ブラック企業勤務、アラサー女探索者の迷宮探索   作:Yunoko

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第28話 《年末に向けて①》

 

「そろそろ12時だ。キリの良いところで会議を終わらせるぞ。最後に来月の忘年会だが……場所と時間は……――――」

 

 権守の声に、幾人かの探索者がぴくりと反応する。

 それから、会議室内の頭上高くに設置された時計へと視線を送る。

 

 半ば睡魔に負けつつあった者も不思議なもので、終わりが見えてくると急激に脳が覚醒をしてくるのだった。

 権守に目を付けられない範囲で身体を伸ばしたり、長時間椅子に座って痛くなった臀部や背中、肩などを軽く動かしたりとしていた。

 気の早いものは筆記用具などをペンケースに仕舞いだし、会議資料を既にまとめつつある。

 

 豪放で粗野なイメージをとかく持たれがちな権守であるが、意外にも時間には正確であった。

 予定開始時刻には必ず間に合うし、終了時刻までには必要な議題(一方的に話してばかりであるが)を終わらせる。

 会議前や途中に注意や指摘だのしている割には、スムーズに進行させるのだ。

 

 議題を進めていく上で、いちいち補足もしないのも一因かもしれない。

 あらかじめレジュメ等の会議資料を配布しておき、事前に当日の予定や内容を確認させてあるのだから、いちいち言わなくても内容は読み込んであるだろう? という言外での圧は感じるが、ともかくも内容は端的で簡潔であった。

 パワーポイントなども見やすく、説明も意外とまとまっていて分かりやすい。

 

 図体がでかい上に筋肉隆々で、さらに強面。

 それらを強調するように声もでかく、話す口調も威圧的なくせに、仕事は小まめで丁寧な部分が見え隠れしていた。

 権守を嫌う社員も、ズルズルと長引かせない点は評価しているくらいだ。

 

「――――これで全体会議を終了する! 午後からの主任会議で年末の分担を決定するから、手際良くこなして新年を迎えられるように! それでは、解散!」

 

 会議が終わり、権守とその後ろを歩く華沢が退室するのを見届けると、会議室内の人々は一斉に動き出した。

 机や椅子を運んでまとめていき、数人がフロア清掃用に使うのであろうフローリングワイパー(150cm幅の業務用サイズ)で床を拭いていく。

 

「ひ~めちゃん」

「ん、遊佐ちゃん」

 

 片付けを始めていた姫華に遊佐が声をかける。

 頬が微かに桃色に染まっているのは、右手に持つアルコールの入った缶の影響であろう。

 

「会議お~つかれ」

「さっきはありがと、遊佐ちゃん」

「なぁ~に、良いって事よぉ。でも、私は午後からいないけど、だいじょーぶ?」

「うん。大丈夫だよ」

「そっかぁ……そうだね、姫ちゃんは大丈夫だわなぁ。そんじゃ、頑張ってちょ~」

「うん。遊佐ちゃんも、何するのか分からないけど、お酒キチンと抜いてね?」

「あ~いよぉ~」

 

 ぶんぶんと手を振りながら、陽気な足取りで遊佐は去っていく。

 その後ろ姿が室内から見えなくなるまで、姫華は見つめていた。

 そんな時である。

 

「……あの、如月さん」

「はい?」

 

 姫華は背後からの細い声に反応し、振り返る。

 第五課の主任である伍藤が、気弱そうな笑みを浮かべて立っていた。

 

「先ほどは、あの、すみません。僕が怒られている時、助けていただいて」

「別に気にしなくていいです。助けたって言える事してないですし」

「いや、僕は助かりました。僕をその、助けてくれるのは如月さんくらいです。本当に、いつもいつも申し訳なく、感謝してるんですよ、本当に。いつも怒られているのを助けてくれるのもそうですし、ノルマを達成できていない時も相談に乗ってもらったり、アドバイスをしてもらったり、頼れるのは如月さんくらいで……」

「そんなお礼を言われるほどじゃないですが」

 

 人の感情の機微に対し、敏感とは程遠い姫華。

 そのためだろうか。

 

 どうして伍藤が繰り返し頭を下げ、感謝の気持ちを伝えてくるのか、よく分かっていなかった。

 彼女自身としては、伍藤を助けたという気持ちはあまりないのだ。

 ただ単純に、誰かが一方的に責め立てられている光景を見ているのが嫌だったに過ぎないのに、という思いが強い。

 

