ブラック企業勤務、アラサー女探索者の迷宮探索 作:Yunoko
《狐女の仲居攻略》
天空旅館ダンジョン内にて広く出現する人型のモンスター。
探索者達は仲居、あるいは接待、狐女など、様々な呼称で呼んでいる。本編内では狐女で呼ばせてもらう。しかし姫華は「接待」と呼ぶ。ややこしー。
いずれもが可愛らしい狐耳に端正な顔立ちをしており、着物で隠れているが尻尾も備えている。
探索者達の事はお客さん扱いしつつ、発見するとおもてなしと称して攻撃を開始するぞ。
人懐っこい笑顔と挨拶で油断していると、接近して包丁で攻撃してきたり、扇などを用いて遠距離攻撃を仕掛けてくるので注意。
他にも、お座敷遊びの要領で投扇興や虎拳などを模した攻撃手段などを持っている。
とはいえ、不意を突かれなければそこまで脅威的とはいえない。耐久力も大した事がない。
だが、基本的に単独で襲ってくる事がない上、狐女同士で連絡をとって連携を図る厄介さを持つ。
放っておくと戦闘中、あるいは追跡中の探索者の特徴などを共有しはじめ、各階層で警戒状態となるため、会敵した際にはさっさと倒してしまうに限る。
「お客様、存分におもてなしさせてくださいやぁぁぁ!! エンジョォォイ!」
妖しく瞳を光らせ、一匹の狐女が両手に包丁を握り締め、接近する。
その速度は着物姿で動きにくいはずなのに、足先の力で俊敏に跳躍でもしているのか、裾は乱れさせず、それでいて尋常でない速度で一行へ迫った。
「うぉっ!?」
驚きの声を赤城が上げる。
先頭で構えていた赤城目掛けて突貫を仕掛けてくると思いきや、攻撃が届かぬ位置で飛び上がり、頭上から包丁を二本、否、三本続けざまに投擲してきたからだ。
それも、狙いは赤城ではなく後方で備えていた桃香や葉月、御巫を目掛けてであった。
「っ!!」
攻撃対象に選ばれた桃香達三名は、いずれもが反応に遅れた。
非戦闘員の御巫や葉月はもちろん、警戒を怠っていないつもりの桃香でさえ、包丁を回避する事も、弾いて防ぐなどの動きさえ取れなかった。
自動的にダメ―ジを防いでくれる《ライフシールド》*1の存在さえ、この時は忘れて身構える。
包丁という、妙に現実的な武器であったゆえか、余計に直接的な防御手段を取らせてしまったのかもしれない。
戦闘中に目をぎゅっと瞑ってしまうという、致命的なミスさえ桃香は冒してしまっていた。
だが、彼女らに刃が届く事はなく、別の金属音が響く。
「……っ?」
「モモ、怖いだろうけど目を瞑るのはやめておいた方がいい。赤城君、青瀬君は前に集中して」
凶刃を防いだのは姫華であった。
いつの間にか手には《リボルバー式エンジンブレード》*2が握られ、もう片方の手には
状況的にブレードで三本の包丁を瞬く間に弾いたのであろう……というのは推察できたが、飛来してくる包丁を冷静に確実に弾く技術に、桃香は率直に驚き、次いで守ってもらったという事実に感動した。
「さっすが姫先輩……やっぱかっこいい……」
思った事もそのまま口から漏れ出る有様だが、驚いてばかりもいられない。
前方では赤城と青瀬が交戦中であった。
「エキサイトしましょう!」
「エンターテイナーな私達!」
先ほど、桃香達に目掛けて包丁を投げたあと、その同タイミングで残る二匹の狐女が攻撃を仕掛けてきていたのだ。
頭上に意識を集中させ、後方が狙われてさらに意識がそちらへ逸れたところを狙う算段であったのだろう。会敵した瞬間に、後方の桃香達が狙い目だと判断したのであれば、恐るべき観察眼と判断力であったかもしれない。
だが、最後尾には姫華がいた。
このあたりは狐女達にとって誤算だったのだろうか。
不意打ちは防がれ、赤城達はすぐに前方を見据え、続く攻撃を防がんと構えた。
