フウウンサイキとマスターアジアの開示したローテで、議論が白熱する理事長室。しかしマスターアジアとフウウンサイキの巧みな口車により、なんとかそれを通す事に成功しました。
ローテが通り一安心したものの、少し気疲れしたフウウンサイキは、寮部屋で一休みする事にしました。ですが寮で待ち受けていたのは、なんと今年度三冠ウマ娘有力者である、ネオユニヴァースだったのです!
ウマ娘プリティーダービー!
「彼女は難解? 新たな友は電波少女」
に、レディー、ゴーッ!
「こんなローテで出走したら、どんなに強靭な肉体を持ったウマ娘でも壊れてしまいます! いえ、先に精神が持ちません! 黒須トレーナーさん、本当にコレをやらせる気なんですか!?」
たづな嬢の指摘に、祖父は冷静に返答する。
「ウマ娘の足は、「ガラスの足」と呼ばれる事が多々あるのは知っておろう」
「先生、どうしました急に」
「これは、ウマ娘の足がヒトミミよりも弱いという意味ではなく、ウマソウルにより引き出された理外の力に足が耐えられず、壊れてしまいがちなゆえ。ならばトレーナーに出来る事は、「鍛錬後の適切なクールダウン」と、「筋肉の黄金時間に適切な内容のアスリート飯を食べるよう指示する事」による、肉体強化くらいじゃ」
「それはまあ……トレーナーとしては常識です。それがこのローテとどんな関係が……?」
「……いえ。東方先生がわざわざ「ガラスの足」に関して言及したのです。ならば、そこに意味があるはず」
ふむ。流石に未だ現役でドリームトロフィーリーグを走っているウマ娘。祖父の言いたい事に感付いたようじゃな。
「東方先生は、こう言いたいのでは? フウウンサイキ君の足はガラスはガラスでも、「強化ガラス」であると」
「半分正解、と言ったところだな」
うむ、惜しい。間違いではないが、強化ガラスとて砕けぬ訳ではない。恐らく、このローテでは砕けるな。
「想望ッ! 「強化ガラスの足」は、過去にマスターアジア殿が育てたウマ娘への賞賛として、すでに使われている! つまりはそれ以上と言う事ッ!」
「うーん……私には想像も付きませんね」
どうやら、たづな嬢の想像力では、ここらが限界の様じゃな。
「ワシの足は祖父より、こう名付けられております。「形状記憶強化ガラス」と」
「「形状記憶!?」」
やよい嬢とたづな嬢が驚きの声を上げ、やよい嬢は「未知ッ!」と書かれた扇子を広げる……毎回あの文字変わっとるが、どういう仕組みなのかの?
「形状記憶合金というものは、聞いた事がありますが……フウウンサイキ君は、回復力がずば抜けて高い、という意味でしょうか?」
「然り! ……そう言えば、言っておらんかったな。ワシが初めて、フウウンサイキを見た時の感想を」
「「「?」」」
皆には、唐突に話が変わった様に感じただろうが……祖父の考えは手に取るように解るし、あの時の表情は今でも思い出せる。
あの時祖父はーー東方不敗マスターアジアは。
「初めてフウウンサイキを見た時、ワシは戦慄した。まるで、ウマ娘になったワシが目の前にいるとまで感じた程なのだ!」
オバケを見たかの様な、あるいはドッペルゲンガーに出会ったかの様な顔をしていた。というか、本人がそう言っていた。
……ある意味当たっているのは秘密じゃ。
「此奴は当時6歳にしてすでに麒麟児ではなく、麒麟だと感じた。そしてその感覚は間違いではなく、流派東方不敗の鍛錬を積ませてひと月で、此奴はワシの全てを継承したのだ!」
「驚天ッ! それ程の才の持ち主だとは……!」
「そこで、このローテじゃ」
祖父はそう言って、再び狂気のローテへと話を戻す。このローテで走らせる、意味について。
「ワシの教えられる全てを、フウウンサイキは今の時点で吸収しておる。つまり、
「……そうか! 実践経験!」
「その通り! 鍛錬を続けるのは大事ですが、ワシとしては、もう鍛錬だけでは頭打ちになるのが見えて来ておりました。ワシがこれ以上の糧を得るには、レースに出走する以外にないのです。多ければ多い程良いですし、強者と競えるならばなお良い」
百聞は一見にしかず、という言葉がある。確かに、レース映像よりも現場で実際にレースを見た時の方が、得られるモノは多かった。
が!