「ちょい、伍藤さん」

「あっ、はい、海江田さん……何でしょう」

「姫華にお礼を言うのは良いですけど、片付け。伍藤さんも手伝ってくださいね? 最初の準備はあとで来られてましたから、特に何もしてなかったと思いますんで」

「あっ、はい……そうですね。それでは、また午後の会議、よろしくお願いします」

 

 夏美の口調こそ丁寧に聞こえるが、淡々としていて一切の感情を排したような声色だった。

 事実、伍藤を見る目は冷たく、皮肉気であり、友好的な色はまるで見えない。

 伍藤の方も察するに余りあったようで、そそくさと第五課の方へ向かい、テーブルや椅子を片付けに入る。

 

「アタシらも片付けようぜ、ヒメ」

「えっと、うん」

 

 大会議室はそれなりに広いが、探索課の面々の数も多い。

 10分もしない内に片付けも清掃も終えて、「お疲れ~」「うぃ~」「終わったぁ」等々のやりとりがあちこちから聞こえ、誰からともなく廊下へと出ていく。

 

 午前の全体会議こそ、課長を除く(そう、本来は八人いる内の誰かが交代で出席するもので、今回は遊佐が当番であったのだが、なぜか第一課と第九課の課長まで出席する羽目になっていた)探索課の社員全員が対象であった。

 しかし午後からの会議は、各課の主任や副主任が対象だ。

 先ほどの挙がっていた議題について、より深く話し合い、決定した事項を各課のメンバー達に伝え、細かい指示を下していく事になるのだ。

 

「ヒメぇ~、モモぉ~」

 

 大会議室を出て、北館から探索課のオフィスが並ぶ西館へと向かう途中。

 廊下を歩く姫華と桃香の後方から、聞きなれた声。

 振り返らなくても声の主は分かっていたが、二人の後方にいたのは夏美であった。

 彼女は勝気な笑みと共に手を振り、その後ろには心絵や第三課の面々も並ぶ。

 

「二人も今から休憩がてら飯だろ?」

「うん」「そうです!」

「だったら、一緒に三課で昼にしねぇか? たまにはウチに寄ってけよ」

「いいけど。モモもそれでいい?」

「聞く意味ねぇだろ~。ヒメが来る以上、モモは来んだろ?」

「あったぼうですよ! 姫先輩が行くところは、私の行くところですから!」

「素直だなぁ、モモ~。素直なのは良い事だぜ」

 

 目を見開き、鼻を鳴らしてウンウンと頷く桃香。

 想像通りというか、まったく予想通りの反応が返ってくるものだから、思わず笑みを零す夏美であった。

 

「伍藤だけどさ、アイツ、絶対にヒメに気があるって!」

 

 第三課オフィスの会議室兼休憩室で昼食を摂っていた時、不意に夏美が話題を切り出す。

 

「そうかな? 伍藤さんが? 私を?」

「そうだよ! 見たろ、さっき話しかけてる時の顔! にやにやしてたじゃん!」

「そうですよぉ! 気のせいじゃなかったら、姫先輩の胸元あたりに視線いってましたよ! 危険だと思いましたぁ!」

「だよなぁ、モモ!」

「ですよぉ!!」

 

 夏美と桃香はこの時、妙に意気投合している。

 話の中心である姫華はピンと来ていない。

 

「別に私なんて気にしないと思うけど」

「またぁ! ヒメは自己評価低すぎ!」

「そうですよぉ! 姫先輩は美人でスタイル抜群でかっこいいお姉さんですもん!」

「えっと……お世辞が過ぎる」

 

 あまりストレートに褒められると流石に照れるのか、姫華は小さく俯いた。

 だが、夏美も桃香もそこで止まりはしない。

 

「いーや、ただの事実だし! なのにヒメは隙だらけだし、勘違いして寄ってくる奴らの多い事、多い事」

「そうなんですか!?」

「おうよ! 告ってくる奴が何人いた事か! ヒメは基本的に怒らないし、拒絶しねぇからなぁ。ワンチャンあるかもって思いこむ奴が多いわけよ」

「へ、へぇ~! で、でも、それって全部断ってきてるんですよね!?」

「そりゃそうよ! ヒメは肝心なとこでガード固いから、どいつもこいつも玉砕していってんだぜ! 鉄壁よぉ!」

「おぉ!」

 

