ブラック企業勤務、アラサー女探索者の迷宮探索   作:Honoka_Asa

5 / 42
第1話 《黒井商会 迷宮探索第七課》

 

 

 四方八方を海で囲まれた島国、日本。

 その国内の某県北部にある星屑市は、人口10万人にも満たぬ小都市だ。

 

 その日は2020年11月20日の金曜日で、時刻は午前8時40分。

 天気は曇りで雲がちらほらと見えるが、今のところは雨が降る気配はみられない。

 

「…………」

 

 如月姫華きさらぎひめかが《黒井商会》と書かれた看板が掛けてある玄関へと足を踏み入れる。

 古くなって手放された市役所を買い取ったゆえか、その構造は一般的なオフィスとは色々と異なる。

 

 目的の場所は三階だ。

 エレベーターを使えば早いのだが、あいにくと彼女には使う事は許されていない。

 ここのエレベーターを使っていいのは、選ばれた者だけだからだ。

 もっとも、本人にも使うつもりはなかったが。

 

 元市役所なだけあって中は広く、階段も要所に備わっている。

 一階のエントランス中央の階段が一番近いが、姫華はそこを使わない。

 他の社員が多く利用しており、顔を合わせたり、挨拶をしなくてはいけないからだ。

 彼女は関わらないで済むなら関わらない道を選ぶ。

 

 ゆえに西側の廊下を突き進み、奥の階段を上っていく。

 慣れた足取りで階段を上っていくと、その都度、柔らかな栗色の髪が小さく揺れる。

 

 上っていくにつれて足取りが重くなり、やや吊り目がちな双眸をさらに細めていく。

 階段の昇降運動が辛くてそうなるわけではない。

 この階段を上っていくのが、この先を目指して歩くのが億劫であり、早い話が嫌なのだ。

 ベッドから起きるのも、自宅から出るのも、会社へ向かうのも、いずれもが気持ちを落ち込ませていく。

 

「はぁ……今日も出勤してしまった。もう辞めたい。帰りたい」 

 

 姫華はぼやき、そのあとに周囲に視線を巡らせてさりげなく確認する。

 幸い、あたりには誰もおらず、小さく安堵の息をつく。

 

 三階へ到着すると、長い廊下が奥まで続く。

 その左右には一定間隔で部屋が区切られており、その中に目的地である《迷宮探索第七課》と書かれたプレートが見えた。

 

「……」

 

 その扉の方へ向かう前に、トイレへと向かう。

 手を軽く洗い、洗面台の鏡を見やりながら己の姿を確認する。

 

 髪型に目立った乱れはない。

 目元に入らない程度に揃えた前髪を整える。

 編み込んだサイドを軽く揺らす。

 

 次に顔の確認。

 最低限のメイクはしてきたはずだが、目元には若干の疲れが見える。

 不機嫌というわけでもないのに、目尻が上がって見えた。

 ただでさえ表情が乏しいゆえに、他者からは厳しい印象を持たれがちなのだ。

 努めて笑みを浮かべてみるのだが、歪んだそれは自分から見ても率直にいって怖かった。

 

「……やっぱり眼鏡は必須か」

 

 ダスティピンクカラー*1のオーバル*2フレームとキルティング柄のテンプル*3が特徴の眼鏡をかけなおす。

 

 ちなみにだが、姫華は別に視力が悪いわけではない。なんなら良い方である。

 なのでこれは、目つきのキツさを緩和するためのメンタルケアグッズであり、好んで装着するファッションであった。

 

 最後に恰好を確認。

 上は黒のハイネックに、その上からネイビーのチェスターコートを羽織っている。

 下は細めの黒のデニムパンツを履き、足にはシンプルなスニーカー。

 

 全体的に暗めの構成だ。

 姫華にいわく、別にどう思われても構わないファッションである。

 とりあえず、人に迷惑だとか不快感さえ与えないのであれば、それでいいのだ。

 

「汚れもなし……うん」

 

 気にするのは、せいぜい汚れがついていないか確認をするだけだ。

 もっとも、この構成ゆえに多少汚れても目立ちにくい。

 

「…………」

 

 特に問題ないと小さく息を吐いたところでふと思った。

 このようなチェックをしたところで、誰に見せるのか。

 彼氏がいるわけでもなし、欲しいという気持ちにも今はなれない。

 

 これから向かう先に男性社員はいるが、ほぼ全員が後輩だし、婚期に焦ったアラサー女が妙に意識してくるぞとか言われたり思われるのも嫌だ。

 

「………………はぁっ」

 

