「……プロデューサー、どうしよう。これ」
冬の寒さはピークを越え、ゆるゆると春の訪れを感じ始めた二月半ば。
コートを脱ぎ、道端の自動販売機で購入したブラックコーヒーを飲んでいた俺は、制服姿の透の声に振り向いた。
「どうしよう……って、何かあったのか?」
雑誌の撮影を終え、お疲れさまを込めて渡した140円を手に、透は怪訝そうな表情を見せている。
そして、「これ」と指差す先にあるのは自動販売機の釣銭取り出し口だ。
「10円、見えた。お金、入れようとしたら」
「10円……? ああ、前の人がお釣りを取り忘れたのか」
よくあることだが、いざ目の前にして判断に迷ったということらしい。
困り顔の透がおかしくて、俺は小さく笑ってしまう。
「ははっ、確かに困ると言えば困るな。使うのもなんだか申し訳ないし」
「……探した方がいいかな? 交番」
「うーん、気持ちは分かるけどそこまで時間に余裕もないしな……」
「んー……」
そうして俺達は首を捻り、唸る。
「まあ、そこまで堅く考える必要もないんだろうけど……あ、そうだ。じゃあ、こうするか」
「え?」
「とりあえず、透は先に飲み物を買ってくれるか?」
「あー……、うん」
釈然としない様子ではあったが、透は自分のお金を投入し、ホットのブレンドコーヒーを購入する。
そして俺は10円を取り出し、再び自動販売機へ投入した。
「対処療法だけど。それでも次の誰かが見付ければ得になるし、悪い気はしないから」
透はホットコーヒーを手の平でもてあそび、点灯したディスプレイを見ながら、「ふふっ」と笑う。
「……だね。目立つ、この方が」
「だろ? 結末を見られないのが残念だけど」
「いいじゃん、それも。たまには」
俺達はそんな会話をしながら、事務所へ足を向ける。
外での仕事はもうないが、書類整理や次の案件への準備などすることは山ほどあって、喜ばしいような肩が凝るような微妙な気分だ。
少しげんなりしている俺を透は横目で見ながら目を細めて笑っていて、大人ってなんだかなあという気分になってしまう。
やがていつもの階段を昇り、ドアを開けてリビングへ入った。
「俺は書類を片付けるから、透はソファーで休んでていいぞ」
「手伝う? 何か」
「いや、大丈夫。まだギリはづきさんに怒られないレベルだから」
「ふふっ、なにそれ」
そうして透がホットコーヒーを口元へ運んだ時、不意にリビングのドアが開き、二人の人物が姿を見せた。
「あはっ、ラッキーだったね、はるきちゃん。手持ちがちょうどない時だったし」
「だね~。少し気が引けるけど、親切な誰かに感謝かも~」
そんな受け答えしながら羽那はホットのミルクティーを手に微笑み、はるきも人懐っこく笑って見せたのだった。