東西南北中央不敗フウウンサイキ   作:繭浮

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 みなさんお待ちかね!

 ハーツスクリームの挑戦を受けて立ったフウウンサイキ。ですが、いきなり走るのは怪我のもと。友人達と楽しく雑談しつつ十分に準備体操をしてからレースとなりました。

 しかしなんということでしょう! フウウンサイキは予想外の出来事に気を取られ、あろうことか大幅に出遅れてしまったのです!

 はたして、ここからの勝機はあるのでしょうか!

ウマ娘プリティーダービー!
「圧倒的! フウウンサイキ、学園で余裕の初勝利」
に、レディー、ゴーッ!


圧倒的! フウウンサイキ、学園で余裕の初勝利

 勝負を受けて立ったは良いが、体育の授業開始直後の準備体操以外、身体を動かしてはおらん。ので、いきなり野良レース開始とはならぬ。まずは身体を適度に温めるのが先決だ。

 

 というわけで。軽くランニングをして身体を温め、授業直後の体操では軽く過ぎるので、改めて柔軟体操をして関節を解きほぐす。

 

「フキちゃん、身体とっても柔らかいのねぇ。背中押さなくてもすーって自然にお腹くっ付けられる人、初めて見たわぁ」

「柔軟は幼児の頃から続けておるからの。180度股割りも出来るぞ。まぁアレは、やり過ぎると逆に股関節を痛めかねんからな、たまにしかやらんが」

「そうなんですね。勉強になります!」

 

 そう言い、羽織ったジャージのポケットからメモとシャープペンシルを取り出し書き込むハナ。単に才能と本格化間近以外にも、こういう生真面目で努力家な所が、飛び級を許された要因じゃろうな。

 

「あ〜じゃあさっアレも出来るよね? i字バランス!」

「ちょっ痛ぁ!? 急に押し込まないでよっ!」

 

 マヤがスイの背中を押して前屈の手伝いをしながらそう問うてきた、というかスイ、予想より少しばかり身体が固いな。柔軟性の重要性を意識させねば。

 

 それはともかく、リクエストに応えよう。マヤが言っているのは、バレエ選手がたまにTVでやっている、支えなしに片足を真っ直ぐ上げるアレじゃな。

 

「ほれ、こんな感じじゃ。これは柔軟体操以外にも、バランス感覚を鍛えるのにも役立つぞ」

 

 立ち上がり、スッと左片足を上げたままの姿勢で会話する。

 

「おぉ、すご〜い! 綺麗なi字だし、手で支えてないのに全然身体ブレないね!」

「なるほど、柔軟性とバランス感覚の重要性!」

 

 カキカキ

 

「ふっふんっ! それくらい、アタシにだってできるもん! ……多分その内」

 

 ワシのi字立ちに、三者三様の反応が返ってくる。スイの対抗心が可愛いの。

 

「……」

「……」

 

 対して、キンカとハーツの反応が少しおかしい、というか怪しい。目を見開き、ワシの上げた足を凝視しておるのだ。

 

 顔を赤らめ数秒凝視していた2人が、共に近付いて来る……な、なんだ、今までに感じた事のない恐ろしさを感じるのだが……

 

「フキちゃん、ナイス筋肉よぉ……ジュルッ」

「思った以上に良いトモしてるじゃねぇか……じゅるっ」

 

 何故ヨダレを垂らす。発情しとるのか?

 

「ヨダレを拭けい。蹴り飛ばされん内にな」

 

 上げていた足を曲げてリキを込め、手を手刀の形にして構える。この世界でもこの構えは、流派東方不敗のファイティングポーズとして有名だ。

 つまりは、「それ以上近付くなら正当防衛として本当に乱暴するぞ」という警告じゃな。

 

「じ、冗談よぉ、うふふ(ゴシゴシ)」

「ちっ、お堅いなぁオイ(ゴシゴシ)」

 

 ……貞操の危機を感じたし、ヨダレを垂らして目線を逸らしている時点で信用皆無じゃ。

 

 まぁ、それはそれとして。身体は十分に温まったし関節も解した。走る準備は万端じゃ。

 