 ふと募った心の声で急速に気持ちが沈み、やや吊り目な目元がさらに歪む。

 大体、いつ死ぬかも分からないような仕事をしといて、何を些細な事で悩んでいるというのか。

 

「……そろそろ行こう」

 

 誰に聞かせるでもなく、自嘲じみた声。

 まだ働いてもいないのに疲労感を滲ませつつ、《迷宮探索第七課》と書かれたプレートの下にある扉へと向かう。

 扉を開き、室内に数名の人がいたのを確認すると、先ほどに比べて眉も目も上がる。

 努めて意識して表情を作っていく。

 

「お疲れ様です」

 

 姫華が挨拶をすると、室内にいた面々が反応を示す。

 デスクで何やら作業していた者や、同じように出勤してきて荷物を片づけている者、ホワイトボードの予定表を確認していた者などが一斉に視線を向けてくる。

 

「お疲れ様です、如月さん」

「お疲れ様です主任」

「お疲れっす、姫パイセン」

 

 それぞれの挨拶に頷きで返しながら、自分のデスクへと向かう。

 

 デスクの上は整然としたものだ。

 書類を並べるファイルボックスと、小型のTodoボード、専用のノートパソコン以外には何も置かれていない。

 物を置けば置くほど、掃除が手間になるし、どこに何を置いたか分からなくなるし、どんどん乱雑なものとなるからというのが、姫華の持論ゆえだ。

 

 もっとも、目に見えない部分はわりと疎かである。

 デスクの下にキャスター付きのデスクワゴンが置かれているのだが、その中には缶コーヒーや栄養ドリンク、インスタント系の食事、ガムやチョコレートの嗜好品が整然とは程遠い形で詰め込んであるのだ。

 なんだったら急ぎでない書類や筆記具、メモ紙などがまとめて放り込まれていたりもする。

 

 そのデスクワゴンから、缶コーヒーを一本取り出す。

 特にメーカーなどにこだわりはないが、無糖のブラックを飲むのがいつもの習慣であった。

 

 それから姫華はデスクの上に置かれたノートパソコンを開き、勤怠管理システムのアプリケーションを起動する。

 最初に自分の名前とパスワードを打ち込み、それから出退勤の項目にて出勤のタブをクリックした。

 これで本日も出勤した事になる。

 就業時間は午前9時からであり、現在は8時50分なので問題ない。

 

 それから、回覧事項を確認。

 毎日のように送られてくる《今月のノルマはコレ! ちゃんと読む事!》、《今週のノルマはコレだぞ、コレ!! 読まないとどうなるか分かってるな?》、《先月のノルマ未達成者の一覧、達成できない者は処分対象》とそれぞれのタイトルを確認し、中身を流し読みして、確認した旨のメッセージを入力。

 『確認しました』のメッセージを送らずとも、確認の項目をクリックすればいいだけなのだが、そうすると後日になってお偉い人物からキチンと確認するようにとのお達しが届く。

 無駄な業務に無駄な手間を増やす体制には余念がないらしい。

 姫華としては呆れる他になかった。

 

 他には、《全体会議のお知らせ》だの《主任会議のお知らせ》だの《支給品の値上がりにつき、節制節約のお願い》といった回覧があり、大まかに確認。

 

 全体会議の告知は、探索課全体をまとめる部長からだ。

 『休む理由なんてあるか? 休む奴なんているのか? いねぇよな?』と言外からも感じる高圧的なメッセージ。

 また会議という名のパワハラタイムがはじまるのかと、姫華は嘆息の息を吐く。

 

 逆に、主任会議の告知はよその課の主任からであり、とても低姿勢。

 ただでさえ、どの課も休みが最低限レベルなのに、そこから時間を割かせる事への申し訳なさすら感じられた。

 こちらには多少の同情を示す。

 

 両極端な内容ではあるが、どちらも参加は必要だ。

 手帳を開き、会議の日に予定がないか確認して問題ないと判断。

 該当する日に会議と開催時間を記入する。

 

 そのほか、社員から送られてくる稟議など確認。

 《迷宮探索計画書》や《支給品の補充依頼》、《探索結果報告書》などの内容を眺めながら、缶コーヒーのプルタブを開き、口元に寄せる。

 一口、二口と喉に流しつつ、問題ない申請は認可し、内容が不十分なものには却下理由を打ち込んでから戻していく。

 

「……にっが」

 

 コーヒーというものを、これまで特別美味いと思った事のない姫華だった。

 以前から美味しいと思えず、今もまだ美味しいと思えない。

 きっと、この先も美味しいと感じる事はないのだろう。

 