 何故か夏美が誇らしげに語り、桃香は手を叩いて喜んでいた。

 当の姫華は気恥ずかしそうに昼食のサンドイッチを口にしていた。それを心絵や第三課の面々が微笑ましそうに眺める。

 

「根強いファンが二人だね、姫華ちゃん」

「ファン……ファン、なのかなぁ?」

「熱狂的なファンじゃないスか? ウチの夏美パイセン、いっつも如月先輩の事を自慢してるっスよ」

「そうなの?」

「そうっス! 愛生あおいちゃんも聞くっスよね?」

「へぇっ? あっ、うん。探索とか会議とか、訓練の時とか、いっつもお話に聞いてます……!」

「そうなんだ……」

 

 心絵や、第三課の面々達も姫華に話しかける。

 胸元まで開いたシャツから、よく陽に焼けた肌を露わにしている若手社員の常夏小麦とこなつこむぎや、癖の非常に強い髪をした、同じく若手社員の文月愛生ふみつきあおいの二人が声を弾ませる。

 

「でもま、夏美パイセンや桃香パイセンほどじゃないっスけど、ウチらも姫華先輩のファンだと思ってるっスから!」

「い、いっつも応援してます! さっきも、会議の時、毅然としててカッコ良かったって思ってます……!」

「たーしかに! あのぶちょーに言い返せるって、やっぱ姫華先輩はパねぇ人っス!」

「えっと……ありがと」

「いえいえっス!」

「わぁ、如月主任にお礼言われちゃったぁ……!」

 

 「きゃぁ~」と顔を見合わせる常夏と文月。

 何がそんなに嬉しいのか、姫華には分からない。

 ただ、一歩引いた立ち位置で見守る心絵が可笑しそうに笑っていたので、つられて笑みを零すのであった。

 

 

 


第28話

《年末に向けて①》


 

 

 

 ささやかな昼食を終え、ほどなく午後からの主任会議がやってくる。 

 場所は東館三階、各探索課のオフィスが並ぶ廊下の奥にある広めの部屋だ。

 

 この会議室は、午前に使用した大会議室に比べると、遥かに面積も狭く、準備の手間も少なかった。

 第一課からは引き続き課長の飾田が、第六課は全員不在、他は概ね主任と副主任で出席している。

 午前との違いがあるとするならば。

 

大門寺だいもんじ、午後から参加かぁ?」

 

 午前の会議では姿を見せなかった第九課の主任、大門寺聖だいもんじせいがそこにいた。

 

 彼は一度見かければ、次から見間違える事はまずないだろう。

 2mを超える巨体、引き締まった筋肉、ホワイトアッシュの髪にいくつもの傷が残る顔、そして目元の見えぬサングラスと、まあ厳つい印象は拭えない。

 

 それでいてこの大門寺、実家は寺であり、こんなナリだがお経も唱えられるお坊さんなのだ。

 日頃は厳つい大型バイクで通勤、大の女好きを公言し、ほぼ毎日焼き肉や酒を嗜むなど、一般的な聖職者のイメージとは随分とかけ離れているが。

 

 そんな大門寺だが、現在彼の口元には猿轡らしきものを付けている。

 その上に養生テープも貼られ、喋らせるつもりはまるきりなさそうである。

 

「んごご」

 

 何か言いたそうだが、両手が自由であるにも関わらず、本人には猿轡を外すつもりはないようだ。

 出勤しているにも関わらず、会議を欠席した大門寺であるが、この場に並ぶメンバー達は特にその事を指摘したり、注意する気配はみられない。

 それどころか、彼の顔を見ては「あぁ……」とどこか納得したり、苦笑したり、からかったりと様々だ。

 

 概ね、誰も彼を責める様子もその気配もみられなかった。

 ただ一人を除いては。

 

「なんだお前、まさか第九課の主任か? これから会議だというのに、ふざけているのか」

 

 第一課の課長である飾田だ。

 猿轡に養生テープまで貼り、会議だというのに何故か口を開けぬようにしている大男に一瞬呆気に取られていたが、詰め寄って声を荒げて注意する。

 

 この場には飾田より上位に位置する者がいない。

 おかしな点があれば指摘するのは、上司としての義務という考えからである。

 