「それで、距離はどうするのよ?」

 

 スイがピョンピョンと軽くジャンプをし、手をプラプラしながらそう尋ねてくる。

 

 そう、最初は一騎打ちのはずだったのだが。スイと、何故かハナまで参戦する事になっていた。

 

 一騎打ちのつもりだったのだが、「アタシも競走したい!」「で、出来れば私も……!」と、飛び入り参加を申し込んで来たのだ。

 

 2人に対しハーツは、

 

「ハッ良い度胸だ! 好きにしな!」

 

と、むしろ大いに歓迎した。どうやら、ワシと野良レース出来るなら人数はどうでも良いらしい。

 

「ワシはどんな距離での挑戦でも受けるぞ。ハーツの得意な距離で構わん」

「んなら、中距離2000でどうよ?」

「うん、アタシも2000で良いわよ」

「お、お任せします!」

(ふむ。スイはともかく、ハナは体格的にも体力的にも、読み取った潜在能力的にも、中距離は不向きに思えるが……)

 

 まあ、鍛えればそれなりに勝負の舞台に上がれそうではある、が……少なくとも、今中距離で競っても、間違いなくワシら全員に負けるだろう。長距離は絶望的に噛み合わぬだろうから、それに比べればまだマシだろうが。

 

「んー、中距離かぁ。やっぱ私はパスするわぁ」

 

 一方キンカは、参戦しようか迷っていたようだが、距離を聞いてから辞退した。

 

(確かにキンカは、マイルくらいが得意と言っていたが。ワシの見立てでは、中距離でも十分勝負の舞台に立てるはずだし、本人も理解しているはず)

 

 2人の走る・走らない理由が気になったので、開始前に聞いてみる。

 

「はっきり言うが、ハナに中距離はちと厳しいと思うぞ。逆にキンカは、何故回避した?」

 

 ワシの歯に衣着せぬ問いに、まずはハナが答えた。

 

「大層な夢だとは思うんですけど……私、トリプルティアラを目指したいなって思うんです!」

「ほう、ティアラ路線か……確かにトリプルティアラなら、オークスと秋華賞は中距離じゃな」

「確かに今の私は、短距離やマイルの方が得意です。けど、トリプルティアラを目指してるから、中距離を走る機会があるなら、少しでも経験を積んでおきたいんです!」

「そうであったか……」

 

 ……つまり。今日の野良レース2000で、ハナは勝てるとは思っていない。それでも、夢のために立ち向かうか。

 

 確かに、ハナに中距離は厳しい。が、今から経験を積み重ね、適正距離を伸ばせば或いは……うむ。

 

「百聞は一見にしかず、という言葉に続きがあるのは知っておるかの?」

「え? あ、はい。結構長々とある、ていうくらいですけど……」

「うむ。続く2つは「百見は一考(いっこう)にしかず」「百考は一行(いっこう)にしかず」というのだが。それぞれ「見るだけではなく考えねば意味はない」「考えるだけでなく行動に移すべき」と言う意味だ」

「そう、ですね……はい。だからこそ私は、中距離を走り込むと決めました」

「だからワシは、この言葉を送ろう。「百聞し、百見し、百考し、百行し、百走せよ」」

「百走……」

「分かり易く一言に纏めるならば、「近道はない」じゃ。あらゆる事を積み重ね、全てを己が糧とする。そしてその最適解を導き出したハナを、ワシは友人として誇りに思う!」

 

 そう言って、ハナに背を向け、

 

「全身全霊で挑み、負けるが良い。そして今回に限らず、ワシはハナが中距離適正を得るまで可能な限り付き合おう。ワシを糧にして、ハナはトリプルティアラを獲るのだ」

「フキさん……!」

「ちょっと、何1人でカッコ付けてんのよ。アタシだって、中距離は得意な方なんだから! 併走訓練、付き合ってあげる!」

「マヤも苦手じゃないから、頼って良いよ〜!」

「……! あ、ありがとうございます、皆さん!」

「友達なんだから、当然よ!」

「うむ!」

「アイ・コピー!」

「でじゃ。キンカは今回、何故回避したのかの?」

 

