ブラック企業勤務、アラサー女探索者の迷宮探索   作:Yunoko

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第31話 《天空旅館ダンジョン②》

 2020年11月27日の金曜日。

 その日は別段青天だとか、天候が恵まれたわけでもないのだが、なんとなく気温は穏やかで、過ごしやすい一日であった。

 

「…………」

 

 《迷宮探索第七課》のオフィス内。

 ホワイトボードを前にして、姫華は静かに佇んでいた。

 彼女の視線は、ボードに書かれた文字へと視線をそそぐ。

 手にはブラックの缶コーヒーを持ち、無意識に口元へと運んでは喉に流し込み、その都度後味に顔を顰めている。

 

「《月見霊園》……《四季の丘》……《星見時計台》……」

 

 今姫華が読み上げたのは、いずれもダンジョンの名前だ。

 その下には第七課のメンバーの名前と、探索予定の日時が記載されている。

 

「細井さんはフォローに入ってもらうとして……軽井君は勢いが強いし……サポートは安藤さんか……」

 

 可聴域に届くかギリギリの小さな呟き。

 もっとも、現在このオフィスには彼女しかいないので、多少声を出そうが誰も耳にする事はないのだが。

 

 それぞれのダンジョンへ赴くであろうメンバーを確認し、姫華は脳内で予測を立てていく。

 多少不安な点もなくはないが、中堅メンバーがそれぞれのダンジョンに名を連ねているし、日頃から安全第一、生存重視を謳ってきただけに、どのメンバーも生き残る事を最優先して探索に臨むはずだと信じる。

 それに、いずれのダンジョンも初級難度であるし、そこまで危険性は大きくない。

 焦らず慎重に、確実に探索をしていれば、まず不覚は取らないはずだ。

 まさか姫華がどの探索にも加わってフォローというわけにはいかないのだ。

 

 とはいえ。

 どんな熟練の探索者にも、絶対安全などという言葉は存在はしない。

 自分が《天空旅館》へ行く前に、各々のチームの具体的な探索ルート、どういった道具を揃えるのか、ダンジョン対策や罠など作動した際にどう動くのか、想定している探索内容の確認をしておきたいと考える。

 そう思いつつボードを眺めていると、二人ほど名前が足りていない事に気付く。

 

「そういえば、まだ赤城君と青瀬君の名前がない……悩んでるのかな」

 

 第七課のメンバー内でも中堅に位置し、それでいて下から数えた方が早い程度に若い層である二人が脳裏に浮かぶ。

 今日出勤してくるようであれば確認しておこうと思っていた時、オフィス入口の扉が開く。

 

おはようございます~……お疲れ様ですぅ~……」

「モモ、おはよ」

「あっ、姫先輩だ! おはようございます! お疲れ様です! 早いですねぇ!」

 

 どこかよそよそしさを感じさせ、聞こえるか聴こえないか微妙な声量でやってきた桃香。

 その表情は固く、自分の職場であるのに緊張どころか、警戒心すら感じているようだった。

 

 だが、それも姫華の姿を認めると、一転する。

 反転したといってもいい。

 弾けんばかりの笑顔と、愛嬌を振りまいて姫華の元へ小走りでやってくるのであった。

 そんな後輩を見て、姫華は少しだけ複雑な表情をした。

 

「……」

 

 男性苦手な桃香であるだけに、入社してからの彼女はやはり男性と極力関わらない立ち回りをしていた。

 入社直後などは、姫華がいなければオフィスにも入れない有様であった。

 それを思えば、一人でオフィスに入ってこれるだけでも、彼女の努力を感じられるが……。

 

「どうしました、姫先輩っ?」

「モモも成長したと思って」

「ホントですかぁ? 嬉しいですねぇ、姫先輩に褒められると……でもどうして?」

「入社した頃は、一人でここに入れなかったの思い出して」

「あ、あー……」

 

 嫌な事を思い出させてしまったかもしれない。

 いらぬことを言ってしまったと姫華は「ごめん、いらない事を言った」と謝ったが、桃香の方は逆に慌てふためき、「とんでもない!」と両手を振る。

 なんとなく気まずげな雰囲気となった時、オフィスの扉が開かれた。

 

「おはようございます」

「おはよーさんで~す」

 

 青瀬と赤城の二人が出勤してきたところであった。

 

「おはよう、二人とも」

「お、お疲れ様でーす……」

 

 青瀬にせよ、赤城にせよ、ホワイトボードを前にして佇む二人を訝しげに見やったが、口に出しては何も言わなかった。

 それぞれがノートパソコンで勤怠管理システムを開き、出勤の入力を済ませて幾分であろうか。

 青瀬と赤城の二人が姫華の元へとやってくる。

 