 それに、第一課の全員が会議に欠席という、ミスというには大きすぎるやらかしをしてしまい、権守に悪い意味で目を付けられてしまったのだ。

 ここは汚名の返上、ならびに少しでも名誉挽回をしておきたいという思いもあったのかもしれない。

 が、この状況においてそれは悪手であった。

 

「ん”~!!」

「セルフ口封じだとか、何を考えている!? 会議だぞ!? 意見を言わずに座ってるつもりか!?」

 

 もっともな事ではあるのだが、飾田は何も知らなすぎた。

 問題児揃いの第一課ばかりに意識が向いていたゆえだろう。

 

 大門寺がその見た目通り、屈強な肉体を活かして戦う探索者である事は聞き及んでいた。

 《黒井商会》でも指折りの強さで、あの神崎宗一郎や如月姫華と肩を並べるほどであるとも。

 だが、そこまでしか知らなかった。

 知っていれば、彼に()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「いや、飾田課長。その大門寺は口を開かせると良くないと思いますよ?」

「なにぃ?」

「確かに。そいつ、ダンジョンで呪い食らってまして。嘘が付けない、思った事を何でも口にしちまうんすよ。ホント、それ言っちゃやべぇとか関係ないんす」

「マジです。喋らせないのが一番なんで。そのままにした方がいいです。参加させといて、メモさせとくのが一番なんですって」

 

 夏美を筆頭に、幾人かの主任がやめておくようにと忠告や制止をする。

 心の底からの言葉で、その表情にも真面目さ以外の成分は含んでいなかった。

 だが、飾田には響かなかったらしい。

 

 呪い? ダンジョンで? 嘘が付けず、思った事を口にする、だと?

 冗談にしても、会議で発言しないための言い訳にしても、もう少し上手くするべきだろう。

 探索課の主任や副主任が揃いも揃って、何をふざけているのか。

 権守部長がいないのを良い事に、課長の自分程度ならどうとでも誤魔化せると思ったのか。

 

 考える内に飾田はムキになったのだろうか。

 一歩も引く気配を見せず、大門寺に再度「それを外せ」と指示する。

 

「ん”~! ん”もも~!!」

 

 大門寺は身振り手振りで断りを入れ、助けを求めるように室内の面々へ視線を送る。

 他の主任や副主任達も、最後の忠告といわんばかりに「どうなっても知らないですよ」だとか「あとで後悔しても知りませんからね」と言っているが、飾田は聞く耳を持たないようだ。

 意固地になっているのである。

 

「これ以上は言わん、外すんだ! 大体、話すのが危険だというなら、会議に参加してる場合じゃないだろう。それでも出てきた以上、主任としての責務を果たそうというのだろう? さぁ、ふざけてないで外すんだ!」

「あーあ……知んねぇぞ」

「すぐに口を閉じろって言うだけだろうに」

「参加してるだけでもマシなのになぁ……」

 

 飾田以外の者達は諦観の域に達したのか、どこか他人事のような目を向ける。

 この場で情熱的に業務を遂行しようとしているのは、飾田だけのように思われた。

 真面目ではあるのだろうが、不毛な行為を彼はしようとしていた。

 孵化すると信じ、無精卵を一生懸命に温め続ける行為にそれは似ている。

 

 観念したように大門寺はテープを外し、次いで猿轡も外す。

 口元が自由になった瞬間、彼はすぐに大きな掌で塞ごうと試みる。

 

「だっ、如月! 俺はお前に謝ら……ばっ、くそ、しゃべ、ンな……!! よりにもよって、()()かぁ……!!」

「んん?」

 

 口が自由になった途端に話しかけ、それでいながら自らで塞ごうとする。

 知らない者からすれば、不可思議な行動である。

 事実、飾田一人が不可解そうに、不機嫌な視線を送る。

 この期に及んで、まだ話せないと、呪いが云々と口走るつもりかと身構えた。

 

「如月、すまん! 俺はお前に謝る事がある! 懺悔、させてくれないか」

「えっと……どうぞ?」

 

 名指しされた姫華がキョトンとした顔で頷き、了承されたというのに大門寺は絶望的な表情を浮かべる。

 

「昨日の夜にムラムラしてた俺は、お前に似た女優で抜いちまった! 悪ぃ!! 罪悪感はあったんだが、知ってるやつに似てる女優だったのと、シチュが幼馴染みのやつだったもんだから、それが余計に興奮しちまってよぉ! 本当にすまねぇ!!」