 なんかすっかりハナを励ます会になっておったが、もう1人理由を聞きたいと思っていたのだった。

 

「あぁ、単純な理由よぉ? 得意な1600くらいならまあ、今のブラでもギリ我慢出来るかなって。でも2000は、しっかりしたブラ着けてないと辛いかなって」

「ブラ……なるほどの」

「元々、今日は激しく動くつもりなかったからねぇ」

「「「………………」」」

 

 ワシ以外の3人が、自分の胸部をペタペタと触ってから、キンカの胸部に冷たい視線を送る。そのバストは、ジャージを着ていても分かる程に豊満であった。

 

「いつまで漫才してんだ。いい加減おっ始めようぜ!」

「……うむ、そうじゃの」

 

 

 

 

 今回は野良レースというだけあり、授業の自由時間ではあるものの正式なレースではない。故に、教師や学園公認の模擬レースと違い、ゲートは使われない。

 見学組のマヤがスタート位置に立ちヨーイドンの掛け声をして出走、ゴール地点にいるキンカの立つ場を1番に通過した者が1着となる。それ以外のルールは、公式レースに準ずる。こんな感じじゃな。

 

「それじゃ、いっくよ〜?」

 

 4人が並び、走り出す構えを取る。陸上競技ではないので、クラウチングスタートをする者はおらん。あくまで、ウマ娘のレースと同じ形式じゃ。

 

「こほんっ。レディー……ゴー!」

 

 マヤのそのスタートの掛け声に、思わずそちらを見てしまう。ガンダムファイトの開始の掛け合いを思い出したからだ。

 

 まあ要するに。

 

「ハッ! 誰かとのレースは初めてかぁ!?」

「……あのおバカ」

 

 盛大に出遅れた。

 

 が。何の問題もない。元よりワシの今回の作戦は「追込」。出遅れなど何も怖くない。

 何より、全力を出したら完膚なきまでに叩き折ってしまうからの、予定外ではあるが良いハンデじゃ。

 

 さぁて。3人の走り、じっくり拝ませて貰うとするかの。

 

 

 

 

 ♡ ♡ ♡

 

 

 

 

「うーん……凄いなぁ」

 

 フキちゃんは、ワザとじゃなく普通に、盛大に出遅れた。この出遅れは、例え追込が得意なウマ娘でも致命的……なんだけど。

 

(3番手、多分追込作戦で走ってるハーツさんの約3バ身後ろにピタリとくっ付いて、最終コーナーまでそのまま。ハッキリ言って、怪物だね)

 

 普通なら、息を切らせて必死に追い縋れば付ける位置に、対して息を切らした様子もなく追い付いて張り付くなんて、ありえない。それこそ、シニア級ウマ娘とジュニア級ウマ娘くらいの実力差がないと。

 

(1番前はフラワーちゃん。逃げみたいなカタチになってるけど、多分得意なのは先行。2番手はスイープちゃん。作戦は差しかな。でも、うーん)

 

 フキちゃんの予想以上の実力には驚いたけど。それはそれとして、4人の走りを見て研究する。

 

 フキちゃんは、「百聞は一見にしかず〜」っとかなんとか言ってたけど。マヤ的には、見る事でしか得られない情報もあるって思ってる。だから今回の野良レースには参加せずに、「見る」に回った。

 

 でー。最終コーナーを抜けたみんなの、マヤの評価はこんな感じ。

 

 ハーツさんは、追込好き。ただ、多分だけど、ハーツさんが1番早く走れる作戦は、追込じゃない気がするなー。

 それはスイープちゃんも似ている。差しが王道で、確かに得意ではあると思うんだけど。将来的には……うーん。

 2人と違って、フラワーちゃんが取った先行作は、多分フラワーちゃんの脚質的にも正解だと思う。ただ、1番先頭だけど本格化を迎えてない上に飛び級なせいで、圧倒的に体力が足りてない。もうバテバテのボテボテ走りで、今にもスイープちゃんに、うん今追い抜かれた。

 でも、スイープちゃんも本格化はまだだから、そんなに余裕はなさげ。

 

