ブラック企業勤務、アラサー女探索者の迷宮探索   作:Yunoko

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第25話 《姫華の準備期間⑥》

 開発部にてシールドのテストを終え、次のテスターの約束も取り付けると、姫華達はエントランスへ行き、それから西側の廊下へと進む。

 

 《財宝鑑定部》は《黒井商会》の敷地内でも独立した別館であり、玄関を出て迂回して中庭から入っていくのが一般的である。

 姫華達、というか探索課の大半は、西側廊下に並ぶ空き部屋の一室から中庭へとショートカットして出ていくのが主流だ。

 

 空き部屋といっても、一応名目は鑑定部の倉庫代わりだったり、休憩室であったり、会議室だったりするのだが、基本的にほとんど誰も使用していないので実質空き部屋扱いなのだ。

 

 ちなみになぜ《財宝鑑定部》が別館として独立しているかというと、探索課の面々が連日とダンジョンからの収穫物を大量に運んでくるため、搬入しやすいようにと配慮したためである。

 

 まあ理由としては、ダンジョン産の怪しげな物を社内に持ち込まれたくないだとか、魔物モンスターから剥ぎ取った素材を見るのが嫌だとか、血とか臭いが残ったら仕事のモチベーションが維持できないなどの苦情陳情の類が社員達から寄せられ、それに応じたとの話もある。

 ただ、持ち込まれた素材などを加工したり精製するのに《技術開発部》の方へ持っていこうとすると、ぐるりと建物を迂回して東館へ向かわねばならないため、経路や動線といった構造的な配慮があまりされていないので実に不便である。

 

「お疲れ様です」

「お、お疲れ様です~」

「おぉ、姫華ちゃんに桃香ちゃんじゃん! いらっしゃいませだね! でも、今はちぃ~っとばかり待ってねぇ! 大忙しなのだ!」

 

 姫華と桃香が鑑定部のエリアに入った時、奥で何やら指示を出していた宝月由希ほうづきゆきが気付き、ぶんぶんと手を振りながらやってくる。

 その顔に浮かべる表情は、華奢な身体とも相まって人懐っこい小動物を思わせた。

 

 二人の訪れた鑑定部の内部は、別館で独立しているゆえか、周囲にあまり配慮しなくてもいいからか、とにもかくにも種々雑多であった。

 連日連夜、矢継ぎ早に休む暇もなく探索者達が収穫した素材や資源、財宝諸々を持ち込んでくるものだから、小まめに片づけている暇もないゆえであり、致し方ない面もあるのだが。

 

「そっちの角と牙はこっちに運んでー! そっちの鉱石類はあっち! あっ、こら! アーティファクトを雑に扱わない! 何かあっても知らないよ!!」

「魔導書と指南書はきちんと見分ける! まったく使い道が違うんだから!!」

「鑑定の終わってないやつはこっち! どの探索者の持ち込みかキチンと、タグとリストへの記入を忘れちゃ駄目だかんね!! 間違えたらえらいこっちゃだよ!」

 

 宝月の声が飛び、それに応じるように鑑定部の面々があっちやこっちへと動きまわる。

 資材搬入の軽トラックや大型トラックも商会裏手の方から出入りしており、運送会社みたいな雰囲気さえも感じられる。

 実際に運送会社にも委託はしているらしく、スケジュール化さえされていれば、ダンジョンまで引き取りに行ったりもしてくれるのだ。

 

「やーやー、お待たせお二人さん! ごめんねぇ、ばたついちゃってさぁ! うわははは」

「いえ、お疲れ様です。こちらこそすみません、お忙しいところに」

「なんの! 鑑定終わったって連絡したのこっちだし~。とはいえ、忙しいのはホントだから、手早く済ませちゃおうさ! こっちこっち!」

 

 慌ただしくめぐるましく動く鑑定部の面々を眺めていた二人だったが、数分ほどの指示を経て、宝月がやってくる。

 

 奥へ進む途中で鑑定部のオフィスが見える。

 流石に入り口や搬送庫に比べて片付いてはいるが、何かの書類やファイル、参考資料的な文献などがデスクや床の上に乱雑に積み上げられている。

 