 苦いだの不味いだのと言いながら、口に運び続ける心境は理解しがたいものがある。

 彼女にとって、飲む事自体がルーチンと化しているのだろう。

 

 しかしここへ入社していつからか、毎日のように飲み続けたゆえか。

 一本や二本飲んでも、カフェインが役割を果たす気配はみられない。本当に義務的な行為でしかなかった。

 この調子で飲む本数やペースを増やしていれば、その内健康診断(各企業に社員に健康診断を受けさせるのが義務付けられているため、渋々といった感じで受けさせてくれている。もちろん最低限の内容のみであり、休みの日を指定してくるあたりがいやらしい)にも引っかかるのだろうと他人事のように考えた。

 

「ふー……」

「姫先輩~。お疲れ様です~」

「ん、モモ。お疲れ様」

 

 一息ついたのか、単に溜息だったか自身も分からぬ姫華であったが、後ろからの声に我に返った。

 聞きなれた声の方向へ視線を向けると、やはり見慣れた顔がそこにいた。

 

 白百合桃香しらゆりももか

 ゆるめのパーマがかかったホワイトピンクのミディアムヘアが特徴の女性社員だ。

 姫華は愛称のモモで呼んでいる。

 むしろ、呼ばなければ不機嫌になって頬を膨らませる。

 もちろんそれは冗談交じりの不機嫌ではあるが。

 

 彼女は顔が小さければ、背も低い。

 身長は大体150cmに届くかも怪しく、肉付きも乏しい。

 愛嬌のある顔の中には桃色の瞳が並び、それらは悪戯めいた強い輝きをもって敬愛する先輩、兼、上司へと向けられていた。

 

 第七課には、女性社員(兼女探索者)が二名しかいない。

 その二名がここにいる姫華と桃香だ。

 自然、異性に比べて接しやすいのだろうと姫華などは解釈している。

 そうでなくとも、彼女は男性不信、あるいは男性嫌いの傾向があった。

 

 その分というか、唯一の同性であり上司でもある姫華には人懐っこく接してくる。

 姫華としても、同性であり年少の後輩に対しては意識せずとも表情が柔らかくなっているのを自覚していた。

 

「モモは今日探索の日?」

「そうなんです! まだノルマに届いてなくて。頑張りどころなんですよぉ」

「あらまぁ」

「……ところでところで姫先輩」

「ん?」

 

 言いにくそうに答える桃香であったが、急に声を落として姫華の近くに寄ってくる。

 彼女が何を言うのか、なんとなく想像はできていたが姫華は黙って耳を傾けた。

 

「今日は姫先輩、ダンジョンに行く予定とかあったりしますか? 書類仕事だけだったりします?」

「今日は……まぁ、軽く探索しておこうかな。皆のノルマを見てからだけど」

「なるほどぉ~っ」

 

 姫華の答えに顔をほころばせる桃香。

 

「姫先輩、姫先輩」

「はいはい」

「ここにですね、姫先輩と一緒にダンジョン探索をしたくて、ノルマも達成できてないダメダメ後輩がいるみたいですよ……?」

「あら、それは弱った。手伝った方がいいかな?」

「そうなったら凄く助かりますし、すごーく嬉しい気がしますねぇ」

「なるほど。でも……ノルマ優先でモモと一緒だとしたら、行く場所も限られるか。どうしようかなぁ」

「えっ、えぇっ?? み、見捨てないでくださいよぉ~。確かに、ノルマとペース配分できてないのには自己管理出来てなくてごめんなさいですけどぉ~」

 

 先ほどの笑顔はどこへやら。

 心底ショックだ、みたいな顔になる桃香。

 かと思えば、次の瞬間には抗議するといわんばかりに口を結び、むぅっとした表情を浮かべて「後生ですからぁ~」だの「一生のお願いです」とか「記念に一回だけ! 一回!」と言っては媚びるように笑顔を浮かべたり。

 

(コロコロ表情変わる子だなぁ、モモは。その調子で他の子とも話せたらいいんだけどなぁ……)

 

 自分と話す時の調子で、他の男性社員とも話せれば彼女の世界はもっと広がるのだが。

 彼女の男性不信の理由を知るだけに、無責任な事は勧められない。

 なんといっても、姫華は第七課の主任であるのだから。

 人間関係にも気を配る必要があるのだ。

 

「ひめぜんばぃ”ぃ~っ。無視しないでください~」

「あっ、ごめん。行こっか、ダンジョン」

「え”っ!!」

 

