ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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4-31 ティエスちゃんは三回戦③

「さあ、どっからでもかかってきな」

 

『面白い、ならばこちらが先手を頂くとしよう!』

 

 神経をビンビンにとがらせるティエスちゃんだ。現在真っ向勝負中。先手を譲るのはつよつよアピールであると同時に相手の動きをまず見るためだ。初太刀ですべてをキメに来るサツマジゲンスタイルだったらどうするって? そこは腕の見せ所よ。なあに、どんな奇抜な動きだろうが、初撃を食らうようなヘマはしねーさ。

 ドンカッツは言うや否や、その漆黒に烈火の機体を滑らせた。速い。まるで揺らめく陽炎の魅せた幻のように、ただ一瞬で彼我の距離を詰める。体感を全くブレさせないすり足。なるほど、脚部構造が原形機にくらべて肥大化してると思っちゃいたが、こいつホバー移動するのか!

 機体のスピードをも乗せたカタナによる刹那の振りおろしを、挨拶とばかりに剣で合わせて弾く。やはり軽い。ホバー移動じゃあ踏ん張りも効くまいよ。これが小手調べだというならば、些か舐められたものだ。

 ドンカッツは初太刀が弾かれたとみるや、滑るように後退する。そしてある間合いを稼ぐと、再びの吶喊。これはこれで鋭い攻撃だが、そいつはもう見た。並の相手ならこれで狩れるかもしれないが――。

 

「らあッ!」

 

 俺が相手だからなァ! ドンカッツの吶喊に合わせるように、こちらも踏み込む。再び振るわれたカタナを下からカチ上げ、空いた胴へ勢いのまま右主脚をぶち込む。いわゆるヤクザキックの要領だ。身長5メートルの巨躯を支える主脚の一撃は生半可のものではない。コクピットの収まる胴体上部に当てるとバイタルパートへの致命的攻撃扱いされて失格を取られそうだったから、その辺加減してぶち当てたのは胴部というよりは下腹部だな。狙うは腰部機構の破壊だ。

 直立二足歩行の生物にとって腰骨がいかに重要な骨であるかは議論の余地もないが、マシーンである強化鎧骨格にとっても人間と同等かそれ以上に要の部分だ。重たい上半身を一点で支える腰部には、バランサーやセンサーをはじめとした電子機器から、複雑な関節機構などを構成するマシニカルな部品が凝集されたいわば急所である。

 俺の蹴りは、考えうる限り最もベストなポイントにジャストヒットした。確かな手ごたえを感じる。装甲版のひしゃげる感覚が、愛機の主脚を通じてフィードバックされる。内部機構へのダメージは確実に通った。そう確信させる奇麗な一撃に、覚えず俺も口の端を吊り上げる。しかし――。

 

「――ッ!?」

 

 瞬間、背中を駆け上がる怖気。第六感が告げる。はなれろ。だが、間に合わない。蹴りが突き刺さったドンカッツ機の装甲版が一瞬膨れ上がったかと思うと、瞬きもできぬ間に爆炎を吐き出した。

 爆炎そのものは、大したものではない。機体の表面を焦がす程度。しかしそれに伴って飛散した装甲版の名残は、自らを破壊せしめた仇敵に鋭く食らいついていた。おまけにこちらは一本足状態。ぐらりとバランスが崩れれば、もはやリカバリーは効かない。

 

「ンっっっっな、くっそぉァッー!!」

 

 ここで無様に倒れれば、ドンカッツはたやすく俺の首級《くび》を挙げるだろう。ひとつも想像に難くない。確定路線といっていい。であれば、それは何が何でも回避しなくてはならなかった。俺はレバガチャしたくなるのをグッと堪えて、口では喧々と吠えながら、頭の中ではひどく冷静に機体を操作した。やればできるじゃん、なんて軽口をたたく余裕はさっぱりなかった。

 爆発でのけぞった勢いを利用し、そのまま後ろ向きに機体を倒す。バランスを失った軸足をむしろ空に開放してやって、そのついでに地を蹴る。天地がひっくり返ったタイミングで、腕を地につき、そのバネをも利用して跳ねる。

 いわゆるバック転だ。そのままウルトラマンよろしく三連バック転で距離をとると、石舞台の際に辛くも着地する。接地の瞬間、爆発に巻き込まれたほうの足が不意に沈んだ。機体のステータスをざっと確認すれば、いたるところに小破《イエロー》以上の警告がポップしていて通知音の大合唱だ。あまりに煩雑なそれらをカットする。問題の右足はつま先が吹っ飛んでいる。おいおい、さんざイキっといてこれじゃあ、おやっさんにあわせる顔がねーぜ。

 

『クク、さすがだなティエス・イセカイジン卿。まさかこうも早く、切り札の一枚を切ることになるとは』

 

 ドンカッツの真に愉快そうな声がする。距離をとった俺に対し、奴は距離を詰めるでもなく呵々大笑している。余裕ぶりやがって、むかつくぜ。俺は全力で自分の行いを棚の上に置いた。

 奴の機体から、俺が蹴り壊したはずの装甲の残骸ばぼろりと落ちた。その下からは、傷一つない真新しい装甲版が顔を出している。

 

「爆発反応装甲たぁ、妙なモン積みやがって。誇りはどうした誇りは」

 

『我ら猛火烈士隊の大原則は、「勝てば官軍」。兵は詭道なり、なにを憚ることがあらんや』

 

「ハン、いっそすがすがしくて気持ちがいいくらいだよ」

 

 半笑いになりながらも、俺は機体に剣を構えさせる。右のつま先がなくなり踏ん張りがきかないうえに、右主脚の制御系自体にも影響が出ている。くそ、無難に剣で斬っておけばよかったぜ。いや、それだと剣がお釈迦になってたか。今持ち込んでいる得物はこいつだけだもんな。決定力不足になっちまうよりは、まだよかった。ならこれは、一種ラッキーだと言えなくもないんじゃないか? なに、多少動きがおかしくたって、おかしいなりに動かしてやりゃあいいだけの話だ。心にポリアンナを飼うのだ。

 

『さて、どうするティエス・イセカイジン。棄権するか?』

 

 ドンカッツが、嬲るような声音で言う。やっすい挑発をどうも。そんなあけすけな手に乗ってやる俺じゃねーってんだ。

 

「やってやろうじゃねぇかよこの野郎ッ!!!!!!」

 

 俺はキレた。

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