 デスクに向かって一心不乱に何やら書類を書き込んでいたり、パソコンの前でキーボードを鬼気迫る顔で打ち込んでいる者もいた。

 彼ら、彼女らは姫華達に気付くと挨拶をしてくるが、一様に疲れた笑顔を浮かべていた。

 

 鑑定部の多忙さはこの時期、最高潮である。

 年末前の探索課に降りかかるノルマが大きい以上、集めてくる資源だの素材も多くなり、その分鑑定する手間暇も多くなるのだから。

 定まった時間に集荷されるのならまだしも、一日の中で不規則に持ち込まれてくるのだから、いつ頃が落ち着くという目安もありゃしない。

 

 鑑定部の人員は決して少なくないが、単に鑑定のみならず、資材の搬送搬入だの、他の課との調整や、場合によっては他社との交渉なども行うため、多岐に渡る業務をこなさねばならない。

 しかも、肝心の鑑定が大変なのだ。

 

「姫華ちゃん達の集めたやつがここ! で、リストが……あったあった」

 

 鑑定のための道具や文献が集い、雑多乱雑どころではない空間がそこにはあった。

 不規則かつ不調和なまでに並べられた、おそらくは鑑定道具であろう品々に一体どういう用途があるのか、姫華達にはさっぱり分からない。

 とりあえず、見ていて無性に整理したくなる程度に散らかっているのは確かだ。

 

 その中で、先日の《ステラモールダンジョン》での収穫物だけが、まるで外界から弾かれたかの如く、整然と規則的に並んでいるのがむしろ違和感でさえあった。

 

「内訳はこっちで、買い取り金額がこっち! さぁ、見てみて! そんでもって買い取るか、売らないか決めてちょ~だい!」

 

 姫華と桃香がリストをのぞき込むと、それぞれの資源や素材、財宝の名前とその買取金額がずらりと並んでいるのが見えた。

 

 瓶詰、あるいはペットボトルに詰められたポーションであれば、それぞれの成分が分析されて《治癒力促進》や《病原への抵抗力向上》だの《一時的な視力改善》といった効果も羅列されている。

 一時的な効果のポーションというのは比較的安価だが、効果の種類や増大具合にもピンキリがあるので、鑑定が終わるまでは探索者達も結構運任せな要素が強い。

 あと、基本的に味が美味しくない。わざとしてるのかと言いたくなるくらい、ポーションの味が不味い事で有名だ。

 なんなら、喉越しが良いだけでも価値が上がるくらいなのだ。

 

 逆に永続的に効果が伴いポーションというのもあり、そちらは同じ効果でも何十倍、何百倍にも買取金額が膨れ上がる。

 まぁ、一時間だけ視力が良くなるというのと、生きている限り良くなるものであれば、後者がより欲されるのも当然かもしれない。

 

 魔導書の類にしても、《火魔法の攻撃系統》だとか《水魔法の防御術の指南》や《風魔法で匂いを消す術》等々と分類分けされ、表紙にもそれぞれ付箋が貼られている。

 この手の道具は下級魔法でも一冊数万を超え、最上級のものであれば、数千万を下らないといわれている。

 

 魔法のいろはも知らない探索者でも気軽に魔法を行使できたり、あるいは時間がかかれど身に付けられるのだから、希少性は語るまでもないだろう。

 そのため、値段が付きやすい反面、探索者達が売らなかったり、あるいはノルマ達成のために一応売っておいて買い取るケースもしばしばだ。

 

 薬草なら《利尿作用・便秘解消》に《鎮痛・消炎作用》だの《胃痛緩和》とそれぞれに分けられ、特殊食品も種類ごとに分けられている。

 こちらは比較的入手しやすく、買取金額も安価な物が多い。

 籠一つ分でやっとこさ1000円前後だ。

 あんまり割に合わないのだが、使い道は多いので探索者としての評価ポイント(ほっとんど意味はない。営業課とか商品販売課あたりからは覚えが良くなるが、使える探索者として認識されるだけでメリットが実質ない)は上がる。

 

 ここから加工されて医薬品や漢方薬だのティーバッグとなって商品になると、途端にそこそこの値段になるのだが、その手間暇を考えれば妥当かもしれない。

 ファンタジー系ではお馴染みの、傷を癒す類のよくある薬草は意外と少なく、こちらはそのままでももう少し高く売れる。

 