 いつの間にか、へにゃへにゃ顔になっていた桃香の声で我に返る。

 意地悪をするつもりではなかったので、姫華も素直に謝る。

 

「さっすが、姫先輩は話が分かるぅ~! 私の事を見捨てないって信じてましたよぉ~! 私ってばよわよわだし、放っておけないですよね!」

「もう、調子がいいんだからモモは」

「ふっふ~。姫先輩だけですよ、こんな事お願いできるのは。持つべきは頼りになる美人上司様々ですよぉ~」

 

 すっかり満悦な笑みを浮かべる桃香に、姫華は苦笑するしかない。

 とはいえ、放っておけないのは事実であった。

 

 この桃香は入社2年目であり、まだダンジョン探索の経験が浅いのである。

 戦闘面でもまだまだ実力不足のため、本来であれば他のメンバーと組めればいいのだが、彼女の場合は男性社員と組むのも困難ときたもの。

 姫華がいない日だと、ほぼソロでのダンジョン探索になってしまうのだ。

 そうなると無茶もできないし、安全面を優先すればノルマ達成も遠のく。

 

 女性の探索者が相手であれば組めなくもないのだが、第七課は他に姫華しかいないし、他の課の女性メンバーと組むにしても()()()()()()()()()()なので下手に組ませるわけにもいかなかった。

 結局のところ、今日一緒に探索するか、遠くない内に探索するかの違いでしかなかった。

 

「モモと行くなら手軽なダンジョン……《セブンテイルズ》あたりでもいいかな?」

「もちですよ! 姫先輩のお好きなところに付いていきます! がっぽり稼いでやりますとも!」

「オッケー。じゃあ、10時出発でいこうか。私も準備済ませるし」

「姫先輩のご都合のままにですよぉ~! 私もさっそく準備してきますから、置いていかないでくださいよぉ~!」

 

 言うや否や、桃香は自分のデスク上に無造作に置かれていた書類などをまとめてデスクワゴンの中にぶちこむ。

 それからバッグを手にして、姫華に手を振りながら慌ただしく部屋を出ていく。

 おそらくは更衣室の方に向かったのだろう。

 

 せわしない後輩の姿に苦笑しつつ、姫華は缶コーヒーを飲み切り、ノートパソコンを閉じる。

 空のコーヒーを専用のゴミ箱に捨ててから、スケジュールボードの方へ向かった。

 

「……さて」

 

 スケジュールボードには、第七課の面々の名前が羅列されている。

 他には今月のノルマ金額、現在の達成状況、当面の予定などが続く。

 

 姫華の項目には《達成済み》の文字。

 文字通り、ノルマを達成し終えているという事だ。

 他のメンバーを確認してみれば、同じくノルマ達成をしている者が数名、概ね月末までに達成できそうな者がほとんど。

 

 さきほど一緒にダンジョン探索を約束した桃香は、唯一厳しいペースであるように感じられる。

 この分だと、桃香からお願いされずとも姫華が同行する事にはなっただろう。

 

「本日ダンジョン探索の予定、と……」

 

 予定欄に記入をしながら、今時こんなアナログな手法で伝達している事に疑問を抱く。

 パソコン上で出退勤や書類作成、回覧や稟議を行っているのだから、このスケジュールボードでの事項だってパソコンに取り込めるだろうと思わざるをえない。

 噂では、デジタルが苦手な偉い人だとか、年配社員がいるという理由でチグハグになっているらしいがどうなのだろう。

 真偽はともかく、今現在は改善される予定はないらしい。

 

「ねぇ、青瀬君」

「はいっ、如月さん。どうしましたか?」

「黒須課長って、今日来てたかな?」

 

 スケジュールボードを活用するように、なんて言っておきながら自分は予定を書かない上司への不満を燻らせつつ、姫華は近くにいた部下の青瀬へと声をかける。

 かけられた青瀬は弾けるように振り返り、短い間に今日の記憶細胞を最大限に活性化させた。

 

「課長でしたら、今日はまだ見てません。誰か、課長を見た人いるー?」

「あの人見かけたら記憶に残るんで、見てないと思います」

「課長は今日見てませんな」

「まっっっったく見てないすねー。昨日も一昨日も見た覚えねぇっす」

 

 他の社員達にも青瀬は確認したが、返ってきた応答や反応はやはり一致していた。

 やりとりを眺めつつ、姫華は頷いた。

 

「そっか、分かった。ありがとね」

「いえ。如月さん、ダンジョン探索に行かれるんですよね? くれぐれもお気をつけて……いや、心配無用だと思いますけど」

「うん、ありがと。気をつけるよ」

 