「如月さん、少しお時間をいただく事は可能でしょうか」

「うん、いいよ。場所移す?」

「そうしてくださると助かります」

「分かった。会議室に行こうか」

 

 横目でさりげなく見ている桃香をよそに、三人はオフィス内の会議スペースの方へと移動する。

 室内でそれぞれが座ると、赤城から口火を切りはじめた。

 どちらかといえば軽薄じみた態度を取りがちな赤城であるが、この時は神妙な気配を見せる。

 

「実は主任に折り入ってお願いがあるんスけど」

「なんだろう?」

「実は、俺らも《天空旅館》に行こうと思ってましてね。それで、嫌じゃなければご一緒に行けねぇかと」

「そっか、二人の名前がまだ無かったから私も聞こうと思ってたけど……」

 

 答えつつ、姫華は首を傾げた。

 それならそれでボードの《天空旅館》の下に名前を書けばいいだけではないか? と思い、その数瞬後に姫華も理由を察した。

 

「あぁ、そういう事か」

「そうっス。白百合からしたら俺らがいたら、嫌つーか、キツイってのもあるんで、許可というか確認をと」

「なるほど……」

 

 確かにあの場で、桃香がいる状況で話すのは酷だろう。

 よしんば桃香も交えて話したとして、「どう? 一緒に行ってもいい?」と聞けば、本人を余計に困らせた事は疑いようもない。

 桃香からすれば、本音で言えば男性が苦手なだけに、「遠慮してもらえたら……」となるだろうが、先輩にあたる人物にそれを言うのは中々にハードルがきつい。あとで人間関係にひびが入る事だって懸念すれば、嫌とも言い辛いはずだ。

 かといって「はい」と言えば、それはそれで負担になる。

 

 それを見越して赤城からもこっそりとした話に持ち込んだのだろう。

 飄々としていて、あまり他者がどう思おうが気にしないイメージを抱かれがちの赤城であるが、意外と目端が利き、気を遣える男なのだ。

 

「ま、白百合が嫌がるようなら別行動で動くだけなんで問題はないっス」

「分かった。私からもモモにさりげなく聞いてみるから、今日中には結果を伝えるね」

「お願いします」「お願いします」

 

 その後、昼の休憩時間に姫華は問いかける事にした。

 赤城や青瀬の名前は挙げず、《天空旅館》の探索に他の探索課で男性が加わりたいという話があるのだが、承諾しても構わないだろうか? といったニュアンスである。

 

 問われた桃香の方は、最初驚きで目を見張らせ、ぽかんとした表情を浮かべていた。

 だが、数秒程度の沈黙を経て、彼女はたどたどしく答える。

 それは姫華の想像と違う内容であった。

 

「えっと、大丈夫、ですよ」

「姫先輩が一緒なら、私は大丈夫です」

「でも、すみません。ちょっとまだ克服できてないので、姫先輩にくっついてまわりますけど……へへ」

 

 要約すると、このような返答であった。

 姫華は傍目には分かりづらいが、少しばかり驚いていた。だが、そうした反応自体が失礼だと思い、すぐに普段通りの顔に戻す。

 桃香なりに成長しているのだろう、と独創的でもない考えを浮かべ、後輩も日々進んできているのだと喜ぶと同時に、いつまでも停滞している自分を嘲る。

 

 四人か……。

 ふと姫華は脳内で考えを巡らせた。

 フォローする対象こそ増えたが、赤城も青瀬も近接戦闘が得意な二人だ。

 

 赤城は特にその傾向が強く、剽悍な動きで戦う探索者である。

 勘も鋭く、当てずっぽうで攻撃や罠を回避するなどの野性的な反射神経も見せるなど、近接戦に特化している。

 

 一緒に組む事の多い青瀬もまた、戦闘における比重は近接戦に傾いているものの、随所で魔法を駆使し、ダンジョン内の地形やギミックなども活用する幅広い戦いを行える探索者だ。

 

 この二人がいれば、接近してくる魔物を防いでくれるので桃香も戦いやすくなるし、探索や戦術の幅も広げられるし、教育指導の面でも一気に行える。

 実のところ、姫華にとっては悪くない編成に思えたし、《天空旅館》の攻略範囲についても再計画の必要があると前向きに考えていた。

 

 だが、昼休憩が終わってから書類業務を片付けつつ、探索の計画書を組み立てていた姫華の元に来客がやってきた。

 その相手は、彼女に再び探索計画の再考をさせる事になる。

 