 ちなみにこうした詳細を見極める鑑定技能を持つのは、《財宝鑑定部》において主任の宝月ただ一人である。

 というのも……。

 

「後任の方はどうですか、宝月さん」

「まだまだ時間が掛かりそうさぁ! 私って自分でも言うのもなんだけど、結構優秀な鑑定技能持ちみたい!!」

 

 言葉だけに限れば自信過剰とも受け取られかねないが、発言者がどこまでもあっけらかんとしていて、負の感情を刺激しないのは美点かもしれない。

 

「それにさ、私が上手く教えられないってのもあるけどねぇ~。感覚的すぎて、私の頭じゃ教えらんないんだもの。見て触って聴いて覚えるしかないのだ! 反復作業と勉強あるのみだよ!」

 

 宝月は《鑑定技能》を持っており、そこからさらに学習と経験を経て、鑑定部において不可欠の存在となっている。

 技能スキルというのは、探索者が生来持ちうる素質のようなものであり、後天的にはほとんど開花しないという。

 

 研鑽か、あるいは才能なのか、それとも両方か。

 宝月は、《黒井商会》でも随一といってもいい鑑定能力を持ち、時には他の迷宮企業からも鑑定の依頼が舞い込むほどに正確に見分けられるのだ。

 

 商会内で彼女を超える、または将来的に凌駕しかねない人材というのは、今のところ現れた事もなければ、その兆しさえもみられなかった。

 つまるところ、宝月が鑑定できない物は他の誰にもできず、彼女がいない間は停滞してしまうのだ。

 しかも恐ろしい事に、宝月が見抜ける()()()()()()を他の鑑定部の面々には正しく鑑定できなかった。

 

 いってしまえば、《財宝鑑定部》は実質宝月のワンマン状況にあり、彼女なくしては成立しないのである。

 後進の育成が進んでいないのは、上司としての不手際といわれればそうかもしれない。

 

 だが、彼女のノウハウを教わっても、まるで他の人々には伝わらず、浸透していかないのだ。それは彼女自身が言うように、教え方が悪いからなのだろうか? そのあたりは姫華にも分からないが、彼女の鑑定への知識や技術、観察眼を疑った事はなかった。

 鑑定に関する能力は間違いなく本物だと確信する。

 

 現状このままでは、宝月が何らかの事情でいなくなってしまえば、鑑定部は遠からず壊滅する。

 宝月がいなくなった途端、急に秘められた鑑定能力が開花するといった事でもない限りは確実といってもいい。

 

 そうなれば、割高でよその企業に鑑定を依頼するしかなくなり、大幅なコストアップだ。

 コストが上がれば、その分の皺寄せは探索課にもやってくるだろう。

 つまるところ、探索課にとっても彼女の存在というのはノルマにも影響を及ぼすし、鑑定にも関わるしで、甚だ重要なのである。

 

 他の商会においても、優秀な鑑定能力を持った人材は不可欠で、いくらいても足りないくらいだ。

 引き抜きの可能性は大いにあるとされ、事実「こないだスカウトあったよぉ~」と隠す事もなく話すものだから、人材への情も待遇も冷淡とされる《黒井商会》ですら、彼女への扱いには気をつけているという噂もある。おそらくは事実だろう。

 彼女への給与というのは、役職手当を差し引いても高く見積もられ、待遇についても可能な範囲で優遇せんと働きかけており、メンタルケアにも積極的だ。

 

 もしも、他の社員がその事実を知れば、その優しさをほんの一部でも分けてもらいたいと思う事だろう。妬みや僻みの対象となる可能性だって重々考えられる。

 当の宝月本人は「やっぱり主任になると給料上がるんかぁ」と暢気に喜んでおり、商会の真意など露知る事もないのだが。

 

「総額でいくと大体だけど700万弱だね」

「えぇっ? 凄い凄いっ! 700万! 700万ですって姫先輩!!」

「思ってたより高い。ポーションの中に()()()()()()()()のと、翼竜関係の素材がやっぱり高いね。あとは鉱石とか魔石も意外と良かったみたいだ」

 

 はしゃぐ桃香に、冷静に分析する姫華。

 姫華の方はこれよりも一桁多かったり、あるいは数えるほどだが二桁多く稼ぐ事もある。

 彼女にとって、これは珍しくもない稼ぎなのだ。

 

