「あ、プロデューサーさんに浅倉さん。お疲れさまです~」
「お疲れさまでーす」
俺と透の姿を見付けたはるきが最初に挨拶をして、羽那もそれに続く。
その声に俺はデスクのイスを少し回して答えた。
「ああ、お疲れさま、二人とも。今日はインタビューの仕事だっけ?」
「はい、羽那ちゃんと一緒だったので緊張せずにできました~」
首尾よく事は進んだらしく、はるきの声に力みがなかったので俺は胸を撫で下ろす。
少し間を置いて隣に立っていた透が、「……うす」と小さく声をかけた。
すると羽那が、
「……は、はい。あ、浅倉さんも」
と少し緊張した面持ちで答え、俺はそのやり取りにどこか不自然なものを感じたが、深く突っこむこともできず、代わりの問いを羽那とはるきへ投げかけた。
「ところではるき、そのミルクティーだけど……」
「あ、はい。さっき事務所近くの自動販売機で買ったんですけど、これがすごい幸運で……!」
それだけでおおよその事情を察することができたが、本人の口から聞いた方が早いと判断し、先を促す。
続けて羽那が答えた。
「えっとね、あたしが、『インタビューで喉渇いたー』って言った時、その自動販売機が目に入ったの。でも――」
「羽那ちゃん、現金の持ち合わせがなくて……。わたしも130円しか持ってなかったから、足りないねーって話してたら……」
そしてはるきの言葉尻を透が繋いだ。
「10円入ってる自動販売機があった、ちょうど」
透の言葉にはるきが、ぱあっと表情を輝かせる。
「そうなんですよ~、ぴったりミルクティーが買えて……! こんなこともあるんだって羽那ちゃんと話してたんです!」
「あはっ、びっくりしたよね。きっと優しい人が、『お仕事頑張った!』って褒めてくれてるんじゃないかな?」
二人の会話を聞きながら表情を苦くする俺を、透が悪戯っぽい表情で流し見してくる。
やがてその視線に気付いた二人が、不思議そうな表情を浮かべた。
「えっと、どうかしましたか? プロデューサーさん」
「いや、その10円は……」
「……?」
俺は言いよどみ、その一方で羽那が手の平をミルクティーで暖める。
やがて透がどこか得意げな表情で目を閉じ、俺に告げた。
「よかったじゃん、見られたよ。結末」
「……早すぎてビックリだ。しかも身内だし」
その返しに、羽那が瞳と表情をいっぺんに輝かせた。
「あー! じゃあ、あの10円って、プロデューサーが?」
「お釣りの取り忘れに気付いたのは透だから、手柄は折半だ。……まあ、それでも悪い気はしないけど」
「あはっ、じゃあ大事に飲まないと、だね?」
「大げさだって。そもそもが10円だし」
俺はそう答え、ようやくはるきだけが飲み物を手にしていないことに気付き、「しまった」と思う。
「悪い、はるき。飲み物は何がいい? 俺が淹れるよ」
「ええっ!? い、いえ、そのくらいわたしが……」
「いいって。仕事終わりで疲れてるだろうし」
「あ……。すみません、じゃあわたしもミルクティーを」
要望を聞き遂げ、俺はイスから腰を上げる。
リビングの入り口付近にいた羽那とはるきはソファーへ向かったが、なぜか透がキッチンへ付いて来た。
「……どうした、透? 他に何か飲みたいものでもあったか?」
人数がいるし、お菓子かな? とも思ったが透はどこか気まずそうな表情で冷蔵庫を開け閉めするだけだ。
珍しい様子に俺は驚くが、ミルクティー自体はすぐに出来上がったし、詳しく聞く間もなく俺達はリビングへ戻る。
「お待たせ、二人とも……って、どうしたんだ難しい顔して」
ソファーに並んで座る二人は眉根を寄せ、テーブルの上のミルクティーを見つめている。
やがて羽那が迷いを宿す声音で答えた。
「あのね、プロデューサー」
「うん?」
「思ったんだ、このミルクティーって誰のものなのかな? って」
「誰のもの……ってどういう意味だ?」
後ろに付いて来ていた透へ視線で問うが、首を左右に振るだけだ。
羽那が話を続ける。
「最初の10円は浅倉さん。アドバイスをしたのはプロデューサー。130円出したのははるきちゃん」
「そして、10円を見付けたのは羽那ちゃんです。だから、誰のものという話になると……」
「ああ、そういうことか。確かに言われて見ればなかなか難しいけど、ラッキーって意味で羽那でいいんじゃないか?」
俺がそう言うと羽那は目を伏せ、「んー」と小さく唸る。
「でも、一番たくさんお金を出したのははるきちゃんだよ? そう考えるとわたし、もらえないよ」
「まあ、それも一理ある。透は?」
「え? あー……」
水を向けられた透も首を捻り、やがて口を開いた。
「なら、リビングに来た人にあげるとか、次」
予想外の返答に俺達三人は目を瞬かせてしまったが、言われて見ればそれしかないという解答だ。
「なるほど、手に余るなら誰かにあげてしまった方が楽ってことか?」
「あー……。多分」
「宵越しの銭は持たないってやつだな。羽那とはるきもそれでいいか?」
そう俺が問い掛けると二人は揃って頷き、声を掛け合う。
「あはっ、なんかこんな昔話あったよね?」
「え~と、わらしべ長者かなあ。次、誰が来るか楽しみだね~」
そんな会話をしながら俺達は次の訪問者を待つ。
やがてリビングのドアがノックされ、新たなわらしべ長者候補が顔を出したのだった。