「やぁやぁ、実は折り入ってお願いがあるんだけれどもね。《天空旅館》に我々も同行させてもらえないかい?」

 

《技術開発部》の主任である御巫と、その隣には不安げな表情を浮かべ、これから屠殺される事を理解した家畜さながらに怯えた葉月であった。

 第七課のオフィスへやってきて、姫華に相談したい事があると言い、この日二度目の会議スペースで開口一番に御巫が話したのが《天空旅館》への探索同行であった。

 唐突な内容に、姫華は目を瞬かせる。

 

「えっと、一応理由を確認しても?」

「うん。まぁ姫華君には話しておかないといけないだろうしね」

 

 そう言うと、御巫は説明をしようとし、持参していた書類をテーブルに並べる。

 姫華は視線を落とし、書類に羅列された文字を黙読していく。

 

「ワープ機能、バリア機能、魔物の召喚機能……」

「そう。つい最近まで、素材や資源を大量に確保できる空間開発だとか、輸送を可能とするシステム開発を急かしていたというのに。先一昨日になっていきなり、これらを最優先というのが上の皆さんの指示さ。とんだ方向転換だね」

 

 つい数日前のハイテンションぶり(第23話参照)に比べ、今日の御巫は顔にも声にも疲労を滲ませている。

 目の下には薄くだがクマもあり、ここ数日の間に過労や睡眠不足がたたっているのが窺えた。

 

「御巫さん、つかぬ事を聞くんですが休めてますか?」

「正直、いきなりすぎて開発案や設計図も中々ね……しかも来年中には目途を立てろというものだから、他の面々も同じくで残業続きだよ」

「来年中……あまりに急では?」

「本当にそうだよ。こちらとしても、せめて開発の糸口くらいは掴みたくてね……それか、開発が難しいとする根拠を示すくらいしなくては」

「しかし《天空旅館》に何か役に立つ素材は……あ」

 

 言いかけて、姫華は書類の文字とダンジョンの特性について顧みる。

 

「そうか、確かにあのダンジョンなら似通った罠やギミックがいくつかある……」

「そうなんだよ。他にも候補というかだね、該当するダンジョンもなくはないんだが、一番安全で確実といえるのが姫華君のいるパーティーだったんだ」

 

 申し訳なさそうな表情と声色であった。

 言葉通り、熟練した力量と経験を持つ姫華に付いていけば、安全はほとんど保証されたようなものである。

 だが、それは姫華に責任と負担を負わせる事になると御巫とて理解しているのだ。

 

 一抹の望みを持って来たのだろう。

 その事を普段は察しのよろしくない姫華でも感じたからこそ、無下にはしたくないと思った。

 だが、流石に非戦闘員の二人も加えてとなると……二人?

 

「そういえば、葉月さんも一緒にダンジョンへ?」

「うん。ただ彼女はまぁ、ペナルティだね。幾つも提出物をすっぽかしてたから、開発部長も大変お怒りになったのさ」

「うぅ~~……ワザとじゃないんですぅ。ちょっとうっかりさっぱり記憶から消え去ってただけなんですぅ。潔白ですぅ無実ですぅ」

「そんな言い訳は通るまいに」

 

 泣きそうな顔を浮かべる葉月であったが、御巫の声は淡々としており、容赦がない。

 突き放すまでいかないのは日頃の関係性ゆえだろう。

 

「初回であればまだしも、何度言っても是正しないのだから、多少の荒療治が必要というのもまぁ、理解できるのだが」

「葉月さんも開発の助手を?」

「いや、葉月は《ライフシールド》のテスターをするように言われているんだ。とはいえ、下手なパーティーにこの子を入れるのは色々と怖くてね。この子も下手したら巻き込まれて死にかねない」

 

 死ぬという単語にぴくりと葉月が肩を震わせる。

 御巫は口にしなかったが、勤務態度のあまりよろしくない葉月がもしもダンジョンで命を落としたところで、商会側はさした痛手とも思わないし、痛痒にもならないと踏んでのペナルティだろう。

 あるいは《ライフシールド》のテスターである以上、そう容易くは死んだりもしないと安直に考えているのかもしれないが……。

 

 相も変わらず、重要ではない人材に対する扱いの冷淡な会社である。

 だが、多少仕事が出来ないからとはいえ、流石に死なせてしまうのはかわいそうだと御巫は思った。

 だからこそ、ダメ元、かつ、迷惑を承知の上で姫華に相談へ来たのだ。

 