「つおりゃあああああ!!」

 

 そこを、全身全霊で突っ込んで来たハーツさんにアッサリ抜かされて、後ろに張り付いていたフキちゃんにも抜かされる。フラワーちゃんはバテバテで気付いてないけど、まだ少し余裕があったスイープちゃんが、唖然とした顔で2人を見送る。

 

 残り約200を切った所で、いつの間にか真後ろに張り付いていたはずのフキちゃんが、ハーツさんの半バ身後ろ位の位置に横並びで走っている。全力で前だけ見て走っているハーツさんは気付いていない。

 

(……ううん、おかしい。流石にあの距離で気付かないなんて……フキちゃんの走法が、特殊?)

 

 あれだけ近ければ、走る足音で誰かいるって気付きそうだけど何でってあっ!

 

「なにいいいい!?」

 

 スィーと滑るようにハーツさんの横を通り過ぎて、キンカちゃんの横も通り過ぎて、ゴール。マヤの目算では、1バ身差でフキちゃんが1着、2着がハーツさん、5バ身差くらいでスイープちゃん。大差……とまではいかないけど、フキちゃんと9バ身差くらいでフラワーちゃん。

 

「あれが、流派東方不敗伝承者の走り、かぁ……」

 

 ……正直な話。マヤでも、フキちゃんの走りはわけわかんない。

 

 だからこそ。

 

(ワクワクしてきた……!)

 

 その走りに脳を焼かれつつ、マヤはウマ娘の「走り」への本能が叫ぶのを感じたんだ。

 

(一緒に、走りたい! 間近でフキちゃんの走りを見て、理解したい!)

 

 フキちゃんと、フキちゃん達と友達になれて、ほんと良かった!

 

 

 

 

 ♡ ♡ ♡

 

 

 

 

「ハァッハァッハァッッ……ッハ、ハハハハ! 負けたあー……ハァ、ハァ……」

「うむ、ワシの勝ちじゃな」

 

 激しく息切れしているハーツに近寄り、ニッと笑い勝利宣言をする。

 

「あんだけっ……出遅れ、で……んで、息切れしてねぇん、だっ……ハァ、化け物か……?」

「体力、瞬発力共に、自信があるからの。何よりーー流派東方不敗を舐めるでない」

 

 ふむ……今回は、出遅れたのもあって半分くらい実力を出したが。それでも、「技」と言えるモノはせいぜい1つしか使っておらんからな。これがワシの全力と思って貰っては困る。

 

「ハッ……やっぱ、マスターアジアの関係者かよっ……だがよ!」

 

 ようやく息の整って来たハーツは、ワシに指を突き付け、高らかに宣言する。

 

「次は、負けねえっ!」

「その意気やよし!」

「ハァー……2000走った直後なのに、元気ねー……」

「ハァ……ハァ……ハァ……」

「伊達に鍛えてはおらんからな! ハァッハッハ!」

 

 ハナを支えながら近寄るスイのイヤミに、快活な笑い声で応える。

 

「やっぱりフキちゃん、生涯無敗宣言するだけの実力者ねぇ。ワクワクしちゃう♡」

「うんうん! マヤもワクワクさんだよ〜!」

 

 ゴール役とスタート役の2人も近寄り、今回の野良レースはこれにて終了となった。授業時間的にも、もう一本走る余裕はないしのう。

 

《はー、腹が減ったの。風雲再起よ、何が食いたい?》

《ヒンヒンヒン!》

《ふむ、アレなぁ。少し重めだが、まぁ野良レースしたしの。記念に頼むか! 3重にんじんハンバーグ!》

《ヒンヒヒーン!!》




 いつもの五月病で少し遅れましたが、投稿です。いやぁ、レース描写どうやったらいいか分からないですね。かなり迷って、アッサリ目になりました。
 まぁ言うても野良レースですからね。本格的にフウウンサイキ視点でのレース描写は、多分G1レースまでお預けになる予定です。




※来週の投稿は未定です。またお休みするかもしれません。今月中、少なくとも一度は投稿するつもりですが。ともかく、頑張って描きます。
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