ウマ娘の『領域』を体験するという想定外がありましたが、流派東方不敗の技にてなんとか勝利をもぎ取ったフウウンサイキ。
そんなフウウンサイキは、興奮のし過ぎで鼻血を吹き出し倒れたアグネスデジタルを医療班に渡して即座に撤退し、スカウト勢から上手く逃れるのでした。
そして、すべてのレースが終了した後。フウウンサイキは予定通り祖父マスターアジアの側に行き、マスターアジアはそこで皆が予想していなかった事を宣言するのです!
ウマ娘プリティーダービー!
「衝撃! 東方不敗、まさかの引退宣言」
に、レディー、ゴーッ!
「いやはやしかし、やはり本格化の始まったウマ娘は強いわい。
「にしては、大して疲れてなさそうな声で言うじゃない。皮肉?」
「ま〜フキちゃんが全力出さないのはわかってたけど。でもそれって、レースで経験値を獲得するための縛りプレイみたいなものでしょ? 相手をバカにしてる訳じゃないし〜、マヤはいいと思うよ」
「ですね。フキさんって相手のやる気を刺激するための挑発はしても、悪く言ったりはしたことないですし。レースに対しても相手に対してもすごく誠実で、とても素敵だと思います」
「それでいて、レースを走る事に貪欲で抜け目ないのよねぇ。友達として、私達も頑張らないと♡」
レース直後。鼻血を流しながら笑顔で気絶する
一応簡単な変装はしておる。髪を纏めて
そうしてしばし残りのレースを見ながら友と雑談していれば、いつの間かに本日の最終レースが終わり、最終レース1着のウマ娘に幾人かのトレーナーが集まる。雰囲気的に、他トレーナー達は解散ムードであるが……さて。
「では行ってくる」
「あっはい」
「頑張ってね〜」
「ん、寮で待ってるわ」
「……いいわねぇ。私だけ美浦なのよねぇ」
話は少し逸れるが、ハナ・マヤ・スイはワシと同じ栗東寮じゃが、キンカだけ美浦寮だったりする……それはともかく。
「全部のレースが終わったから、もう良いだろう?」
「変装しておっても流石に気付くか、沖野」
「気付くさ。頭隠してトモ隠さずじゃあな」
「……あーうむ、確かにおぬしは最初からそちらを見ておったな」
ワシらが全部のレースを見終わるのを待っておったのだろう、沖野トレーナーがワシが皆と離れたとみるやすぐに近寄って来た。
「正直に言おう。キミのトモに惚れた、是非契約したい」
おぉう。レースを走るウマ娘にとって、なかなかに強力な殺文句で来たの……「トモに惚れた」と言われ、ゴッドインパクトの幼名の「智」を思い出して一瞬イラッとしたのは秘密じゃ。
それはともかく。実績のあるトレーナーにこう言われて断れるウマ娘は、そう多くはおるまい。
が。
「すまぬが、まだワシの選抜レースは完全には終了しておらんでな。この後にスカウトする気があるならば、話くらいは聞こうぞ。する気が起きるならば、だがの?」
「あっオイ!」
まだ何か言おうとしておった沖野に背を向け、
「とあっ!」
跳躍し、観客席の上段にて腕を組みワシが来るのを待っていた人物——伝説級のベテラントレーナーであり祖父でもある黒須秋師トレーナーの斜め前の位置に着地する。
それまでほとんど不動で、若干の威圧を放ちながら黙してレースを見ていた祖父だが。ワシが側に来たのをチラリと一度目線だけ動かしてから視線を前面——全面に向けてから、口を開く。
「聞けい、皆の衆! ワシは黒須秋師、またの名を東方不敗マスターアジアである!」
会場全域に響くような声量で、自身の存在へと全員の意識を無理矢理向けさせる。元より素顔を晒して見学していたゆえ多くの者は、多少に関わらず意識していただろうが、今ので全員こちらを見ている。
ならば、もう変装を解いても良かろう。
バッ
勢い良くウィッグとハチマキを外して席に放り置き、ワシも祖父と同じく腕組みする。
それを確認した祖父は、声高らかに宣言する。
「このウマ娘、フウウンサイキはワシの孫である!」
ザワ……ザワ……
少しばかりザワ付くが、予想していた者も多くいたようだ。思ったよりは騒がしくならぬ……何故か沖野の顔色が悪くなったが気にしない。
それはともかく。次の発言には、流石に驚かざるを得ないだろう。
「そして! すでに担当契約を結んでいる、ワシの愛バにして愛孫である!」
ザワザワザワ……!
