いっ!! つまるところ、玄人好みのマニアック武器というわけだ。でも、そこが良いわけだ! だって、使い続けていれば、変わった人だの物好きだとは言われつつも、それを使い続けて尚も生き残ってきた猛者感も出てくるんだからっ! そうだろう!? 分かってくれるかいっ!?」

「えぇ、分かります」

「でしょうっ!?」

 

 あまり大きく表情が変わる事のない姫華と御巫だが、口調や声色からはご機嫌な気配がありありとしている。

 周囲でも頷く開発部のメンバーもおり、どうやらこの室内では姫華や御巫に賛同する者が多数派であるらしい。

 桃香もうんうんと頷いてはいるが、別にブレードの魅力を理解しているわけではなく、使い手が姫華であるからだ。

 これを別の探索者が手にして魅力を力説したならば、せいぜいが曖昧に返事する程度だろう。下手すれば白けた顔で見やるか、そもそもがまったく反応すらしないかもしれない。

 

「さぁ、御託は十分……いや、いくらでも語れるし語りたいのだが、ともかくもっ! 姫華君、まずは手にしてみてくれたまえよっ!」

「では失礼して……」

 

 ケースの中からリボルバーブレードを手にし、落とさぬように丁寧に持ち上げる姫華。

 刀身から柄に至るまでの長さは1メートル弱で、その重量は本来10㎏を超える。

 それを軽々と持ち上げる姫華であるが、これは製作の際に軽量化の魔法を込められているからだ。

 そのため、小枝レベルで振り回せるほどに軽くなっているが、あくまでも所有者が軽く持てるだけで本来の重量が損なわれているわけではない。

 

 10㎏を超える鉄製の刀身で斬られれば、その重量自体が武器であり、よしんば切れ味があろうがなかろうが、肉も骨も無事では済まされない。

 そこに引き金を引いて刀身を振動させ、さらに威力を高めるというのだから、使い勝手云々はともかく殺傷力は本物であろう。

 

 ただし、あくまでも()()()軽くなっている点は留意せねばならない。

 魔法を無効化、正確には魔素を一切合切無効化されてしまえば、たちまち()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「君は鉄製だから頑丈で重たいって? ははは、頑丈なのは間違いないけど、重たいなんて勘違いだよ。君は華奢で羽のように軽々とした素敵な武器なんだよ。駄目だなぁ、自分で重たいなんて勘違いしちゃ~。自虐ばかりしてちゃ魅力を損なっちゃうよ?」

 

 などと言ったかは定かでないが、軽量化の魔法を唱えられ「そっかぁ……軽いんだぁ……」とブレードが自身の重量を錯覚しており、使い手に扱いやすい重量となっているのだ。

 ゆえにふとした拍子に「本当は重いよ君は」なんて言われて思い出した時には、一気に重みが襲い掛かる。

 便利と思いきや、ますます運用に慎重さが求められる一因なのであった。

 

「ん……」

 

 話を戻すと。

 姫華は銃のグリップ部分を思わせる柄の部分を握り、軽く素振りをする。

 ぶぅん、ぶぅんと重厚感のある風切り音を響かせ、姫華は握りの具合を確かめたり、シリンダーを開けてみたり、刀身の輝き具合を眺めたりとしている。

 その様子に満足そうに頷く御巫。

 

「うん、ばっちりだと思います。久しぶりに握っても違和感がないし、振っても馴染みが抜けてないです。流石ですね」

「そうかい! そう言ってもらえたら開発冥利ってもんだよ! 次に探索する時、広くて使いやすい場所だったら是非とも使ってみてほしいね! そして、また感想を教えておくれよ!! まだまだ伸び代や改良の可能性、余地は残されているだろうからねぇ!」

「えぇ、ありがとうございます。それで、シールド……の方ですが」

「おっと、そうだったぁ! まずはこれを見てもらえるかなっ!」

 