「すみません。少し、考えさせていただいてもいいですか」

「もちろんだとも。急な頼みな上、負担をかけるばかりだからね……」

「お返事は今日明日中にはさせていただきます」

「うん。すまない」

 

 申し訳なさそうに苦笑する御巫と、「許してくださいよぉ、何でもしませんからぁ~」と言いながら許しを請いながら歩く葉月を見送る。

 

「六人か……編成……探索経路……目的の達成……」

 

 誰もいなくなった会議スペースに姫華の声が虚しく響いた。

 出来るなら、御巫達も同行させて安全に探索し、なおかつ、姫華達共々でどちらの目的も達成させたい。

 本気で戦えば、少なくとも安全の確保は可能と思われる。だが、戦闘経験を積ませるのはかなり厳しい。それに、御巫達の目的であるダンジョン特性の解析を十分に行う猶予を作れるものか……?

 

「……駄目だな。一度、皆に確認しよう。他の人に応援を借りるなら、日程調整も考えなくちゃ……」

 

 

 


第31話

《天空旅館ダンジョン②》


 

 

 

 この日は何度会議スペースを活用するのだろう。ふと、姫華は思った。

 時刻は午後の3時。

 室内には姫華、桃香、青瀬、赤城の四人が座る。左側に女性陣、右側に男性陣での配置である。

 

「開発部の人を加えて六人……ですか」

「うん。まずは前提として、同行してもいいのか聞いておこうと思って」

「それは……」

 

 それぞれが小難しい顔を浮かべる。

 元々この四人編成でも、姫華の負担が少なくないと知っての事だ。

 そこに、戦闘能力がほぼ皆無であり、非戦闘員といっても差し支えない二人が加わるとなると。

 もっとも経験の浅い桃香でさえ、最初に浮かんだのは「厳しいなぁ」であった。

 

「もし、僕達が了承したらですが、如月さんはそのまま予定通りに探索を行うんですか?」

「そうだね……その場合は補助系の魔法が使える人をヘルプで加えると思う」

「そうですよね」

 

 最悪の場合、桃香の認識阻害の魔法を用い、御巫と葉月を遠ざける方法もある。

 だが、桃香の魔力量を踏まえても、長時間の行使は厳しいだろう。

 大体、認識阻害を行う判断に至る前に、姫華のフォローの間隙を縫って攻撃されてしまえば無意味なのだから。

 それに桃香の魔法が発動している時は味方側からも見えないのだ。最悪、乱戦の最中で思わぬ誤射をしてしまう可能性だってある。

 

 では、どうするのか。

 理想をいえば、敵の注意を引いたり、意識を逸らす事の出来る探索者が望ましい。

 あるいは、味方全体に補助魔法を行使できる探索者。それか、せめて回復魔法を行使できる探索者が加われば、安全確保の可能性は大いに上がる。

 

「ただ、第三課が結構駆り出されてて、当面ヘルプを頼むのは厳しい」

「あー……」

 

 諦観めいた声が響く。

 サポートに特化した第三課は、どこの課からも引っ張りだこで、特に激戦の12月などはほとんど埋まってしまっている。

 主任、副主任の夏美や心絵は特に激務で、「殺す気かよ! とりあえずサポート入れときゃいいかくらいに味を占めやがって! 味覚一つしかねーのかよ!」などと夏美が怒気を漲らせながら愚痴っていたくらいだ。

 それでも姫華が頼めば、多少無茶をしてでも融通は利かせてくれたのだろうが。それができる彼女ではなかった。

 

「もし駄目なら、七課の他チームを加えるか、よその企業の知り合いに依頼もアリだけど……」

 

 ただ、《黒井商会》が年末にノルマが集中するように、よその迷宮関連企業も大体同じくらい多忙となる時期なのだ。

 ダンジョン探索のスケジュールなどが調整できるのか、難しいところだろう。

 第七課の面々にしても、案として口には出したが補助魔法の使い手はほとんどいない。強いて言うなら副主任である細井が加われば頼もしいが、彼もスケジュールは山積みだ。今から再調整は難しい。

 

「流石に厳しいかな……」

 

 室内に座る面々を見やり、その表情や反応を確認しても、やはり難しいと判断せざるをえなかった。

 思わず呟いた姫華の声に、残る三人は自分達とて負担を掛ける一端と自覚しつつも、頷くしかない。

 開発部の同行を断るか、もしくは《天空旅館》への探索予定をずらすのか、そうした方向へ進みつつあった時である。

 その時、会議室の扉をノックする音がして、一同は意識をそちらへ集中させた。

 