「そうだねぇ~。今回の収穫だとポーションなら《解毒作用》と《即時治癒》がダントツだし、《抗菌作用》も最近は買い取りレートが上がってきてるから、売れ頃なのさ! あとはそう、やっぱり《三尾の翼竜》の素材は高いねぇ。エリアボスの素材なんてそんな頻繁に市場に出ないもんだから~」

 

 金銀の貴金属や宝石類などもそうだが、ダンジョン産の素材や資源にもその時々でのレートが存在する。

 市場で出回っている数が少なければ高く売れるし、あぶれているなら当然安くなる。

 

 探索に余裕を持っている者なら、鑑定だけ済ませておいて、高く売れる時に一気に売り払う者もいたりする。

 まあ、大概の探索者にそんな余裕はないので、本当に少数だが。

 

 レートで補足するとエリアボスなどは、一定周期で復活するものの、コンスタントに倒せるものでもなく、かつ初心者探索者などには荷が重いので、基本的に値崩れしない。

 

「確かに。翼竜の素材だけで200万近くですから。といっても、宝月さんに来てもらわなかったら運ぶのも諦めてたかもしれません。その分の手間賃とか引いてくれてますか?」

「そんなのいらないのだ! 輸送費や燃料代は商会持ちだかんね! トラック運転の時間だって仕事の内だし、時間をオーバーしたら残業できっちり貰うから問題なしさぁ! サービス残業なんてしないよ、私はっ!! わははっ」

「ありがとうございます。でしたら、お言葉に甘えます」

 

 けらけらと笑う宝月。

 姫華自身は申し訳なさそうな顔を浮かべるが、宝月の性格は熟知している。

 言わずにはいられないが、これ以上の問答をしても考えは変えられないだろうと「話を変えるのですが」と話題を切り替えた。

 

「なんだい?」

「アーティファクトはありましたか?」

「うん! あったともさぁ! えっとねぇ……」

 

 姫華達が集めてきた収穫物の中で、アーティファクトと呼ばれる迷宮産の道具が含まれていたのか確認すると、宝月はすぐに該当する物品を手にしていく。

 ちなみに説明しておくと、姫華の持っていた《完全遮音ヘッドフォン》とか《フォースセーバー》などがアーティファクトに該当している。

 

「このランタンがまず一つじゃん! これは、魔力を注入した分だけ周囲を照らす効果があるやつだね! つまり、電池とか不要ってワケ! ダンジョン探索に限定したら、地味に使えるやつだと思うよ!」

「ふむふむ」

「次にこれ! 香水瓶みたいなこれだけど、これは魔力を溜め込んでおける瓶だね! 入れておいてさ、魔力が足りなくなった時に開けたら、多分開けた人に魔力が返ってくる系だよ!」

「ほぉ……」

「そんでこれ! よく分からんちっちゃい部屋の絵の……えーっと、タペストリーってやつ? これは今回一番のお宝かもね! めちゃくちゃ収納量は少ないけど、この部屋に物を入れておけるんだ!」

「おぉ……!」

「わぁっ、凄いじゃないですか! なんとかボックスってやつじゃないですかぁ!」

 

 基本的に感情の揺れ幅が小さく、冷静極まりない姫華でさえ、思わず興奮交じりの声を洩らし、目を小さくだが見開いた。

 経験の浅い桃香でも、この道具の効果の有用さは理解できた。

 ダンジョンで拾った物をいつでも出し入れできる小型の倉庫みたいなもので、しかもどれだけ詰めても重さは変わらないから気軽に持ち運べる便利品。

 探索の道具を前もって詰め込んで、現地で都度出す事だって可能だし、使い道は実に多岐に渡るだろう。

 

 タペストリーという形状なので、出し入れにはほんの少しの手間が掛かるのと、持ち運び方だとか、入れておける収納限界が小さそうなのは、ある程度視野に入れた運用は必要だろうが。

 もっとも、そうした小さなデメリットなどは些事といえるだけのメリットを持っているアーティファクトだ。

 