「そうなんだ」

「嫌、違っ! 違わないぜ!! ただまぁ、雰囲気ってだけで、そこまで似てるわけでもなかったんだよな! やっぱ如月の方が良いって思ったぜ俺は! パイも詰めてるわけじゃないしな! あの女優はどう見ても偽モン詰めてやがった! ソムリエの俺には分かる! 顔も身体もお前の方が二段も三段も上だぁ!!」

「えっと……ありがとう?」

 

 大門寺ほどの厳つい大男になると、両手を拝むように合わせ、頭を下げてくるだけでも迫力がある。

 本人は謝っているつもりなのだが、その内容は如何せん、最低すぎた。

 言われた姫華は珍しく呆気に取られた表情を浮かべたが、特に嫌悪感などを表す気配もなく、ジッと大門寺を見つめるばかりだ。

 補足しておくが、もちろん喜んでもいない。

 

 周囲にいた面々は大門寺が何かしら言い出すのを予想は出来ていた。

 だが、()()()()()()()()であった。

 

 愕然として黙り込む者、「あーあ」と首を振る者、必死に笑いを堪える者、どう反応したものか困ったような顔をする者など、実に様々であった。

 そして、唯一怒り出す者もいた。

 夏美である。駆け寄り、大門寺の臀部目掛けて蹴りを放つ。鋭い蹴りであった。

 

「大門! てめぇ、マジざけんなッ! 馬鹿がおいごら”ぁ”!」

「ッてぇっ!! いや、待てよ夏美ぃ! 俺だって悪いとは思ってんだって! いやホント! マジマジ! でもよぉ、眼鏡で隠れ巨乳で幼馴染みで普段はクールな女とか、嫌でも連想しちまうじゃねえか! なぁ!?」

「知っかよぉ!! 一緒にすんなやぁ!」

 

 バシバシと背中を叩かれ、それでも大門寺の口からは情けない台詞が止まらずあふれ出る。

 抑えようと思って抑えられる類ではないようだ。

 

「えっと、大門寺君」

「あっ、はい。いや、本当に最低な事言ってごめんなさいでした。でもあらためて実物見ると、やっぱり本物の方が断然可愛いし、おっぱいもでかいし、スタイルも良いし、俺好みの良い女だと思いました」

「そう……」

 

 姫華に声をかけられ、流石に自分が何を言っているのか自覚のある大門寺は直立不動となる。

 本人は真剣に謝るつもりでいるのだが、それでも口から紡がれる言葉といえば、ロクなものじゃなかった。

 

 あらためて恐ろしい呪いだと、幾人かが、特に男性の主任や副主任は思った。

 社会的に抹殺されるであろう、危険極まる呪いだ。

 他人を肉体的に害するわけでないにせよ、精神的には苦痛や嫌悪を感じる可能性は大いにある。

 実際、こんな事を言われて怒るでもなく淡々としている姫華が不思議でならなかった。

 

「大門寺君はえっと、なんだろ、スッキリしたって事でいいのかな?」

「スッキリて……あぁ、もちろんだ! だが、本音を言えばお前をむごご……!!」

「じゃあ、まあ良かった……ね?」

 

 終始淡々としたものである。

 当の言われた姫華が一番落ち着いているまであった。彼女に羞恥心だとか、そういった感情はないのだろうか。

 怒り心頭だった夏美でさえ、「えぇ……」と呆気に取られてしまい、言い出した大門寺の方もマジか? と言いたげな顔をしつつ、必死に口元を抑えている。

 

 大門寺の口を開放してしまった飾田の方は、もはや愕然驚愕としている。

 だが、我に返ると慌てたように大門寺へと詰め寄っていった。

 

「な、なんだお前……今のは思いっきりセクハラ行為だぞ!? 七課の如月主任だったか? 君はこいつを訴えてもいいんだぞ!?」

 

 言ってから、自分が大門寺に喋るように指示を出した事を思い出し、ここに至ってようやく、ダンジョンでの呪いに対する自分の無知を知るに至った。

 しかし、こんな事まで馬鹿正直に口に出してしまう呪いがあるとは……。

 だが、逡巡している暇はない。すぐにこの男の口を封じねばと判断した。

 

「大門寺だったか? とにかく、俺が悪かったから、すぐに口を閉じるんだ。それから如月主任、申し訳ない事をした」

 