 姫華がほんの少し表情を和らげる。

 それを見て、青瀬が一瞬戸惑ったような表情になったかと思えば、「お気をつけて」と言って視線をそらされる。

 

(あれ、笑顔のつもりだったんだけど……目を背けられた……また怖い顔でもしてたのかな……申し訳ない……)

 

 内心ショックを受けつつ、姫華はバッグを担いで部屋を出ていくのであった。

 それからほどなくして。

 

「主任達も出てったし、俺ももう少し稼いでくるかな」

「俺はノルマ達成してっから、あとは報告書まとめるだけ~」

「ちくしょうめ」

 

 室内に残っていた男性陣もにわかに動き始める。

 ダンジョン探索のために動き出す者もいれば、変わらずデスクワークに励む者もいる。

 

「俺は帰って休むわ。一昨日からダンジョン潜ってやっと帰ってきたし……報告書の続きは……明日やる」

「おー、お疲れさん。ちゃんと休めよ」

「ういー……お前らも気ぃつけてな」

 

 ダンジョンから帰ってきたばかりで、既にへとへとな者もいる。

 なんだったら、オフィス内で寝袋に入って休んでいる者も実はいたりする。

 

「青瀬、俺らもダンジョン行こうぜ。今日どこにすんよー」

「そうだね、近場で回るか」

 

 先ほど姫華に声をかけられていた青瀬の元に、フランクな口調の男が一人。

 その男の名は赤城といい、青瀬とは同期の身である。

 

「にしても、今日の主任は機嫌良かったなー。お前も声かけてもらって良かったじゃん」

「まぁね」

「あの人も、もうちょい愛想良かったらなぁ。もっとモテるだろうに」

「別に如月さんはあのままで大丈夫なんだよ。今だって愛想悪くもないし。変なのに絡まれたら可哀そうだろ」

「……お前はまぁそう言うわな。へへ」

「うるさい。僕らもさっさと行くぞ」

「あ、ちょ。待てよー」

 

 彼らもまた、ダンジョンへと向かうべく動き始める。

 これが企業に属する探索者達の日常であった。

 

 

*1
くすんだピンク色の事を指す。

*2
楕円形で、縦よりも横の長さが長いタイプ。

*3
耳にかけるやつ。




◆Tips◆

【星屑市】
 人口10万人にも満たない地方都市。
 このお話の主要舞台。
 色々と衰退がみられる過疎都市でもある。
 理由や原因は後述のお話にて。

【黒井商会】
 迷宮企業の一つ。
 この業界の中ではそこそこ大手であり、星屑市内ではトップに位置する。
 ブラック企業であり、ノルマに対して達成できない者にはとことん辛辣。

【勤怠管理システム】
 社内のパソコンや、社員のスマートフォンなどに一部導入されているシステム。
 出退勤の打刻機能や、社員同士でのメッセージのやりとり、特定のグループ内での回覧機能、稟議や報告機能やら、覚える事と細々とした業務が多い。
 上の立場になると、部下の出退勤や残業時間、有給取得なども把握し、管理していく必要がある。
 あれば便利だが、だからといって仕事がなくなるわけではない。

【会議】
 問題に対する相談や解決策を話し合ったり、情報を伝達共有するための場。
 この主人公の場合、第七課でのチーム会議、主任同士での主任会議、探索部全体での全体会議などに参加している。

【探索者】
 ダンジョン探索を生業とする者達の事。
 ダンジョンを探索するには、国から探索権を獲得した企業に属する必要があるため、自ずと企業勤めになる。
(一部例外もあり)

 大体の企業ではノルマが課せられ、達成具合によって給料が変わる。
 要するに出来高制だとか歩合給のようなもの。
 企業にもよるが一応固定給もあるので、最低限死なない程度に収入は得られる。
 だが、危ない目に遭って稼ぎも少ないくらいなら、普通のサラリーマンでもしてた方がずっとマシだろう。

【白百合桃香】
 メインキャラの一人。
 入社2年目のまだまだ未熟な探索者。
 姫華を慕ってる。理由は不明。
 男性全般が苦手。こちらも理由は不明。
 探索者として、特殊な能力を持ってるらしい。詳細不明。

【青瀬】
 第七課の社員。
 探索歴は3年目。

【赤城】
 第七課の社員。
 探索歴は3年目。青瀬と同期。


◆修正情報

・令和7年11月24日
 句読点がとにかく多いところを修正
 姫華の身嗜み描写を大幅に削る
 姫華と桃香の描写を修正
 姫華達が出ていったあとの青瀬らのセリフを削る

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。