この時の流れは割と間一髪といってもよかっただろう。
あと半瞬遅れていれば、一匹の狐女がどのようにして取り出したか分からないが、突き出した槍の穂先が青瀬の胴体を貫かんとしていたのだから。
ライフシールドありきのため、実際に一撃を食らっても無傷で済んだであろうが、無かった場合には致命傷となりかねない。
「おらぁっ!」
赤城の短いが勇ましい声が響く。
彼の持つ斧は形状でいえばハルバードに近く、刃先で斬る事も、穂先で突く事も、柄で叩く事も可能と攻撃手段は幅広い。
狐女の放った包丁を柄で弾き、繰り出す槍の先端を叩き落し、がら空きになった胴を目掛けて穂先で穿たんと突き出した。
「ぐぎっ」
文字通り貫かれた狐耳の魔物からくぐもった声が漏れる。
目を見開き、くの字に身体を曲げ、苦悶の表情を浮かべたのを見て、赤城が目を細める。
人ならざる存在であると、流れる黒き血が証明してみせているのだが、ほとんど人そのものな姿であるゆえに、殺傷する事への忌避感だの罪悪感だのを抱く探索者は実のところ少なくなかったりする。
実際、非戦闘員である葉月などは「ひぇっ……」と目を固く閉じつつ顔を背け、探索者であるはずの桃香でさえ顔を顰める。目を瞑りそうになったのを抑えたのは、姫華に指摘されたばかりだからだ。
「ちっ」
赤城が舌打ちをしたのは、自分の行為に嫌気が差しただとか、そうしたものではない。
女性好きを公言する彼であるが、人間と魔物は別の存在であると割り切っている。そこにしがらみがあるようでは、探索業などやっていられない。
しばしば人型の魔物というのはダンジョンに出てくるし、そもそもが人の姿で油断させてなんていうのはオーソドックスな戦術の一つなのだから。
ならば、なぜ赤城が忌々しげな表情を浮かべているのかというと。
狐女の腹部を貫いた穂先が抜けないからだ。さらに、その隙を狙わんと包丁を構えていた狐女がすぐ傍へと迫りつつあるのを目視していたからである。
「エンターテイメントに殺らせていただき……ま”っ!?」
「!!」
驚きは赤城と狐女の二人(一人と一匹?)から同時に発せられた。
柄を離し、素手で迎撃せんとした赤城であったが、彼に迫る狐女の腹部へと槍が突き刺さったのだ。
文字通りの横槍を入れたのは、別の狐女と交戦していた青瀬だった。
赤城とほとんど同タイミングで一匹の狐女を倒し、その場から持っていた片手槍、正確には短槍と呼ばれるそれを投げたのである。
距離も短く、投げ槍として十分な威力を伴っていないが、不意を突かれた形での攻撃に狐女は態勢を崩す。
そこへ肉薄した青瀬の追撃により、完全に狐女は活動を停止した。死んだのだ。
「サンキュ、奏汰*4」
「借りは今度飯の奢りでいいよ」
「しゃーねぇ、貸しにしといてやらぁ」
助けた側も助けられた側にも気負った気配はみられない。
実際、青瀬の援護がなかったとしても、赤城は自身の拳でも戦う事が可能であったからだ。場所がここでなければ、得意とする火魔法を駆使して、より確実で安全な戦法を取っていたであろう。
「よっと……」
青瀬は倒れた狐女から槍を抜き、銀色の筒を腰のポーチへと戻した。
先ほどの戦闘では槍を投げた後に、銀色の筒……《フォースセーバー》*5と探索者達に呼称されるアーティファクトを抜き、魔力で形成した刃でとどめを刺したのである。
これは探索者達にも、あるいは魔物にも該当する事なのだが、手にしていた武器を失ったのを確認した時、好機だといわんばかりに攻撃を繰り出すケースは多い。
事実、攻撃手段を失ったのであれば、絶好の機会ではある。
だが、他にも武器を隠し持っていたら? 魔法などを用いる可能性はないのか? 魔物であるなら、別の攻撃手段だってあるかもしれないのでは?