 そう言うと、御巫は袖を捲り、手首までさらけ出した。

 左右の前腕には銀色のブレスレットをしており、中心には青蘭色の宝石が埋め込まれ、ぼんやりと淡い輝きを見せる。

 それをマジマジと姫華と桃香は見つめるのであった。

 

「ブレスレットタイプまで縮小したんですね」

「そうなんだ! これは大分進歩したといっていいはずだろう!? 前回のバージョン0・8は、サイズと重量の面で課題が出ていたからねぇ! 身に付けたままだと邪魔だという声すらあったから、重点的に改善を施したんだ! もちろん、シールド機能は据え置きだから安心してくれたまえよ!」

「へぇ……流石は御巫さん。これなら、手首にも収まるし、戦闘でも邪魔にならないと思います」

「嬉しいねぇ! 嬉しいけどもだ、嬉しさで私が忘れる前に本題を伝えておこう!! このライフシールドでさ、姫華君や何人かにこれのテスト運用をお願いしたいんだよ!! もちろん、ワザと攻撃を食らってほしいだとか、そんな無茶ぶりはしないとも! もしもダメージを受ける機会があったら、機能していたのかとか、装着してみて不快感だとか、行動に支障がないかとか、知りたい事は山積みなのだよ!!」

「なるほど」

「え、すいません。私分からなくて聞きたいんですけど、シールドって……これで攻撃とか防げるんですか?」

 

 桃香の方は見覚えのない道具だったゆえに、なんとなしに聞いたのだが。

 それを耳にした御巫はそうこなくっちゃといわんばかりに、嬉々とした顔で頷く。

 

「うん、桃香君の疑問も分かるとも! 百聞は一見に如かずというやつだ。何かその辺にある……なんだったら、姫華君のソレで私に斬りかかってみてもらえるかいっ!?」

「いや、流石にそれは……万が一、怪我でもされたら私が耐えられません」

「はっはっは、見くびらないでおくれよ! このライフシールドの耐久性もそうだが、今回のシールド機能と範囲は歴代最高峰なのだから! どこに斬りかかっても即座にシールドを張ってみせるともさ! たとえ姫華君の攻撃でも、一回くらいなら防げるだろう! 多分、いや、おそらくきっと多分いけるはずさ!」

「うーん……しかし……」

 

 珍しく言い淀み、素直に従わない姫華。

 御巫の方は自分の技術力に自信があるためだろう、やや不満そうに唇を尖らせつつも、「かかってきたまえよ!」と両手をブンブンと振り、手首のブレスレットを強調する。

 齢30歳であり、開発部の主任たる彼女なのだが、如何せん貫禄に欠け、怒っていても威圧感や圧迫感とは無縁であった。

 

「そうしましたら、デコピンで許してください。ただし、思い切りやります」

「……ん、んむむ、まぁ、姫華君のデコピンなら十分なダメージになるだろう! よし、やってくれたまえよ!」

「はい。――――ではっ」

「んはぁっ!??」

 

 言って御巫が了承するや、姫華が近くのテーブルにリボルバーブレードを置き、次の瞬間には室内の誰もが目に捉えられぬ速度で御巫に肉薄し、ぎりぎりと音を立てて中指に力を入れ、そして弾いた。

 ただのデコピンとは百歩譲っても言い難い衝撃が周囲の人々に届き、微かに遅れて何かが弾けたような破裂音が聴覚を刺激する。

 姫華があらかじめ宣言していなければ、何をしたのかさえも、人々には理解しえなかっただろう。

 

 シールド越しにデコピンを浴びた御巫ですら、何をされたのか咄嗟に分からなかった。

 姫華が迫り、中指が眼前に迫ったと思った瞬間には、視界が天井を捉え、次いで身体がバランスを崩していたのだ。

 あわや床に倒れなかったのは、姫華が身体を支えていたからに他ならない。

 

「す、すみません。本気でと言いつつ、手加減はしたのですが」

「いや、本気で食らっていたらどうなっていたか分からないだろうねぇ……」

 