「今回の中だとこの三つがアーティファクトに該当すると思うよ。買取金額は書いてないけど、もちろん売らないでしょ?」

「そうですね。引き取らせていただけたら……」

「だろうねぇ。よしんば売ってもさ、ここの商会のアーティファクトに対するレートの低さといったらもう! 価値を理解してこれなら鬼畜だし、理解してなくてこれなら、不勉強の極みってやつじゃん? 迷宮企業を名乗るんなら、もう少し現場への理解をしてほしいよね!!」

「まったくです」

 

 宝月の不満に対し、心からの同意を示す姫華であった。

 

「でさぁ、アーティファクトは売らないでいいとして、他はどーするぅ?」

「そうですね。売り上げの方はモモの方のノルマに充ててください。過剰分はそのままモモで大丈夫です」

「ひ、姫先輩っ! それはちょっと……」

「気にしなくていいよモモ。お金はあって困らない。それに私はノルマも達成してるし、既にそこそこの給料は確定してる。遠慮なんかいらない」

「そ、それは……そうですけど……」

 

 いくらなんでも、総取りなんて。

 そうした思いから口を挟む桃香であったのだが、姫華の返答に対しての歯切れは著しく悪い。

 

「お母さんや妹さんは大事にしてあげて。それに、来年あたりはモモだって免許取っておかなくちゃ。車がないと不便な事も多いし」

「そうですけどぉ…………」

 

 項垂れる桃香。

 桃香の家庭の事情や、将来的な面まで気にかけてもらい、嬉しくはある。

 しかし、先日のステラモールでの探索や戦闘は、大部分が姫華の力による結果が大きいというのに。

 そうした思いもあるのだが、お金があって困らないのも事実で、自分の無力さが恥ずかしくなり、何も言えない。

 

「うんうん。お金は大事! 姫華ちゃんはいつでもいくらでも稼げるからね! 貰える内に貰っておくといいさ! 使い道なんていくらでもあるんだし! お金はいくらあっても困らないよ!」

 

 宝月がよく分かっていないが頷きながら相槌を打つ。

 

「その代わり、じゃないけど……いくつか売らないで私が引き取ってもいい?」

「そんなの、あったりまえじゃないですかぁ! せめて、そのくらい貰ってください! じゃないと、申し訳なくてですよぉ」

「ん、ありがと」

 

 桃香に了解を得て、姫華がいくつかを指さしていく。

 

「売らない物はこの《解毒作用》と《抗菌作用》のポーションと、魔導書と指南書あたりですかね。モモは欲しいのない?」

「私は……ううん、よく分からないですし、大丈夫ですよ」

「そっか……じゃあ、今言ったのを省いてもらっていいですか?」

「いいともさ! 今ざっと計算してくぞぉ!」

 

 返事するや否や、宝月は手慣れた動作で売らないと決めた物をよけていき、埋もれていた電卓を取り出し、タタタンと子気味の良い音を立てて計算をしていく。

 いくつか差し引いても桃香のノルマは容易く達成し、かつ、過剰分はいくらか給料に反映されるのだから、今月の稼ぎはそこそこになるだろう。

 

 感謝してもしきれない。元々、今回の探索は強引に同行をお願いしたようなものなのに。

 桃香は繰り返しお礼を姫華に伝え、その都度姫華の方は「いや、私の方こそアーティファクトも貰ってるし、よっぽどお礼をしたいくらいだけど」等と返すのであった。

 

「…………」

「…………ふぅ」

 

 その後、鑑定部を出てからも桃香が気にしているため、姫華は小さく息を吐く。

 

「モモ」

「はい」

「お昼、食べに行こうか」

「あっ、そうですねぇ。お腹も確かに空いてきました」

「もし、さっきの事を気にしてるのならさ、もう一つだけお願いしてもいい?」

「えっと……」

 

 何を言うのだろう。

 見上げる桃香を見やり、姫華は優しく肩に手を当てる。

 

「お昼ご飯、奢ってもらってもいい? それで貸し借りなしにしよ」

「それは全然……いいですけどぉ」

 

 昼食を奢ったところで、まったく釣り合わない。

 そうした桃香の心中を察しているのだろう。姫華は尚も続ける。

 

「で、それでも気にしてたら私が拗ねるからね」

「えぇっ? なんで、姫先輩が拗ねるんですか」

「モモが落ち込んでたら、面白くないから。まぁ、そうさせたの私だけど……」

「そんなぁ」

 