慎重なあまりに好機を逃せば目も当てられないが、目に見える状況だけに囚われるのもまた、危険なのだ。
赤城や青瀬のようにメインの武器で斧や槍を手にしていても、他にもサブとなる武装をしている探索者は多い。攻撃手段が多岐多彩であって困る事はそう多くないのだから。
「お疲れ様。二人とも初見だったけど、大丈夫だったね」
「うっす。主任が後ろの方カバーしてくれたんで、安心して戦えました」
「一対一なら、それなりに戦えそうです」
姫華が労いの言葉をかける。
彼女にとってお世辞のつもりでもなく、これは本心である。
実際にここのダンジョンを挑むにあたり、仲居をしている狐女達と戦い、敗れた探索者は少なくないのだ。
にこやかな笑みと共に接近され、訳も分からぬ間に奇襲を受けて命を落とす者もいる。
最初の奇襲を防いでも、戦いの中で複数の狐女の連携に対し、捌ききれずに敗れる者だっていた。
あるいは包丁や槍だのを弾き、武器を失った彼女らを見て好機と攻めたところを隠し武器による逆撃で倒された者も。
この《天空旅館》において、もっとも数多く、遭遇しやすいのが彼女達であるため、彼女らとの戦いで勝てない程度では攻略などおぼつかない。
その意味では、赤城と青瀬の二人で三匹相手に勝利したのだから、まず及第点といっていいだろう。
「本格的な振り返りは客室を確保してからするとして……とりあえず、簡単にやろっか」
「はい」「うす」「はいぃ~……」
姫華の声に、青瀬、赤城、桃香の三名が集う。
「実際に接待と戦ってみてどうだった?」
「じゃ、俺から。ここみてぇな廊下だと、振り回しがしづらいんで、接近して炎でも纏わせて殴った方が良かったかなって」
「廊下や狭いところはその方が良いかもしれないね。欲を言うなら、遠距離対策に炎で防御も出来るといいかも。離れてる内は刃物も飛ばしてくるから」
「うっす」
赤城が頷き、一歩下がると次に青瀬が口を開く。
「次は僕が。正直、最初の奇襲にすぐ反応できませんでした。如月さんが後方にいなかった場合、白百合さん達に命中させてたと思います」
「まぁ、そのための前衛と後衛だから、気にしなくても大丈夫……って言いたいところだけど、怖い思いをさせてしまったのは私にとっても反省点だね」
「接近して戦う分には、一対一なら問題なく勝てると思いました。ただ、複数が相手だと厄介だなと思いましたが」
「うん。接待の厄介なとこは数の多さと連携してくるところだから、その印象は正しいと思う。さっきのフォローや武器の切り替えは上手だったし、その調子で頑張ろう」
「はいっ」
青瀬が心なしか赤面しつつ、一歩下がる。残りは桃香である。
「えっと……私は、全然動けなかったし、フォローも出来なかった、です。すみません……」
「モモは怖かった?」
「…………はい。どうしていいのか、分からなくて、見てるだけでした」
「そっか。次に戦うとしたら、何が出来そう?」
「次に……風の刃で援護するとか……?」
自信なさげに、否、自信なくおそるおそると答える桃香。
相手が失望するのを恐れ、下手な事を言うまいとしてしまい、言葉が出ないのだ。
実際、今の戦闘で彼女が出来たのは、非戦闘員である葉月や御巫と戦闘の成り行きを見守っている事だけだったのだ。何もしていないといっていい。
「そうだね、風の刃も広いところで戦う時は良いかもしれない。ここみたいな廊下だと出しにくいかもしれないけど」
「そう、ですねぇ……」
「モモは風で防御を張ったりできる?」
「風……できなくはないですけど」
「それなら、さっきみたいに包丁とか投げられた時、葉月さんや御巫さん達を風で守ってくれたら嬉しいな。その分、私もフォローに回れるから」
「…………!!」
声の代わりにこくこくと頷く桃香。
落ち込ませないよう、出来る事を提示してくれていると分かっていても、自分が少しでも何かの役に立てると思えば、胸の中で熱くなるものがあった。
「まだ時間も10時すぎだし、ここで戦闘に慣れつつ、客室の鍵も手に入れたいところだけど……その前に」
姫華の声に一同が頷き、同時に姫華の視線につられるように顔を向ける。