「それを知った上で引き抜こうとするならば、色々と覚悟をしておくがいい!!」
……シーン……
三度目の宣言で、二度目の発言にて増したザワ付きが嘘のように静まり返る。ここで静寂が来たならば、今後ワシを引き抜こうと考える輩はいないと思っていいだろう。
だが。最後の発言で、またザワ付くのであろうな。
「そして最後に! ワシはフウウンサイキと、もう1人を担当した後、引退する!」
……数秒間、何を言ったか理解出来ずポカンとした表情の後。
『ぇええぇえ!?!?』
今日1番のザワ付きを奏でる皆を見てから、
「つまりは! ワシは既に東方不敗の担当ウマ娘! ゆえに勧誘は無駄じゃ! では、さらば!」
最後はワシが締めくくり、祖父と共に疾くその場を立ち去った。
……あー。ウィッグは回収したし、赤ハチマキも去り際に筋肉トレーナーに巻き直して置いたぞ。借りパクは良くない。
❤︎ ❤︎ ❤︎
「やはり孫なのか……噂はあったし、その通りだったっとはいえ、東方先生本人から口にするのは予想外だったな……」
「ええ。復帰するのは彼女のトレーナーになるためっていう噂も、真実だった訳ね。けれど……」
「ああ。もう1人契約予定のウマ娘がいるのも、かなりの衝撃だが……引退宣言するとはなあ」
「確か、ああ見えてまだ50代前半でしょう? 流石に早いというか、勿体無いわよね……」
(ヤッベ……さっき東方先生に睨まれてたの、愛孫の足をベタベタ触りまくったからだったのか……)
♡ ♡ ♡
……ちなみにだが。祖父が「引退」と言った真の理由は。ワシとゴッドインパクトを育て切るくらいまでが、生きていられる限界だと悟っているからの発言だ。
つまりは……祖父の言う「引退」は、トレーナーとしてではなく。
人生からの引退、を意味する。
《これはワシと風雲再起しか知らぬ事じゃが……あのたった一言でそこまでの答えに辿り着けた者は、おらぬじゃろうなぁ……》
《ヒンヒン》
《ふむ、マヤか……確かにアヤツなら、発言の違和感くらいには気付くやもしれぬな》
何にしても。この胸の内を語るとすれば。それは祖父がこの
その後、ワシが祖父と別れ1人栗東寮の自室に帰った所で。
FLYING IN THE SKY〜♪
「む。メールでもメッセでもないのは珍しいな……」
スマホに着信あり。相手は、ちょうど声が聞きたいと思っていた相手、ゴッドインパクト——インからだった。
「どうしたイン、電話とは珍しいの」
すぐさま通話ボタンを押し、会話を始める。
『うん。なんか突然、フキちゃんの声が聞きたくなって……あと、なんだか胸がザワついて……』
……ふーむ。祖父が口に出して「この世界からの引退宣言」したせいかの? インは時折、妙に勘が鋭いからのぅ。
だが、この話はまだインには早い。というか、自分で、自力で辿り着いて欲しいと想う……ワガママだろうか。ワガママだな。
なんにしても、この話題は発展させるつもりはない。
「ワシは何ともないぞ? 選抜レースでも、当然ワシが1着じゃ!」
『わあ……! 確か、初めてのダートレースだったよね? 流石だなぁ、見たかったなぁ……ともかくおめでとう! ……は、なんか違う気もするけど』
「まぁの。こんなところで負けはせん。少しだけ危うかったがの」
『ぇえ!? 初めてのダートでも、フキちゃんが危機感を覚える程だなんて……流石は中央だねっ』
「まぁ、選抜レースに出走する連中は皆、本格化が始まったウマ娘じゃからのぅ、まだのワシならそんな事もある。まぁ負ける気はせなんだが」
『……普通は勝てないのが常識なんだけどね』
「ふ。常識にとらわれているようでは、インはまだまだじゃの」
『大丈夫だよ。あくまで一般論を言っただけで、既に師匠とフキちゃんに常識はブチ壊されてるから。ふふっ』
「……最後の笑い声がなければ、ワシとお祖父様が犯罪的なナニカをしたっぽく聞こえるの。それより、その危機感を覚えたウマ娘なんじゃがな。あんな珍獣……変わり者はそうそうおらんぞ。いつかインに会わせて、アヤツがどんなトンデモリアクションをするか見てみたいの」
『……フキちゃん、完全に言い切ってから言い換えても意味ないよ? それと、なんとなくその娘と会うの不安なんだけど……』
「なぁに、悪いヤツではない。一歩間違えれば犯罪に当たる事をしでかしそうではあるがな! ハッハッハ!」
『えー……』
こうして、ハナ達がワシの部屋の扉をノックしに来るまで、インとの他愛無い会話を楽しんだ。
少し短めなのでもう少し描きたかったですが、キリが良い感じの所で止めました。というか、1話の適切なというか、良い感じの文字数が未だに掴めていない作者です。
来週は諸事情によりお休みです。次回は7月14日(日)夕方5時30分からお送りします。(仮)
※予約投稿1時間間違えてました。本当に申し訳ない。