 やや、否、かなり強引な理屈を通そうとする姫華を見て、数秒ほど経てから桃香の方も「はぁ~」と息を吐いた。

 珍しく子供じみた挙動の姫華を見ていて、いつまでもうじうじとしている気持ちも削がれたのかもしれない。

 

「分かりました。これ以上、気にするのナシにします!」

「うん」

「そんで、今後は姫先輩の手を煩わせないように、私、頑張りますからね!」

「うん」

「というわけで、切り替えて、ご飯食べに行きましょう! どこ行きますか!? 私が奢ってあげますからね!」

「うん。じゃあ、とりあえず車に乗ってから考えようか。なんにも考えてないし」

「分かりました! 早速、行きましょう!」

「お~」

 

 軽快な足取りで一人は歩き、もう一人はそのあとをゆっくりと追っていく。

 




◆現時点での如月姫華◆

精神汚染度
61%(-6%)

赤、%変更して使用


個人知名度
1000人程度(+11人)

赤、%変更して使用


※変動の内訳

《精神汚染度》
・桃香がノルマを達成した(汚染度-)
・後任が見つからない宝月の心境に同調して、勝手に仲間意識を抱く(汚染度-)
・アーティファクトを手に入れた(汚染度-)
・桃香とご飯を食べに行く(汚染度-)

《個人知名度》
・財宝鑑定部に出入りしていた業者や探索者、鑑定部の一部面々が姫華の事を知った



◆今回入手のアーティファクト◆


※第10話以来のニューゲイン!

【魔法のランタン】
レアリティ:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
入手先:色んなダンジョン内にてランダムに出現

 一見すると携帯型のランタン照明。
 その実、魔力を込めておけば辺りを照らす魔法のランタン。
 電池いらずで、魔力さえあれば半永続的に使えるので、あれば便利。

【魔力の小瓶】
レアリティ:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
入手先:色んなダンジョン内にてランダムに出現

 小さな香水瓶に見えるが、内部に魔力を詰め込んでおけるアーティファクト。
 溜めておける魔力はそう大きくないが、いざという時に使えるかもしれない。
 似たような瓶は結構あり、その持ちうる効果もバラバラなので、この魔力を込めて出せるタイプは少しだけ良い方。

【異次元タペストリー 小部屋】
レアリティ:★★★★★★☆☆☆☆
入手先:不明

 横50cm×縦70cmのタペストリー。
 一見、小さな部屋の絵が描かれただけのそれだが、この中に物を出し入れする事が可能。物を入れたからといってタペストリーの重量が増える事もなく、丸めておけば物が中からこぼれる事もない。
 ただ、入れておける総収納量は限られているし、縦横のサイズ以上の物は入れられないので、詰め込める物に限度はある。



◆あとがき・言い訳◆

 言い訳というか補足というかですが、買い取りレートの部分です。

 《抗菌作用》のポーションは、実質抗生物質みたいなもんですが、なんでレートが上がっているかというと、病気になっても中々出してくれないからとか、性病とかの疑いで病院行くのが恥ずかしいからとか、最初はちょっぴりだけ生々しい理由を書いてましたが、そんなの出してもなぁと思ってカットしました。
 ただ、主人公が女性である点について、あんまり前面に出すつもりもないですが、身体的な面でいくつかデバフになる描写はあるかと思います。
 それを出してもいいのか悩む点はありますが、仕事などしていて、こういうのは避けられないというか、絶対に影響あるやつなので、一度は触れるかも。

 薬草のレートはインターネットでちょっと調べつつ、こんなもんかなぁと思って決めました。
 便のお薬(マグミットやセンノシドだの)や鎮痛薬(カロナールとかロキソニン系とか)なんてドラッグストアで買えるし、よほど即効性とか効果が強くないなら、店で買えるので安いです。

 《三尾の翼竜》の素材関係は、象牙とか化石とかあれこれとネットで調べて、こんなもんかと決めました。
 割と高く買い取ってくれてますが、実際には加工を施して、さらにもっと高く市場で売られたりします。
 例えばですが、翼竜の牙のボールペンだの、御守りだの、彫刻とか。

 ツッコミどころは豊富だと自覚しておりますので、指摘点や改善点がありましたらお伝えくださると嬉しいです。
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