彼女の視線の先には、先ほど倒した三匹の狐女達が倒れ伏していた。
狐女達の死骸は徐々に黒ずんでいき、灰のようになって散り散りになって、やがて雲散さながら綺麗に消えてなくなる。
そこに残されたのは、着ていた着物や帯飾り、包丁や扇子であった。
これらが狐女を倒した時に得られる報酬のような物である。
着物や帯に使われている素材はもちろん、使用した包丁や扇子、槍でさえもダンジョン産ゆえに高く取り扱ってくれるのだ。
「まずは、素材……集めておこうか」
探索者たるもの、稼ぎを怠ってはならないのだ。
「おい、クソ探索者様がお越しですわよ!」
「なにぃ!? ぶっ殺してさしあげろ! 大切なのはエンジョイ&エキサイト! そして!」
「エンターテインメントを忘れずにぃぃっ!」
《天空旅館》第二階層にて、姫華達は引き続き探索を続けていた。
途中で狐女達と遭遇しては戦い、倒しては素材を回収していく。
丁寧な口調や雰囲気の狐女もいれば、今この時のように荒くれじみた個体も出てきたりする。
とはいえ、基本的な戦法は同じである。
ゆえに。
「雄平!」「おうっ!」
赤城が真っ先に肉薄して斧(厳密にはハルバード形状なので槍斧か?)を振り回し、狐女が回避した先を見据え、青瀬が槍を投擲して仕留める。
武器を失った青瀬に迫れば、腰に下げた《フォースセーバー》で返す刀といわんばかりに応じ、斬り裂いてみせた。
後衛には接近させまいと、果敢に二人は攻める。
「先手必勝っ、お死にやがれぇぁお客様ぁッ!!」
「守れ、風よっ! 空気を漂い、たゆたう風よ。見えざる鎧となって私達を守って! わぁ、結構それっぽい詠唱になったんじゃないコレぇ!?」
とはいえ、それでも二人では防ぐリソースに限度がある。
その間隙を縫うように、やはり包丁などをメインに投げ放つ仲居もいた。
だが、後方の葉月や御巫を狙う投擲攻撃に対し、桃香が風の衣を纏わせて防御に徹してみせた。
最初はやや恐れもあったが、一度防げると分かれば、桃香にも慣れが生まれていく。
「流れる風よ、目に見えぬ一陣の風となり、彼の者を刻む刃となれ!……エアスラッシュ!」
逆に、青瀬や赤城に態勢を崩された仲居目掛け、真空の刃をお見舞いしてみせる。
非戦闘員込みとはいえ、七人もの集団であるから、魔物側にすれば、その分だけ注意を払わねばならないのである。
桃香が探索者として未熟とはいえ、付け入る隙は十分にあった。
「…………にやにやすんなや葉月」
「……エアスラッシュ」
「あとで覚えてろよ!」
攻撃がしっかりと決まったにも関わらず、桃香の表情は険しい。ついでに赤い。
近くで邪魔にならないように隠れている葉月が何やら言いたげな顔で(実際に小声でささやいているが)ジッと見つめてきているからだ。
やれ詠唱だの技名を口にする事の有効性が実証されていても、それが他者に聞かれるというのはやはり気恥ずかしい。
ましてや、普段気兼ねなく接している相手であればなおさらだ。
「うん……上出来なくらいにしっかり戦えてるね」
後方先輩面(実際先輩であるが)をしながら姫華が小さく頷く。
第七課メンバーの戦いぶりは彼女を満足させるものであった。
派手さだの、勢いの面では欠けるといわれるかもしれない。奇をてらう戦術を駆使するわけでもない。だが、堅実で確実な戦い方は可能な限りリスクを減らし、負傷や戦死の可能性を削る。
姫華の教えてきた基本に沿い、それでいて各々に出来る事を考えて行動する姿には、感情に乏しい彼女にも響くものがあるらしい。
その時、姫華の結んでいた髪が揺れ動く。
と同時に、彼女の顔に怪訝な色が浮かび、数瞬してそれは小さな笑みへと変色していった。
すぐ前で悠然と構える遊佐へ声をかける。
「……遊佐ちゃん。ありがと」
「……さっすが姫ちゃん。気付いちゃった系?」
「うん」
戦闘中、短いながら会話のやりとりを行う二人。
傍から見れば、遊佐は第二階層へ来てから何もしていないと思うだろう。
だが、気配探知の魔法を常時発動させている姫華には、戦闘音につられるようにして、いくつかの方角から迫る気配を捉えていた。
そのいくつもの気配が一定の距離から近づいてこない。