 素直に謝罪が出来るだけ、まだマシなのかもしれない。

 幾人かがそう思ったが、飾田に対し、さして慰めにもならないだろう。

 言われた大門寺は力強く頷いたのだが、外した猿轡や養生テープを再度付ける気にもならず、一度道具を探しに会議室を出ていく。

 

「あー……なんだ、その……彼が戻ってきたら、主任会議を始めようか……その、申し訳なかった」

 

 すっかり意気消沈してしまった飾田を見ると、そこから追い打ちをかける気にもなれず、一同は頷くに留めるのであった。

 

 




◆現時点での如月姫華◆

精神汚染度
60%(-3%)

赤、%変更して使用


個人知名度
1000人程度(±0)

赤、%変更して使用


※変動の内訳

《精神汚染度》
・桃香や第三課の面々(夏美や心絵)と過ごす(-)
・夏美が他者を悪く言う(+傾向)
・夏美や心絵、桃香や第三課の面々が褒める(-傾向)
・大門寺にセクハラ発言を食らう(+)
・大門寺に褒められる(微妙に-)

※あまり表に出てないだけで、流石の姫華も堂々たるセクハラ発言は幾らか気にしている。
 周囲からは「あれでセクハラ扱いで訴えない如月さんすげぇ」という評価と、姫華相手に堂々のセクハラを行う大門寺に対しても微妙に高い評価を下す者もいたりする。ただ、夏美などは大門寺に対して圧倒的低評価を下しているが。


◆Tips◆

【制約の呪い】
 第九課の主任である大門寺が該当。
 彼の場合、「嘘偽りを口にする事を許さず。頭に浮かび言は包み隠さず」という制約を課せられている。
 思った事はすぐに言葉に出してしまうし、嘘を付く事は絶対に出来ないという、現代社会において非常にお辛い呪い。
 代わりに、身体能力が大幅に向上するため、接近型の探索者としては《黒井商会》でも随一の実力者。
 でも、メリットよりデメリットが強すぎじゃあるまいか。


◆あとがき◆

 今回で一通りの主任は集まったかなと(まだ話してないのいるけど)
 大門寺ですが、寺の息子の坊主で(呪い込みとはいえ)煩悩まみれな接近戦タイプって、面白いんじゃないかなとかプロット段階では考えてましたが、いざ出してみるとひどいな……。
 戦闘が絡めば、もう少し印象は良くなるかもしれませんが。

 社会人としてもそうですが、表に出てくるには色々と危険をはらんだキャラになってしまった気がする。
 でも、本音ダダ漏れなので、浮気も至難の業ですし、嘘もつけないので、短い期間に限れば恋人程度は出来るかなぁと思います。
 好きって感情もストレートに出てきますし。
 まぁ、下心もフルオープンですし、欲に忠実なので、結婚は厳しいと思いますけど。出来ても長続きはしないんじゃないかな。

 あと夏美はまぁ、その、アレです。
 この作品のタグにある通りでございます。桃香とはまた別の意味で姫華好き勢です。
 伍藤に対して、やたらと当たりが強いと思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、実際一度嫌いになると決めたら強い口調になる人は結構見かけます。夏美はそれです。
 まあ夏美の場合、姫華関連もあって余計に伍藤嫌いという一面もあったり。

 姫華に対して、現時点では周囲が友好的なのばかりと思われた方もいるかと思います。
 実際、10年以上現役で探索者やってて、英雄なんて通称もあって、目立ったヘマもしないので、顕在化した敵意というのは中々出しにくかったり。

 「あの〇〇さんは凄い人で~」とかって聞かされてると、印象値が良い方向に行きやすいですしね。
 想像してたのと違うと、却ってマイナスになりやすくもありますが。

 ただ、姫華も陰口は結構叩かれてると思います。
 悪口を絶対に言われないというのは、個人的には不可能だと思いますゆえ。

 今後、姫華が致命的なミスをして、主任から降格したり、ミスを繰り返して噂になれば、たちまち敵意とか、それに似た感情を持った人々は攻撃的になるかなと思います。
 一度見下されるというか、使えない人認定されると、周囲からの印象ってあっという間に固まっちゃいますからね。
 マイナスを払拭するのって相当に大変。

 知った風な事をほざいておりますが、多分私の勤めてる会社がドが付くブラック企業だから、余計に社員の負の感情が強まりやすい気もします。
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