「ん?」「誰だ?」

「はい、どうぞ」

「おやぁ? おやおやおや? ミーティング中だったかにゃー?」

 

 扉を開けて現れたのは遊佐であった。

 会議スペースを訪ねておきながら、能天気極まる声で問いかける。

 《迷宮探索第三課》の課長である彼女だが、その恰好は私服の上に浴衣姿。

 どこから持ってきたのか、なぜそれを着てきたのか、疑問や指摘すべき点は多い。

 だが、姫華にはその恰好に見覚えがあった。

 

 室内の人々が何か言い出す前に、遊佐はホワイトボードやテーブルに並んだ資料を確認し、凛とした表情を作る。

 

「やはり《天空旅館》か……いつ出発する? 私も同行しよう」

「……遊佐ちゃん」

 

 会社内では極力、呼称に気をつけている姫華であったが、この時は完全にその事を忘れて話しかけていた。

 唐突であるし、あまりにもタイミングの良すぎる登場。

 恰好を見る限り、姫華達の探索先を知っての来訪であるのは間違いないが、それにしても耳が早い。

 

「えっと、大丈夫なの? 遊佐ちゃんが来てくれたら助かるけど……」

「安心しな! 私も、実は借金返済で忙しくなりそうでさぁ! あ、後ろにいるのは消費者金融の督促さんだから! わははっ!」

「どーもー」

 

 軽快に笑うが、要するに遊佐の後ろに並ぶ男女は借金の取り立てだ。

 とはいえ、遊佐にも督促でわざわざやってきた消費者金融の社員のどちらにも後ろ暗さは感じられない。

 借金常連で、限度額ギリギリまで借りては最後に一稼ぎして返済するというのが、いつもの遊佐のパターンであるからだ。

 

「見くびらないでほしい。この遊佐ちゃん、返済滞納はあれど、取り立てから逃げも隠れもせん」

 

 いつだったか、そんなしょーもない事を堂々と言ってのけた事があった。

 事実、彼女は逃げる事もせず、社内でも消費者金融からの借金を公言する有様で、その気になれば、借金などせずともやっていけるだけの探索者としての能力もあるので、取り立てる側としても時期が来たら訪れるだけなのだ。

 あまりにも常習化しすぎて、外部の者にも関わらず、取り立てのために《黒井商会》への出入りが許されているのだから慣れというのは恐ろしい。*1

 

「遊佐ちゃんがいるなら……いけるか」

 

 どこか不安そうに遊佐を見つめる面々をよそに、姫華だけは先ほどより自信を持って頷いた。

 普段、ほとんど探索に出ない遊佐であるが、探索者としての技量や経験は確かだ。

 その事を知っている者が今ではほとんどいないのが、姫華にはもどかしい。

 

 とはいえ、遊佐が同行するならば、探索も戦闘も、一気に幅が広がる。

 あとは、来る12月1日までに計画を立て、準備を整えるだけだ。

 

*1
通常、ヤミ金とかは分かりませんが、消費者金融の督促担当が職場までやってくるケースは基本無いみたいです。ただ、電話や通知に対して何のアクションもしない場合、職場への連絡などはあるみたいですが。




◆現時点での如月姫華◆

精神汚染度
58%(+3%)

赤、%変更して使用


個人知名度
1000人程度(±0)

赤、%変更して使用


※変動の内訳
《精神汚染度》
・メンバー編成に悩む(+)
・各ダンジョンに挑むチームの安否が気になる(+補正)
・桃香の成長を感じた(-)
・黒井商会上層部の考えが理解出来ない(+)
・スケジュール管理が辛い(+)
・助力を頼みたいが、相手も忙しいのが分かっている(+)
・遊佐が探索に同行する(--)
・第七課の面々が、遊佐の実力を疑問視している(+補正)

◆Tips◆

【月見霊園】
 初級難度のダンジョン。
 霊園とある通り、ゴースト系の魔物が多く出現する。
 《セブンテイルズ》のエリアに点在するダンジョンで、第七課の攻略範囲。

【四季の丘】
 初級難度のダンジョン。
 名前の通り、四季折々の景色が広がる。
 《セブンテイルズ》のエリアに点在するダンジョンで、第七課の攻略範囲。

【月見時計台】
 初級難度のダンジョン。
 時間操作の罠やギミック、魔法を駆使する魔物が出現する。
 時間を操作してくるダンジョンや魔物への対抗策を考えたり、対策道具を揃えるのに有益な場所。
 《セブンテイルズ》のエリアに点在するダンジョンで、第七課の攻略範囲。

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