10円わらしべ長者の結末   作:キョクアジサシ

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第3話

「あうっ!? ど、どうしてみんな甜花の方を、見るの……?」

 

 果たして現れた訪問者こと甜花は、俺達の視線を一身に浴び、目に見えて怯えだす。

 制服姿だから学校帰りなんだろうけど、まあそりゃビックリするよなと俺は苦笑してしまった。

 

「プ、プロデューサー、さん……?」

 

 少し恨みがましい口調なのがまた面白いが、このままだとリビングへ入らず帰ってしまいそうな雰囲気だ。

 透達もその気配を感じ取ったらしく、俺が慌てて事情の説明を始める。

 

「10円わらしべ長者……? て、甜花がその一人目……?」

「そうなるな。まあそういうわけで受け取ってくれ、ミルクティー」

 

 俺がそう答えるとはるきがミルクティーを甜花へ、「ど、どうぞ」とやや緊張した面持ちで渡す。

 

「にへへ……まだ、あったかい。外、寒かったから、た、助かる、かも……」

 

 新しい後輩に気を使ったのか、甜花は懸命に言葉を繋ぎ、はるきも、ほっとした表情を見せた。

 こんな風に他のメンバーともうまくやっていければいいんだが、と俺は思いつつ甜花に尋ねる。

 

「で、事務所に何か用でもあったのか?」

「う、うん……。少し前に出してくれって言われてた、書類……」

「あ、あー……そう言えば今日持ってくるって言ってたっけ。ちょっとデスクの方、来てもらえるか?」

 

 俺はちょっとバツの悪い気持ちで頭を掻きながら移動し、甜花もそれにならう。

 簡単に書類をチェックし頷いて見せると、甜花は、ほっとした様子でミルクティーを飲み始めた。

 俺もはづきさんへ書類出す時、なんか緊張するし分かるなー……などと考えていると、自分のコーヒーが空になっていることに気が付いた。

 

「悪い、甜花。ちょっとコーヒー淹れてくる」

「あ……て、手伝う?」

「いや、大丈夫。その代わりと言っちゃなんだけど、一つ頼みたいことがあってさ」

「……?」

 

 その、『頼みごと』を耳打ちすると甜花は楽しそうに笑いながら、「わ、分かった。甜花、考える……!」と頷いてくれた。

 そして再びキッチンへ移動すると、なぜか透の姿があり、俺は驚いてしまう。

 

「透? どうしたんだ? 羽那やはるきと一緒にいたんじゃ?」

「んー……」

 

 問いに対する透のリアクションは曖昧だ。

 そう言えばさっきも不自然な感じを見せていたなと思い、俺はコーヒーを淹れながら問い掛けた。

 

「何かあったのか? あの二人と」

「……」

 

 すると透は目を伏せ、一度小さく息を吐いた後、答えた。

 

「その……あれじゃん」

「あれ?」

「えっと……業界であるやつ、よく」

「??」

 

 漠然とした解答に俺は首を傾げるしかないが、やがて透はちょっと目線を泳がせながら口を開く。

 

「年上の、後輩」

「え」

 

 俺はすぐにその言葉の意味を理解できなかったが、羽那の年齢を思い出し、ようやく納得した。

 

「それって羽那のことか?」

「……ん」

 

 透が小さく肯定し、俺は状況をようやく飲み込む。

 言われてみれば、にちかは普通に年下の後輩で美琴も後輩ではあるが明確に大人だから、それほど気にならなかったんだろう。

 ルカは例外だとしても、そう考えれば羽那は透にとって初めてできた年上の後輩ということになる。

 本人の言う通り、業界あるあるだが、戸惑いもあったということらしい。

 

「ははっ、それで席を外してたのか?」

「んー……」

 

 意外な一面に思わず苦笑が出てしまい、透は不満げに目を伏せて見せた。

 そして少し間を置いた後、唐突に問う。

 

「じゃあ、プロデューサーだったら?」

「え?」

「どうする?」

「あー……。それは」

 

 年上の後輩との接し方。

 改めて問われると難しいな、と俺はすぐに返答することができない。

 そう言えば事務所で会った時、羽那もちょっと変だったのはそれが原因だったんだろうか……?

 そんな考えが浮かび、気まずい沈黙が流れる中、リビングから、「おー!」という歓声が聞こえて来た。

 

「な、なんかあったっぽいな。とりあえず……戻るか?」

「……」

 

 逃げるような形ではあったが、透は小さく頷いてくれたので俺達はリビングへ戻る。

 そしてその先で見たのは、

 

「じゃ、じゃー……ん! ミルクティーのお返し、デビ太郎プレミア缶バッジ……です!」

 

 と、羽那とはるきの前で高々と缶バッジを掲げる甜花の姿だった。

 その表情はとても得意げで、二人もノリ良く歓声を上げていた。

 

「あ、プロデューサー……さん。さっきの、『頼みごと』……これ!」

 

 俺と透の姿を見止めた甜花が振り向き、えへんと胸を張る。

 その様子に俺は気持ちが緩むのを感じながら、答えた。

 

「なるほど、『交換品』はデビ太郎グッズか……! それはいいな!」

「にへへ……。たくさん買ったから、みんなにもあげる……!」

 

 そんな会話を聞いていた羽那が不思議そうな表情を浮かべて、問う。

 

「プロデューサー、『交換品』って?」

「ああ、わらしべ長者って物の交換で富を得る話だろ? だからミルクティーの代わりになるものをくれって頼んだんだ」

「なら、わたしか羽那ちゃんがもらっていいってことでしょうか?」

 

 はるきの疑問に甜花が答えた。

 

「そ、それは大丈夫……! 布教よ……じゃなくて、幸せのおすそ分け用に、い、いくつか持ち歩いてるから……!」

 

 今、一瞬欲望が見えたが、まあいいかと俺は聞き流し、羽那とはるきがデビ太郎缶バッジを受け取るのを見届ける。

 そして、それを終えた甜花は背を向け、妙にキビキビとした足取りでリビングの出口へ向かった。

 

「あれ、帰るの? 甜花」

 

 その背中へ透が問いを投げ、甜花は得意げな横顔を見せながら頷く。

 

「い、いいことをしたから、今回せば早めに推しが来てくれるはず……! にへへ……きっと、10連くらいで……!」

 

 そうして根拠のない謎の自信を示した後、甜花はリビングから姿を消した。

 一瞬、奇妙な間が生まれ、はるきがどこか不安げな声音で俺に問う。

 

「だ、大丈夫でしょうか……?」

「ま、まあ、信じる、信じないは自由だから……」

 

 ギャンブルで負ける人間はみんなああ言うんだけどな……と俺は切ない気持ちで答えながら、羽那とはるきの手にあるデビ太郎缶バッジを見やる。

 まあそれはそれとして、いろいろあったが無事、『交換品』は得た。

 時間も時間だし、次の訪問者できっと最後だ。

 それがきっかけとなって10円わらしべ長者と、透の『年上の後輩問題』にベストな決着が付くといいんだけどな……と俺は願いながらリビングのドアを見つめたのだった。

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