《もはや見ているだけでは足りぬ! お主もそう思うであろう、風雲再起よ!》
《ブルルッ! ヒヒィーン!!》
このローテでも、糧としては足りぬやもしれぬと思う程に! ワシは、風雲再起は! 強者と競走したくて仕方がないっ!
「理解ッ! たづな、やはりこのローテで勝ち続ける事は、東西南北中央不敗の名を不動のものにするには不可欠だッ!」
「それは理解出来ます。ですがやはり、精神面の問題は……」
「それも、この過密なローテの理由! だな、フウウンサイキよ」
「はい!」
「……どういう意味ですか?」
「ワシは今日、クラスメートの幾人かと友になりました。いずれも、良きトレーナーの指導を受ければG1での勝利も可能な潜在力を感じました。そんな彼女達と鎬を削る事を想うと、それだけで滾り昂りました!」
「つまり! フウウンサイキは、レースに出れば出る程、強者と競えば競う程に、精神的に絶好調を保てるのです!」
「あの……精神疲労は、目に見えないものなんですよ?」
「そのようなもの。時折植物に囲まれて瞑想でもすれば、2、3日もすれば全回復します」
「えぇ……」
ワシの自信満々な発言に、たづな嬢が絶句して、遠くを見る……いや、この顔は呆れかの?
「……不撓不屈。流石東方先生のお孫さんです!」
逆?に生徒会長殿は、闘志の宿った良い目でワシに微笑む。併走したい。
「フウウンサイキに常識を当てはめない方が良いぞ。祖父であるワシ自らが断言しよう」
「そうだぞたづな! 常識に囚われていては、歴史は塗り替えられない! ……という訳で。彼女のために学園内に温室と、超巨大スパを……」
「温室は、生徒からの要望もありましたから検討しましょう。ですがスパはダメです、土地的にも予算的にも足りません。というかさらっと廃案したのを通そうとしないで下さい!」
「はっはっは! やよい嬢は相変わらず生徒想いじゃな!」
「理事長殿のアレは、私欲も混じっている気がしますが……」
うむ。学園のトップ陣も、愉快な人物揃いで実に良いの!
♡ ♡ ♡
「ふぅ、何気に話が長引いたのぅ……」
まぁ、楽しい会話ではあったが……何にしても、「東西南北」……長いな。普段は「スーパーアジアローテ」と呼ぶかの。あの出走予定が通って何よりじゃな。
ついでに頼んでもいないのに、温室の建造までしてくれるという。有難い事じゃ。
(夕飯時にハナに伝えてやろう、ワシの実家の温室を大層羨ましがっておったからな)
そう考えつつ、寮部屋で一休みしようと寮内に入る。学園に寮は2つあるが、ワシは「栗東寮」に割り振られた。
「やあ、来たね。入学式で大見栄を切った期待のポニーちゃん」
そして玄関先にて待ち伏せしていたのは、ワシを(というか、見た限りウマ娘のほとんど全員をだが)ポニー扱いしてくる短髪青鹿毛の、男装の麗人といった雰囲気のウマ娘。ここの寮長を務めている、フジキセキ嬢だ。
「寮長殿、ポニー扱いはやめて下され。ワシはそこまで低身長ではありませぬぞ」
「愛らしいウマ娘は、皆ポニーちゃんさ。まあ、不快に思わせるのは本意じゃないからね。今後は名前で呼ばせて貰おう」
うーむ、キザな口調や仕草だが、不思議と嫌味は感じず様になっておる。これが彼女の自然体なのだろう。
さてそれよりも。
「ワシに何用ですかな。期待の、と言っておったし、入学式での騒動をとがめるつもりではないのでしょう?」
「ああ、私はそんな狭量ではないからね。君と話がしたいという娘がいてね、談話室にいるから行ってくるといい」
「うむ、了解した」
はて。ワシが栗東寮に入居したと話したのは、今日友になった同教室の4人だけのはず。
となると上級生か? しかし、入学したばかりのワシに話があるとは……誰で何用じゃ?