近づいてくるにしても、その頃には戦闘も回収も一段落しており、到着する頃には完全に一行が姿も見えなくなったタイミングであったのだ。
そんな芸当が出来るのは誰か、と考えた時には消去法で一人しか残らない。
「後方は姫ちゃんがいるからまだしも、左右から来られると困るからねぇ」
「遊佐ちゃんはやっぱり頼りになる」
「褒めても督促状くらいしか出せないんだな、これが」
「お世話になってるんだし、支払いくらいするのに」
「……可愛い姫ちゃんにそんなのさせらんないよ」
遊佐にしては一瞬返答に詰まり、すぐにいつものにへらとした笑みを浮かべる。
「おっと、今回も問題なく勝てたねぇ。七課の子達も優秀優秀」
「うん。しっかりしてる」
やや強引な話題転換に対し、姫華は強く頷いた。
第二階層へ来てから八度目となる遭遇戦にも勝利したところであった。
青瀬や赤城はもちろんの事、桃香の動きにも慣れが見られてきている。
そして勝利を重ねる都度、開発部の御巫や葉月にも安心感が生まれ、育まれつつある。
悪くない傾向といえる。ここで慢心だの油断に繋がらない事が肝要ではあるが。
前方では倒した狐女達の素材の分配を行っているところだ。
最初はとどめを刺した数としていたのだが、途中からは三分割していく事で話が進んだらしい。
姫華は基本的に参戦しないし、遊佐にしても傍から見ていれば傍観しているだけのため、その対応で是としたのである。
「やりましたっ」と嬉しそうに素材を手にしてやってくる桃香に手を振っていた姫華であったが、その時、強い気配を探知する。
「んっ……」
「あー、こりゃぁアレだ、私でも分かる。
「うん。他の探索者と戦闘中かもしれないし、なんなら……」
「こっち方向に来てるっぽいのぉー。
先ほどまでの狐女達とは比較にならぬ圧を感じる。
そこから離れようとする複数の気配。戦闘しているからか、正確な人数が絞り込めないがおそらくは五、六人。
ダンジョンにおいて魔物同士が縄張り争いなどの理由でやりあう事も無くはないのだが、この《天空旅館》においては限りなく皆無に近い。
狐耳の仲居達をはじめ、この旅館内の魔物達は、非常に強固な仲間意識を持っているからだ。
姫華の推察の域は出ないが、横同士の繋がりは強く、上下関係も徹底しており、そこには付け入る隙も油断もみられない。
何度も探索してきているが、一度たりとも同士討ちをする事も、仲違いやそれに準じた行動を見た事さえもなかった。
となれば、十中八九探索者が絡んでいるとみて間違いないだろう。
「離れたいところだけど……」
「あちこちで接待っぽいの動いてそーだし、戦ってる時に面付きが乱入だけは避けたいとこだんねぇ」
「うん。それだけは避けたい」
姫華の表情は険しい。
こういうケースも想定していないわけではなかったが、気配の探知から接近までの猶予がほとんど残されていないというのは少しレアケースであった。
その原因も何となく察しはつくのだが、今は考えていても仕方がない。
「皆、ちょっと面倒な敵がこっちに来てるっぽい」
姫華の声に、一同に緊張が走る。
彼女が面倒だと評する時点で、事前に聞いていた狐面の魔物なのかと察する者もいた。
「多分、他の探索者チームと戦ってるみたいなんだけど、逃げながら相手してるのかも。こっちに近づいてきてる」
「どうするんで? 離れるんスか?」
「そうしたいところだけど、どうもあちこちから接待っぽい気配が来てるかな」
「うへぇ。マジっすか」
「マジだね。接待を蹴散らしつつ離れていくのも考えたけど、後ろから追われるのも面倒だし、今からちょっと倒してこようと思う」
顔を見合わせる面々を見やりつつ、姫華は廊下に繋がる広間へと視線を向ける。
怒号や悲鳴、それに続く戦闘や破壊の音。距離は近い。
あと数分もせぬ内に、放っておいても遭遇する事だろう。
「数分で片付けるから、頃合いを見て私のあとに続いて。遊佐ちゃん」
「おうともさ。任したまへ」
そう言い、姫華は音の方角へと向かう。
何やら広間の名前が看板に書かれてはいるが、それらの情報は遮断し、一呼吸を置くと姫華は目前の襖を開け、エンジンブレードを手に駆け出した。