 実際に姫華のデコピンを受けてみて、先ほどの自分の発言に些か思うところもあったのか、トーンダウンした御巫であった。

 だが、それでもすぐにシールドの状態を確認するべく、手首にブレスレットをまじまじと見つめている。

 

「うん、衝撃は来るけど痛みはないし、シールドは機能しているねぇ。とはいえ、これだけだとどうも桃香君に伝わりにくい気もするなぁ」

「えっ!? あ、いやっ、十分に分かりましたよぉっ! もう大丈夫ですからっ!」

「いやいや、せっかくのシールドだし、もっと見てほしいなっ! ……そうだ、トレーニングルームへ行こうじゃないか! そこなら、魔法も多少使えるし、もっとわかりやすいはずさ!」

「いや、あのぅ…………」

 

 自分の発言を後悔した桃香であったが、尚も遠慮しようと声を発した時、肩に手を置かれて振り返る。

 姫華が小さな苦笑を浮かべ、抵抗の無益さを諭すように小さく首を振るのであった。

 

 





◆現時点での如月姫華◆

精神汚染度
67%(-3%)

赤、%変更して使用


個人知名度
1000人程度(+3人)

赤、%変更して使用


※変動の内訳

《姫華の精神汚染度》
・自分の進退について悩む(汚染度+)
・白百合桃香と接している(汚染度-)
・技術開発部で過ごす(汚染度-補正)
・リボルバー式エンジンブレードが復活(汚染度-)

《姫華の個人知名度》
・技術開発部の新人達が今回、姫華の事を知る
(名前は聞いていたが、実物を見るのは初めてだった)


◆Tips◆

【Tips】 技術開発部
 《黒井商会》の生命線の要その2か3くらい。
 探索者達が集めてきた資源や素材、財宝などを加工して商品開発に協力したり、新しい武装や探索道具を作っては探索のサポートをしたりする。
 探索者達と関わる機会も多く、友好的に接するため、姫華にとっては数少ない居心地の良いところ。

【Tips】 御巫神楽
 技術開発部の主任の一人。
 身長は150cmにも満たず、顔立ちも幼い上に変な演技がかった口調で話すものだから、背伸びした子供感が拭えない。
 でも実年齢は30歳。あと乳がでかい。

【Tips】 リボルバー式エンジンブレード
 ロマン。元ネタはガンブレード。
 細かい事は設定一覧を見てもらったらいいかもしれない。

【Tips】 ライフシールド
 便利アイテムだが、あとどれだけ耐えられるのかとか、どこまで防いでくれるのか、分かりやすい指針もないので、なんとなく不安が残るアイテム。
 どうやって身体全体を覆うバリアとか出してるのか、そんな事を真面目に考えても私に分かるはずもなく、それを理論的に分かりやすく説明できるはずもなかった。
 でも出したいので出した。反省点は多いが悔いはない。

◆言い訳◆

 構成力が……。
 今回で開発部と鑑定部をまとめて終わらせるつもりでしたが、またズルズルと……。ごめんね~……。

 次回⑤で鑑定部まで持ち込み、その次が全体会議で……いい加減次のダンジョンまで話を進めたいと思うんですけども……。
 頑張って引き続きお話を打ち込んでいきます。

 商品開発や研究開発と一緒くたにしてしまってますが、許してください。
 別の部署で出すかもしれません(まぁ、出てこなくてもいい気もするので、設定だけに留めるかも)

 刀身にジェット噴射口が云々と書いてありますが、私の拙い頭脳ではメカニズムがまったくもって説明できないし、あっちこっちとエンジン機構やジェット理論を調べましたが、さっぱり理解出来ず、分かりませんでした。
 多分現実でこんなの再現したら、使い手の方が身がもたないと思います。最悪暴発とかしちゃって、戦う前から自死しかねません。
 ただただロマンとイメージ先行で造形しちゃってます。
 お許しあれ。

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