「そういえば、今日は途中から様子が変でしたけど……彼女と関係ありますか?」
「ASEM……よく、わからなくなって来た、から……」
談話室にいたのは、長髪金栗毛のウマ娘と、メガネをかけた黒鹿毛を三つ編みしているウマ娘。確かどちらも、現行のクラシック級で活躍しているウマ娘、つまりは上級生じゃな。
昼間に友と鍛錬の様子を見学させて貰ったのも、この2人だ。
メガネのウマ娘の方は、なかなかの強者なのは見て解ったが、名はうろ覚えじゃな……だが、もう1人の方はよく知っている。
何せ、今季の皐月賞1番人気、勝利有力バであるネオユニヴァースだからの。ゆえに見学させて貰ったのだ。
2人が併走訓練を終え、こちらに気付いた時。ネオユニヴァースは明確に、ワシらを見て目を見開いていた。
特にワシを見る目は、なんじゃ……意図せず深淵を覗き込んでしまった、と言えばいいのか……何とも形容し難い視線じゃったな。
「あっユニさん来ましたよ!」
近付いていくと、先にこちらに気付いたメガネウマ娘が、宙を見るネオユニヴァースを揺さぶる。
「ワシを呼んだのはお二人か? それともネオユニヴァース殿か?」
ネオユニヴァースが視線を下ろしてからこちらを見たので、そう問いかける。
「あなたは……誰?」
「む? あなたがワシを呼んだのではないのか?」
「ユニさん? それはどういう……」
「SRIV……大王が、大王みたいで大王じゃない……特異点、あなたに寄り添ってる……」
ワシを呼んだのにお前は誰だ、と意味不明な事を返されたかと思えば、再び宙を見て何やら意味深な事を呟くネオユニヴァース。
(なんじゃ此奴……電波、とかいうアレか?)
そのまま宙を見ながら、呟きを続ける彼女。
「アンノウン……本来存在しない、同時に存在し得ない……神々の、
(此奴……その
そこまで呟いてから、再びこちらを見て、
「……ウマ娘として招待された、エトランジェ……? 異世界からの、来訪者」
「!」
そう呟いた。
エトランジェ……
「……どこまで知っておる?」
「少し、違う……ネオユニヴァースは、観測者。常に変動する未来、ほんの少しだけ……でも、あなたを認識すると……LYBL……」
「ふむ……」
……不思議な目を持っているようだが、悪意は感じぬ。となると、単にワシが「興味深い」から話して見たかっただけ、なようじゃな。ならば変に警戒する事もあるまい。
「ワシの名は、フウウンサイキ。この世界に、決して消せぬ程の歴史を打ち立てる予定のウマ娘じゃ」
「わたしは……ネオユニヴァース……」
「ゼンノロブロイです。よろしくお願いします!」
お互い挨拶をし合い、笑顔で別れる……と、その前に、去り際に二言三言。
「皐月賞の走り、とくと見させていただきますぞ。それと……」
「?」
「ワシを「エトランジェ」と言いましたが。それを言うなら、ウマ娘全員が、ある意味そうなのではないですかな?」
「……! それは、盲点。なら……DROC……気にしすぎると、引っ張られるままに……」
ワシの言葉に今度は俯き、何やら思案し始めた。
せっかくなので少し待っていると、
「CDR……! 少し、わかりかけてきた……「ぼく」は「わたし」だけど、「今のわたし」じゃない……ならネオユニヴァースは、なんとでもなるはず……」
また電波な事を言い始めた。だがその顔は、先程のような何を考えているのかわからないものではなく、明らかに晴れやかな感情が見えた。
「風雲、再起……名前の通りだね。AMRT……わたしはそれを望むよ」
そして、微笑みつつ手を差し出して来た。握手かの?
「ユニさん、フウウンサイキさんと仲良くなりたいみたいです! 手を取ってあげて下さい!」
ふむ、ワシと友誼を結びたいらしい。どうやら、ワシの言葉から何かを得られてご満悦のようだ。
まあ、かなり変わったウマ娘だが、悪い娘ではない。それに、此奴には「三冠」を狙える資質が見える。無敗の、とはいかぬだろうが……何にしても、彼女と友になる事で得られるモノは、なかなか多そうだ。
「クラシックを駆ける先輩からそう言っていただけるとは、是非もなし。よろしくお願いします」
打算込みではあるが。こうしてワシは、更に新たな友を得た。
ネオユニヴァース大好きトレーナーです。でも、彼女の話し方の再現はかなりの難所でした。でも好きだから頑駄無……じゃなくて、頑張りました。
※来週は夕方5時30分からお送りします(仮)